ティーザー活用で成功するM&A情報開示ステップを解説
「ティーザーとノンネームシートは何が違うのだろう?」そんな疑問にまずお答えします。ティーザーは譲渡企業の魅力を匿名で伝え、買収候補の心をつかむ初期資料です。本記事では作成のコツや注意点を丁寧に解説します。
目次
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ティーザーはM&Aプロセスの幕開けで用いられる重要な提案資料です。投資銀行やM&Aアドバイザーが作成し、譲渡企業の社名を伏せたまま買収候補に概要を示します。ページ数はA4で3~10枚程度が目安とされますが、要点を押さえれば1枚にまとめるケースも珍しくありません。目的はただ一つ、買収候補の「もっと詳しく知りたい」という感情を喚起することです。
ティーザーに期待される最大の役割は、ターゲット企業の魅力とシナジーの可能性を端的に示し、初期段階で買収候補の検討テーブルに乗せることです。匿名資料とはいえ、事業モデルや市場規模、財務健全性などの骨格情報を提示することで、買収候補は「検討に値する案件かどうか」を最短距離で判断できます。したがってティーザーは単なる会社概要ではなく、戦略的なマーケティング資料として設計する必要があります。
ティーザーに欠かせない情報は次の七項目です。
数値は幅を持たせ「売上高5億~6億円程度」などと記載することで、具体性と匿名性のバランスを保ちます。要点を箇条書に整理し、視認性を高める工夫も欠かせません。
ティーザー作成時に注意すべき三つのポイント
ティーザーは情報不足でも過多でも効果が半減します。注意点は次の三つです。
ノンネームシートは譲受企業が最初に目にする概要書です。ティーザーと同様に匿名形式ですが、情報量は「業種・エリア・従業員数・財務規模・譲渡理由」など必要最低限に絞られます。初期段階で他社に持ち込むときや同業者間での提案では、詳細よりスピードが優先されるため短いフォーマットが好まれます。
業種と所在地(例:首都圏の食品製造業)
これらの情報により、買収候補は企業の大まかな規模感と取引可能性を把握します。
ティーザーとノンネームシートはよく同義で扱われますが、実務上は情報量・使用場面・ページ数の三点で差異があります。
ノンネームシートが「最低限伝える名刺」とすれば、ティーザーは「興味を深めるパンフレット」と言えます。特に異業種の買収候補をターゲットにする場合、業界知識が乏しい相手にも魅力を伝えるためティーザーが有効です。一方、同業者であれば短いノンネームシートでも十分判断できます。
使用場面の違いは提案戦略へ直結
ノンネームシート
早期に多数の同業者へ打診
ティーザー
絞り込んだターゲットへ深い関心を喚起
プロセスを円滑に進めるため、案件の性格や買収候補の属性に合わせて使い分けることが肝要です。
文書の長さはA4一枚から十枚まで可変
多くのM&A仲介業者では両者をA4一枚程度に統一しています。ただし戦略的に情報を厚くすることで、複雑なビジネスモデルの理解促進や競合案件との差別化を図ることも可能です。ページ数よりも「読む価値」を感じさせる構成が重要と言えます。
ノンネームシートを送付し初期的な関心を得た後、買収候補に「さらに情報を」と求められた段階でティーザーが投入されるのが一般的です。作成を担当するのは投資銀行やM&Aアドバイザーのディレクター級スタッフで、ターゲット企業のビジネスと市場を熟知している人材が主導します。経験豊富な担当者ほど、情報の深さと守秘の線引きを巧みに調整できるため、案件の成否を大きく左右します。
こうした多層的なチェックにより、買収候補が安心して検討できる資料品質が確保されます。
ティーザーを専門家に依頼する際の留意点
ティーザー作成を外部に任せる場合、依頼先の専門性と実績を見極めることが不可欠です。ターゲット企業を魅力的に見せるには、市場トレンドや買収側の視点を理解したうえでシナリオを組み立てる力量が求められます。
依頼先選定の三つの指標
担当者の見極めポイント
良質なティーザーは、買収候補が秘密保持契約(NDA)締結と企業概要書(IM)受領に進む判断を後押しします。逆に情報が曖昧だったり魅力が伝わらない場合、早期に検討から外されるリスクが高まります。
年商12億円の地方食品メーカーが国外成長を狙う大手商社にアプローチする場合、詳細な市場データを盛り込んだティーザーが有効です。一方、同業の国内企業へ提案するときは簡潔なノンネームシートでスピーディに打診すると効率的です。案件の目的と相手の情報量を踏まえたツール選択が、クロージングまでの期間短縮につながります。
ティーザーとノンネームシートが届いた後、譲受企業と譲渡企業は次の段階へ進みます。各段階を正確に押さえることで、無駄な待ち時間をなくし、スムーズなM&Aへとつながります。
詳細情報を開示する前に必ず秘密保持契約(NDA)を締結します。NDAは買い手による意図的・偶発的な情報漏洩を防ぎ、責任範囲を明確にする役割を担います。契約書には「開示目的」「守秘範囲」「違反時の責任」を盛り込み、資料の取り扱い方針を共有しましょう。
秘密保持契約締結後、譲渡企業は企業概要書(IM:Information Memorandum)を提示します。IMは数十ページ規模で、社名・沿革・取引先・財務情報・事業計画などを詳細に説明します。ターゲット企業の価値を正しく理解してもらうため、ティーザーでは触れられなかった具体的データを提示することが大切です。
プロセスを円滑に進めるためには、資料の質だけでなく運用面での注意が欠かせません。
M&Aには法律・会計・税務など複数分野の知見が必要です。契約書の条項や価格調整条項は将来の紛争リスクを左右します。必ず専門家に相談し、想定外の負担を回避しましょう。専門家の助言は適正価格の算定にも役立ちます。
質問への回答や追加資料の提出が遅れると、買収候補は不安を抱き検討を中断する恐れがあります。担当窓口を一本化し、社内で承認フローを整備することで短時間で回答できる体制を整えましょう。
ティーザーとノンネームシートは一見似た資料ですが、情報量や使用場面の差を把握することで、買収候補の興味を段階的に高め、交渉優位に立つことが可能です。
ティーザーで魅力が伝わると、買収候補はNDA締結へ迷わず進みます。その結果、デューデリジェンス開始までの期間が短縮され、好条件での交渉に結び付きやすくなります。
匿名性を保ちながらも要点を押さえた情報提供は、買収候補へ「誠実な企業」との印象を与えます。この信頼が後工程の交渉を円滑にし、クロージングまでの歩みを加速させます。
ティーザーとノンネームシートはM&A初期段階の羅針盤です。匿名性を守りつつ魅力と要点を伝えることで、買収候補の関心を高め、NDA締結やIM提示へスムーズに導けます。資料の質と迅速な対応、そして専門家の助言が、最終合意への近道となります。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画