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ティーザー活用で成功するM&A情報開示ステップを解説

「ティーザーとノンネームシートは何が違うのだろう?」そんな疑問にまずお答えします。ティーザーは譲渡企業の魅力を匿名で伝え、買収候補の心をつかむ初期資料です。本記事では作成のコツや注意点を丁寧に解説します。

目次

  1. ティーザーとは匿名で魅力を伝える初期資料
  2. ノンネームシートは最小限情報で検討を促す資料
  3. ティーザーとノンネームシートの違いを三視点で把握
  4. ティーザーが検討されるタイミングと作成体制
  5. ティーザーを専門家に依頼する際の留意点
  6. ティーザーが買収候補に与えるインパクト
  7. ティーザーとノンネームシートを使い分けた実務イメージ
  8. ティーザーとノンネームシート確認後のプロセスを段階別に理解
  9. ティーザーとノンネームシート確認後の注意点二選
  10. ティーザーとノンネームシートの理解がM&A成功を左右
  11. まとめ

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ティーザーとは匿名で魅力を伝える初期資料

ティーザーはM&Aプロセスの幕開けで用いられる重要な提案資料です。投資銀行やM&Aアドバイザーが作成し、譲渡企業の社名を伏せたまま買収候補に概要を示します。ページ数はA4で3~10枚程度が目安とされますが、要点を押さえれば1枚にまとめるケースも珍しくありません。目的はただ一つ、買収候補の「もっと詳しく知りたい」という感情を喚起することです。

ティーザーが担う役割は買収候補の関心喚起

ティーザーに期待される最大の役割は、ターゲット企業の魅力とシナジーの可能性を端的に示し、初期段階で買収候補の検討テーブルに乗せることです。匿名資料とはいえ、事業モデルや市場規模、財務健全性などの骨格情報を提示することで、買収候補は「検討に値する案件かどうか」を最短距離で判断できます。したがってティーザーは単なる会社概要ではなく、戦略的なマーケティング資料として設計する必要があります。

ティーザーに盛り込む七つの基本情報

ティーザーに欠かせない情報は次の七項目です。


  • 事業内容とビジネスモデル
  • 財務状況(売上高、キャッシュフローなど概算値)
  • 成長ポテンシャルと市場動向
  • 現在の課題と改善余地
  • 主要な競合と業界内ポジション
  • 経営陣の背景と経営資源の概要
  • 買収後に期待されるシナジー


数値は幅を持たせ「売上高5億~6億円程度」などと記載することで、具体性と匿名性のバランスを保ちます。要点を箇条書に整理し、視認性を高める工夫も欠かせません。

ティーザー作成時に注意すべき三つのポイント

ティーザーは情報不足でも過多でも効果が半減します。注意点は次の三つです。


  1. 匿名性の確保 
    地域や取引先を特定できる情報はぼかし、譲渡企業の特定を避けます。
  2. 魅力の見える化 
    強みを抽象的にせず、競争優位や独自技術など買収候補が価値を想像できる表現にします。
  3. アドバイザー任せにしない 
    経営者自身が下書きを必ず確認し、業界的リスクや守秘範囲を最終チェックします。

ノンネームシートは最小限情報で検討を促す資料

ノンネームシートは譲受企業が最初に目にする概要書です。ティーザーと同様に匿名形式ですが、情報量は「業種・エリア・従業員数・財務規模・譲渡理由」など必要最低限に絞られます。初期段階で他社に持ち込むときや同業者間での提案では、詳細よりスピードが優先されるため短いフォーマットが好まれます。

ノンネームシートの主な記載事項を整理

業種と所在地(例:首都圏の食品製造業)


  • 事業の特徴(主力商品、サービス範囲など)
  • 直近売上高や営業利益のレンジ
  • 従業員数と組織規模
  • 譲渡の背景(承継、集中投資、再編など)
  • 希望譲渡価格帯や希望条件


これらの情報により、買収候補は企業の大まかな規模感と取引可能性を把握します。

ティーザーとノンネームシートの違いを三視点で把握

ティーザーとノンネームシートはよく同義で扱われますが、実務上は情報量・使用場面・ページ数の三点で差異があります。

情報量の差は意思決定の深さを左右する

ノンネームシートが「最低限伝える名刺」とすれば、ティーザーは「興味を深めるパンフレット」と言えます。特に異業種の買収候補をターゲットにする場合、業界知識が乏しい相手にも魅力を伝えるためティーザーが有効です。一方、同業者であれば短いノンネームシートでも十分判断できます。

使用場面の違いは提案戦略へ直結

ノンネームシート
早期に多数の同業者へ打診

ティーザー
絞り込んだターゲットへ深い関心を喚起


プロセスを円滑に進めるため、案件の性格や買収候補の属性に合わせて使い分けることが肝要です。

文書の長さはA4一枚から十枚まで可変

多くのM&A仲介業者では両者をA4一枚程度に統一しています。ただし戦略的に情報を厚くすることで、複雑なビジネスモデルの理解促進や競合案件との差別化を図ることも可能です。ページ数よりも「読む価値」を感じさせる構成が重要と言えます。

ティーザーが検討されるタイミングと作成体制

ノンネームシートを送付し初期的な関心を得た後、買収候補に「さらに情報を」と求められた段階でティーザーが投入されるのが一般的です。作成を担当するのは投資銀行やM&Aアドバイザーのディレクター級スタッフで、ターゲット企業のビジネスと市場を熟知している人材が主導します。経験豊富な担当者ほど、情報の深さと守秘の線引きを巧みに調整できるため、案件の成否を大きく左右します。

ディレクター主導の作成フロー

  1. 初期ヒアリング
  2. 競合・市場分析
  3. ドラフト作成
  4. 経営者レビュー
  5. ファイナルチェック


こうした多層的なチェックにより、買収候補が安心して検討できる資料品質が確保されます。

ティーザーを専門家に依頼する際の留意点

ティーザー作成を外部に任せる場合、依頼先の専門性と実績を見極めることが不可欠です。ターゲット企業を魅力的に見せるには、市場トレンドや買収側の視点を理解したうえでシナリオを組み立てる力量が求められます。

依頼先選定の三つの指標

  1. 支援実績
  2. 専門チーム
  3. 提案力

担当者の見極めポイント

  • 業界固有のリスクを指摘し、情報開示ラインを明確に説明してくれるか。
  • 資料の目的と想定読者を示し、文章量・図表のバランスを意識しているか。
  • 経営者のコメントを理由付きで改善案として返してくれるか。

ティーザーが買収候補に与えるインパクト

良質なティーザーは、買収候補が秘密保持契約(NDA)締結と企業概要書(IM)受領に進む判断を後押しします。逆に情報が曖昧だったり魅力が伝わらない場合、早期に検討から外されるリスクが高まります。

買収候補の心理プロセスを可視化

  • 読む(Information)
  • 想像する(Imagination)
  • 比較する(Evaluation)
  • 行動する(Action)

ティーザーで差が付く三つの表現技法

  1. キャッチコピー
  2. 図表活用
  3. ペルソナ訴求

ティーザーとノンネームシートを使い分けた実務イメージ

年商12億円の地方食品メーカーが国外成長を狙う大手商社にアプローチする場合、詳細な市場データを盛り込んだティーザーが有効です。一方、同業の国内企業へ提案するときは簡潔なノンネームシートでスピーディに打診すると効率的です。案件の目的と相手の情報量を踏まえたツール選択が、クロージングまでの期間短縮につながります。

ティーザーとノンネームシート確認後のプロセスを段階別に理解

ティーザーとノンネームシートが届いた後、譲受企業と譲渡企業は次の段階へ進みます。各段階を正確に押さえることで、無駄な待ち時間をなくし、スムーズなM&Aへとつながります。

秘密保持契約で情報漏洩リスクを最小化

詳細情報を開示する前に必ず秘密保持契約(NDA)を締結します。NDAは買い手による意図的・偶発的な情報漏洩を防ぎ、責任範囲を明確にする役割を担います。契約書には「開示目的」「守秘範囲」「違反時の責任」を盛り込み、資料の取り扱い方針を共有しましょう。

企業概要書で詳細情報を段階的に開示

秘密保持契約締結後、譲渡企業は企業概要書(IM:Information Memorandum)を提示します。IMは数十ページ規模で、社名・沿革・取引先・財務情報・事業計画などを詳細に説明します。ターゲット企業の価値を正しく理解してもらうため、ティーザーでは触れられなかった具体的データを提示することが大切です。

デューデリジェンスから最終合意までの流れ

  1. 初期ミーティング 
    お互いの期待と評価を共有し、意思決定に必要な追加資料を整理します。
  2. デューデリジェンス 
  3. 財務・ビジネス・法務の三領域を中心に徹底調査を実施します。
  4. 交渉と意向書作成 
    調査結果を踏まえて価格・条件を交渉し、意向書(LOI)に合意事項をまとめます。
  5. 最終契約締結とクロージング 
    最終契約書を締結し、必要な許認可や対外手続を経て取引を完了します。デューデリジェンスで判明した修正点を反映し、クロージングまでの工程表を共有することで、予定外の遅延を防止します。

ティーザーとノンネームシート確認後の注意点二選

プロセスを円滑に進めるためには、資料の質だけでなく運用面での注意が欠かせません。

専門家のアドバイスで法務・財務リスクを回避

M&Aには法律・会計・税務など複数分野の知見が必要です。契約書の条項や価格調整条項は将来の紛争リスクを左右します。必ず専門家に相談し、想定外の負担を回避しましょう。専門家の助言は適正価格の算定にも役立ちます。

迅速な対応で買収候補との信頼を構築

質問への回答や追加資料の提出が遅れると、買収候補は不安を抱き検討を中断する恐れがあります。担当窓口を一本化し、社内で承認フローを整備することで短時間で回答できる体制を整えましょう。

ティーザーとノンネームシートの理解がM&A成功を左右

ティーザーとノンネームシートは一見似た資料ですが、情報量や使用場面の差を把握することで、買収候補の興味を段階的に高め、交渉優位に立つことが可能です。

初期資料の質が案件スピードと条件に直結

ティーザーで魅力が伝わると、買収候補はNDA締結へ迷わず進みます。その結果、デューデリジェンス開始までの期間が短縮され、好条件での交渉に結び付きやすくなります。

匿名資料を通じた信頼形成がクロージングを短縮

匿名性を保ちながらも要点を押さえた情報提供は、買収候補へ「誠実な企業」との印象を与えます。この信頼が後工程の交渉を円滑にし、クロージングまでの歩みを加速させます。

まとめ

ティーザーとノンネームシートはM&A初期段階の羅針盤です。匿名性を守りつつ魅力と要点を伝えることで、買収候補の関心を高め、NDA締結やIM提示へスムーズに導けます。資料の質と迅速な対応、そして専門家の助言が、最終合意への近道となります。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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