M&A調査の目的や重要性から具体的な調査項目、成功のポイントまで徹底解説。買収側・売却側それぞれの注意点や専門家の選び方も紹介。M&Aを成功に導くための調査プロセスを網羅的に学べます。
目次
M&A(合併・買収)を成功させるためには、様々な調査が不可欠です。M&A調査とは、対象となる企業の現状やリスクを把握するために行う、包括的な分析および評価のプロセスを指します。
この調査プロセスは、以下のような目的で実施されます。
1. 対象企業の実態把握
2. 潜在的なリスクの特定
3. M&A実行の可否判断
4. 適切な企業価値の算定
M&A調査は、取引の各段階で行われ、その内容や深度は段階によって異なります。例えば、初期段階では公開情報を中心とした基本的な調査が行われ、交渉が進むにつれて、より詳細な財務・法務・事業などの調査が実施されます。
適切な調査を行うことで、M&Aに伴うリスクを最小限に抑え、取引後の統合プロセスをスムーズに進めることが可能となります。そのため、M&A調査は単なる形式的なプロセスではなく、M&Aの成否を左右する重要な要素と言えます。
▶目次ページ:企業買収(買収の失敗)
M&A調査を実施する主な目的は、多くの候補企業の中から最適な対象企業を選び出し、M&Aの実行に関する最終的な意思決定を行うための根拠となる情報を収集することです。
1. 財務状態の把握:
2. 組織構造の理解:
3. 事業リスクの評価:
4. 法的リスクの特定:
5. シナジー効果の予測:
6. 適正な企業価値の算定:
• リスク軽減:潜在的な問題を事前に特定し、対策を講じることができます。
• 意思決定の質向上:客観的なデータに基づいた判断が可能になります。
• 交渉力の強化:対象企業の詳細な情報を把握することで、有利な条件を引き出せます。
• PMIの円滑化:統合後の課題を予測し、スムーズな統合計画を立案できます。
適切なM&A調査を行うことで、取引の成功確率が高まり、長期的な企業価値の向上につながります。
M&Aのプロセスは通常、以下の5つの段階に分けられます:
1. 候補企業の選定
2. マッチング
3. 基本条件交渉
4. 最終条件交渉
5. 最終契約書の締結
各段階で実施される主要な調査項目について、順を追って説明します。
候補企業の選定段階では、多数の企業の中から適切な対象を絞り込むための基本的な調査を行います。主な調査ポイントは以下の通りです。
• 業種・事業内容の確認
• 企業規模(売上高、従業員数など)の把握
• 財務状況の概要チェック
• 経営者の情報収集
• 企業の成長性や市場での位置づけの確認
この段階では、主に公開情報や業界情報を活用し、自社の戦略との整合性を判断します。
マッチングの段階では、候補企業を絞り込み、より詳細な情報交換を行います。主な調査内容は以下の通りです。
• 秘密保持契約(NDA)の締結
• インフォメーションメモランダム(IM)の入手と分析
• 組織図や役員構成の確認
• 主要取引先や顧客基盤の把握
• 詳細な財務情報の分析
• 事業計画の精査
この段階では、候補企業との直接的なコミュニケーションが始まり、より具体的な情報を入手できます。
基本条件の交渉段階では、M&Aの実行可能性を判断するための詳細な調査を行います。主な調査事項は以下の通りです。
• 企業価値算定のための財務分析
• M&Aスキーム(手法)の検討
• 法的・税務的な課題の洗い出し
• 人事・労務関連の問題点の確認
• 知的財産権の調査
• シナジー効果の具体的な検討
この段階で得られた情報をもとに、基本合意書(LOI)が作成されます。
最終条件の交渉段階では、専門家によるデューデリジェンス(買収監査・企業調査)が実施されます。主な調査項目は以下の通りです。
• 財務デューデリジェンス
• 税務デューデリジェンス
• 法務デューデリジェンス
• 事業デューデリジェンス
• IT・システムデューデリジェンス
• 環境デューデリジェンス
この詳細調査により、対象企業の全体像を把握し、最終的な買収価格や条件を決定します。
以上のように、M&Aの各プロセスにおいて適切な調査を行うことで、リスクを最小限に抑え、成功の確率を高めることができます。
M&Aにおいて、買収側(買い手)が実施すべき調査は多岐にわたります。ここでは、主要な調査項目とその重要性について説明します。
M&Aを検討する初期段階で、自社の現状分析を行うことが重要です。主な分析ポイントは以下の通りです。
• 財務状況の把握
• 経営資源(人材、技術、設備など)の評価
• 事業ポートフォリオの分析
• 中長期的な成長戦略の明確化
• M&Aの目的と期待効果の定義
自社分析を通じて、M&Aの必要性や最適な対象企業の条件を明確にすることができます。
競合調査は、M&Aの対象企業を選定する際に重要な役割を果たします。主な調査方法は以下の通りです。
• 公開情報(有価証券報告書、プレスリリースなど)の分析
• 業界レポートや専門誌の活用
• 取引先や顧客からの情報収集
• 市場調査会社のレポート活用
• SNSや口コミ情報の分析
競合調査を通じて、対象企業の市場での位置づけや競争力を客観的に評価できます。
企業と経営者の信用調査は、M&Aの様々な段階で必要となります。主なチェックポイントは以下の通りです。
• 企業の基本情報(設立年、資本金、株主構成など)の確認
• 財務諸表の信頼性チェック
• 取引先や金融機関からの評判調査
• 経営者の経歴や過去の実績確認
• メディア報道や評判の分析
信用調査により、対象企業や経営者の信頼性を確認し、潜在的なリスクを把握できます。
反社会的勢力との関連性調査は、コンプライアンスの観点から極めて重要です。主な調査方法は以下の通りです。
• 企業や経営者の背景調査
• 取引先や関連会社のチェック
• 警察や暴力追放運動推進センターへの照会
• 専門調査会社の活用
• 従業員や取引先へのヒアリング
この調査により、M&A後のレピュテーションリスクや法的リスクを回避できます。
デューデリジェンスは、M&Aの成否を左右する重要な調査プロセスです。主な実施方法は以下の通りです。
1. 調査チームの編成:
2. 調査範囲の設定:
3. 情報収集:
4. 分析と評価:
5. 報告書の作成:
デューデリジェンスを適切に実施することで、M&Aの意思決定に必要な情報を網羅的に収集し、潜在的なリスクを特定することができます。また、この過程で得られた情報は、買収価格の交渉や統合計画の立案にも活用されます。
M&Aにおいては、上記の主要な調査項目に加えて、以下のような事項についても詳細な調査が必要です。
1. 財務状況:
2. 資産状況:
3. 契約状況:
4. 事業の将来性:
5. 競合と市場規模:
6. 組織の構造:
7. シナジー(相乗効果):
これらの調査項目を総合的に分析することで、M&Aの成功確率を高め、統合後の事業運営をスムーズに進めることができます。
M&A調査を効果的に行い、成功につなげるためには、売却側(売り手)と買収側(買い手)それぞれが注意すべきポイントがあります。
売却側企業が M&A 調査において心得るべき主なポイントは以下の通りです。
1. 情報開示の徹底:
2. 自社分析の実施:
3. 資料の整備:
4. 従業員への配慮:
5. 専門家の活用:
6. 交渉力の強化:
7. アフターM&Aの準備:
買収側企業が M&A 調査を成功させるために注意すべき主なポイントは以下の通りです。
1. 明確な M&A 戦略の策定:
2. 十分なデューデリジェンスの実施:
3. リスク評価の徹底:
4. シナジー効果の具体化:
5. 効率的な調査プロセスの構築:
6. コミュニケーションの重視:
7. 文化的適合性の確認:
8. 統合計画の立案:
9. 柔軟な対応:
これらのポイントに注意しながら M&A 調査を進めることで、リスクを最小限に抑え、成功の確率を高めることができます。
M&A調査を効果的に行うためには、適切な専門家の選定が重要です。
以下に、M&A調査の専門家を選ぶ際の主な基準を紹介します。
1. 経験と実績:
2. 専門性:
3. チーム体制:
4. コミュニケーション能力:
5. 独立性と客観性:
6. 費用対効果:
7. 機密保持能力:
8. グローバル対応力:
9. テクノロジーの活用:
10. アフターサポート:
これらの基準を考慮し、自社のニーズに最も適した専門家を選定することが、M&A調査の成功につながります。また、複数の専門家から提案を受け、比較検討することも有効です。
専門家の選定後は、調査の範囲や期間、報告方法などについて明確な合意を形成し、効果的な調査の実施につなげることが重要です。
M&A調査は、企業の合併・買収を成功に導くための重要なプロセスです。適切な調査を行うことで、潜在的なリスクを把握し、シナジー効果を最大化することができます。調査の各段階で適切な専門家の支援を受けながら、売却側と買収側の両者が協力して情報を共有し、分析することが成功への鍵となります。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事