有限会社の廃業を検討する際に知っておきたい手続と費用を解説
有限会社を畳むには何から始めれば良いのか――本記事では、特例有限会社の特徴から解散事由、株主総会の決議要件、清算人の役割、必要費用と期間までを順序立てて説明します。読めば全体像と注意点が一目瞭然です。
目次:
▶目次ページ:事業承継とは(会社の廃業と解散・清算)
有限会社は2006年5月1日の会社法施行前にのみ設立できた法人形態で、資本金300万円以上・従業員50名以下というコンパクトな条件が特徴でした。新会社法施行後は新規設立が不可となり、存続を選んだ企業は「特例有限会社」として株式会社の枠組みに内包されています。資本金下限、決算公告義務、取締役会の有無、取締役任期などが株式会社と異なるため、廃業か存続かを判断する土台として整理しておきましょう。
特例有限会社は最低資本金300万円で既に設立済ですが、株式会社は1円から設立できます。従業員数の上限はなくなったものの、旧制度時代の「50人以下」の規模感が残る企業も多く、事業承継や廃業を検討する際は組織の将来像を踏まえた判断が欠かせません。
決算公告義務の有無がコストに影響する
株式会社は決算公告が義務づけられますが、特例有限会社にはありません。公告費用が不要な点は経営コストに直接影響するため、廃業判断時に固定費として確認しておきましょう。
特例有限会社では取締役に任期がないため、変更登記の手間や費用を省けます。一方で経営陣刷新の機会が乏しくなるため、廃業を含む将来計画を機に体制を見直すことも大切です。
会社法471条は有限会社の解散事由を6つに整理しています。該当すれば清算が必要です。
定款に存続期間や解散事由を定めている場合、その期間満了や事由発生で解散します。ただし実務上、この条項を設ける会社は多くありません。
全株主の半数超出席と出席株主議決権の4分の3超賛成で可決されます。株式会社より要件が厳格なため、議決前の調整が不可欠です。
吸収合併や新設合併で有限会社が存続しない場合、清算手続なしで解散となります。有限会社は合併後の存続会社になれない点が特徴です。
破産開始決定時に会社は当然解散します。その後は破産管財人が財産処分を行います。
公益を著しく害する行為が継続するなど例外的ケースで裁判所が解散を命じることがあります。
株主総会で特別決議が成立しない場合、少数株主が裁判所に提起し解散を求めることができます。
一般的には次の9つの工程を踏むことで3ヶ月程度で完了します。ただし債権回収や資産換価の進度で期間は前後します。
株主総会で解散を決議し、以後の新規取引を停止します。議事録に清算人選任を盛り込むと手続が円滑です。
本店所在地の法務局へ解散登記を申請し、会社が解散した事実を社会に示します。
通常は代表取締役が清算人となり、選任後二週間以内に登記します。特例有限会社では清算人会を設置できません。
官報公告で解散を知らせ、債権申出を受け付けます。必要に応じて個別催告も行い、債権者への周知を徹底します。
売掛金回収や在庫・固定資産の売却を進め、得た資金で債務を返済します。
確定した資産・負債を財産目録と貸借対照表にまとめ、株主総会の特別決議で承認を受けます。
債務弁済後に残った財産を株主に分配します。
清算期間の経済活動を総括した決算報告書を作成し、株主承認を得ます。
最後に清算結了登記を申請し、有限会社としての法人格が消滅します。
特例有限会社にはみなし解散制度がないため、休眠状態でも自動解散とはなりません。廃業を決断したら早めに計画を立て、手続きを確実に進めることが重要です。
費用は「登記・公告にかかる法定費用」と「専門家への報酬」に大別されます。概算を押さえて資金計画を立てましょう。
合計で20万円~30万円程度です。郵送料など実費が必要な場合は追加で見込んでおくと安心です。
弁護士は債権回収や債務整理支援、税理士は税務処理、司法書士は登記代行を担当します。報酬は数十万円から数百万円まで幅があるため、会社の規模や問題の複雑さに応じて見積もりを取ることが大切です。
従業員退職金、賃貸物件の違約金、在庫処分費用などが発生することもあります。清算人は初期段階で洗い出し、必要資金を確保しておきましょう。
廃業は会社の将来と従業員の生活に直結する重大な決断です。代表的な三つの理由をまとめます。
家族経営や小規模事業では次世代が経営に携わらないケースが多く、後継者不在が廃業理由の一つとなります。
経営者の高齢化で健康面や判断力に不安が生じ、市場変化への対応が遅れる前に清算を選ぶケースがあります。
運転資金の確保が難しくなると事業継続は困難となり、廃業という選択が現実味を帯びます。
法定費用や専門家報酬のほか、未払給与や在庫処分といった臨時支出を含めた費用全体を早期に見積もりましょう。
解散から清算結了まで数ヶ月〜1年程度かかることを見込んで、余裕ある工程表を作成することが大切です。
書類作成や登記に不備があると手続が遅延します。専門家に依頼してリスクを下げ、経営者は意思決定に専念しましょう。
特例有限会社はみなし解散制度の対象外です。正式な清算登記が完了するまで法人格は残り続けます。
合理的な解散理由を明確にし、議事録や公告に反映させることで債権者・株主への説明責任を果たせます。
清算結了登記が完了するまで経営者の責任は残ります。途中で手続きを放置しないよう管理を徹底しましょう。
本記事前半では、有限会社廃業の背景から法定手続、費用、注意点までを幅広く整理しました。後半では、代替策としての事業承継や合併、清算後の税務処理など実務で役立つ詳細をさらに掘り下げます。
有限会社を閉じる前に、事業承継や第三者への譲渡、他社との合併を検討することで、長年培ったブランドや顧客基盤を次世代に残せる可能性があります。ここでは各選択肢のメリットと注意点を具体例を交えて確認します。
親族内承継では創業理念や人脈を維持できる反面、後継者教育に時間がかかります。たとえば代表取締役の子どもが大学在学中であれば、卒業までの3年間に経営計画や顧客対応を段階的に学ばせることで円滑なバトンタッチが可能です。株式の贈与は相続時精算課税制度の活用で贈与税を抑える方法があります。
株式評価を早期に実施して節税に備える
株価が低い時期に贈与を進めることで、贈与税の負担を抑えられます。業績が好転して株価が急上昇する前に行動することが重要です。
現場を知る従業員が社長になる場合、顧客や取引先の信用を得やすい一方で、株式取得資金や経営能力の補強策が必要です。従業員持株会やMBOローンなど資金スキームを検討しましょう。
MBO(Management Buyout)の資金計画例
例えば株式価値が5,000万円の場合、自己資金1,000万円、M&Aローン2,000万円、代表者個人保証付融資2,000万円で資金を調達し、譲渡代金を一括払いするパターンがあります。返済期間は5〜7年が一般的です。
外部企業への譲渡は短期間で経営者のキャッシュアウトが可能です。ただし買い手選定や価格交渉、デューデリジェンス対応の負荷が大きく、機密保持契約の締結や独占交渉期間の設定など専門家の支援が不可欠です。
デューデリジェンスで求められる資料例
合併は経営資源の強化やシナジー創出が期待できます。特例有限会社は合併後の存続会社にはなれないため、最終的に法人格が消滅する点を踏まえ、従業員や顧客への周知を丁寧に行う必要があります。
市場環境の変化を見極めるために一時的に休眠する方法もあります。ただし従業員の雇用維持や維持コストに注意し、休眠届・給与支払事務所等の廃止届など税務手続きを済ませておきましょう。
清算手続が終わっても税務処理が完了しなければ廃業は完結しません。期限や書式を確認し、納税漏れによる追加コストを防ぎましょう。特例有限会社が提出すべき主な書類と提出先を一覧で整理します。
解散確定申告は解散日から2カ月以内、清算確定申告は清算結了日から1カ月以内に提出します。いずれも税務署・都道府県税事務所・市区町村へ各別に提出が必要です。
清算所得課税は法人税率が同じでも別計算
清算所得は資産売却益と負債精算差額から算出し、欠損金の控除制限など通常申告と異なる規定があります。控除可能な繰越欠損金額は清算所得の9割までなど制限に注意しましょう。
最終課税期間が解散日に短期で区切られるため、課税売上高見込みによって簡易課税選択届出書の提出可否を検討します。原則課税で課税売上が少ない場合でも、課税仕入控除の関係で還付を受けられるケースがあります。
清算人選任届を税務署へ提出し、給与や退職金の源泉徴収事務を継続します。年末をまたぐ場合は源泉所得税の納期特例の適用を確認し、納付遅延を防ぎましょう。
事業停止の趣旨、スケジュール、債権申出期限、残余財産分配方針などを文書化し、ステークホルダーの理解を得ます。
評価方法や売却先候補を早めにリストアップし、市場価格を調査して譲渡損益を試算します。
就業規則、賃貸借契約、リース契約などを棚卸しし、解約通知期限や違約金条項を確認しましょう。
保証協会付き融資や補助金の残債がある場合、金融機関・行政庁との調整スケジュールを確定します。
税理士は税務と資産評価、弁護士は法的リスク対応、司法書士は登記実務を担当させることで重複作業を防げます。
長期サポートが必要な場合は月額顧問契約、単発手続のみならスポット契約が適しています。見積書で範囲を明文化しましょう。
持株譲渡益や退職金にかかる所得税・住民税の申告と納税資金を確保し、退職後の社会保険加入手続を行います。
ハローワークや民間転職エージェントとの連携、再就職支援金の活用など、従業員が安心して次の職を探せる環境を整えましょう。
経営者が新しいビジネスに再挑戦する場合は、清算結了登記後に開業届や法人設立届を提出し、事業計画を再構築します。
複数名選任可能ですが、登記費用が増えるほか、意思決定が複雑化するため役割分担を明確に設定しましょう。
公告期間経過後は債務不存在を前提に清算できますが、後日請求があった場合に備えて補償金を残しておくと安全です。
追加財産の発見届を法務局に提出し、再清算手続を経て分配する必要があります。発見リスクを下げるために在庫棚卸を徹底してください。
最終貸倒処理による損金計上の要件と証憑類を整理し、税務署へ説明できるよう備えましょう。
当初は社長の長女への承継を計画していましたが、教育期間中に業界の環境変化で売上が急減。後継者の負担を考え、最終的に同業大手へ事業譲渡しました。従業員の雇用はほぼ維持され、社長はリタイア資金を確保できた一方、株価査定が下がったタイミングだったため、譲渡対価が想定より1割低い結果となりました。早期の売却検討が課題でした。
システム開発会社で社長が健康上の理由から事業停止を決断。2年間休眠状態とし、従業員には転職支援を実施。主要顧客の保守契約終了後に清算手続きを開始しました。休眠期間中は社会保険を適切に処理したことで、法定費用の最小化に成功しましたが、休眠届の未提出で地方税の均等割が課税されたため、届出漏れの影響を実感する事例です。
個人経営に近い有限会社が自己対応で清算を実施。決算書作成や公告手続きを外注せず進めましたが、官報公告の記載不備で再公告が必要となり、スケジュールが6カ月延長。専門家費用を惜しんだ結果、総コストが逆に増えた例として参考になります。
これらの事例に共通する学びは「早期の情報収集」と「専門家との連携」です。各経営者が置かれた状況を踏まえ、最適なタイミングでサポートを受けることで、廃業リスクとコストを大幅に低減できます。
このモデルは債権債務がシンプルなケースを想定しています。実際には不動産の売却や訴訟案件を抱える場合など、1年以上かかることもあるため、余裕ある計画が欠かせません。
有限会社の廃業は、解散決議から官報公告、資産換価、税務申告、清算結了登記まで段階ごとの専門知識が欠かせません。本記事では費用試算、代替策、従業員対応、事例やFAQを包括的に解説し、経営者がリスクを抑えて最適な出口を選べるようサポートします。専門家選びのポイントも網羅し、安心の手続計画を提示します。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事