プロラタ計算方式活用で学ぶ借入返済最適化を徹底解説
プロラタ計算で実践する公平な借入返済最適化。それは、借入残高や担保状況に応じて返済額を比例配分し、全金融機関の同意を得て資金繰りを安定させる手法です。本記事では、その基本概念から二つの計算方法、実施手順、交渉のコツまで税理士がやさしく説明します。
目次
▶目次ページ:事業承継とは(事業再生)
プロラタ方式は、複数の金融機関に対する借入返済額を「比例して按分」する考え方です。ラテン語 pro rata = 比例配分が語源で、借入残高または無担保残高の割合に応じ、各行へ同率で返済します。企業側は資金繰りを平準化でき、金融機関側は「自行だけ後回しになる」不安を払拭できます。
代表的なのが残高プロラタです。全金融機関の借入総残高を100%とみなし、各行の残高シェアに月間返済可能額を掛けて返済額を算定します。たとえば総残高1,000万円、月間返済額10万円なら残高50%の行へ5万円、30%の行へ3万円、20%の行へ2万円となり、数字で見ても公平性が一目瞭然です。
担保付き債権と無担保債権が混在する場合は信用プロラタを選択します。担保評価額を控除した「リスク部分」だけを合算し、同じ按分式で返済額を決定。担保を多く持つ行への返済負担が軽くなるため、無担保行とのバランス調整に適します。担保評価の合意が前提になる点が実務上の難所です。
プロラタ方式を成功させる鍵は、事前準備と全行一致の合意形成にあります。以下の流れを外さず実行すると、返済条件の変更がスムーズにまとまります。
全行一致を得るには事前の根回しと情報開示が不可欠です。ここでは実務で効果的だった三つのポイントを紹介します。
税理士や公認会計士が財務データを整理し同席することで、提案の説得力が増すだけでなく経営者の心理的負担も軽減します。金融機関も第三者の数字を信頼しやすく、協議の出発点がそろいやすくなります。
一部の行だけが条件変更に応じると、応じた行の回収リスクが高まります。全行一致で初めて公平性が担保され、計画の実現可能性も上がることを交渉の初期段階で明示しましょう。
返済額の根拠となるフリーキャッシュフローを示し、売上拡大策やコスト削減策を数値化した中期事業計画を添付すると、金融機関は「返済継続の裏付け」と評価します。
プロラタ方式を採用するときは、メリットとデメリットを並べて比較し、どちらが自社にとって重要かを冷静に判定する必要があります。長所だけに目を奪われると、後で柔軟性の乏しさに悩む可能性がある一方、短所を恐れて導入を見送れば、公平な返済のチャンスを逃すかもしれません。ここでは双方のポイントを整理します。
企業側の最大の収穫は「どの金融機関にも同じロジックで返済する」安心感です。
一方で注意点も存在します。
プロラタ方式には「残高プロラタ」と「信用プロラタ」の二種類があり、どちらを採用するかで返済額の配分が大きく変わります。実数を使った流れを確認し、両者の違いを掴みましょう。
たとえば総借入残高1,200万円のうち、A銀行600万円、B銀行360万円、C銀行240万円だったとします。月間返済可能額を12万円に設定すると、A銀行=6万円、B銀行=3.6万円、C銀行=2.4万円となります。
特徴
残高プロラタの適用に向くケース
同じ1,200万円を借りていても、各行が保有する担保額が異なると状況は一変します。例としてA銀行借入600万円のうち担保評価400万円、B銀行360万円の担保120万円、C銀行240万円の担保ゼロとした場合、無担保残高はA=200万円、B=240万円、C=240万円、合計680万円です。月間返済可能額12万円を無担保比率で配分するとA=3.5万円、B=4.2万円、C=4.2万円(端数調整)となり、担保保全度合いに応じて負担が動きます。
特徴
信用プロラタの適用に向くケース
プロラタ方式は、借入残高や無担保残高の割合で返済額を公平に按分し、全金融機関の協調を引き出す強力な手段です。残高プロラタと信用プロラタを適切に選び、専門家支援と綿密なモニタリングを組み合わせれば、資金繰りの安定と金融機関との信頼維持を同時に実現できます。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画