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M&Aの歴史から紐解く企業の持続的成長と事業承継を解説

明治以来、日本のM&Aはどのように発展し、経営者の承継戦略に活かされてきたのでしょうか?本記事では紡績・電力といった基幹産業の統合から、バブル期の海外譲受、そして中小企業M&Aの急成長までを体系的に整理し、活用可能な公的支援制度もあわせて紹介します。

目次

  1. M&Aの定義と概要をまず理解する
  2. 明治時代の紡績業界で始まったM&Aの興隆
  3. 昭和初期電力業界が示した激化するM&A競争
  4. 鮎川義介が推進した企業再生型M&Aの確立
  5. 1930年代に進んだ大規模合併と産業構造の変革
  6. 戦時統制と戦後財閥解体でM&Aが停滞した理由
  7. 1980年代バブル期に海外譲受が活況を呈した背景
  8. 1990年代バブル崩壊後に国内M&Aが加速した要因
  9. 2000年代IT業界が牽引したM&Aの拡大
  10. 2010年代中小企業M&A爆発的成長と事業承継
  11. 2020年代M&Aの新局面と持続可能性
  12. M&Aに活用できる公的支援制度を理解する
  13. まとめ

M&Aの定義と概要をまず理解する

M&Aは「Mergers and Acquisitions」の略称で、企業が持続的に成長するために合併や譲受を活用する経営戦略です。近年では後継者不在を解決する手段としても注目されています。

M&Aとは企業統合や譲受で成長を図る手法

M&Aの目的は、競争力強化、経営効率化、技術獲得など多岐にわたります。市場の変化や少子高齢化に対応するため、譲渡企業と譲受企業の双方にメリットがあります。

合併は複数企業を一社に統合する方法

複数の企業が一社となり、経営資源を集中させることで規模の経済を実現します。

譲受は株式や資産取得で経営権を移す方法

譲受企業が譲渡企業の株式・資産を取得し、事業を取り込みます。

事業譲渡は一部事業を切り出し譲渡企業へ移す

本体を残しつつ一部事業のみを譲渡し、選択と集中を推進します。

明治時代の紡績業界で始まったM&Aの興隆

日清戦争後の原材料費高騰や海外糸の流入に直面した紡績業界では、経営効率化を目的にM&Aが急増しました。

鐘淵紡績などが大量譲受で規模拡大

  • 鐘淵紡績    20件のM&Aを実施
  • 富士瓦斯紡績   14件
  • 東洋紡績    13件
  • 王子製紙    13件

国内数百社が6社に集約し国際競争力を獲得

1936年には日本が綿布輸出量で世界一となり、M&Aによる集約化が成果を上げました。

昭和初期電力業界が示した激化するM&A競争

第一次世界大戦後の特需と関東大震災復興需要で電力需要が急増し、約850社が乱立しました。

過剰供給が譲受合戦「電力戦」を誘発

品質差がつきにくい電力は価格競争へと傾き、譲受による規模拡大が必須となりました。

最終的に5社へ統合し供給網を安定化

東京電燈・大同電力・東邦電力・日本電力・宇治川電気の五大電力体制が確立され、電力インフラが整備されました。

鮎川義介が推進した企業再生型M&Aの確立

1920年代、経営破綻した鈴木商店グループの再生を支えたのが鮎川義介です。

株式交換とIPOを組み合わせた革新的手法

鮎川は株式交換で迅速に子会社化し、再建後にIPOで資本市場から資金を調達。双日・神戸製鋼所・サッポロビールなど現代の大手企業が誕生しました。

日産コンツェルン誕生が日本経済を牽引

企業再生型M&Aは世界恐慌期の日本経済を下支えし、現在の再生案件にも影響を残しています。

1930年代に進んだ大規模合併と産業構造の変革

官民協調の下で製鉄・製紙・ビール・重工・金属各業界の大型合併が進みました。

合併で技術融合と資源の最適配分を実現

  • 製鉄    官営八幡製鉄所と民間6社が統合し日本製鐵が設立
  • 製紙    王子製紙・富士製紙・樺太工業が統合し新生王子製紙が誕生

合併が高度経済成長の土台を築く

規模拡大と技術共有により、生産性が飛躍的に向上しました。

戦時統制と戦後財閥解体でM&Aが停滞した理由

1930年代後半から政府による産業統制が強まり、戦中・戦後に企業統合は強制的色彩を帯びました。

独占禁止法の制定で大規模譲受が困難に

18財閥が解体され、50社以上が会社分割・事業譲渡を余儀なくされました。

戦後の企業民主化が自由競争を促進

短期的にはM&Aが停滞しましたが、市場の健全化に寄与しました。

1980年代バブル期に海外譲受が活況を呈した背景

円高と潤沢な資金を背景に、日本企業は積極的に海外企業を譲受しました。

ソニーによるコロンビア・ピクチャーズ譲受が象徴的事例

巨額の資金で米大手映画会社を獲得し、国際的プレゼンスを向上させました。

高額譲受の課題が後の財務負担に影響

バブル崩壊後、多くの企業が譲受価格の減損処理に苦しみました。

1990年代バブル崩壊後に国内M&Aが加速した要因

経済再生と事業再編を目的に、国内M&Aが増加しました。

選択と集中で収益性を高める動きが広がる

不採算事業から撤退し、強みのある分野に経営資源を集中。

後継者問題と法制度整備がM&Aを後押し

1997年の持株会社解禁や1999年の株式交換制度導入により、組織再編が柔軟になりました。

2000年代IT業界が牽引したM&Aの拡大

2000年代に入るとインターネットとモバイルの急速な普及が株式市場を活気づけ、IT企業が短期間で巨額の時価総額を手に入れました。その株式を通貨代わりにした株式交換型のM&Aが相次ぎ、市場全体の譲受件数を押し上げました。当時のメディアは連日のようにM&Aを報じ、中小企業の経営者も「M&Aは大企業だけの話ではない」と認識するきっかけとなりました。

株式交換を活用し急成長するIT企業が相次ぐ

急成長企業は自社株を活用し、資金負担の少ないままサービスやユーザーベースをまとめて取り込みました。市場はスピードを最重視し、開発より譲受に舵を切るケースが目立ちます。

ライブドアと楽天の積極戦略が市場認知を高める

ライブドアはポータルサイトやメディア事業を矢継ぎ早に譲受し、短期間で売上を数倍に伸ばしました。楽天もEC事業の周辺機能を譲受し、ドメイン拡大と顧客基盤の強化を同時に実現しました。

クロスボーダー譲受と敵対的譲受が一般化

ITは国境を越えて成長する業界のため、海外スタートアップの譲受や公開買付による敵対的アプローチが一般化しました。結果として、法制度整備とガバナンス強化が急務となり、2006年会社法施行で組織再編手法が大幅に拡充されました。

2010年代中小企業M&A爆発的成長と事業承継

2010年代は「後継者問題の解決」という切実な課題がM&A市場を大きく押し上げました。後継者のいないオーナー経営者が譲受企業を探し、専門仲介機関が急増したことで、件数は10年前と比較して約10倍に達しました。

専門仲介の増加とデジタル化が取引を加速

オンラインプラットフォームやマッチングサイトが登場し、買い手と売り手が距離や業種を超えて簡単に出会える環境が整いました。デジタル化された財務資料やバーチャルデータルームにより、地方企業でも首都圏の投資家と短期間で交渉が可能になりました。

事業承継型M&Aが地域経済を支える

譲受企業の資本力と販路を活かし、老舗企業の技術やブランドを次世代へ繋ぐ事例が増加しました。結果として、地域雇用の維持と地場産業の活性化に寄与しています。

2020年代M&Aの新局面と持続可能性

コロナ禍を経て企業の資本政策は一段と選択と集中が進みました。同時にESG経営やデジタルトランスフォーメーション(DX)が重視され、M&Aは「社会的価値の向上」まで織り込むフェーズに入っています。

DX・ESG要素を含む譲受が増加

AI、クラウド、再生可能エネルギーといった分野で、技術確保を目的とした中堅企業によるスタートアップ譲受が活発化しています。ESG格付けを高めることが資本コスト低減に直結するため、環境技術を持つ企業への譲受が評価される傾向です。

地政学リスクを考慮したサプライチェーン再構築

安全保障やデータ保護規制を踏まえ、友好国の企業を譲受して生産拠点を分散させる動きが加速しています。クロスボーダーM&Aは「単なる海外進出」から「リスク分散戦略」へと目的が変化しています。

また、グローバルサプライチェーンの見直しが進むなか、友好国企業との共同M&Aや複数企業による共同出資型M&Aが注目されています。SDGsの目標達成を意識した社会課題解決型の案件も増加し、再生可能エネルギー、地方創生、医療・介護サービスなど幅広い分野で譲受が行われています。こうした動きは、中長期的な企業価値向上だけでなく、地域社会への貢献を両立させる取り組みとして高く評価されています。

M&Aに活用できる公的支援制度を理解する

資金やノウハウが限られる中小企業にとって、公的支援制度の活用は譲受成功率を高める重要な手段です。ここでは代表的な四つの制度を整理します。

経営資源集約化税制で取得コストを圧縮

経営力向上計画の認定企業が対象で、設備投資額の10%(一定条件で7%)を税額控除、または全額即時償却できます。さらに株式取得額の70%以下を準備金として積立できるため、財務リスクを緩和できます。

適用期限と条件を早めに確認することが重要

税制は数年ごとに改正されるため、顧問税理士と連携して申請書類を事前に準備しましょう。

オープンイノベーション促進税制でスタートアップ連携を強化

スタートアップ株式の取得額25%を所得控除でき、2023年度改正で発行済株式の譲受も対象に追加されました。大企業が少額からでも革新的技術を取り込めるメリットがあります。

イグジットを急ぐスタートアップとの相性が良い

短期間で資金回収したいスタートアップにとって、譲受企業側の税制メリットが交渉材料となり、条件調整を円滑にします。

M&A支援機関登録制度で安心して専門家を選定

仲介手数料やアドバイザー費用の補助を事前登録内容に基づき受けられます。信頼性の高い機関に限定されるため、情報非対称性を軽減できます。

登録リストを確認し複数社を比較する

手数料体系や業種実績は機関ごとに異なるため、必ず複数社から見積を取り、条件を比較検討することが失敗を防ぎます。

事業承継・引継ぎ補助金で革新的取組を後押し

経営革新・専門家活用・廃業再チャレンジの三区分で費用補助を受けられます。M&Aを契機に新規事業へ挑戦する場面で、設備投資や専門家報酬の負担を大幅に削減可能です。

補助率や上限額は公募要領を必ず確認

制度の詳細は年度ごとに更新されるため、最新情報を確認し、早めに事業計画を作成しましょう。

2000年代の市場動向をさらに深掘り


ライブドアや楽天が次々にポータルサイト、旅行予約サイト、証券会社などを取り込んだことで「サービスの総合スーパー」を目指す形が定着しました。これにより、ユーザーは一つのIDで買い物・決済・コンテンツ視聴まで完結できるようになり、プラットフォーム競争が激化しました。

 敵対的譲受が社会に与えた影響


ライブドアによるニッポン放送株式取得は連日ワイドショーで報じられ、「買われる側も株主価値を説明する責任がある」というコーポレートガバナンス意識を高める契機となりました。この出来事は敵対的譲受が稀であることと同時に、市場参加者に情報開示の重要性を再認識させました。

2010年代の中小企業M&Aを支えた制度拡充


事業承継ガイドラインの策定後、各地の事業承継・引継ぎ支援センターで専門相談窓口が設置されました。譲渡企業と譲受企業のマッチング、外部専門家の派遣、小規模デューデリジェンス費用の助成など、手厚い支援が件数増加を後押ししました。

金融機関の仲介機能が地方で存在感を高める

地方銀行は地域企業の信用情報を活かし、早期に候補先を提案できる強みを持ちます。結果として、同一県内の同業統合や近隣府県の同族企業間で友好的に承継する事例が増えています。

コロナ禍が浮き彫りにした事業ポートフォリオの課題

新型コロナウイルス拡大により、売上が急減した旅行・外食関連企業が非接触サービス企業に譲渡を行うなど、事業入れ替え目的のM&Aが目立ちました。この流れは「短期的延命」ではなく「長期的再構築」を意識した動きとして評価されています。

公的支援制度の実務ポイント

  • 経営資源集約化税制の準備金は譲渡価額70%以下まで積立可能ですが、実際には資金繰りシミュレーションを行い、留保したキャッシュの最適配分を検証する必要があります。
  • オープンイノベーション促進税制では取得株式の25%を所得控除できるため、イノベーション投資額を大幅に圧縮できます。
  • M&A支援機関登録制度の補助対象費用には専門家旅費も含まれるため、遠隔地の評価機関を利用する場合も安心です。
  • 事業承継・引継ぎ補助金の「専門家活用枠」を利用すると、財務・法務・労務リスク分析を網羅的に実施しやすくなります。具体的な補助率や上限額は年度ごとに公募要領で公表されるため、必ず最新情報を確認しましょう。

制度活用にはスケジュール管理が不可欠
募集期間は比較的短く、申請書類も詳細です。締切直前の修正は入力制限で弾かれる恐れがあるため、早めにドラフトを共有し、認定支援機関と役割分担することが成功の近道です。

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まとめ

日本のM&AはITバブル、事業承継ブーム、そしてDX・ESG時代へと進化し続けています。公的支援制度を活用し、譲渡企業と譲受企業が互いの強みを活かすことで、持続可能な成長と地域経済の活性化を同時に実現できるでしょう。今後もデジタル技術と国際連携を視野に、戦略的なM&Aが企業価値向上の鍵となります。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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