債務超過でも売却できる!メリット・デメリット、M&A方法を解説

債務超過とは、資産総額が負債総額よりも少ない状況を指します。通常、債務超過になっている企業は評価が低下し、経営環境が厳しくなりますが、M&Aが実現できる可能性は充分に存在します。本記事は、事業承継を検討している経営者に対し、債務超過企業のM&Aについて説明します。売り手と買い手の双方の利点やM&Aの代表的な方法についても言及しますので、ぜひ参考にしてください。

目次

  1. 債務超過会社でもM&Aはできる
  2. 債務超過の意味
  3. 債務超過会社をM&Aする売り手のメリット・デメリット
  4. 債務超過会社をM&Aする買い手のメリット・デメリット
  5. 債務超過会社のM&A方法
  6. 債務超過会社の企業価値評価
  7. 債務超過会社のM&A成功のポイント
  8. 債務超過会社の売り手はリスクを事前に伝える
  9. まとめ

債務超過会社でもM&Aはできる

たとえ企業が債務超過状態に陥っていても、M&Aによる譲渡が行えます。何らかの対策を講じれば、債務超過というマイナス要因を補填できる可能性があります。効果的な対策は、業界や債務超過の具体的な状況に応じて異なります。M&Aを望む場合は、自社の置かれている状況を考慮し、適切な対策を取り入れましょう。

▶目次ページ:M&Aの種類・方法(債務超過)

債務超過の意味

債務超過とは、貸借対照表上で純資産がマイナスになっている状態を指す言葉です。資産総額が負債総額を上回らない場合、純資産はマイナスとなります。ただし、書類上は資産超過であっても、実質的には債務超過状態にあるケースもあるため注意が必要です。例えば、突如として大量の売上債権が回収できなくなると、企業は債務超過に陥る恐れがあります。

必ずしも倒産につながらない債務超過

確かに債務超過になると倒産のリスクは高まりますが、債務超過状態のすべての企業が倒産するわけではありません。債務超過が一時的なものであり、資金繰りがスムーズに行われれば、倒産には至りません。ただし、長期間にわたり債務超過が続くと、経営は次第に厳しくなるため、注意が必要です。

赤字との相違点

赤字とは、ある会計年度において収益が費用を下回ることです。債務超過は財務状態を表すのに対し、赤字は業績を示しています。細かな赤字が生じても、資産が負債を大幅に上回っていれば、基本的に債務超過にはなりません。しかし、膨大な赤字が発生したり、赤字が何年も続いたりすると、債務超過になる可能性が高くなります。

資金ショートとの相違点

資金ショートとは、現金資金が不足している状態を指します。この言葉は資金繰りを表すものであり、直接的に財務状況や業績を示しているわけではありません。企業が黒字であっても、資金繰りがうまくいかない場合、資金ショートが発生します。多額の資金ショートが発生すると、債務超過のケースよりも倒産リスクが高まるため、注意が必要です

債務超過会社をM&Aする売り手のメリット・デメリット

債務超過企業を売却する場合、売り手にはメリットがある一方でデメリットも存在します。以下でそれぞれ解説します。

売り手のメリット

債務超過状態にある企業がM&Aによる譲渡を行うと、売却益を得られる可能性があります。また、M&Aを通じて譲渡後も従業員の雇用が維持できる場合、それまで企業を支えてきた従業員を解雇せずに済み、従業員の不安も軽減できます。

売り手のデメリット

M&Aにおいて、必ずしも全ての会社資産を譲渡できるわけではないため、債務の完全な解消ができないケースも存在するのが現実です。譲受する側が希望しない資産や権利義務に関しては、譲渡する側にそのまま残ることになります。

また、状況次第ではM&Aが債権者から詐害行為とされるリスクもあるため、注意が必要です。例えば、企業が倒産した場合、その企業が持つ財産を債権者に充当せずに売却したことが詐害行為と見なされる可能性があります。

債務超過会社をM&Aする買い手のメリット・デメリット

債務超過企業を買収する買い手には、どのような利点が存在するのでしょうか。メリットとデメリットをまとめてご紹介します。

買い手のメリット

他社の事業を自社に取り入れることで、シナジー(相乗効果)を見込むことができます。

多角的な経営が可能になり、幅広い事業展開が実現できます。

新規事業を立ち上げるための準備を全て自社で行うよりも、M&Aで他社の事業を譲受することでコスト(費用)を抑制できます。

一般的に債務超過企業は譲渡価格が安くなる傾向があり、M&Aにかかる費用を節約できます。

買い手のデメリット

一方で、債務超過企業の買収にはリスクも伴います。そのため、株主や取引先、銀行といった関係者から批判される可能性があります。さらに、M&Aを行ったことが原因で自社の経営が悪化する危険性も否定できません。債務超過企業を譲受する場合には、細かなシミュレーションを行い、慎重に判断が求められます。

債務超過会社のM&A方法

債務超過企業のM&Aでは、様々な方法が利用されます。ここで、その代表的な手法をいくつか解説いたします。

株式譲渡

株式譲渡とは、売り手の株式を買い手に移転する方法で、経営権も同時に譲渡されます。株式譲渡は手続きが比較的簡単なため、M&Aでよく用いられる手法です。

事業譲渡

事業譲渡は、売り手の特定の事業を買い手に移管する方法で、買い手は債務超過企業の経営全体を引き継ぐ必要はありません。そのため、事業譲渡もM&Aで多く利用されます。

吸収分割

吸収分割は、売り手の権利や債務を一括して買い手に承継する形で行われる、会社分割の一種です。これにより、売り手は成長見込みのない事業を削減することができ、また買い手はコスト(費用)を抑えて新しい事業を進めることができるという利点があります。

新設分割+株式譲渡

新設分割は、新たに企業を設立し、その企業に権利や債務を譲受する方法です。新設分割も会社分割の一種ですが、既存の企業ではなく新しい企業を設立する点で吸収分割とは異なります。新設分割の際には、株式譲渡も同時に実施されます。

第二会社方式の概要

第二会社方式は、株式譲渡、事業譲渡、吸収分割、新設分割といった複数の手法を組み合わせて実施される方法です。この方式を使用することにより、コア事業の売却を通じて売却対価を債務弁済に充てることができ、資金を確保することが可能になります。その結果、その他の事業が円滑に清算されるようになります。

債務超過会社の企業価値評価

債務超過の状態にある企業の価値を適切に算定するための方法は、主に3つに分類されます。

コストアプローチ:純資産額を基に価値を算定します。具体的な算定方法としては、簿価純資産法や時価純資産法が挙げられます。

インカムアプローチ:企業の事業の将来性を考慮し、価値を算定します。現時点で債務超過の状態であっても、将来性が期待できる場合には評価が上昇することがあります。

マーケットアプローチ:他のM&A取引の相場を参考にして価値を算定します。取引事例が少ない業種の場合、高評価が得られるケースも考えられます。

債務超過会社のM&A成功のポイント

債務超過企業がM&Aをうまく進めるためには、以下の点に注意して取り組むことが重要です。

なるべく債務を減らす

債務が少なければ少ないほど、売却が容易になります。債務を減らすことで、買い手企業が負担するリスクや負債が軽減されるためです。企業や事業の状況を再評価し、可能な限り債務を減らしましょう。

企業価値を高める

企業価値が高ければ高いほど、買い手企業が見つかりやすくなります。収益性や希少性が高まることで、譲受が魅力的になります。事業内容やノウハウ、技術、人材などを見直し、価値を高めましょう。

シナジー効果が見込める買い手企業にアプローチする

自社と相乗効果が期待できる企業を選び、打診することでM&Aが成立しやすくなります。潜在的な収益性が高く評価されることで、価格面でも良い結果が期待できます。

余裕のあるタイミングで動き出す

債務超過の状況が悪化するほど、M&Aの条件が悪くなります。そのため、余裕を持ってM&Aの検討を始め、計画を立てましょう。

債務超過会社の売り手はリスクを事前に伝える

債務超過企業のM&Aは買い手企業にとってリスクが伴いますので、現状について詳しく説明することが重要です。表明保証違反が発生した場合、契約の解除や損害賠償請求につながる可能性がありますので、十分気をつけましょう。

まとめ

債務超過企業であっても、M&Aが実現できる可能性は十分にあります。多様なM&A手法が存在し、株式譲渡や事業譲渡などを通じてM&Aが行われることが一般的です。債務超過企業はM&Aの対象となりにくい傾向にありますが、企業価値を向上させる取り組みや、適切なタイミングでの準備を行うことで、M&Aを成功させることが可能になります。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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