M&Aを通じたイグジット(出口戦略)とは、第三者に経営権を譲渡し、事業承継の課題解決や資金調達を行うことを指します。近年、M&Aを活用したイグジットが増加しており、本記事ではM&Aによるイグジットを中心に説明します。また、イグジットの種類やメリット・デメリットなどについても解説していきますので参考にしてください。
目次
M&Aによるイグジットでは、譲渡側の株主は大きな資金を獲得できる可能性があります。そのため、M&Aによるイグジットを成功させるためには、検討時期や条件などのプランニングが重要となります。
▶目次ページ:事業承継とは(第三者への承継)
日本と海外では、ビジネス文化の違いからイグジットの考え方に差異があります。ここでは、日本と海外のイグジットの傾向について解説します。
日本におけるイグジットは、IPOが多く選ばれる傾向があります。IPOについては後述しますが、日本のイグジットでは、IPOが7割、M&Aが3割の割合となっています。以下の参考ページもぜひご覧ください。
一方、海外では、特にアメリカでIPOよりもM&Aを活用したイグジットが多いことが特徴です。アメリカには譲受企業候補が多く存在し、M&A検討時に譲受候補企業間で競争が起こりやすく、M&A取引金額が高く設定されることが多いため、M&Aがよく選択されます。以下の参考ページもあわせてご確認ください。
日本において、主に注目されるイグジット方法を紹介します。
M&Aとは、Mergers and Acquisitionsの略で、複数の会社を1つに統合したり、他の会社の株式を取得して被買収会社を子会社化するという手法です。従って、譲渡対象企業のオーナーにとっては、企業価値を高めることでM&Aを行った際に多額の創業者利益を得る可能性があるので非常に魅力的です。また、経営者が変更されることや他社との統合を通じて新たな事業展開が期待でき、事業拡大の面でも大きなシナジーが生まれることが特徴的です。
IPOは、Initial Public Offeringの略であり、日本語では新規上場株式と言われています。これは、自社の株式を公開市場で取引することです。IPOがされた後、オーナー経営者は、インサイダー取引に該当しない範囲で好きなタイミングでイグジットすることができる点が特徴的です。
MBOは、Management Buyoutの略で、オーナーでない経営者がオーナーや親会社から株式を買い取って経営権を取得することを指します。例えば、未上場会社の雇われ社長がオーナーから経営権を取得する場合や上場企業が株式を買い集めて上場廃止するケースがあげられます。
M&Aによるイグジットのメリットとデメリットについて説明し、自社の出口戦略を考慮する際の指針となる情報を提供します。
M&Aを利用したイグジットは、基準や要件がなく、譲受候補が見つかれば容易に実現できるというメリットがあります。さらに、比較的短期間でイグジットが完了することも期待できます。赤字や債務超過など業績が良くない状況であってもM&Aが可能である可能性があり、廃業せずに会社経営からリタイアすることができます。加えて、企業価値が高い場合、M&Aを実施することで譲渡対象企業のオーナーは創業者利益を得ることができ、早期リタイアメントが可能となります。
M&Aを用いたイグジットにおいてデメリットとして挙げられるのは、市況や自社の業績、また譲受候補企業によっては、譲渡側が得られる利益が少なくなる場合があることです。このため、タイミングや交渉が重要となります。さらに、日本においてはM&Aが「乗っ取り」など悪いイメージが残ることから、既存の役員や従業員の反感を買い退職者が続出するケースがあります。ただし、近年では大企業だけでなく中小企業でもM&Aが浸透しており、M&A実行前後の譲受側とのコミュニケーションによって問題を回避できる可能性もあります。
IPOを利用したイグジット戦略の利点と欠点について説明します。自社のイグジット戦略を計画する際の参考情報としてお役立てください。
• 自社の株式が市場で公開されることにより、投資家に評価されることでイグジットによる利益が大きくなる可能性が
あります。
• 株式の保有割合を適切に管理することで、経営権を手放さないで済むことがあり、イグジット後も引き続き経営に携
わることができます。
• 会社の認知度や信用度が向上し、取引先や事業エリアの拡大につながり、自社の事業拡大が期待できます。
• IPOによるイグジットは厳しい要件があり、要件を達成するまでに多くの時間や費用がかかり、場合によってはIPOを
諦める必要があるなど、成功する可能性は高くありません。
• 上場企業となるため、経営の自由度が制限され、IPO前の経営スタイルを変更する必要がある場合があります。
ここでは、MBOを利用したイグジット戦略の利点と欠点を解説します。自社のイグジットを検討する際の参考にしてください。
• 株価の維持や上場費用が削減されることで、会社がスリム化され、効率的な経営が期待できます。
• 現場で働く従業員がオーナーになるため、経営意思決定の自由度が向上し、素早い事業運営が可能になります。
• 上場時に比べて市場からの資金調達ができなくなるため、資金調達手段が限られますが、間接金融などの資金調達は
継続して行うことができるため、大きな問題にはならないことが多いです。
• MBOが実施された後は、既存の経営陣がそのまま続投されることがほとんどのため、会社に大きな変化が生じにく
く、M&AやIPOに比べて短期間での経営改革は起こりにくいことがあります。
イグジット戦略を検討する際には、明確な目的を持って計画を立てることが重要です。具体的な選択肢を決定する上で特に重要なポイントとなる要因を2つ紹介します。参考にしてください。
イグジット後に経営権を維持したいか、それとも他者に譲渡することが可能かによって、適切なイグジット戦略が異なります。経営権を譲渡しても問題がない場合はM&Aが適しており、経営権を維持したい場合はIPOが適しているとされています。しかし、最近では買収企業でもM&A後に現オーナーが経営に関与するケースが増えているため、経営権を維持したい場合でもM&Aを検討することが適切です。
イグジット戦略の対価として利益を獲得したい場合、企業価値が高いタイミングでM&Aを検討することが望ましいです。自社の企業価値を評価するだけでなく、市場情勢や業界状況も考慮に入れ、適切なタイミングを見極めることが大切です。イグジット後に企業価値をさらに高め、大きな利益を実現したい場合は、IPOが適した選択肢となります。ただし、IPOには厳しい要件をクリアする必要があり、イグジットが成功する保証はないため、注意が必要です。
M&Aによるイグジットを成功させるために押さえておくべきポイントについて解説します。M&Aを検討している経営者にとって、参考になる情報が提供されます。
イグジットの目的や期待する効果を明確にすることが肝心です。具体的な時期を定め、期待する効果を明らかにした上で準備期間を逆算し、経営目標を設定することが効果的です。
• 業績を高い水準で維持する
• 人材育成に重点を置く
これらの方法を実践することで、イグジットの選択肢が増え、経営環境や経済情勢の変動に対応できる柔軟性が生まれます。その結果、確実にイグジットを達成することができます。
企業価値を維持・拡大することで、オーナーが有利な条件でM&A交渉を進め、スムーズなイグジットが実現できます。利益体質の企業を築くためにコスト管理を徹底し、競合他社が持たない独自の強みを創り出すなど、企業価値向上に努めることが大切です。
M&Aによる売却価格は、自社の企業価値、市場状況、譲受企業の状況によって異なります。企業価値を高め、事業環境が好調な時にM&Aによるイグジットを進めることが重要です。ただし、イグジットの目的が事業安定性や資金調達が優先であれば、企業価値が低い状態でもM&Aを実行できます。その際は、企業価値がさらに低下する前に速やかに取り組むべきです。
日本におけるイグジット(出口戦略)は、IPOが一般的であり、M&Aが選択されることは比較的少ないです。しかし、多くの中小企業にとってIPOが難しい場合があるため、最近ではM&Aの認知度が上がり、イグジット手法として受け入れられつつあります。自社のイグジットを検討する際には、M&Aも選択肢の一つとして考慮することが望ましいです。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画