ビジネスデューデリジェンスはM&Aの成否を左右する重要な調査です。本記事では、その目的や実施手順、成功のポイントを詳しく解説します。M&Aを検討中の方は必見です。
目次:
▶目次ページ:M&Aの流れ(デューデリジェンス)
ビジネスデューデリジェンスとは、M&A(合併・買収)を検討する際に、買収側企業が対象企業の経営実態を詳細に調査する過程を指します。この調査は、M&Aの成否を左右する重要な要素となります。
ビジネスデューデリジェンスの主な目的は、対象企業の過去の業績だけでなく、将来の収益力を予測し、精度の高い事業計画を策定することにあります。この過程で、財務・税務デューデリジェンスと併せて実施することで、より包括的な分析が可能となります。
英語では"Business Due Diligence"と呼ばれ、「当然の、正当な努力」という意味を持つDue Diligenceという言葉から派生しています。M&Aの意思決定において、潜在的な問題点を把握するための調査という意味合いで使用されるようになりました。
ビジネスデューデリジェンスは、財務・税務デューデリジェンスとは異なり、将来の収益性評価や事業計画の妥当性検討に重点を置いています。これにより、M&Aを検討する企業は、対象企業の真の価値や潜在的なリスク、そして自社とのシナジー効果をより正確に把握することができます。
ビジネスデューデリジェンスを実施する主な目的は、以下の3点に集約されます。これらの目的を十分に理解し、効果的な調査を行うことが重要です。
ビジネスデューデリジェンスの第一の目的は、対象企業をグループ企業化した場合の将来的な収益性を評価することです。具体的には以下の点を判断します。
この過程で得られた客観的な根拠に基づいて、経営判断を行うことができます。また、必要に応じて事業計画の見直しや修正も可能となります。
対象企業には、長年の業界慣習から生じた問題点や、最近になって問題視されるようになった商慣行が存在する可能性があります。ビジネスデューデリジェンスを通じて、これらの潜在的なリスクを明らかにすることができます。
リスクの洗い出しにより、以下のような判断が可能になります。
適切な専門知識や分析力を持つ人材を活用することで、より質の高い分析が可能となり、M&Aの成功確率を高めることができます。
ビジネスデューデリジェンスを通じて、買収側企業と対象企業の相性をより詳細に分析することができます。これにより、以下のような利点が得られます。
事業シナジーを明確にすることで、M&Aの戦略的意義をより具体的に把握し、意思決定の質を向上させることができます。
これらの目的を達成することで、ビジネスデューデリジェンスは単なる調査にとどまらず、M&Aの成功に向けた重要な戦略立案のプロセスとなります。
ビジネスデューデリジェンスを実施する際には、主に以下の2つの観点から調査を行います。これらの観点を適切に組み合わせることで、対象企業の全体像を把握し、M&Aの可能性を多角的に評価することができます。
この観点は、コマーシャル・デューデリジェンスとも呼ばれ、対象企業を取り巻く外部環境を中心に分析します。主な調査項目は以下の通りです。
1. 市場環境の分析
2. 競争環境の調査
3. 顧客動向の把握
4. 競争優位性の評価
これらの分析を通じて、対象企業の市場におけるポジショニングや将来的な成長可能性を評価することができます。
この観点は、オペレーショナル・デューデリジェンスとも呼ばれ、対象企業の内部環境を中心に分析します。主な調査項目は以下の通りです。
1. 業務の全体像の把握
2. 人員体制と設備投資の評価
3. リスク要因の特定
4. コスト計画の分析
これらの分析を通じて、対象企業の内部オペレーションの効率性や、M&A後の統合プロセスにおける課題を把握することができます。
市場分析と競合調査(収益面)と内部プロセスと組織体制(費用面)の両観点から得られた情報を総合的に評価することで、対象企業の真の価値や潜在的な課題、そしてM&A後の成長可能性をより正確に把握することができます。これにより、M&Aの意思決定の質を高め、成功の確率を向上させることができます。
ビジネスデューデリジェンスは、通常、M&Aの基本合意契約締結後に行われます。以下に、一般的な実施手順を説明します。
1. 調査チームの組成
2. 調査計画の策定
3. 情報の共有
4. 必要書類のリストアップ
1. 資料の分析
2. インタビュー調査の実施
3. バーチャルデータルームの活用
1. 専門家からの報告書受領
2. 経営陣による協議
3. 条件交渉
4. 問題点への対応
これらの手順を通じて、対象企業の実態を詳細に把握し、M&Aの実行可否や条件について適切な判断を下すことができます。また、調査過程で明らかになった課題や問題点は、M&A後の統合プロセスにおいても重要な情報となります。
ビジネスデューデリジェンスの実務は、通常、以下の4つのステップで進められます。各ステップを丁寧に実施することで、M&Aの成功確率を高めることができます。
このステップでは、対象企業を取り巻く環境を包括的に分析します。
1. 外部環境の分析
2. 内部環境の分析
3. 競争優位性の評価
このステップでは、M&Aによって生まれる相乗効果を具体化します。
1. プラスのシナジー効果の抽出
2. マイナスのシナジー効果(ディスシナジー効果)の特定
3. シナジー効果の実現可能性の検討
このステップでは、特定されたシナジー効果を具体的な数値に落とし込みます。
1. シナジー効果の定量化
2. ディスシナジー効果の定量化
3. 実現可能性の検証
4. 実現性を高めるための施策の立案
最後のステップでは、これまでの分析結果を踏まえて事業計画を調整します。
1. 既存の事業計画の見直し
2. 新たな事業計画の策定
3. 企業価値算定への反映
4. 統合計画の策定
これらのステップを通じて、ビジネスデューデリジェンスの結果を具体的な数値と計画に落とし込むことができます。この過程で得られた情報は、M&Aの意思決定や交渉、そして統合後の経営戦略立案に重要な役割を果たします。
ビジネスデューデリジェンスを成功させるためには、以下のポイントに注意して実施することが重要です。
1. M&Aの規模や買収予算に合わせた調査範囲の設定
2. コスト効率の考慮
3. リソースの適切な配分
1. 買収目的に沿った重点項目の設定
2. リスク評価に基づく優先順位付け
3. 時間と予算の制約を考慮した調査計画の立案
4. フレキシブルな調査姿勢の維持
これらのポイントを押さえることで、効果的かつ効率的なビジネスデューデリジェンスの実施が可能となります。M&Aの規模や特性に応じて柔軟に対応し、重要な情報を確実に把握することが、成功への鍵となります。
ビジネスデューデリジェンスは、M&Aにおいて対象企業の経営実態を把握し、将来の収益性を評価する重要なプロセスです。市場環境や競争状況の分析、内部プロセスの評価、シナジー効果の検討など、多角的な視点から調査を行うことで、M&Aの成功確率を高めることができます。効果的な実施には、M&A規模に応じた適切な方法選択と調査項目の優先順位付けが鍵となります。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事