プロラタ方式は複数の金融機関への借入返済を最適化する手法です。本記事では、プロラタ方式の基本概念、実施手順、メリット・デメリット、2つの計算方法を詳しく解説します。効果的な返済計画立案に役立つ情報満載です。
目次
プロラタ方式は、複数の金融機関から借入を行っている企業が、返済条件を変更する際に用いる手法です。この方式の名称は、「比例して按分できる」という意味を持つ「proratable」に由来しています。
プロラタ方式の主な特徴は以下の通りです:
・借入金額に応じて返済額を決定します。
・リスケジュール(返済条件の変更)を行う際に利用されます。
・全ての金融機関に対して公平な返済条件を設定することが目的です。
リスケジュールでは、企業の財務状況に応じて以下のような変更が行われます:
・毎月の返済額を一定期間減額する ・返済期限を延長する
プロラタ方式を採用することで、すべての金融機関に対して不公平感のない返済条件を設定することができます。これにより、金融機関との良好な関係を維持しつつ、企業の資金繰りを改善することが可能となります。
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プロラタ方式を実施する際の一般的な手順は以下の通りです:
1. 借入残高の確認:
・各金融機関の借入残高を確認します。
・返済予定表や残高証明書を利用して正確な情報を入手します。
2. 金融機関との交渉:
・各金融機関に対してプロラタ方式での返済について同意を得るよう交渉します。
・必要に応じて、弁護士やコンサルティング会社などの専門家のサポートを受けます。
3. 返済計画の作成:
・借入残高に応じた返済方法を計画します。
・事業計画も併せて作成し、返済能力を示します。
4. 計画の調整:
・各金融機関との交渉を通じて、返済計画を調整します。
・全ての金融機関に対して不公平感がないよう配慮します。
5. 合意の形成:
・調整された返済計画について、全ての金融機関から同意を得ます。
6. 実行:
・合意された返済計画に基づいて、新たな返済を開始します。
この手順を丁寧に進めることで、企業と金融機関の双方にとって受け入れ可能な返済条件を設定することができます。
プロラタ方式による借入返済計画の合意形成には、いくつかの重要なポイントがあります。これらを押さえることで、金融機関との交渉をスムーズに進めることができます。
専門家の支援を得ることは、返済計画の作成や金融機関との交渉において非常に重要です。
以下のようなメリットがあります:
・交渉力の向上:専門家の同席により、より説得力のある提案が可能になります。
・精神的サポート:専門家のバックアップにより、経営者の心理的負担が軽減されます。
・本業への集中:交渉を専門家に任せることで、経営者は事業運営に注力できます。
・客観的情報の提供:金融機関にとっても、第三者による客観的な情報は信頼性が高いと評価されます。
特に、税理士や公認会計士などの財務の専門家に借入残高の確認作業を依頼することで、より正確で信頼性の高い情報を金融機関に提示することができます。
プロラタ方式でのリスケジュールを成功させるためには、全ての取引金融機関の同意を得ることが極めて重要です。その理由は以下の通りです:
・公平性の確保:一部の金融機関のみがリスケに応じると、他の金融機関との間に不公平が生じます。
・回収リスクの増大防止:リスケに応じない金融機関への返済が優先されると、リスケに応じた金融機関の回収リスクが
高まります。
・長期的な実現可能性:不公平な状況が続くと、プロラタ返済の実施自体が困難になる可能性があります。
全行一致を目指すことで、これらの問題を回避し、安定した返済計画を実行することができます。
プロラタ方式には、企業と金融機関の双方にとって様々な影響があります。その長所と短所を理解することで、より効果的な返済計画を立てることができます。
プロラタ方式を採用することで、以下のようなメリットが得られます:
1. 公平な返済:
・借入額の割合に応じて返済額が決まるため、全ての金融機関に対して公平な返済が可能です。
・全ての金融機関への返済が同時期に完了するため、特定の金融機関が不利になることを防げます。
2. 金融機関の安心感:
・返済が後回しにされる不安を軽減できます。
・他の金融機関の動向が把握しやすくなり、全体の返済状況が透明化されます。
3. 円滑な交渉:
・金融機関の安心感が高まることで、交渉がスムーズに進みやすくなります。
・全体の返済計画が明確になるため、各金融機関との調整がしやすくなります。
4. 長期的な信頼関係の構築:
・公平な返済方法を採用することで、金融機関との良好な関係を維持できます。
・将来的な資金調達の際にもプラスに働く可能性があります。
一方で、プロラタ方式には以下のようなデメリットも存在します:
1. 交渉の複雑化:
・複数の金融機関と同時に返済計画の調整を行う必要があり、手間がかかります。
・各金融機関の立場や要求が異なる場合、調整が難航する可能性があります。
2. 専門知識の必要性:
・プロラタ方式の実施には一定の交渉力と専門知識が求められます。
・多くの場合、専門家や仲介者の支援が必要となり、コストが発生します。
3. 柔軟性の低下:
・全ての金融機関が一致して動く必要があるため、個別の対応が難しくなります。
・例えば、追加融資が必要な場合、一部の金融機関の反対で実現が困難になる可能性があります。
4. 情報の公開:
・各金融機関との取引内容が公開されることで、他の金融機関から敬遠される可能性があります。
・企業の財務状況が広く知られることになり、取引先への影響も懸念されます。
5. 担保評価の複雑化:
・特に信用プロラタを採用する場合、担保の評価方法によって返済額が変動するため、調整が難しくなる可能性がありま
す。
プロラタ方式を採用する際は、これらのメリットとデメリットを十分に理解し、自社の経営状況や金融機関との関係性を考慮して判断することが重要です。場合によっては、一部の金融機関とのみプロラタ方式を採用するなど、柔軟な対応を検討することも必要かもしれません。
プロラタ方式には、返済額を算定する際の考え方によって、主に2つの方法があります。それぞれの特徴と計算方法を理解することで、より適切な返済計画を立てることができます。
1. 残高プロラタ
2. 信用プロラタ
これらの方法は、企業の財務状況や金融機関との関係性によって、適切な選択が異なる場合があります。
残高プロラタは、各金融機関からの借入残高に基づいて返済額を決定する方法です。この方法は比較的シンプルで分かりやすいため、多くの場合でこの方式が採用されています。
計算手順は以下の通りです:
1. 各金融機関の借入残高を確認します。
2. 全金融機関の借入残高の合計を算出します。
3. 各金融機関の借入残高が全体に占める割合を計算します。
4. 月間の返済可能額を決定します。
5. 各金融機関への返済額を、割合に応じて按分します。
借入残高 |
500万円 |
300万円 |
200万円 |
1,000万円 |
借入残高に対する割合 |
50% |
30% |
20% |
100% |
月間返済額 |
5万円 |
3万円 |
2万円 |
10万円 |
残高プロラタの特徴:
・借入残高が多い金融機関の返済額が多くなります。
・借入残高が少ない金融機関の返済額が少なくなります。
・計算方法が明確で、金融機関間の公平性が保たれやすいです。
信用プロラタは、各金融機関の借入残高から担保部分を差し引いた無担保部分の残高に基づいて返済額を決定する方法です。この方法は、担保の有無や価値を考慮するため、より複雑な計算が必要になります。
計算手順は以下の通りです:
1. 各金融機関の借入残高を確認します。
2. 各金融機関が保有する担保の価値を評価します。
3. 借入残高から担保額を差し引いて、無担保部分の残高を算出します。
4. 全金融機関の無担保部分の残高の合計を計算します。
5. 各金融機関の無担保部分の残高が全体に占める割合を計算します。
6. 月間の返済可能額を決定します。
7. 各金融機関への返済額を、無担保部分の割合に応じて按分します。
例えば、以下のような状況を考えてみましょう:
・金融機関A:借入残高 500万円、担保額 300万円
・金融機関B:借入残高 300万円、担保額 100万円
・金融機関C:借入残高 200万円、担保額 100万円
・合計無担保残高:500万円
・月間返済可能額:10万円
この場合の計算結果は以下のようになります:
・金融機関A:4万円(10万円 × 40%)
・金融機関B:4万円(10万円 × 40%)
・金融機関C:2万円(10万円 × 20%)
信用プロラタの特徴:
・担保を多く持つ金融機関の返済額が少なくなる傾向があります。
・無担保部分が多い金融機関の返済額が多くなります。
・担保評価の方法によって結果が大きく変わる可能性があります。
・担保を持たない金融機関にとっては、残高プロラタよりも有利になる場合があります。
プロラタ方式を選択する際は、企業の財務状況、各金融機関との関係性、担保の状況などを総合的に考慮し、最適な方法を選択することが重要です。場合によっては、残高プロラタと信用プロラタを組み合わせた方法を採用することも検討できます。
プロラタ方式は、複数の金融機関からの借入がある企業が返済条件を変更する際に用いる重要な手法です。残高プロラタと信用プロラタの2種類があり、それぞれ特徴が異なります。この方式を適切に活用することで、公平な返済計画を立て、金融機関との良好な関係を維持しつつ、企業の資金繰りを改善することができます。専門家の支援を得ながら、慎重に計画を立てることが成功の鍵となります。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画