M&Aにおける株主の権利と影響力について解説します。株主総会の要否、反対事例、そして成功のための株主対策まで、M&Aを円滑に進めるために必要な情報をわかりやすくお伝えします。
目次
株主とは、企業に資金を提供し、その見返りとして株式を取得した個人または法人のことを指します。株主は企業の所有者の一員として位置づけられ、出資額に応じて様々な権利を有しています。
主な株主の権利には以下のようなものがあります。
1. 経済的利益を受ける権利(自益権)
o 配当金の受け取り
o 株主優待の享受
2. 企業経営に参加する権利(共益権)
o 株主総会での議決権行使
o 重要事項の決定への関与
株主は、これらの権利を通じて企業の経営に一定の影響力を持ちます。特に、企業が重要な意思決定を行う際には、株主総会を開催して株主の同意を得ることが必要となります。
株式会社における株主の権利や株式の取り扱いについては、会社法で詳細に規定されています。これにより、株主の権利が法的に保護され、企業経営の透明性と健全性が確保されています。
▶目次ページ:M&Aの種類・方法(のれん、法務)
M&A(合併・買収)のプロセスにおいて、株主は非常に重要な役割を果たします。株主の権利と影響力は、M&Aの成否を左右する重要な要素となります。
株主の権利は、主に以下の2つに分類されます。
1. 自益権:企業から経済的利益を受け取る権利
o 利益配当請求権
o 剰余金配当請求権
2. 共益権:企業の重要事項の決定に関与し、経営を監督・是正する権利
o 株主総会での議決権
M&Aの実行に関しても、株主は議決権を通じて意見を表明することができます。特に、高い持株比率を有する株主は、M&Aの成立や阻止に大きな影響力を持つ可能性があります。
例えば、大株主がM&Aに反対した場合、取引の進行が困難になる可能性があります。逆に、大株主がM&Aに賛成すれば、取引の成立がスムーズになることもあります。
このように、株主はM&Aプロセスにおいて重要なステークホルダーとして位置づけられ、その意向や行動が取引の行方を大きく左右する可能性があります。
M&Aを実施する際、株主総会の決議が必要となるケースと、省略可能な状況があります。これは、M&Aの形態や規模、企業の状況によって異なります。
企業の重要事項を決定する際には、株主総会での特別決議が必要となります。M&Aは企業の根幹に関わる重要な手続であるため、以下のような場合には株主総会での特別決議が求められます。
1. 企業のすべての事業を譲渡する場合
2. 子会社株式のすべてまたは一部を譲渡する場合
3. 他社の事業をすべて譲受する場合
これらのケースでは、売り手だけでなく買い手においても株主総会での特別決議が必要となります。
一方で、M&Aの内容によっては株主総会での議決が不要となる場合もあります。企業への影響が比較的小さい場合、手続を簡略化しても大きな問題が生じないと判断されるためです。以下のようなケースでは、株主総会の承認を省略できる可能性があります。
1. 簡易合併の場合
2. 売り手が会社法上の「事業の重要な一部の譲渡」に該当しない場合
3. 買い手が売り手の特別支配会社である場合
これらの状況では、手続の効率化と迅速化を図るために株主総会の開催が省略されることがあります。
M&Aを実施する際、株主からの反対に直面することがあります。特に以下の2つの状況で、株主の反対が生じやすくなります。
株式の分散とは、複数の株主が株式を保有している状態を指します。株式が分散している場合、経営者以外の株主も単独株主権や少数株主権を行使できる可能性があります。
• 単独株主権:1株以上保有していれば請求できる権利
• 少数株主権:少ない株式数で請求できる権利
株式が分散していると、M&A後も買い手がすべての株式を取得できない可能性があります。そのため、単独株主権や少数株主権の行使に対する懸念から、買い手がM&Aを躊躇する場合があります。
M&Aの成否は、株主との人間関係にも大きく影響されます。特に小規模企業では、経営者と株主の間に密接な関係が築かれていることが多くあります。
M&Aにより経営者が交代すると、これまでの株主との関係性も変化します。新しい経営者と株主の間に適切な関係が構築されていない場合、株主は不安を感じる可能性があります。
株主が自身の権利が損なわれるリスクを懸念すれば、株主総会においてM&Aに反対票を投じる可能性が高まります。このような人間関係の要因も、M&Aの成立を左右する重要な要素となります。
M&Aを成功に導くためには、株主に対する適切な対策が不可欠です。以下の3つの対策を実施することで、M&Aの成功確率を高めることができます。
M&Aの成否は株主の意向に大きく左右されるため、具体的な株主構成を把握することが重要です。企業によって株主の構成は大きく異なります。
• 経営者がほぼすべての株式を保有しているケース
• 従業員、取引先など、様々な立場の人が株主となっているケース
株主構成を把握することで、以下のような点を事前にチェックできます。
1. M&Aに反対する可能性が高い株主の特定
2. M&A後の企業経営に影響を与える可能性のある株主の把握
これらの情報を基に、M&Aを成立させるために必要な対応を検討することができます。
株主構成を確認した後は、各株主の具体的な株式保有数(持株比率)を調査することが重要です。
• 上場企業の場合:有価証券報告書に株主の名前や株式保有数が記載されています。
• 非上場企業の場合:株主名簿を確認することで、株主ごとの株式保有数を把握できます。
株主名簿は、会社法により作成が義務付けられており、変更があれば必ず更新が必要な書類です。そのため、常に最新の株式保有状況が反映されています。
各株主の持株比率を確認することで、M&Aの成否に対する影響力の程度を把握することができます。この情報を基に、重要な株主への個別説明や交渉の戦略を立てることが可能となります。
M&Aの準備を進める中で、名義株と譲渡制限株式への対策も重要です。
1. 名義株への対策
名義株とは、株主名簿に記載されている株主と実際の所有者が異なる株式のことです。以前は企業設立時に必要な発起人の数を確保するため、他人から名義のみを借りるケースがありました。 名義株の存在は買い手にとってリスクとなるため、事前に実質的な株主を特定し、適切な対応を検討する必要があります。
2. 譲渡制限株式への対策
譲渡制限株式とは、株主が譲渡する際に企業の承認が必要な株式のことです。この種の株式は手続に時間がかかるため、早めに準備を進めることが重要です。 具体的には、以下のような対応が必要となります。
o 譲渡制限株式の保有者の特定
o 譲渡承認手続のスケジュール策定
o 必要に応じた株主との事前交渉
これらの特殊な株式に対して適切に対応することで、M&Aプロセスをスムーズに進行させることができます。
M&Aの成功には株主への適切な配慮が不可欠です。株主構成や各株主の影響力を把握し、特殊株式への対策を講じることが重要です。また、株主総会の要否を正確に判断し、必要に応じて株主との関係構築に努めることで、M&Aプロセスをより円滑に進めることができます。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事