株式保有特定会社の定義から、株価評価方法、メリット・デメリット、そして株特外しまで詳しく解説します。資産運用や相続対策、事業承継に役立つ情報を提供します。専門家の視点から、適切な活用方法をご紹介します。
目次
株式保有特定会社とは、その会社が保有する株式等の相続税評価額の合計が、会社の総資産の相続税評価額の合計の50%以上を占める会社のことを指します。この種の会社は、一般的な企業とは異なり、特定の資産(主に株式)を大量に保有していることが特徴です。
株式保有特定会社は、主に資産承継や相続対策、事業承継の面で活用されることが多く、税金やリスクの軽減にも貢献します。しかし、その評価方法や取り扱いには特別な規定があるため、注意が必要です。
株式保有特定会社の定義は以下の通りです:
1. 会社が保有する株式等の相続税評価額の合計
2. 会社の総資産の相続税評価額の合計
3. 1の金額が2の金額の50%以上を占める会社
この定義に該当する会社は、株式保有特定会社として扱われます。
株式保有特定会社の主な設立目的には以下のようなものがあります:
• 資産の一元化
• 株価の安定化
• 相続税対策
• 事業承継の円滑化
• 資金調達の容易化
これらの目的を達成するために、株式保有特定会社は特定の企業の株式を一定割合以上保有します。
株式保有特定会社は様々な業界で活用されていますが、特に以下の業界での事例が多く見られます:
1. 金融業界
2. 不動産業界
3. 中小企業
金融業界や不動産業界では、資産の保全や拡大、業務効率化のために株式保有特定会社を活用することが一般的です。これらの業界では、多くの資産や投資を管理する必要があるため、株式保有特定会社の仕組みが効果的に機能します。
一方、中小企業においては、主に事業承継や相続対策の一環として株式保有特定会社が利用されることがあります。例えば、創業者が保有する自社株式を株式保有特定会社に移すことで、次世代への円滑な事業承継を図ることができます。
このように、株式保有特定会社は業界や企業規模に関わらず、様々な目的で活用されています。ただし、その設立や運営には専門的な知識が必要となるため、税理士や弁護士などの専門家に相談しながら進めることが重要です。
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株式保有特定会社を設立する際には、そのメリットとデメリットを十分に理解し、自社の状況に適しているかを慎重に検討する必要があります。ここでは、株式保有特定会社のメリットとデメリット、そして「株特外し」について詳しく説明します。
株式保有特定会社を設立することで、以下のようなメリットが得られます:
1. 節税対策の実現
• 持株会社が配当を受け取ることで、二重課税を回避できます。
• 企業の事業承継や資産の相続に際して、税負担の上昇を軽減できます。
2. 経営資源の効率的活用
• 企業の経営資源や資金調達が容易になります。
• グループ会社全体の戦略立案や経営管理が効率化されます。
3. リスク分散
• 事業リスクが分散され、企業グループ全体の安定性が向上します。
• 各事業会社の独立性を保ちつつ、全体のリスク管理が可能になります。
4. 事業承継の円滑化
• 株式の集中管理により、次世代への円滑な事業承継が可能になります。
• 後継者の育成や選定に時間的余裕を持つことができます。
一方で、株式保有特定会社には以下のようなデメリットも存在します:
1. 設立・運営コストの増加
• 株式保有特定会社設立にあたっての複雑な手続きや資金負担が生じます。
• 新たな法人の運営コストが発生します。
2. 専門的知識の必要性
• 税法等の対策が必要であり、専門的な知識が求められます。
• 相続税評価上、原則として純資産価額での評価となり、類似業種比準価額と比べ株価引下げ対策の余地が少なく
なります。
3. 経営の複雑化
• グループ全体の経営管理が複雑化する可能性があります。
• 意思決定プロセスが長くなる可能性があります。
4. 事業投資への影響
• 資金を事業投資に回さず株価対策に充てることで、中長期的な企業成長が阻害される可能性があります。
「株特外し」とは、会社が株式保有特定会社の条件に該当しないように対策を講じることを指します。具体的には、株式等の割合を50%未満にすることが必要です。
株特外しを行う主な方法には以下の2つがあります:
1. 分母(総資産)を増やす方法
• 株式以外の社有資産を増やします。
• 例:不動産の購入、現金・預金の増加など
2. 分子(株式等の評価額)を減らす方法
• 保有株式の一部を売却します。
• 例:グループ会社や関連会社の株式を一部売却
株特外しを検討する際には、以下の点に注意が必要です:
1. 税務調査のリスク
• 株特外しは節税目的で実施されることが多いため、税務当局からの調査が入る可能性が高くなります。
2. 合理的な理由の必要性
• 会社の課税時期の周辺で合理的な理由のない資産の変動があった場合、株特外しと判断され、変動がなかったものとして処理される可能性があります。
3. 専門家への相談
• 「合理的な理由」の判断基準は難しいため、株特外しを行う場合は税理士や専門家と相談しながら進めることが
重要です。
4. タイミングの考慮
• 株特外しのタイミングや方法によっては、かえって税負担が増加する可能性もあるため、慎重な検討が必要で
す。
5. 長期的な視点
• 一時的な対策ではなく、長期的な経営戦略の一環として株特外しを位置付けることが重要です。
株式保有特定会社の設立や株特外しの実施は、企業の将来に大きな影響を与える可能性があります。そのため、メリットとデメリットを十分に検討し、専門家のアドバイスを受けながら慎重に判断することが求められます。
株式保有特定会社を活用する上で、適切な株価評価は非常に重要です。ここでは、主な株価評価手法について詳しく解説します。一般的に、株価評価手法は大きく分けて3つのアプローチがあります:マーケットアプローチ、コストアプローチ、インカムアプローチです。
マーケットアプローチとは、自社と類似した上場企業との比較により、企業や事業の価値を算定する方法です。
特徴:
• 株式市場の相場や動向を価格に反映できます。
• 将来的な収益性を価格に反映できます。
• 市場に公開されている情報を基準に計算するため、客観性を担保しやすいです。
デメリット:
• 自社の事業内容や規模と類似している企業がないと採用できません。
• 株価の変動など、株式市場の影響を受ける可能性があります。
マーケットアプローチの主な種類:
1. 類似取引比較法
• 類似している企業の株式売買価格を参考に、譲渡企業の価格を算出します。
• M&A取引が多く行われる業界で用いられますが、譲渡側企業の財務情報が入手できない場合は価格算出が難しく
なります。
2. 類似企業比較法(マルチプル法)
• 類似している上場企業の株価と比較して、非上場企業の株式価値を算出します。
• 代表的な計算方法には、PBR法、PER法、EBITDA法の3種類があります。
3. 市場株価法
• 企業の株式価格を基準に、企業の価値を算出します。
• 株価の変動があるため、数カ月間の平均株価を用いるのが一般的です。
• 上場企業同士を比較する場合のみに利用できます。
4. 類似業種比較法
• 譲渡企業によく似た企業を上場企業から複数選出し、財務的な定量面比較から価格を算出します。
コストアプローチは、企業の純資産価値を基準に価格算定する方法です。
特徴:
• 客観性に優れた価値が算出可能です。
• 誰が算出しても同じ結果になります。
デメリット:
• 時価純資産+営業権法以外の方法は、将来的な収益価値を反映できません。
• 今後も存続する企業の評価には適さない場合があります。
コストアプローチの主な種類:
1. 時価純資産+営業権法
• 貸借対照表の純資産を時価純資産に修正したものに営業権を加算して企業価値を算出します。
• 営業権(のれん)は、企業の年間の収益力を単年度から複数年分(通常1年から5年)乗じて算出します。
• 中小企業の価格算定で一番使われる手法です。
2. 時価純資産法
• 純資産額を時価で評価し、企業の価値を算出します。
• 企業の清算時に利用されることが多い手法です。
3. 簿価純資産法
• 貸借対照表から算出された純資産をもとに、企業の価値を算出します。
• 簿価を基準にしているため、客観性があり計算はしやすいですが、簿価と企業の実態が大きく乖離しているケー
スでは、適正な価格算定ができない問題もあります。
インカムアプローチとは、これから期待できる収益性をベースに価格を算定する方法です。
特徴:
• 将来的に得られる収益性を企業価格に反映できます。
• 譲渡側、譲受側の相乗効果を考慮できます。
• 企業価格の妥当性を把握しやすいです。
デメリット:
• 将来的な収益性を見込むため、主観性や恣意性を排除できません。
• 情報収集に時間がかかる場合があります。
インカムアプローチの主な種類:
1. 配当還元法
• 株主に支払われる配当金を基準として企業価値を算出します。
• 企業の収益性が配当政策に正しく反映されているかが適正な価格選定において重要になります。
2. DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)
• 事業計画により想定される将来的なキャッシュフローを、現在の価値で割り引いて企業価値を算出します。
• DCF法に用いるキャッシュフローは、企業の利益から想定される税金や投資額を差し引いた金額で、フリーキャ
ッシュフローと呼ばれます。
これらの株価評価手法は、それぞれ異なる視点から企業価値を算出するため、複数の手法を組み合わせて総合的に判断することが一般的です。また、企業の業種、規模、成長段階などによって、適切な評価手法が異なる場合があります。
株式保有特定会社の株価評価を行う際には、以下の点に注意が必要です:
1. 評価の目的に応じた手法選択
• 相続税対策、M&A、株式譲渡など、目的に応じて適切な評価手法を選択します。
2. 専門家への相談
• 株価評価は複雑で専門的な知識が必要なため、税理士や公認会計士などの専門家に相談することが推奨されま
す。
3. 定期的な評価の実施
• 企業価値は時間とともに変化するため、定期的に株価評価を行うことが重要です。
4. 複数手法の併用
• 単一の評価手法に頼らず、複数の手法を併用して総合的に判断することで、より適切な評価が可能になります。
5. 将来予測の慎重な検討
• インカムアプローチを用いる場合、将来の収益予測を慎重に行う必要があります。過度に楽観的な予測は避ける
べきです。
適切な株価評価は、株式保有特定会社の運営や事業承継、M&Aなどの重要な局面で大きな影響を与えます。そのため、自社の状況を十分に分析し、適切な評価手法を選択することが重要です。
株式保有特定会社は、資産承継や相続対策、事業承継などの面で有効な手段となります。しかし、その活用には専門的な知識と慎重な検討が必要です。メリットとデメリットを十分に理解し、適切な株価評価手法を選択することが重要です。また、「株特外し」を検討する際は、税務上のリスクに注意が必要です。企業の長期的な戦略に基づいた判断と、専門家のアドバイスを受けることが、成功への鍵となります。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画