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▶目次ページ:第三者承継とは(小規模会社のM&A)
スモールM&Aは、一般的には売買金額が概ね1億円以下、あるいは売上高が概ね1億円以下の会社の売買を指します。100万円単位で取引されるケースも珍しくありません。対象となる企業の年商だけでなく、従業員数が数人から20人程度の企業によるM&Aも、スモールM&Aに該当します。
マイクロM&Aとは、スモールM&Aに比べてさらに規模が小さいM&A取引のことを指します。一般的には1,000万円以下で成約する取引が、マイクロM&Aに分類されます。経営状況が芳しくない小規模企業や、譲渡先を探すベンチャー企業などが、マイクロM&Aを実行する傾向があります。
スモールM&Aは、以下のような特徴があります。
• 譲受金額が少額であるためリスクが低く、M&Aに取り組みやすい
• 法人だけでなく、個人が運営する事業も対象となる
• 個人がM&Aを行うケースが増加している
少額の譲受金額でリスクが低く、小規模な事業や企業によるM&Aが容易に行えます。反面、取引規模が小さいため、効果的な経営資源の活用や相手企業との連携が難しくなることがあります。
以上の特徴を踏まえることで、スモールM&Aを活用して目標達成に向けた取り組みができるでしょう。
近年、M&A市場において、スモールM&Aが益々関心を集めています。本稿では、スモールM&Aが注目される理由や背景について幾つか説明いたします。
中小企業においては、後継者問題が事業継続に大きな影響を与える重要な課題となっています。しかし、従来のM&A方法では交渉先が見つからず廃業に追い込まれる経営者も少なくありません。そこで、スモールM&Aを利用することで、交渉相手となる企業や個人が増え、後継者問題がよりスムーズに解決できるケースが増えており、これが注目を集める要因の一つとなっています。
スモールM&Aを検討することで、事業継続が迅速に実現できる可能性が高まります。時間をかけずに事業譲渡を成立させたい場合には、スモールM&Aが適切な選択肢となるでしょう。例えば、後継者の不在や経営者自身の経営難がある場合、スモールM&Aを通じてスピード感のある事業譲渡が実現できます。
スモールM&Aは、経営者の個人保証や担保に関する問題の解決にも繋がります。譲渡後にM&Aとは別の交渉として、債務者と金融機関が協議により保証解除が進み、譲受主が新たな保証人となるケースがあります。従って、M&Aによる利益追求よりも、経営者の個人保証や担保問題の解決を優先する際には、スモールM&Aが選択肢として適しています。
以上のように、スモールM&Aは中小企業の後継者問題の解決や経営者の個人保証・担保問題の解消に寄与し、またオンラインM&Aサービスの普及がその拡大を後押ししています。これらの要因によって、スモールM&Aが注目を集めているのです。
スモールM&Aによって事業や会社の譲渡が行われると、従業員が引き続き働くことができる可能性が高まります。事業の継続に関する問題を従業員に影響を与えずに解決できる点も、スモールM&Aがもたらす大きなメリットの一つです。また、従業員が持っている技術やノウハウを継承することができるため、人材の継承において譲受側にもメリットが生じます。
一方で、スモールM&Aを実施する際には、注意しなければならないデメリットも存在します。以下では、スモールM&Aを行う際に懸念されるデメリットについて詳しく解説します。
スモールM&Aによって事業を譲渡したい場合、希望条件をすべて満たした相手を見つけ出すことは困難なことがあります。そのため、ある程度条件面で妥協が必要になることも十分考えられます。妥協の範囲やラインを事前に設定し、交渉が長引かないように準備を行っておくことがポイントです。
スモールM&Aでは利益が比較的少ないことから、仲介手数料などの負担が大きくなることがあります。M&Aの仲介会社を利用する際には、手数料を事前に把握し、計算しておくことが重要です。成約までのコストがかからず、成功報酬型の仲介会社を選ぶことがおすすめです。
スモールM&Aは短期間で契約がまとまることが多いため、成約後に認識のずれが生じるリスクがあります。トラブルを未然に防ぐためには、成約前にデューデリジェンス(買収監査・企業調査)をしっかりと行い、相手と契約することが重要です。特に個人とのM&Aでは、知識不足が原因でトラブルに発展する恐れもありますので注意が必要です。
スモールM&Aを実施する場合には、以下の基本的な手順を踏むことが一般的です。
まず、スモールM&Aが円滑に進むための環境を整えることが大切です。具体的には、事業譲渡の方針決定や条件設定などを行い、スモールM&Aに向けた準備を行うことがポイントです。
スモールM&Aを実施する際には、まず適切なM&Aサービスやサイトを選び、登録を完了させることが重要です。コスト(費用)の上限を設定し、手数料やサービス内容を考慮して活用できるサービスを選択しましょう。
スモールM&Aの成功には、交渉相手との適切な選定が重要です。また、契約については、仲介会社を活用することでスムーズに進めることが可能です。仲介会社を利用することで、円滑な交渉が期待できます。
スモールM&Aを実施するにあたり、以下のような注意点があります。
• 積極的な情報開示を行う
• 相手企業の情報も収集する
• 焦って譲渡先を決めない
スモールM&Aで譲受先が譲渡企業について十分な情報を持っていないケースが多いため、積極的な情報開示が重要です。特に中小企業は、情報を開示することで譲受先が興味を持つきっかけを作りましょう。正確な情報を開示することが基本であり、誤った情報がトラブルの原因となるため注意が必要です。
スモールM&Aの過程でスピーディに話が進むことが多いため、事前に相手企業・個人の情報を調査しておくことが大切です。信頼できる相手であることを確認し、譲渡を決定しましょう。トップとの複数回の話し合いを通じて信頼関係を築くことも考慮が必要です。
状況が切迫していると、焦って譲渡先を決めてしまうことがありますが、検証を怠ると成果が得られず損害を被る可能性があります。適切な交渉先と十分な話し合いを行い、慎重に譲渡先を決定しましょう。
多くの企業がスモールM&Aを実践しており、以下のような具体例があります。
株式会社PoliPoliは、毎日新聞に事業譲渡を実施した企業です。同社の代表である伊藤氏が個人で制作していた「俳句てふてふ」が、スモールM&Aの譲渡対象となりました。このように個人開発した事業を譲渡することで、スモールM&Aが成功する事例が存在します。
オーエム産業は、電子部品や自動車部品のめっき加工を手がける同業会社「シンセー」を譲受しました。譲受後もシンセーの社長を会長に据え、経営支援を受けながらシンセーの従業員に譲受前と変わらない仕事を続けてもらうことで、経営者や従業員を尊重した対応を実現し、離職者を出さずに営業基盤やノウハウを維持することに成功した事例です。
株式会社LIGは、Webサイトやコンテンツ制作、英会話スクール経営などを展開する企業です。同社は埼玉県のIT企業から、「事業者と旅行者をマッチングするWebサービス」をたった1時間の面談だけで譲渡することに成功しました。この事例からもわかるように、双方にメリットがあれば短時間でもスモールM&Aが成立することが可能です。
スモールM&Aは、小規模なM&Aを指します。100万円単位の譲渡も存在し、多くの企業や個人が参入しています。事業を早期に継承したい経営者にとって、有益な方法となるでしょう。スモールM&Aの基本やメリットを確認し、具体的な計画を立てることもおすすめです。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事