M&Aのオークション(入札)方式とは?メリット・デメリットを解説

企業のM&A(合併・買収)の実施方法は、オークション方式と相対方式の2つが主に存在します。これらの方法にはそれぞれ特徴があり、企業にとってメリットを享受することもあれば、デメリットとなることもあります。本稿では、M&Aのオークション方式(入札方式)について、詳しく解説いたします。

オークション方式に興味のある方、M&Aオークションの進め方について理解を深めたい方は、ぜひ参考にされることをお勧めいたします。

目次

  1. オークション・入札・ビッド方式とは? 
  2. 相対方式とは?
  3. オークション方式の特徴
  4. 売り手側のメリット
  5. 売り手側のデメリット
  6. M&Aで入札方式と相対方式、どちらがおすすめか
  7. 相対方式の売り手側の注意点
  8. M&Aのオークション方式まとめ

オークション・入札・ビッド方式とは?

M&Aのオークション方式とは、売却案件に対し複数の買収希望企業が入札を行い、最も良い条件を提示した譲受側が独占的な交渉権を得る方法です。オークション方式は、入札方式や競売方式とも呼ばれており、具体的には複数の譲受側が競り合い、最も有利な条件を提示した譲受側が優先交渉権を獲得するという仕組みが特徴です。

オークション方式にはいくつかのメリットがありますので、以下で詳しく説明していきます。

相対方式とは?

M&Aの相対方式は、特定の買収候補企業と交渉する方法です。オークション方式と比較すると交渉先が限定されるため、より詳細な交渉が可能です。また、条件が合わない場合には、別の買収候補企業を選定することができるといった特徴もあります。一般的な中小企業のM&Aはほとんどがこの相対方式で行われます。

オークション方式の特徴

それでは、M&Aのオークション方式の特徴について詳しく説明していきます。

参加企業数は少数が一般的

M&Aでは、対象企業に対して興味を持つ譲受側を最初に絞り込むことが一般的です。もちろん、大規模に企業を募集してM&Aを行うこともありますが、事例はあまり多くはありません。

少数に絞る理由

M&Aは慎重に選ばなければならず、最初の段階である程度絞ることで、本当に買収を行うべき企業をじっくりと精査できる点が譲渡側にメリットがあるからです。また、入札条件の見落とし、企業に対する理解不足、作業工数の増加といった問題を減らせる点でも少数に絞っておいたほうが良いでしょう。

譲受側が条件を提示する

オークション方式では、入札時に譲受側の条件をもとに譲渡側が精査し、決定を行います。譲受側が提示する条件は、価格だけでなく、支払い方法や契約期間など、さまざまな条件が含まれます。これらの条件に納得した譲渡側が最終的に選ぶことで譲受側が決定するという構造になっています。

以上、M&Aのオークション方式についての特徴や進め方について詳しく解説して参りました。オークション方式のメリットやデメリットを理解し、企業のM&A戦略に適切に活用していくことが重要です。

意向表明書とは?

意向表明書とは、企業が譲受候補側としてどのような条件で事業を譲り受けたいと考えているかを示す書類であり、具体的なM&Aの目的や金額、取り決めのスキームなどを明示します。これは法的な書面ではなく、形式に決まりはありません。また、オークション形式においても、相対方式においても、意向証明書は提出されます。ただし、オークション形式では期間中に提出が求められることが多く、相対方式では会談の後に提示されることが一般的です。

M&Aのオークションでは最高額を提示した企業に譲渡する必要はない

オークション形式のM&Aでは、最高額を提示した企業に事業を譲渡しなければならないという考え方は誤りです。実際には、複数の企業からの入札を検討し、金額だけではなく他の条件も考慮して選定します。このような考え方は、譲渡する企業が最大限の利益を得られるように、企業の条件や文化、戦略的観点など多様な要素を総合的に検討することが重要だからです。従って、金額だけでオークションが決まるわけではないことを理解しましょう。

売り手側のメリット

M&Aにおいて譲渡側がオークション形式を活用することで得られるメリットは以下の通りです。

 • オークション方式を利用することで、複数の譲受企業と競争させることができます。これにより、最も条件が良い企業

   と取引することが可能になり、市場価格以上の金額で取引が成立することがあります。

 • 複数の企業からオファーを受けることができるため、譲渡側が設定した条件が守られやすくなります。それにより、よ

   り希望に沿った譲渡が実現しやすくなります。

ただし、オークション方式では入札者による情報開示が求められるため、譲渡側が情報開示に伴うリスクを考慮する必要があります。

売り手側のデメリット

M&Aでオークション方式を活用する譲渡側のデメリットは以下の通りです。

 • オークション方式では、入札者が事業について十分に理解し得るための情報の開示が要求されます。この情報開示に

    伴って、機密情報が漏洩するリスクが生じることがあります。

 • オークション方式では、複数の企業との交渉が必要になるため、取引が複雑化し、手間やコストが増える場合もあり

    ます。

オークション方式の利用に際しては、これらのデメリットを十分に検討した上で、最適な取引方法を選択しましょう。

相対方式に比べて作業工数が多く必要

オークション方式では、複数の譲受側と交渉する必要があり、それぞれの要望を検討し回答を作成するため、調整や対応に多くの時間が必要になります。このことがオークション方式のデメリットの一つといえます。

 • 作業工数を割くことができる社内体制があれば問題ありません。

 • 中小企業でリソースが限られている場合は、工数の問題が悩ましいこともあります。

M&Aの情報が広まりやすく情報漏洩のリスクが高まる可能性

オークション方式は多くの譲受側候補が参加し、最初に絞り込まれた数社よりも多くの企業が情報を目にすることになります。その結果、以下の問題が考えられます。

 • 譲受側の内部情報が公開されてしまい、情報漏洩のリスクが高まります。

 • 譲渡側が秘匿したい事情や機密情報が漏洩する可能性もあります。

対応可能な専門家が少なく、手数料が高くなる場合も

M&Aにおいてオークション方式を利用する場合、譲渡側で対応できる専門家が限られることに注意が必要です。現状、サービスを提供しているアドバイザーのうち、相対方式と比較してオークション方式を提供するアドバイザーは圧倒的に少ないためです。

 • 専門家の手数料が高くなる可能性があります。

 • 譲渡側の手続きが増えることもあります。

M&Aで入札方式と相対方式、どちらがおすすめか

相対方式は、アドバイザーを通じて譲受側と譲渡側をつなぎ、交渉を進める方法のことを指します。この方式は、譲渡主と譲受主の意向や希望を考慮したマッチングが期待できます。

一方、入札方式は透明性が高く、譲受候補を比較しやすいというメリットがあります。また、競争原理により、高値で取引ができる場合もあります。うまく活用すれば、企業価値を高めることができます。

どちらがおすすめかは、取引の目的や条件、業界などによって異なります。取引条件や目的に応じて入札方式と相対方式の長所を比較し、どちらが適しているかを事前に検討することが重要です。さらに、相対方式での注意点についても確認しておきましょう。

相対方式の売り手側の注意点

M&Aの相対方式を活用する際の譲渡側の注意点を以下に示します。

 • 取引条件や業界などに合わせて、適切なアドバイザーを選ぶことが重要です。

 • 情報漏洩のリスクを最低限に抑えるために、秘密保持契約(NDA)の締結を検討しましょう。

 • 譲渡側の事業価値を適切に評価し、適切な取引価格を提示できるようにしましょう。

M&A専門家の選択が重要である

M&A取引を成功させるためには、譲渡側、譲受側、そしてM&A専門家という3つの主要な関係者が協力し合うことが不可欠です。特にM&Aの専門家は、その分野において豊富な知識と経験を持ち、適切なアドバイスを提供することができるため、役割が非常に重要です。

しかし、適切な検討なくM&A専門家を選ぶと、後々さまざまな問題が発生する可能性があります。そのため、信頼できるM&Aの専門家を選択し、事前にそのアドバイスを十分に受け入れることが重要です。

M&Aの最適なタイミングについて考慮する

M&A取引に最適なタイミングは、外部要因(市場環境や企業業績など)だけでなく、内部要因(財務状況や事業計画、経営者の退任時期など)も影響します。譲渡側は内部要因を十分に考慮し、適切なタイミングを見極める必要があります。

一方、譲受側も同様に内部要因を考慮し、企業が全盛期や後継者探しのタイミングを正確に判断する必要があります。タイミングが悪い場合、適切な相手を見つけられなくなる恐れがあるため、最適なタイミングを迷った場合は専門家に依頼することがおすすめです。

M&Aのオークション方式まとめ

本記事では、M&Aにおいて一般的に用いられるオークション方式(入札方式)と相対方式について詳しく解説しました。各方式にはそれぞれのメリット・デメリットが存在し、選択した方式がM&Aの成功に大きく影響することがわかります。参考にしていただきながら、どのようなM&Aの方式が最適か検討してみてください。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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