特別目的会社とは|SPCを利用する目的・注意点、利用法などを解説

SPCは特定の目的で資金調達・運用を行う会社で、役割や設立目的、利点・欠点、株式会社や合同会社との違い、GK-TKスキームやTMKスキームについて解説します。

目次

  1. SPC(特別目的会社)とは
  2. 特別目的会社(SPC)のメリットとデメリット
  3. 特別目的会社の主な利用法
  4. 特別目的会社の税務メリット
  5. 特別目的会社の税務メリット
  6. 特別目的会社のまとめ

SPC(特別目的会社)とは

SPCは、Special Purpose Companyの略であり、特別目的会社を指す言葉です。特別目的会社とは、企業が保有する資産を特定の事業の運営に活用することを目的に設立される法人のことです。

また、SPCの一部は資産の流動化を目的に設立された企業であり、特定目的会社(TMK)と呼ばれます。さらに、法人格を持つ特別目的事業体(SPV)の一部をSPCとして位置付けることがあります。

特別目的会社(SPC)の概念は、特定の取引や事業目的のみに設立される会社を指すものです。一方、特定目的会社(TMK)は、資産流動化法(SPC法)に基づいて設立される法人で、資産の流動化を目的としています。つまり、TMKはSPCの中に含まれていると言えます。

さらに、特別目的事業体(Special Purpose Vehicle、SPV)という別の概念が存在します。SPVは、特定の資産を保有・管理する目的で設立される会社や組合、信託などを指します。SPVの中で法人格を持つものがSPCであり、SPC法によって設立されたSPCがTMKとなります。

TMKは特定目的「会社」の名称が示す通り、SPC法に基づいて設立される社団法人であることに注意が必要です。ただし、会社法上の会社ではないため、その点に注意が必要です(SPC法2条3項)。

以下に、SPV、SPC、TMKの関係性をまとめました。

• SPV(特別目的事業体):資産の保有・管理を目的として設立された会社、組合、信託など

• SPC(特別目的会社):法人格を持つSPV

• TMK(特定目的会社):SPC法に基づくSPCの中で資産の流動化を目的としたもの

資産流動化法とは

日本では、1998年に旧SPC法(特定目的会社による特定資産の流動化に関する法律:資産流動化法)が制定され、SPCの設立が可能になりました。当初は金融危機への対策としての特別な法律と位置付けられていましたが、2000年に旧SPC法が改正され、「資産の流動化に関する法律」と名称変更されました。この改正により、手続きが簡素化され、さらに全ての財産権が対象となり、SPCの活用がより容易になりました。

特別目的会社の機能

特別目的会社(SPC)は、主に資産の所有を担う企業形態であり、その他の業務、例えば資産の管理や資金調達回りなどは、親会社が行うことになります。保有している資産には特に制限がなく、キャッシュフローを生み出すものであれば、不動産から債権、住宅ローンなども所有することが可能です。

SPC法と会社法による会社の違い

SPC法に基づいて設立される会社と、会社法に基づいて設立される会社では、いくつかの相違点が存在します。それぞれの会社設立方法には独自の特徴があります。特に、SPC法を用いた会社設立の場合、手続きが複雑であることが挙げられます。このため、目的がSPCと同様であっても、手続きの簡易さから会社法を利用した会社が選ばれるケースも少なくありません。

  

SPC法に基づく設立 

会社法に基づく設立 

資本金 

10万円以上 

1円以上 

内閣総理大臣への届出 

必要 

不要 

登録免許税 

3万円 

最低15万円、合同会社は最低6万円 

定款印紙 

必要 

必要(電子定款あるいは合同会社であれば不要) 

必要な役員 

取締役1 

監査役1 

取締役1人(合同会社なら社員1人) 

資産流動化計画の作成 

必要 

不要 

業務開始届出の提出 

必要 

不要 

特別目的会社の利用方法

特別目的会社(SPC)を活用する際には、その設立目的や役割を十分に理解することが重要です。以下では、SPCの主な目的とその活用方法について詳しく説明します。

特別目的会社の設立には主に以下の2つの目的が挙げられます。

• 投資家にとって投資しやすい環境を整備する。

• 投資単位を小口化し、投資の敷居を下げる。

このような目的から、SPCは不動産証券化を主な用途として利用されます。不動産の証券化は、企業にとって資金調達を容易にする大きな利点があります。

不動産を証券化することにより、投資家は直接不動産を購入することなく、間接的に不動産開発事業への投資が可能となります。これによって、不動産を原資産とした有価証券は投資家にとって魅力的な選択肢となり、SPCにとっても利益の還元がしやすくなります。

さらに、有価証券の価格を抑えることによって投資のハードルを下げることができ、企業は資金調達がより容易になるとされています。このような理由から、特別目的会社の設立が行われるのです。

M&Aにおける特別目的会社の活用法と留意点

M&Aの際、レバレッジド・バイアウト(LBO)という戦術を用いて特別目的会社(SPC)が活用されることがよくあります。LBOとは、SPC設立後に金融機関から資金を借り入れ、その資金で譲渡企業を買収し、続いて譲渡企業とSPCを統合させるM&A手法を指します。LBOは、譲渡企業の返済力が保証となるため、譲受企業は相対的に少ない資本でリスクを抑えたM&Aを行うことができます。

LBOを実行する際にSPCを活用する手順は次のようになります。

• 譲受企業がM&Aの目的でSPCを設立します。合同会社や株式会社が一般的です。

• SPCが買収対象企業の株式や資産を担保に、金融機関や投資家から必要な資金を調達します。

• 資金が整ったら、SPCを介して譲渡対象企業を買収します。

• SPCと対象企業を吸収合併させ、SPCを消滅会社、対象企業を存続会社にします。合併後の会社が資金調達時に負った債務を返済します。

LBOを用いることで、資金が少ない場合でもM&Aを実行することが可能になります。ただし、買収後に借り入れた資金の返済が必要になるため、譲渡対象企業のキャッシュフローを慎重に見極めるなど注意が必要です。

特別目的会社のメリット・デメリット

特別目的会社(SPC)は、企業が資金調達や事業展開に利用できる法人形態であり、多くの利点があります。ここでは、SPCのメリットや活用方法について詳しく述べていきます。

SPCのメリット

特別目的会社(SPC)には以下のような利点があります。

• 複数の投資家から容易に資金調達ができる:企業が保有する資産を担保として有価証券を発行し、広く投資家から資本を調達できるため、新規事業や不動産開発に資金調達が容易になります。

• 親会社の信用状態が与信判断に影響を与えない:SPCを通じて資金調達を行うことで、親会社の信用力とは独立してSPCが所有する資産に対して審査が行われるため、親会社の信用状況が悪化するリスクから回避されます。

• 親会社の財務諸表から資産を切り離すことができる(オフバランス化):SPCを利用することで、親会社から特定の資産を切り離すことが可能になり、企業の負債や資本コストを抑制できます。これは、企業の財務指標や経営状況を良好に保つ上で非常に重要です。

• 投資家にとっての投資リスクを軽減できる:SPCが保有する資産が親会社の信用状態に左右されないため、投資家がリスクを抑えて投資できます。

M&AにおいてLBOスキームを活用できる:買収資金が不足している場合、LBOを活用し、譲渡対象企業の保有資産やキャッシュフローを担保にして資金調達が可能になります。

このような多くのメリットがあることから、企業は資金調達や事業展開を円滑に進めるためにSPCの活用が求められます。

SPCのデメリット

SPC(特別目的会社)の活用には、いくつかのデメリットが存在します。それらの主要なデメリットについて具体的に解説いたします。

• 設立コストが一般的な会社よりも高い

• LBOスキームによるM&A実行時、買収後の債務が残ることがある

第一に、一般的な株式会社と比較して、SPCの設立手続きや運用が複雑であり、それに伴ってコストが高くなることがあります。通常の会社法に基づく会社設立の場合、資本金は1円からとされていますが、SPCの設立には少なくとも10万円の資本金が必要です。さらに、内閣総理大臣への届け出や各種書類の提出など、手続き上の作業コストもかかります。

第二に、SPCを利用して資金調達を行い、M&Aを実行する場合、SPCと買収対象企業を合併させることで、合併後に過剰な債務が残るリスクがあります。このリスクを軽減するためには、譲渡対象企業のキャッシュフローを正確に見積もるなどの対策が重要です。

特別目的会社の主な利用法

SPCを活用する手法には、REIT(不動産投資法人)、GK-TK、TMKなどがあります。ここでは、それぞれの手法について説明します。

REITスキーム

REIT(Real Estate Investment Trust)は、不動産投資信託を指す言葉であり、株式投資信託が広く知られているように、不動産分野においてもこれらの投信が存在しています。

REITは、不動産投資法人として資金を集めるための枠組みであり、投資証券を発行して資金調達を行います。投資家はこれらの投資証券を購入することで、少額で不動産投資を行うことができます。また、REITが金融機関から融資を受けることもあり、その資金は不動産の購入や事業運営に活用されます。

不動産事業から得られる利益は、投資家に対して配当金として支払われ、金融機関に対しては元金および利子として返済されます。

REITの法律的根拠は、投資信託および投資法人に関する法律(投信法)になります。

GK-TKスキーム

GK-TKスキームとは、資産管理の方法の一つで、合同会社(GK:Godo Kaisya)と匿名組合(TK:Tokumei Kumiai)を組み合わせています。このスキームでは、特定の資産を管理するために合同会社が設立され、匿名組合出資契約によって投資家が特定の合同会社(SPC)に出資を行います。利益が生じた場合、投資家はそれに応じた還元を受け取ることができます。GK(合同会社)は事業体として機能し、TK(匿名組合)は資金調達の役割を担当します。

SPCは資産の受け皿となりますが、具体的な事業運用は行わず、アセットマネージャーに委託されます。このスキームは設立が容易で、管理コストが低いため、多くの企業が利用しています。REIT(Real Estate Investment Trust)の投資手法と似ていますが、GK-TKスキームは匿名組合出資に対して、REITは投資証券を発行する点で異なります。

GK-TKスキームのメリットとして投資家の匿名性を維持できることが挙げられます。また、匿名組合は法人格を持たないため、二重課税の問題が回避され、投資家により多くの利益が還元されます。

TMKスキーム

TMKスキームは、特定目的会社(TMK:Tokutei Mokuteki Kaisha)を利用する投資手法です。REITやGK-TKスキームと同様に、投資家からの出資や金融機関からの借入により資金を調達し、不動産事業を展開します。資産運用はアセットマネージャーに委託されます。ただし、TMKスキームの特徴として、特定目的会社を設立することが挙げられます。TMKの根拠法は、資産の流動化に関する法律(SPEC法)です。

特別目的会社の税務メリット

SPCは、税務上のメリットを享受するために多くの企業が利用する手法です。タックスヘイブン(租税回避地)に持株会社となるSPCを設立することで、節税が可能になります。

タックスヘイブンは、低い法人税率や税免除が特徴の地域や国家を指します。ケイマン諸島やシンガポールなどがその例です。タックスヘイブンにSPCを設立することで、日本の法人税(約40%)を節約できます。これは不正行為に見えるかもしれませんが、実際には国内外の多くの企業がこのような節税策を活用しています。

日本国内でも特別目的会社が利用できるように法改正が行われ、特別目的会社であれば、ほとんど税金を払わなくても済むようになっています。これは、税収が減ることよりも、国内企業が海外に進出してしまうリスクを防ぐための政策です。

特別目的会社がほとんどの利益を配当として出資者に還元することで、特別目的会社の税金負担はほとんどゼロになります。ただし、配当金を受け取った際には所得税が発生します。

消費税・法人税・相続税に関する節税スキームの詳細については、関連記事を参照してください。また、特殊な税制が適用されるため、スキームを実行する前に専門家に相談することを強く推奨します。

特別目的会社がGKとして組成することが多い

特別目的会社を設立する際には、一般的に合同会社が利用されますが、株式会社としても設立ができます。また、設立する際のSPCの資本金は買収金額に比べて相対的に低額で問題ありません。例えば、100億円規模の買収資金が必要だった場合でも、会社設立の最低要件を満たす金額を確保していれば、問題なく進められます。

特別目的会社のまとめ

SPCの概要やメリット・デメリット、株式会社や合同会社との違いについて、総合的に説明します。現在は、法整備が整い、適切な利用が推奨されています。

• レバレッジド・バイアウト(LBO)による少額資金でのM&A実行

• 不動産証券化による資産の流動性向上

これらのような様々なシチュエーションで活用されるSPCは、経営者や事業主にとって今後ますます重要性が増していくでしょう。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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