Powered by みつき税理士法人

M&A調査でリスクを抑え安全な譲受を実現する

「M&A調査は本当に必要?」という疑問に即答します。調査の目的と具体的手法を学び、リスクを抑えて企業価値を高める第一歩を踏み出しましょう。 

目次

  1. M&A調査とは対象企業の全体像を明らかにする分析手法
  2. M&A調査の目的はリスク把握と企業価値の適正化
  3. M&Aプロセス別に変化する主要調査項目
  4. 譲受企業が行う調査は自社分析からDDまでが要点
  5. M&A調査を成功に導くためのポイントを売却側・買収側で確認
  6. M&A調査の専門家選定基準で適切な支援を得る方法
  7. M&A調査費用の目安とコスト管理で調査を効率化

M&A調査とは対象企業の全体像を明らかにする分析手法

M&A調査は譲受企業と譲渡企業が安心して取引を進めるために、対象企業の現状と潜在リスクを網羅的に把握する分析・評価プロセスです。初期段階では公開情報を用いた概要確認から始まり、交渉が進むにつれて財務・法務・事業など多面的な詳細調査へと深度が増します。適切な調査はリスク低減だけでなく、統合後の経営計画策定にも直結するため、単なる形式ではなくM&A全体の成否を左右する重要工程といえます。

調査プロセスは4つの目的で構成される

M&A調査の主な目的は①対象企業の実態把握、②潜在リスクの特定、③譲受可否の判断、④適切な企業価値算定の四点です。これらが揃うことで意思決定の質が高まり、譲受条件の交渉力も向上します。

調査段階で深度が変わる理由を理解する

交渉フェーズごとに求められる情報量は異なります。公開情報中心の初期調査では企業規模や業種適合性を確認し、機密情報が開示される後半では財務デューデリジェンスや事業デューデリジェンスを通じて詳細を精査します。この段階的アプローチが、時間とコストを抑えつつ要点を押さえる鍵となります。

M&A調査の目的はリスク把握と企業価値の適正化

M&A調査の核心は、適正な譲受価格を導き出し、取引後の経営を安定させるための根拠を集めることにあります。譲受企業は対象の財務状態や組織、事業の将来性を定量的・定性的に把握し、PMIで発生し得る課題を事前に予測します。

財務と法務リスクを可視化し譲受価格へ反映する

隠れた負債や係争案件などは将来キャッシュフローに影響を及ぼす重大要素です。デューデリジェンスにより問題点を洗い出し、必要に応じて譲渡企業へ表明保証を求める、または譲受価格を調整することでリスクを具体的に織り込みます。

組織文化とシナジー効果の検証でPMIを円滑化する

経営陣の能力、従業員構成、企業文化を踏まえてシナジーを定量化することで、統合後の目標設定が現実的になります。調査段階で文化的適合性を確認することが、離職防止や相乗効果の最大化に直結します。

M&Aプロセス別に変化する主要調査項目

M&Aは①候補企業選定、②マッチング、③基本条件交渉、④最終条件交渉、⑤契約締結の五段階に分かれます。各段階で調査項目と情報の粒度が変わるため、優先順位をつけて効率良く進める必要があります。

候補企業選定段階は公開情報で絞り込む

業種、売上高、従業員数など基本指標を確認し、自社戦略との整合性を評価します。この時点では業界レポートやIR資料など入手しやすい情報源を中心に分析し、調査コストを抑えつつ対象を数社まで絞り込みます。

マッチング段階で機密情報を取得し詳細を確認する

秘密保持契約を締結し、インフォメーションメモランダムや詳細財務資料を受領します。組織図や主要取引先を分析し、事業計画の現実性を精査することで、シナジー創出の可能性を具体化します。

基本条件交渉では譲受スキームと評価額を検討する

財務分析を踏まえた企業価値算定、法務・税務課題の洗い出し、人材面の問題点の確認を行い、基本合意書に反映させます。ここで譲受企業の負担が過大にならないよう条件を調整します。

最終条件交渉段階は専門家による多面的デューデリジェンスを実施

財務、税務、法務、事業、IT、環境など分野別の専門家が調査を実施し、最終的な譲受価格と契約条件を確定します。調査結果はPMI計画の基礎資料としても活用されます。

譲受企業が行う調査は自社分析からDDまでが要点

譲受企業はまず自社の経営資源と成長戦略を客観的に把握し、M&Aの必要性を明確化することが重要です。そのうえで競合調査、信用調査、反社会的勢力との関連性確認、そしてデューデリジェンスへと進みます。

自社分析で譲受の狙いを具体化する

財務状況、人的資源、技術、設備、事業ポートフォリオを評価し、譲受により強化したい領域を特定します。これにより対象企業の条件が明確になり、調査の焦点が定まります。

競合調査で市場における立ち位置を客観視する

公開資料や市場レポート、取引先ヒアリングを通じて競合各社のシェアや商品力を分析し、対象企業の優位性を測定します。第三者調査会社のデータを活用することで情報の偏りを抑えられます。

信用調査と反社チェックでリスクを早期に排除する

帝国データバンクや金融機関への照会、メディア報道の確認、専門会社への追加調査などを組み合わせ、対象企業と経営者の信頼性を多面的に検証します。関連会社や取引先まで範囲を広げることでレピュテーションリスクを低減できます。

デューデリジェンスは5つの手順で体系的に進む

  1. 調査チームの編成
  2. 調査範囲の設定
  3. 情報収集
  4. 分析と評価
  5. 報告書の作成

IT・環境のデューデリジェンスも忘れずに実施する

ITDDではシステム構成やサイバーセキュリティ体制を点検し、追加投資額を試算します。環境DDでは土壌汚染や排水管理など環境リスクを調査し、国内外の規制適合性を確認します。

調査結果はシナジー計画と統合スケジュールに直結する

リスク分析と並行してコスト削減額や売上増加額を数値化し、PMIのKPIを設定します。これにより経営陣と従業員が同じ目標を共有できます。

調査に要する期間とコストを管理しプロジェクトを最適化する

初期合意からクロージングまでの期間が長引くと案件自体が頓挫する恐れがあります。重点項目を定め短期間で調査を終える工程管理が重要です。また、比較的小規模な案件でも財務・法務DDで100万〜200万円程度を見込むのが一般的です。

専門家の知見を活用して調査品質を高める

公認会計士・税理士・弁護士など専門家と連携し、深い知識と経験に基づくアドバイスを得ることで意思決定の信頼性が向上します。ビジネスDDでは自社担当者が主体的に関与し、統合後の運営方法を検討することが推奨されます。

ここまででM&A調査の基礎とプロセス別の要点、自社および対象企業を取り巻く調査事項を整理しました。次章では譲渡企業と譲受企業がそれぞれ注意すべきポイント、調査を成功に導くための具体策、そして専門家選定基準をさらに深掘りし、調査費用の考え方と実務的な進め方を解説します。続きは次のセクションで詳しく解説します。

M&A調査を成功に導くためのポイントを売却側・買収側で確認

M&A調査は短期間で膨大な情報を扱います。譲渡企業が誠実に情報を開示し、譲受企業が効率良く分析を行えば、双方にとって納得度の高い条件合意が実現します。本章では双方の立場から実務上よく直面する課題と対処法を整理し、調査プロジェクトを軌道に乗せる具体策を示します。

譲渡企業が注意すべき7つの行動指針

  1. 情報開示の徹底
  2. 自社分析の実施
  3. 資料の整備
  4. 従業員への配慮
  5. 専門家の活用
  6. 交渉力の強化
  7. アフターM&Aの準備

各指針を実行することで、譲受企業との信頼関係が深まり、交渉を有利に進められます。

譲受企業が調査を成功させる9つの視点

  1. 明確なM&A戦略の策定
  2. 十分なデューデリジェンスの実施
  3. リスク評価の徹底
  4. シナジー効果の具体化
  5. 効率的な調査プロセスの構築
  6. コミュニケーションの重視
  7. 文化的適合性の確認
  8. 統合計画の立案
  9. 柔軟な対応

これらを踏まえれば、潜在リスクを把握しつつ統合効果を最大化できます。

M&A調査の専門家選定基準で適切な支援を得る方法

専門家は「経験・専門性・チーム体制・コミュニケーション能力・独立性・費用対効果・機密保持能力・グローバル対応力・テクノロジー活用・アフターサポート」の10項目で評価します。複数社の提案を比較し、費用と成果物を文書で合意しておくと、品質と納期を両立できます。

専門家と早期に合意形成し調査範囲を明確化する

契約書に調査範囲・スケジュール・報告形式・追加調査発生時の費用計算方法を明記し、月次ミーティングで進捗と課題を共有します。

M&A調査費用の目安とコスト管理で調査を効率化

売上数十億円規模の案件では、財務・法務DDだけでも100万〜200万円が相場です。ITDDや環境DDを追加すると総額500万〜1,000万円程度になることもあります。

費用を最適化する三つのアプローチ

  1. 調査範囲に優先順位を付ける
  2. 見積取得と成果物確認で透明性を確保
  3. 進捗管理と定期報告で追加コストを抑制

費用管理のチェックポイント

  • 支払条件をスケジュールと連動させる
  • 稼働時間の妥当性を検証する
  • 追加調査の発生条件を契約書に記載する
  • 報告書再修正時の費用と納期を定める

中小案件で費用を抑える工夫

段階的デューデリジェンスを採用し、まず財務・法務の簡易レビューで大きなリスクを抽出。その結果を見ながら重点分野を深掘りする二段構えとすると、無駄な調査費用を抑えつつ重大リスクの見逃しも防げます。

まとめ

M&A調査は譲渡企業と譲受企業が協力し、専門家の支援を受けながらリスクとシナジーを見極める重要プロセスです。段階的なデューデリジェンスと費用管理で効率化し、統合後の企業価値向上を確かなものにしましょう。

著者|竹川 満 マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

相続の教科書