スモールM&Aの基礎から手順や注意点を事例とともに解説

目次

  1. スモールM&Aとは小規模な企業や事業を少額で譲受する方法
  2. スモールM&Aの特徴
  3. スモールM&Aが注目される背景
  4. スモールM&Aのメリット
  5. スモールM&Aのデメリット
  6. スモールM&Aの基本的な手順
  7. スモールM&A利用時の注意点
  8. 具体事例に学ぶポイント
  9. スモールM&Aを成功に導く専門家活用方法
  10. スモールM&Aの具体的な流れを詳しく理解する
  11. スモールM&Aの費用と手数料を抑えるコツ
  12. チェックリストで進捗を管理しよう
  13. まとめ

スモールM&Aとは小規模な企業や事業を少額で譲受する方法

スモールM&Aは、譲受金額がおおむね1億円以下、または年間売上高が1億円以下の企業や事業を対象とする譲受手法です。100万円台で成約する例も珍しくなく、従業員数が数人から20名程度の小規模企業が典型的な対象となります。小規模ゆえに財務・組織の複雑さが限定され、交渉からクロージングまでの期間が短いのが特徴です。譲渡企業・譲受企業の双方が少ない負担で取引を完了できるため、中小企業の事業承継問題の解決策として関心が高まっています。

売上高1億円以下や譲受金額1億円以下の取引を指す

「スモール」という呼称は金額規模に由来します。譲受金額や売上高が1億円を超える場合は通常のM&Aと呼ばれることが多く、それ以下であればスモールM&Aに分類されるのが一般的です。金額が小さい分、譲受企業が必要とする資金調達額も抑えられ、財務リスクを最小限に抑えられる点が双方にとっての利点となります。

個人でも譲受企業になれるほど敷居が低い

譲受金額が少額であれば、従来は交渉テーブルに上がれなかった個人事業主や起業家でも買い手に名乗りを上げられます。個人の専門性やネットワークを活かして事業を成長させたいと考えるケースが増え、譲渡企業も選択肢が広がりました。リスクを抑えた起業スタイルとして「個人M&A」という呼び名も一般化しています。

マイクロM&Aはさらに規模が小さい1000万円以下の取引

スモールM&Aよりさらに小さい取引はマイクロM&Aと呼ばれ、譲受金額が概ね1000万円以下です。経営改善フェーズにあるベンチャーやニッチなITサービスなどが対象となるケースが多く、より機動的に事業の受渡しが行われます。

スモールM&Aの特徴

譲受金額が少なくリスクが低いため決断しやすい

取引規模が小さいため、万が一想定外の事態が起きても損失が限定的です。譲受企業は資金計画を立てやすく、譲渡企業は短期で現金化できるメリットがあります。

法人だけでなく個人事業も対象になり市場が広い

飲食店やECサイトのように個人が運営する事業も対象となるため、マッチングの幅が広がります。オンラインのマッチングサービスが普及したことで、地方企業や副業事業など、これまで譲受企業を探しにくかった案件が可視化されました。

短期間で成約しやすいが連携に工夫が必要

財務規模が小さいとデューデリジェンスも簡素化できるため、交渉から基本合意まで数か月で進むことが珍しくありません。一方で、譲渡後に活用できる経営資源が限定されることがあり、譲受企業はシナジー創出の具体策を早期に描く必要があります。

スモールM&Aが注目される背景

深刻な後継者不足を解決する有効な選択肢

国内の中小企業では後継者不在率が高まり、廃業を余儀なくされる経営者が少なくありません。スモールM&Aは企業規模が小さくても第三者に承継する道を開き、従業員の雇用と技術を守る手段として注目されています。

オンラインM&Aサービスの普及でマッチングが容易

近年登場したWebマッチングプラットフォームは、企業概要や希望条件を匿名のまま掲載できるため、従来の人的ネットワークに頼る交渉よりスピーディーです。検索フィルターによって業種・地域・価格帯で候補を絞り、メッセージ機能で初期交渉を進められる仕組みが整いました。

早期リタイアや事業多角化を狙う経営者が増加

価値観の変化から、経営者が元気なうちにリタイアを選択するケースが増えています。また、譲受企業も既存事業とのシナジーや投資収益を目的にスモールM&Aを検討する動きが活発化しています。

スモールM&Aのメリット

迅速な事業承継で従業員の雇用を守れる

譲渡企業が抱える従業員は、そのまま譲受企業のもとで雇用が継続されることが多く、失業リスクを回避できます。現場のノウハウが保持されることで、引継ぎ後の売上減少を防ぎやすい点も見逃せません。

経営者保証・担保問題の解決につながる

中小企業の経営者は個人保証や資産担保を負っていることが少なくありません。スモールM&Aでは、譲受企業が金融機関と再交渉し、新体制のもとで保証を引き継ぐことで、旧経営者の個人リスクを大幅に軽減できます。

創業者利益を確定し将来のリスクから解放される

譲渡企業が保有する株式を譲受企業へ売却することで、創業者は投下資本を上回る対価を得られます。負債や設備老朽化に悩む前に出口を確保できるため、計画的な資産形成が可能です。

譲受企業は低リスクで事業拡大や投資が可能

既に収益が立っている事業を取得するため、ゼロからの起業より失敗確率が低く、買収後直ちにキャッシュフローを得られる可能性があります。また、既存顧客基盤や人材を活用して多角化を図ることで、成長スピードを高められます。

スモールM&Aのデメリット

条件を満たす譲受企業を見つけにくい

譲渡企業が希望する譲受条件は、価格だけでなく経営理念の継承や従業員の待遇維持など多岐にわたります。しかし小規模案件は候補数が限られるため、全部を満たす相手が見つからないことも珍しくありません。妥協できる項目と譲れない項目を事前に整理し、交渉の長期化を防ぐ視点が求められます。

仲介手数料比率が高まり負担が重い

取引総額が小さいと、仲介手数料が相対的に割高になります。成果報酬型の手数料体系でも、最低報酬を設定する業者が多く、手残りが想定より少なくなるリスクがあります。手数料率とサービス範囲を比較し、納得できる業者を選定することが不可欠です。

短期成約ゆえに認識のずれによるトラブルが起こりやすい

スモールM&Aは交渉が短期で進む反面、十分な事業分析や文化理解が不足しがちです。譲渡後に役割分担や業務フローを再確認せずに走り出すと、組織の混乱や業績悪化を招く恐れがあります。特に個人間取引では法務・税務の専門知識不足が原因でトラブルに発展するケースがあるため、専門家の関与が不可欠です。

スモールM&Aの基本的な手順

方針決定と社内体制整備から始める

まずは譲渡企業が抱える課題を整理し、譲受企業に望む条件や譲受後のビジョンを明文化します。社内の機密情報をまとめるデータルームを準備し、質問が来ても即答できる体制を整えることで、後の交渉が円滑に進みます。

最適なマッチングサービスや仲介会社を選択する

コスト上限を設定したうえで、業種や地域に強いプラットフォームを選びます。オンラインサービスは匿名で案件を掲載でき、スピーディに譲受企業を探せる反面、支援範囲が限られる場合があります。仲介会社はデューデリジェンスや交渉サポートが手厚いものの、費用が高くなることがあるため、目的に応じた使い分けが重要です。

交渉・デューデリジェンスで情報を開示しリスクを確認する

秘密保持契約締結後にインフォメーションメモランダムを共有し、財務や法務の詳細データを提示します。譲受企業は専門家と連携し、資産価値や潜在リスクを洗い出して買収価格を再検討します。譲渡企業は不利な情報であっても早期に開示することで、後日の損害賠償請求を回避できます。

基本合意締結後に最終契約とクロージングを行う

基本合意では大枠の価格とスキームを定め、独占交渉期間中に最終条件を煮詰めます。最終契約書が締結されたら、資産移転や役員交代などクロージング手続を計画通りに実施します。完了後は従業員説明会を開くなど、PMI(統合後マネジメント)を意識したフォローが重要です。

スモールM&A利用時の注意点

積極的な情報開示で信頼を得る

譲受企業は限られた期間で意思決定を行うため、財務データや顧客構成などの重要情報を早期に提供すると交渉が加速します。隠し事が後で発覚すると、減額交渉や契約解除に直結する恐れがあるため、正確かつ網羅的な資料準備が肝要です。

相手企業の調査を怠らず複数回面談を行う

シナジーを期待して譲受しても、経営姿勢や組織文化が合わないと統合後に摩擦が生じます。トップ同士の面談を重ね、価値観やビジョンを確認することで、想定外のトラブルを未然に防げます。

焦らず時間を確保して最適な譲受企業を選ぶ

資金繰りが厳しくても、条件が合わない相手に譲渡すれば長期的損失が拡大しかねません。補助金やリスケジュールなども活用しながら、複数候補を比較検討することが成功への近道です。

具体事例に学ぶポイント

個人開発サービスを新聞社へ譲渡した事例

個人開発の俳句アプリを運営していた株式会社PoliPoliは、媒体力のある毎日新聞社にサービスを譲渡しました。譲渡企業は開発リソースを新規事業へ集中でき、譲受企業は既存読者に新たなデジタル体験を提供することで広告価値を高める好例です。

製造業同士で従業員雇用を維持した事例

電子部品のメッキ加工を手掛けるオーエム産業は、同業のシンセーを譲受しました。シンセー前社長を会長として迎え入れ従業員を全員雇用継続したことで、技術と取引先を守りながらスムーズな統合を実現しました。

ITサービスを1時間の面談で譲受した事例

Web制作会社LIGは、旅行者と事業者をつなぐマッチングサービスを開発企業から短時間の面談で譲受しました。双方の目的が明確で、サービスの収益モデルがシンプルだったため、迅速なスモールM&Aが成立した典型例です。

スモールM&Aを成功に導く専門家活用方法

スモールM&Aでは限られた時間と人員で多くの手続を進めるため、第三者の知見を上手に取り入れることが成功の近道です。専門家ごとの役割や費用を理解し、自社に合った支援体制を構築しましょう。

マッチングサイトを利用する長所と短所

マッチングサイトは匿名で案件を掲載でき、業種・地域・価格帯などを検索フィルターで絞り込めるため、スピーディに候補を見つけられます。月額課金型や成約報酬型など料金体系はサービスごとに異なるので、早期成約が見込める場合は定額制、時間がかかりそうな場合は成功報酬制を選ぶなどコストとのバランスが重要です。交渉や契約支援が手薄なサイトでは、士業や仲介会社のサポートを別途手配する必要があります。

仲介会社を利用するチェックポイント

仲介会社は買い手・売り手探しから価格交渉、デューデリジェンス調整までワンストップで支援するため、専門知識がない企業でも安心して取引を進められます。ただし最低報酬100万円以上を設定する会社も多く、取引額が小さいほど手数料比率が高くなる点に注意しましょう。業務範囲と報酬の対応関係を必ず書面で確認し、PMI支援の有無や金融機関交渉の代行範囲なども比較検討してください。

弁護士・税理士に依頼する場面と費用感

契約書のリーガルチェックや租税リスクの確認は、弁護士・税理士の専門領域です。時給・工数を基にした固定報酬に加え、成功報酬として成約額の数%を設定する事務所もあります。買い手・売り手双方が同じ事務所に依頼すると利益相反となる恐れがあるため、片方だけが依頼するか、双方が異なる士業に依頼する形を取りましょう。

事業引継ぎ支援センターを無料相談に活かす

各都道府県が設置する事業引継ぎ支援センターは、後継者不足に悩む企業を無料でサポートします。元金融機関職員や公認会計士、中小企業診断士などが在籍し、自社に適した譲受企業候補を紹介してくれます。デューデリジェンス以降の専門業務は民間依頼が必要ですが、初期相談とマッチングを無償で受けられるメリットは大きいです。

スモールM&Aの具体的な流れを詳しく理解する

取引の全体像を把握しておくと、次にやるべきタスクが明確になり、交渉を優位に進められます。ここでは参考資料に示されたプロセスを段階ごとに整理し直します。

目標と条件の検討がスタートライン

M&Aは課題解決の手段であって目的ではありません。譲渡企業は「いつまでに資金化したいか」「従業員の処遇はどう守るか」、譲受企業は「買収後の売上拡大目標」「シナジー創出までの期間」など、数値を伴うゴールを設定します。

売り手は譲渡範囲と譲渡価額の希望を整理する

株式全部譲渡か事業譲渡かで税務と手続が変わります。希望価額だけでなく、譲渡資産・負債の範囲も明確化しましょう。

買い手は予算とシナジーを数値で設定する

自己資金・融資・出資など資金調達計画を立て、買収後何年で投下資本回収を目指すかKPIを置くと、価格交渉の基準がぶれません。

専門家との契約で責任範囲を明確にする

マッチングサイトや仲介会社と締結する委任契約には、成功報酬率や途中解約時の手数料、守秘義務の範囲を盛り込みます。士業へは業務範囲と着手金・成功報酬の条件を確認し、コミュニケーション方法も決めておきましょう。

ノンネームシートで買い手候補を広げる

売り手企業名を伏せたまま業種や財務規模を紹介するノンネームシートを配布すると、風評リスクを抑えつつ多くの買い手にアプローチできます。早期に関心を集めるため、強みや将来性を簡潔に記載することがポイントです。

秘密保持契約締結後にIMで詳細を提示する

秘密保持契約(NDA)を結ぶと、売り手は企業名を開示し、インフォメーションメモランダム(IM)で財務・顧客・人員構成など詳細情報を提示します。IMに不足があると追加質問が増え交渉が停滞するため、FAQ形式で想定質問に回答を添えておくと円滑です。

デューデリジェンスは法務・財務が中心

買い手は弁護士と会計士を中心に、契約書や財務諸表、税務申告を精査します。簿外債務や未払い残業代などリスクが見つかれば減額交渉や表明保証条項で調整します。売り手は速やかなデータ提供と質疑応答で信頼を高めましょう。

最終条件交渉と基本合意書の作成

デューデリジェンス結果を受けて最終価額・支払方法・譲渡日をすり合わせ、基本合意書で独占交渉期間を設定します。この段階で買い手1社に絞り込むことが一般的です。

クロージングと資産移転の実務

最終契約締結後、資産移転や株券引渡、代金決済を行い、登記変更やライセンス名義変更を完了させます。現場が混乱しないよう、クロージング当日に説明会を実施し、組織図・承認フローを共有しましょう。

PMIで統合後の価値を最大化する

クロージング後は経営と現場の一体感を作るPMI(Post Merger Integration)が欠かせません。経営計画を共有し、交代する役員の挨拶や人事制度の統合時期を示すことで、従業員の不安を和らげます。

スモールM&Aの費用と手数料を抑えるコツ

マッチングサイトの料金体系を比較する

成約報酬が10%の場合と月額固定費の場合では、取引額500万円なら50万円か12万円程度と大きく差が出ます。掲載前に複数社のシミュレーションを行い、案件規模と期間に合うプランを選びましょう。

仲介会社の最低報酬に注意する

最低報酬が300万円で成功報酬率が5%の場合、譲渡価額が1,000万円なら総手数料は300万円、率換算で30%に跳ね上がります。交渉で最低報酬の減額や段階報酬制を提案し、負担を抑制しましょう。

士業の報酬方式を理解して無駄を削減する

弁護士・税理士の時給は2万円前後が目安です。書類チェックのみなら定額パッケージを選び、デューデリジェンス全体を依頼するなら成功報酬込みの見積りを取るなど、業務内容に合わせて依頼するとコスト効率が上がります。

補助金や公的支援を積極的に利用する

事業承継・引継ぎ補助金に採択されると、M&A費用の一部が補助され実質負担が軽くなります。募集要項や採択スケジュールを確認し、専門家と協力して申請書を用意しましょう。

チェックリストで進捗を管理しよう

  • 目標と条件を数値で設定したか
  • ノンネームシートを作成し希望サイトへ掲載したか
  • NDA締結後にIMを迅速に送付したか
  • 士業の見積りと契約範囲を確認したか
  • デューデリジェンスで指摘事項を整理したか
  • 基本合意書に独占交渉期間を明記したか
  • クロージング当日の説明会資料を用意したか
  • PMI計画を半年単位のマイルストーンで可視化したか

まとめ

スモールM&Aは、小規模なM&Aを指します。100万円単位の譲渡も存在し、多くの企業や個人が参入しています。事業を早期に継承したい経営者にとって、有益な方法となるでしょう。スモールM&Aの基本やメリットを確認し、具体的な計画を立てることもおすすめです。

著者|竹川 満  マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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