M&Aイグジットで学ぶ出口戦略のメリットと実践法を徹底解説
M&Aによるイグジット(出口戦略)として、IPOやMBOなど複数の手法があります。本記事では、それぞれのメリット・デメリットや日本と海外の違い、イグジットを成功させるためのポイントについて詳しく解説します。事業承継や資金回収の選択肢として、ぜひ参考にしてください。
目次
▶目次ページ:事業承継とは(第三者への承継)
ここからは、M&Aによるイグジット(出口戦略)を中心に、他の代表的なイグジット手法であるIPOやMBOと合わせて、具体的なメリット・デメリットや成功のポイントを分かりやすく説明します。小学生にも理解できるよう平易な言葉でまとめていますので、自社の事業承継や将来の資金回収を考えている方は、ぜひ最後までお読みください。
M&Aによるイグジットとは、第三者である譲受企業に経営権を譲渡することで、オーナーが企業を手放し、事業承継や資金獲得を行う選択肢のことです。
もともと「M&A」とは「Mergers and Acquisitions」の略で、複数の会社を一つにまとめたり、対象企業の株式を取得して子会社化する仕組みを指します。イグジット(出口戦略)という言葉は、創業者や投資家が投下資金を回収し、事業から身を引くプロセスを表します。
M&Aを活用するイグジットでは、企業価値が高いタイミングで譲渡企業のオーナーが譲受企業に株式を譲渡すると、大きな利益を得られる可能性があります。近年は、大企業だけでなく中小企業においてもM&Aによるイグジットが広がっており、事業承継の手段としても積極的に取り入れられています。
イグジット(Exit)は主に「売り手側」、つまり譲渡企業の立場から見た言葉であり、オーナーや投資家が企業を譲受企業に引き継ぐことで投資資金を回収する行為を指します。これに対し、バイアウト(Buyout)は「買い手側」、つまり譲受企業の立場から見て、株式や経営権を買い取り取得することを示す概念です。
イグジット
バイアウト
ただし「経営者の目線から見たバイアウト」は、イグジット手段の一種として分類される場合もあります。混同しやすい言葉ですが、どちら側を中心に考えるかで意味が変わる点に注意しましょう。
イグジットの手段としては、日本ではIPO(新規上場)が主流とされる一方、海外ではM&Aによるイグジットがより盛んに行われています。その背景には、国ごとの資本市場の成熟度や文化、譲受企業候補数の多さが関係しています。
日本のイグジットの傾向
日本のイグジット方法はIPOが多いと言われています。一説では、IPOが7割でM&Aが3割というデータもあります。IPOが普及している理由の一つには、上場企業としての知名度向上に加え、株式を持ち続けながら売却益も得られる点が評価されていることが挙げられます。
ただし、IPOには厳しい基準や長い準備期間、費用がかかるなどのデメリットもあるため、すべての企業が簡単に挑戦できるわけではありません。また、中小企業にとってはIPOの要件が高くハードルとなる場合が多いので、近年ではM&Aによるイグジットにも注目が集まっています。
海外のイグジットの傾向
特にアメリカでは、譲受企業候補が非常に多く、企業同士の競合も活発です。そのため、魅力ある企業ほど高額の譲受金額が提示される傾向があり、自然とM&Aを選ぶケースが増えています。IPOも行われますが、広い市場環境や資金力のある譲受企業が多いため、結果としてM&Aの方が進みやすいと言われています。
こうした国や地域による特徴を知ることで、自社に最適なイグジット方法を検討する際の一助となるでしょう。
日本における代表的なイグジット手法として、M&A・IPO・MBOの3種類が挙げられます。どの方法を選ぶかによって、準備の手間や得られる利益、譲渡後の経営参加などが大きく異なるため、まずは基本的な特徴を理解しておきましょう。
M&Aは、譲渡企業のオーナーが譲受企業に株式を譲ることで経営権を移し、オーナー自身は売却益を得る方法です。企業価値が高い状態で譲渡できれば、大きな創業者利益を得られます。日本でも近年、事業承継対策としてM&Aが浸透し、赤字企業や中小企業にも活用され始めています。
IPOとは、株式市場に自社の株式を公開することです。上場後は株式を公開市場で売買できるため、オーナーや投資家は株式を売却する形で利益を得ます。上場企業となることで社会的信用度が高まり、銀行などからの融資も受けやすくなるなどのメリットがあります。しかし、上場審査や証券取引所の基準などをクリアするために、多額の費用や長期間の準備が必要です。
MBOとは、雇われ社長や役員など、もともと会社を経営している人たちがオーナーから株式を買い取り、経営権を獲得することです。外部の大企業に譲る場合に比べて、現場の従業員がオーナーとなる分、スピーディーで柔軟な意思決定が期待できます。その一方で、大きな資金調達はあまり期待できず、新たな価値を生み出すための外部リソースが得られにくい可能性もあります。
ここでは、M&Aを利用した場合に考えられる利点と欠点をまとめます。自社を譲渡する際には、タイミングや企業価値を見極めながら、これらメリット・デメリットをふまえて検討することが重要です。
要件や基準が少なく、成立しやすい
IPOのように厳格な基準を求められないため、比較的短い期間でイグジットを実現しやすいです。赤字や債務超過でも、譲受企業との交渉が整えば売却が可能な場合があります。
早期リタイアメントや多額の利益を得る可能性
企業価値が高いタイミングを狙って株式を譲ることで、オーナーはまとまった資金を手にでき、早めにリタイアすることも期待できます。
事業承継に適している
後継者不足の企業にとって、第三者の譲受企業へ経営権を移す形で承継できるため、廃業リスクを回避できます。
市況や交渉次第で譲渡価格が左右される
市場状況や自社の業績によっては、思うように高い金額で譲渡できないことがあります。タイミングの見極めや、交渉力がポイントです。
社内や取引先の理解が得られにくい場合がある
M&Aに対する「乗っ取り」などのマイナスイメージが根強い企業文化もあり、従業員や役員が反発し退職してしまう例もあります。ただし最近は、中小企業でもM&Aが徐々に認知され始め、譲渡前後に丁寧な情報共有を行うことで問題回避するケースも増えています。
ここからは、IPO(株式新規上場)によるイグジットについて解説します。IPOを利用すれば株式市場で自社の株式を売却でき、比較的自由に利益を得られる一方、厳格な基準や準備費用、時間が必要となります。
広範囲な資金調達の可能性
上場することで株式市場から大きな資金を得られるため、設備投資や新規事業拡大に活用しやすくなります。株主が増えることで企業の知名度も上がり、信用度の向上が期待できます。
株式売却のタイミングが柔軟
市場で株式が流通するようになるため、オーナーや投資家は株価の状況を見ながら株式を少しずつ売却し、利益を確定することが可能です。M&Aのように一度にすべてを手放す必要がなく、自身の保有株式数をコントロールしながらイグジットできる点が大きな特徴です。
会社の信用度向上
上場審査をクリアした会社として社外からの信用度が高まり、従業員採用の際にも有利に働きやすいです。取引先との関係性強化にもつながるため、上場企業としての認知がマーケティング面に好影響を及ぼす場合があります。
要件が厳しく、準備や費用がかかる
証券取引所や金融商品取引法の要件をクリアしなければならず、何年にもわたる上場準備や内部体制の整備が必要です。監査法人や証券会社への支払費用も高額になる傾向があり、中小企業にとっては負担が大きい場合があります。
経営の自由度が制限される
上場すると四半期決算や情報開示義務を負うほか、株主の意向を強く受ける可能性も出てきます。経営者がオーナー株主としての権限を維持しづらくなり、会社運営が株主重視になりがちな点は留意が必要です。
成功のハードルが高い
上場準備の途中で基準を満たせなくなり、IPOを断念するケースも少なくありません。厳しい審査を乗り越えるだけの業績やビジネスモデル、将来性が求められるため、必ずしもすべての企業に適しているとは言えないのが実情です。
MBO(マネジメント・バイアウト)とは、会社を経営する現場の社長や役員が、オーナーから株式を買い取り、経営権を自分たちで握る手法です。上場企業の場合は、社内の経営陣が株式を買い集めて上場廃止(非上場化)し、その後に自分たちの意志で柔軟に経営を進めるケースも含まれます。
意思決定の自由度が高まる
これまでオーナーや外部株主の意向に左右されていた部分が、経営陣の判断で進められるようになります。スピード感のある意思決定が期待され、社内のモチベーション向上にもつながるとされています。
会社のスリム化が進む
株式を買い取り、上場を廃止すると株価維持コストや上場維持費用などを省くことができ、効率的な経営を目指しやすいです。必要以上の開示義務から解放されるため、組織運営の見直しや事業の再構築にも取り組みやすくなります。
大規模な資金調達は期待しにくい
非上場化を進めた結果、市場から直接大きな資金を調達することが難しくなるため、銀行などの間接金融による資金調達がメイン手段となります。新たな研究開発や大規模事業拡大を計画する場合、十分な資金を確保しにくいことが考えられます。
経営改革のインパクトが弱い
オーナーこそ入れ替わるものの、実質的には既存の経営陣や従業員が主体となるため、企業文化や事業内容が大きく変わりにくいとされています。そのため、短期間で急成長を目指したい企業にとっては、IPOやM&Aほどの変化を期待するのは難しい場合があります。
イグジットを検討する際には、「経営権の維持」と「どのような対価を得たいか」を中心に考え、最適な手法を見極めることが大切です。ここでは、具体的にどのようなポイントに注目して判断すればよいのかを説明します。
経営権を譲るのに抵抗がない
他者に経営を任せることにデメリットを感じない場合や、事業承継が急務である場合はM&Aが向いています。また最近では、譲受企業によっては元オーナーが経営陣に残る形も多く、完全に経営から離れなくても済むケースがあります。
経営権を手放したくない
経営の主導権を維持しつつ株主に報酬を還元したい場合はIPOが選択肢になります。時間と費用はかかりますが、上場後も一定の株式を持つことで、経営に携わりつつ利益を確保しやすくなるからです。ただし大量の株式を売却すると、オーナーの経営支配力が下がる点には留意が必要です。
企業価値が高いタイミングで早期に利益を得たい
比較的短期間で譲渡益を得やすいのはM&Aです。譲受企業との交渉次第では大きな売却益が期待できます。
企業のブランド価値や信用度をさらに高めたい
IPOで上場企業となると社会的認知度が高まり、取引先や金融機関との関係強化にもつながります。ただし、厳しい上場審査をクリアできる業績や管理体制が必須なので、事前準備がとても重要です。
既存の経営陣や従業員に経営を任せたい
社外の大企業や投資家ではなく、社内の幹部や従業員が主体となって株式を取得し、経営を続けていく場合はMBOが適しています。会社の方向性を大きく変えずに所有権を移すことが可能です。
ここでは、特にM&Aを用いてイグジットする際に押さえておきたい重要な点をまとめます。自社の事業を第三者に譲るという大きな決断だけに、しっかりと準備することで企業価値を最大化し、スムーズな承継につなげましょう。
イグジットを行う明確な理由や、期待する成果を最初に整理しましょう。例えば、「事業承継のため」「資金を得て早期リタイアしたい」「より大きな企業の傘下で事業を伸ばしたい」など、目的によって必要な準備や交渉内容が変わってきます。目標時期を設定し、そこから逆算してスケジュールを組むことが成功への第一歩です。
業績をできるだけ高い水準で維持する
安定した利益を確保できるよう、コスト管理や営業活動を見直し、企業価値を高める努力が必要です。業績が悪い状態で交渉に臨むと、売却額が想定より低くなることがあります。
優秀な人材の確保と育成
専門分野に強い社員や後継人材がそろっている企業は、譲受企業から見ても魅力的です。企業の価値は製品やサービスの実績だけでなく、人材力にも大きく左右されます。
こうした取り組みを通じ、業界内での評判や実績を高めておくと、譲受候補企業が複数現れる可能性が上がります。複数の企業からオファーがあれば、交渉を有利に進められるでしょう。
M&Aによる企業譲渡額は、市場動向、自社の業績、譲受企業の事情などに左右されます。たとえ業績好調でも、経済全体が不況の場合は希望どおりの条件を得にくいです。また逆に、市場が活発なら業績改善の途中でも高額な買い取りが期待できる場合があります。
「さらに企業価値を伸ばしてから売却した方が得策か」「将来的に業績が下降するリスクがあるなら早めに動くべきか」など、会社の将来予測を踏まえながらタイミングを図ることが大切です。
M&Aを進める際、譲受企業は財務や法務、人事、知的財産などを詳細に調査(デューデリジェンス)します。未処理の債務や法的リスクが見つかると、譲渡価格が下がったり、取引自体が破談する可能性もあります。
そのため、日ごろから会計帳簿や契約書類を整理しておき、社内の管理体制を整備することが重要です。透明性が高い企業は買い手からの信頼も得やすく、スムーズに交渉を進められます。
日本ではIPOがイグジット(出口戦略)の主流とされてきましたが、近年では中小企業にとってIPOのハードルが高い場合も多く、M&Aによるイグジットが大きな注目を集めています。M&Aは、後継者不在の事業承継やオーナーの早期リタイア、赤字企業であっても交渉次第では譲渡できる柔軟さが魅力です。一方で、交渉がうまくいかなければ思ったほどの譲渡益が得られないなどのリスクもあります。
自社に合った出口戦略を選ぶためには、経営権の維持、資金調達の規模、譲渡後のビジョンなどを明確にしておくことが大切です。M&A・IPO・MBOそれぞれの特徴やメリット・デメリットを比較検討し、十分な事前準備を行いましょう。そうすることで、事業承継や将来の資金回収がスムーズに進み、オーナーや従業員、関係者にとっても納得のいくイグジットを実現できます。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画