M&Aの歴史から紐解く企業の持続的成長と事業承継を解説

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M&Aの歴史を時代別に解説|事業承継へ続く変遷と現在

日本のM&Aの歴史を、明治期の産業再編、バブル期の海外買収、2000年代の敵対的買収、現在の事業承継・スタートアップ買収まで時代別に解説します。過去の成功と失敗から、中小企業の経営者が会社売却で重視すべき準備、相手選び、統合後の視点まで分かります。

目次

  1. 日本のM&A史を理解する3つの転換点
  2. 明治から戦後まで産業再編として発展
  3. 1980年代から2000年代の海外買収と法整備
  4. 2010年代に海外成長を狙う大型M&Aが加速
  5. 2020年代に事業承継と新しい買収目的が定着
  6. M&Aの歴史から会社売却で学ぶ判断ポイント
  7. まとめ

M&Aの歴史から紐解く企業の持続的成長と事業承継を解説

日本のM&A史を理解する3つの転換点

日本のM&A(合併・買収)は、1980年代に突然始まったものではありません。明治期から、企業の統合や事業の引継ぎは、産業の成長、過剰設備の整理、経営再建などに使われてきました。

ただし、現在のように、売り手と買い手が交渉し、企業の成長や事業承継を目的として実行するM&Aが広く認識されたのは、バブル期以降です。

日本のM&Aの歴史は、大きく3つの転換点に分けられます。第1は、同業者をまとめて生産力を高める産業再編。第2は、技術や海外市場を得るための成長投資。第3は、後継者不在の会社を次世代へつなぐ第三者承継です。

M&Aの役割は時代とともに広がった

M&Aには、複数の会社を1社にする合併、株式を取得して経営権を移す株式譲渡、特定の事業だけを移す事業譲渡などがあります。

かつては大企業の業界再編という印象が強い手法でした。現在は、中小企業の会社売却、事業承継、新規事業への参入にも利用されています。

買い手にとっては、時間をかけて設備、人材、技術、顧客を一から育てる代わりに、既存の会社や事業を引き継ぐ方法です。経営者にとっては、会社を廃業せず、従業員や取引先とともに第三者へ承継する選択肢になります。

歴史を知ると会社売却の本質が見える

M&Aの目的は時代ごとに変化してきました。それでも、取引の成否を分ける要素には共通点があります。

価格だけで判断せず、統合後に事業を続けられるか、買い手に必要な資金と経営力があるか、従業員や取引先が安心して関係を継続できるかを確認することです。

過去の事例を覚えるだけでは十分ではありません。歴史を自社の状況に置き換え、誰に何を引き継ぐべきかを考えることが重要です。

明治から戦後まで産業再編として発展

明治から昭和初期のM&Aは、現在の会社売却とは性格が異なります。同業者が競争力を高めるために統合した例がある一方、政策や戦時統制によって企業がまとめられた事例もありました。

自由な経営判断によるM&Aと、国の政策で進んだ企業統合を分けて理解する必要があります。

紡績業界では規模の拡大が競争力につながった

19世紀末から20世紀前半、日本の主要産業であった紡績業界では、海外製品との競争や原材料費の上昇が経営を圧迫していました。そのため、企業を統合し、生産設備や販売網を集約する動きが進みます。

鐘淵紡績、富士瓦斯紡績、東洋紡績などは、複数の会社や工場を取り込み、事業規模を拡大しました。1930年代には日本の綿布輸出が世界有数の規模となり、企業集約が国際競争力の向上につながったとされています。

現在のM&Aでも、工場の稼働率向上、仕入価格の引下げ、販売地域の拡大などを目的とした同業者同士の統合があります。紡績業界の再編は、その原型の一つです。

電力業界では過当競争から統合が進んだ

昭和初期の電力業界では、多数の事業者が地域ごとに競争していました。電力需要が増える一方で、電気は会社ごとの品質差を出しにくく、価格競争や過剰供給が問題になります。

その結果、会社の統合や事業の取得が進み、東京電燈、大同電力、東邦電力、日本電力、宇治川電気を中心とする五大電力体制へ収れんしました。この激しい競争は「電力戦」とも呼ばれています。

同業者が多すぎる市場では、値下げ競争によって各社の収益力が低下することがあります。M&Aによる業界再編は、供給体制の安定や設備投資の効率化を図る手段にもなります。

企業再生と大型合併が産業構造を変えた

1920年代から1930年代には、経営不振となった企業の事業を引き継ぎ、資本を入れ直して再建する動きも見られました。

鮎川義介が形成した日産コンツェルンは、企業や事業の取得、子会社化、資本市場からの資金調達を組み合わせた例として知られています。経営難の会社から事業や設備を引き継ぎ、経営資源を再配置する考え方は、現在の企業再生型M&Aにも通じます。

同じ時期には、製鉄、製紙、ビール、重工業などで大型合併が続きました。目的は規模の拡大だけではありません。技術、人材、設備を組み合わせ、生産性を高める狙いもありました。

戦時統制と財閥解体で市場型M&Aは停滞した

1930年代後半以降は、政府による産業統制が強まりました。企業統合にも政策的な色合いが濃くなり、経営者同士の自由な判断だけで進められたものではありません。

戦後は財閥解体が行われ、独占禁止法によって経済力の過度な集中が規制されます。そのため、大規模な企業結合は進めにくくなり、日本のM&Aは一時的に停滞しました。

ここで生まれた重要な考え方が、会社を大きくすること自体を目的にしてはならないという点です。市場の競争を損なわず、経営効率や企業価値の向上につながる取引であることが求められるようになりました。

1980年代から2000年代の海外買収と法整備

現代につながるM&A市場が本格的に広がったのは、1980年代後半です。豊富な資金を持つ日本企業が海外へ進出し、バブル崩壊後は国内の金融再編や事業再生へ重点が移りました。

2000年代に入ると、会社側の同意を得ずに経営権の取得を目指す買収が注目され、買収防衛策や株主への説明責任が議論されるようになります。

バブル期は海外企業や象徴的資産を取得した

1980年代後半は、円高や株価・不動産価格の上昇を背景に、日本企業が海外企業や不動産を積極的に取得しました。

三菱地所による米国ロックフェラーセンターへの投資や、ソニーによる1989年のコロンビア・ピクチャーズ買収が代表例です。日本企業は豊富な資金を使い、海外市場、ブランド、コンテンツなどを短期間で獲得しようとしました。

海外進出の足掛かりを得られた一方、買収価格が高すぎると、バブル崩壊後に借入金の返済や資産価値の低下が重い負担となります。

高く買いすぎるとのれんが経営を圧迫する

買収価格のうち、対象会社の純資産を上回る部分は、一般に「のれん」と呼ばれます。ブランド力、技術力、顧客基盤、将来の収益力などに対して支払った金額です。

買収後の利益が計画を下回れば、のれんの価値を見直し、損失を計上することがあります。良い会社であっても、高く買いすぎれば投資として成功しにくい。バブル期のM&Aが残した大きな教訓です。

バブル崩壊後は金融再編と選択・集中が進んだ

1990年代後半から2000年代前半には、不良債権処理や経営再建を背景に、金融機関をはじめとする業界再編が進みました。

企業は収益性の低い事業を売却し、強みのある分野へ資金と人材を集める「選択と集中」を重視するようになります。M&Aは、会社を買って大きくするためだけでなく、不要な事業を切り離し、経営体質を改善するためにも使われました。

法制度の整備も追い風となります。持株会社の解禁に続き、1999年の商法改正で株式交換制度が導入されました。一定の手続により、自社株式を対価として対象会社を完全子会社化する方法が利用できるようになったものです。

2000年代は敵対的買収と防衛策が注目された

2000年代半ばには、ライブドアによるニッポン放送株式の取得や、村上ファンドによる阪神電気鉄道への働きかけなどが大きく報道されました。

当時は、対象会社の経営陣が同意していない買収を「敵対的買収」と呼ぶことが一般的でした。企業側では、特定の買い手による株式取得を難しくする買収防衛策の導入が広がります。

代表的な方法の一つが、新株予約権を利用するポイズンピルです。ただし、経営者が自らの地位を守るためだけに防衛策を使えば、株主の利益を損なう可能性があります。

2005年には、経済産業省と法務省が買収防衛策に関する指針を公表しました。2006年には会社法が施行され、組織再編に関する制度も整理されています。

M&Aは経営者同士の交渉だけではなく、株主への情報開示や取締役会の判断が問われる経営課題になりました。

2010年代に海外成長を狙う大型M&Aが加速

2010年代は、日本企業が海外市場、技術、人材をまとめて取得するIN-OUT型M&Aを積極化した時代です。IN-OUTとは、日本企業が海外企業を買収する取引を指します。

背景には、人口減少や国内市場の成熟があります。日本国内だけで成長を続けることが難しい業種では、海外企業の販売網や顧客基盤を取り込むことが重要な経営戦略になりました。

海外市場と先端技術を短期間で取り込んだ

ソフトバンクグループは2016年、英国の半導体設計会社ARMを約3.3兆円で買収しました。武田薬品工業は2019年、シャイアーの買収を完了し、世界市場での事業規模と研究開発基盤を拡大しています。

食品、医薬品、通信、アパレルなどの企業も、国内需要だけに依存しない成長を目指しました。自社で海外拠点や技術を一から育てるには、長い時間がかかります。M&Aを通じて「時間を買う」という考え方です。

一方、海外M&Aでは、言葉、商習慣、法律、会計基準、企業文化の違いがあります。買収契約を締結しただけでは、期待した成果は得られません。

大型買収では統合後の経営が成否を分ける

買収の成立はゴールではありません。異なる企業文化、人事制度、会計制度、情報システムをまとめるPMI(M&A後の統合プロセス)が必要です。

PMIが遅れると、社員が退職したり、顧客が離れたりすることがあります。期待した相乗効果が出ず、借入金やのれんの負担だけが残る場合もあります。

この教訓は、中小企業の会社売却にも当てはまります。買い手の知名度や提示価格だけでなく、買収後に誰が経営を担い、従業員や顧客をどのように引き継ぐのかまで確認する必要があります。

2020年代に事業承継と新しい買収目的が定着

2020年代のM&Aは、大企業による大型買収だけでは説明できません。中小企業の後継者問題、スタートアップの技術獲得、事業構成の見直しなど、目的が一段と多様になっています。

新型コロナウイルスの感染拡大を機に、既存事業への依存を見直す企業も増えました。非接触サービスやデジタル分野への参入、サプライチェーンの再構築などにM&Aを利用する動きも見られます。

事業承継型M&Aが中小企業の選択肢になった

経営者が高齢になっても、親族や従業員に後継者が見つからない会社は少なくありません。利益が出ていても、承継できる人がいなければ廃業を検討せざるを得ないことがあります。

そこで、株式譲渡などにより第三者へ会社を引き継ぐ事業承継型M&Aが、現実的な選択肢として定着しました。

買い手の資金力、販売網、人材を活用できれば、会社を存続させるだけでなく、さらに成長させられる可能性があります。地域の雇用、技術、取引関係を守る方法にもなります。

公的機関やデジタルサービスが候補探しを支える

オンラインのマッチングサービス、金融機関、事業承継・引継ぎ支援センターなど、買い手候補を探す経路も増えました。

中小企業庁は2021年に中小M&A推進計画を策定し、同年にM&A支援機関登録制度を創設しました。2024年には中小M&Aガイドラインが改訂され、支援業務の質や不適切な買い手への対応も重視されています。

制度が整っても、買い手選びを他人任せにしてよいわけではありません。経営者自身が譲渡目的と条件を整理し、候補先の資金力や過去の買収後の運営状況を確認することが大切です。

スタートアップ買収が成長戦略に組み込まれた

大企業や中堅企業が、AI、クラウド、医療、再生可能エネルギーなどの技術を持つスタートアップを買収する動きも定着しています。

自社内の研究開発だけでは時間がかかるため、技術と人材を一体で取り込む狙いです。外部企業との連携によって新しい製品や事業を生み出す、オープンイノベーションの方法の一つでもあります。

ただし、スタートアップでは、創業者や一部の技術者に事業価値が集中していることがあります。買収後に主要な人材が退職すれば、期待した技術や顧客関係を失いかねません。

買収価格だけでなく、重要な人材が残る条件や、買収後の開発方針まで設計する必要があります。

「敵対的買収」から「同意なき買収」へ表現が変化した

2023年、経済産業省は「企業買収における行動指針」を公表しました。主に上場会社の経営支配権を取得する買収を対象とし、公正なルールのもとで企業価値を高める買収が行われやすい市場を目指すものです。

会社側の事前同意がない提案でも、提案内容を十分に検討し、株主へ必要な情報を提供する考え方が示されました。このため、近年は「敵対的買収」ではなく「同意なき買収」という表現も使われています。

ただし、この指針を中小企業の会社売却へそのまま当てはめることはできません。非上場会社では、定款に株式の譲渡制限が設けられていることが多く、通常は経営者や株主の合意を前提として手続を進めます。

同意なき買収が、中小企業でも一般的になったという意味ではありません。

M&Aの歴史から会社売却で学ぶ判断ポイント

M&Aの歴史を振り返ると、成功する取引には共通点があります。目的が明確で、価格に無理がなく、買収後の経営まで準備されていることです。

会社売却を検討する経営者も、過去の事例を自社の判断へ置き換える必要があります。

売却目的を価格より先に決める

「できるだけ高く売りたい」だけでは、買い手を選ぶ基準が定まりません。

従業員の雇用、社名やブランド、事業所、取引先、経営者の退任時期など、売却後も残したいものを整理することが先です。目的が明確であれば、買い手候補の提案を比べやすくなります。

譲れない条件と調整できる条件を分ける

譲渡価格、従業員の処遇、個人保証の解除、経営者の引継ぎ期間をすべて同じ優先度で考えると、交渉が止まりやすくなります。

絶対に守りたい条件と、相手の提案に応じて調整できる条件を分けておきます。こうした整理は、買い手へ希望を正確に伝えるためにも必要です。

価格以外の条件が手取りと安心を左右する

株式譲渡では、経営者個人が受け取る譲渡代金だけでなく、税金、役員退職金、会社への貸付金の精算、個人保証の解除なども、最終的な手取りとリスクに影響します。

提示された譲渡価格だけを比べてはいけません。取引全体で何が精算され、売却後にどのような責任が残るのかを確認します。

買い手の統合計画を確認する

歴史上の大型M&Aでも、買収後の統合に失敗すれば期待した成果は得られません。

中小企業の会社売却でも、買い手が自社の顧客、技術、人材、許認可をどのように活かす予定なのかを確認します。具体的な計画を説明できない買い手は、提示価格が高くても慎重に判断する必要があります。

従業員と取引先への説明時期を設計する

M&Aの情報を早く伝えすぎると、従業員や取引先に不安が広がることがあります。一方、説明が遅すぎれば、隠されていたと感じられ、信頼を失うおそれもあります。

基本合意、最終契約、決済のどの段階で、誰に説明するのかを買い手と事前に決めておきます。意外と多い落とし穴です。

準備は業績が安定しているうちに始める

後継者が決まらず、経営者の体調や会社の資金繰りに問題が出てから買い手を探し始めると、候補先や条件が限られます。

株主構成、決算書、契約書、許認可、個人保証、未払残業などを早めに整理しておけば、買い手による調査へ対応しやすくなります。不明な取引や未処理の問題が少ない会社ほど、買い手も評価しやすくなるものです。

M&Aの歴史が示すのは、M&Aが危機に陥った会社だけの手段ではないということです。次の成長や事業承継を準備するための経営戦略でもあります。

売却をまだ決めていない段階でも、自社の価値、課題、株主構成、承継の選択肢を整理する意味があります。

まとめ

日本のM&Aは、明治期の産業再編、バブル期の海外買収、2000年代の買収防衛を巡る議論を経て、現在は事業承継や技術獲得にも広く使われています。会社売却では、価格だけでなく、従業員、取引先、個人保証、税金、統合後の経営まで確認することが重要です。業績が安定しているうちに自社の価値と希望条件を整理し、第三者承継を含む選択肢を比較しましょう。

著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー 

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事

編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人