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金庫株活用による事業承継の納税資金対策と株式の集中方法を解説

「金庫株を使えば事業承継の納税資金不足や株式分散の悩みを解決できますか?」──はい、本記事では金庫株の基礎から優遇税制、取得手続までを分かりやすくご説明します。

目次

  1. 金庫株とは会社が保有する自己株式のこと
  2. 金庫株を使うと事業承継で納税資金を確保できる
  3. 株式の分散防止で経営権を維持できる
  4. M&Aや株価対策・敵対的買収防衛にも役立つ
  5. 金庫株を取得・処分・消却する5つの手続
  6. 金庫株取得時の仕訳と財務への影響を理解する
  7. 金庫株活用のデメリットを把握し慎重に判断
  8. 金庫株導入前のチェックリスト10項目でリスクを低減
  9. 専門家と二人三脚で最適な事業承継計画を策定
  10. ケーススタディで学ぶ金庫株活用の実務
  11. 活用を成功させるためのポイントを総復習
  12. まとめ

金庫株とは会社が保有する自己株式のこと




金庫株とは、会社が自社株を株主から買い取り、消却や譲渡を行わずにそのまま保有している自己株式を指します。発行済株式が「会社の金庫に入っている」状態をイメージすると分かりやすいでしょう。

2001年の商法改正以前は自己株式の取得目的や数量に厳しい制限がありましたが、改正後は取得目的や回数の制限がなくなり、中小企業でも柔軟に金庫株を活用できるようになりました。

商法改正で自己株取得の自由度が高まり活用が現実的に

改正により株主総会の特別決議など所定の手続を踏めば、会社は分配可能額の範囲内で株式を買い戻せます。これにより金庫株は事業承継を含む多様な場面で使いやすいツールとなりました。

金庫株が注目される理由は経営権と資金繰りの両立

金庫株を保有すれば他社への株式流出を防ぎつつ、必要に応じて処分して資金を得ることもできます。経営権の安定と機動的な資金調達を同時に図れる点が多くのオーナー経営者に支持される理由です。

処分は資金調達、消却は資本効率の向上につながる

金庫株の“処分”とは、自己株式を第三者に譲渡して現金を得る行為です。譲渡価格や株数は原則として株主総会で決議するため、既存株主の公平性も確保できます。

一方“消却”は自己株式を帳簿上消し込み発行済株式数を減らす手続です。消却後は1株あたりの純資産額が高まり、株主価値の向上につながります。いずれも取締役会や登記の変更など所定の手続が必要なので、事前のスケジュール管理が不可欠です。

金庫株を使うと事業承継で納税資金を確保できる

非上場企業の株式は換金性が低く、相続税の納税資金をどう用意するかが大きな課題です。金庫株を利用すれば、後継者が相続した株式を会社が買い取り、その代金を納税資金に充てられます。オーナー経営者があらかじめ金庫株取得の方針を社内に共有しておけば、相続発生時の慌ただしい交渉を減らせる点も大きなメリットです。

みなし配当課税の不適用で税率が約20%に縮小

通常、会社への株式譲渡益は「みなし配当」として総合課税対象となり最大55%課税される可能性があります。しかし相続で取得した非上場株式を相続税の申告期限から3年以内に会社へ譲渡すると、譲渡益課税(20.315%)が適用されます。これにより納税に充てる現金を手元に多く残せます。

取得費加算特例で譲渡益をさらに圧縮できる



相続開始から3年10か月以内に譲渡した場合、支払った相続税の一部を株式の取得費に加算できます。譲渡所得が圧縮されるため、後継者はさらに軽い税負担で納税資金を確保できます。

金庫株特例を活用すると実効税率は一段と低下

相続後3年以内の譲渡で一定要件を満たす場合、「金庫株特例」により譲渡益が分離課税扱いとなり、税率は約20%まで下がります。高額な相続税を支払う必要があるオーナー家にとっては資金繰りを大きく助ける制度です。

株式の分散防止で経営権を維持できる

経営者が亡くなり株式が複数の相続人へ分散すると、後継者の持株比率が下がり経営判断が滞るリスクがあります。金庫株を活用すれば会社が後継者以外の相続人から株式を買い取り、後継者の比率を維持できます。

50%超で普通決議、70%で安定支配を確保

株主総会で普通決議を単独で可決するには50%超、より強固な支配権を得るには約70%の株式保有が目安です。金庫株取得で後継者の持株割合を引き上げれば、企業の長期方針を迷いなく決定できます。

経営者死亡後でも売渡請求の定款規定で買い取り可能

株式が譲渡制限付きであること、定款に売渡請求が定められていること、分配可能額の範囲内であること──この3条件を満たせば、経営者死亡後でも会社は強制的に株式を買い取れます。持株比率低下のリスクを大幅に軽減できるため、事前の定款整備は必須といえるでしょう。

M&Aや株価対策・敵対的買収防衛にも役立つ

金庫株は事業承継だけでなく、経営戦略全般で多面的に活用できます。たとえば譲受企業との資本提携や譲受対価として金庫株を用いれば、現金を温存しながら企業価値向上を狙えます。

また、自己株取得は市場での流通株数を減らし、1株あたり利益(EPS)の向上が期待できるため、株価対策として機関投資家からも評価される手法です。

譲受取引の対価として株式を柔軟に差し出せる

M&Aでは現金と株式の組み合わせで対価を設計することが一般的です。あらかじめ金庫株を保有しておけば、増資を伴わず株式を提供できるため、既存株主の持分希薄化を防ぎながら譲受取引を進められます。

敵対的譲受に備え手元に自己株を確保して防衛力を高める

第三者が大量に株式を買い集めて経営権を握ろうとする敵対的譲受は、中小企業でも例外ではありません。金庫株を保有していれば、潜在的な議決権の行使余地が減るため、敵対的な動きを難しくし経営の独立性を守れます。

株価上昇期待が株主のエンゲージメントを高める

市場で自己株を買い付けると需給が引き締まり株価上昇が見込めます。株価の回復は従業員の士気や金融機関からの信用にも好影響をもたらすため、金庫株は戦略的な資本政策の選択肢として覚えておく価値があります。

金庫株を取得・処分・消却する5つの手続

金庫株を適切に扱うには、会社法と税法のルールを押さえたうえで、実務上の段取りを踏むことが欠かせません。ここでは取得から処分・消却までの代表的な5つのルートを整理します。

株主全員に案内して均等条件で取得する方法

もっとも基本的なのは、株主全員に取得の意向を通知し、応募した株式を同一価格で買い取るパターンです。公平性が高い一方、通知や計算書類の準備など事務コストがかかります。

特定株主からピンポイントで買い取る方法

後継者以外の相続人や資本提携を解消するパートナーなど、対象株主を絞って自己株を取得する方法です。議決権割合の調整を素早く行える点がメリットですが、取引価格の妥当性説明が欠かせません。

立会市場買付で流動性の高い価格を確保する方法

株式を上場している場合は、市場で自己株を買い取ることで透明性を担保できます。終値取引とするか、立会外でブロックトレードを行うかは目的と必要数量に応じて選択します。

事前公表型終値取引や自己株立会外取引を使う方法

取得条件を事前に公表し、取引終値や証券会社の取次を通じて買い取る仕組みです。市場インパクトを抑えつつ効率的に株式を集められる点が評価されています。

自己株公開買付で大量に取得する方法

最終手段として、自己株公開買付(TOB)があります。期間・価格を公告して株主から株式を募る方法で、大量取得が必要な場合に有効ですが、公告コストや取引管理の負荷は最も大きくなります。

これら各手続は、いずれも「分配可能額」の範囲内で行う必要があります。また取得後の処分・消却には、取締役会決議や登記申請など追加の法定手続が求められます。予定より時間がかかる場面も多いため、実行前に予備日程を確保しておくことが現場では重要です。

金庫株取得時の仕訳と財務への影響を理解する

金庫株を取得すると、貸借対照表では「株主資本」から自己株式が差し引かれ、純資産が減少します。仕訳の基本形は次のとおりです。


借方:自己株式 ○○円 / 貸方:現預金 ○○円


譲渡時に源泉所得税が発生するケースでは、貸方に「預り金」を併記します。

取得した自己株を第三者へ処分する際、処分価格が取得価額を上回れば「自己株式処分差益」、下回れば「自己株式処分差損」を計上します。


消却する場合は「その他資本剰余金」から自己株式を減額し、同額だけ発行済株式数が減ります。もしその他資本剰余金で吸収しきれないときは「その他利益剰余金」を使う点も押さえておきましょう。

こうした会計処理を正しく行わないと、金融機関への報告資料や株主への計算書類に齟齬が生じるおそれがあります。顧問税理士や公認会計士と連携し、仕訳の根拠となる議事録・計算書類を必ず整えてください。

金庫株を巡る税務・会計ルールは毎年のように改正が重ねられています。実行前に最新の通達や国税庁質疑応答事例を確認し、専門家と二人三脚で進める姿勢が、結果として節税とコンプライアンスの両立を実現します。

金庫株活用のデメリットを把握し慎重に判断

金庫株は便利な選択肢ですが、メリットだけを見ていると承継後に資金繰りやガバナンスで行き詰まる恐れがあります。ここでは原文と参考で言及されている3つの注意点を具体的に整理し、失敗を防ぐ視点を示します。

買付ルールは分配可能額が上限で資本規制に注意

自己株買いは「その他資本剰余金+その他利益剰余金」で計算される分配可能額を超えて行えません。財源規制に違反すると無効取引となり、役員の責任追及リスクも高まります。実行前に直近期の貸借対照表を確認し、取得原資を確保できるか検証しましょう。

資金流出によるキャッシュ不足が成長投資を阻害

自己株取得には相当額の現金が必要です。取得後に手元資金が細り、運転資金や設備投資を先送りする事例は珍しくありません。金庫株取得は短期の資金流出と長期の株主構成安定を天秤に掛けて判断する必要があります。

手続負荷とタイミングのずれが承継スケジュールを圧迫

株主総会決議や取締役会決議、公告・通知、法務局への登記といった一連の手続には時間がかかります。申告期限内の譲渡を狙う場合でも、想定外の書類不備で期限を越えると優遇措置を失うリスクがあります。専門家と連携し、余裕を持った日程を設計してください。

金庫株導入前のチェックリスト10項目でリスクを低減

以下は原文・参考の内容を整理したチェックリストです。実行可否の検討段階で、後継者や取締役が共通認識を持てるよう活用してください。


  1. 分配可能額が十分か
  2. 取得資金を無理なく用意できるか
  3. 取得後の運転資金に余裕が残るか
  4. 株式取得日程が申告期限内か
  5. 譲渡制限株式かどうかを確認したか
  6. 定款に売渡請求規定があるか
  7. 株主総会・取締役会の決議準備は万全か
  8. 相続税の取得費加算特例の要件を満たすか
  9. みなし配当課税の不適用期間内か
  10. 顧問税理士から会計仕訳の確認を受けたか


各項目に○×を付け、×が残る場合は代替スキーム(持株会社化や信託の活用など)も検討しましょう。

専門家と二人三脚で最適な事業承継計画を策定

金庫株は税務・会計・法務の複合領域です。オーナーが独断で動くのではなく、事前に専門家へ相談することが成功への第一歩となります。

税理士が資金計画と相続税試算をサポート

納税資金を自社株買いで用意する場合、取得金額と税額のバランスを綿密に試算する必要があります。税理士は申告期限や取得費加算特例を踏まえた資金シミュレーションを提供できます。

司法書士・弁護士が定款整備と議事録作成を支援

売渡請求条項の新設や変更登記、議事録の適正化は司法書士・弁護士の守備範囲です。法務面の不備は手続が無効になる重大リスクにつながるため、専門家チェックが欠かせません。

金融機関と早期の意見交換で資金調達を円滑に

取得資金が不足する場合は銀行借入で賄うケースもあります。金融機関は自己株取得による純資産減少を懸念するため、取得後の事業計画を説明し納得感を得ることが重要です。

ケーススタディで学ぶ金庫株活用の実務

原文・参考で示された代表的な効果を基に、典型的な3社のケースを簡略化して紹介します。自社の状況と照らし合わせ、イメージを深めてください。

親族内承継で後継者の株式比率を70%に引き上げたA社

法定相続人が4名いたA社では、相続発生後に定款の売渡請求規定を利用し、会社が後継者以外の相続人から自社株を買い取る形で金庫株を取得。後継者の持株比率は42%から71%となり、迅速な事業判断が可能になりました。

社内承継で経営陣に株式を集中させたB社

役員持株会を形成していたB社は、退任役員の保有株を会社が買い取り金庫株化。その後新任役員へ譲渡し、経営陣が議決権の過半数を保有する体制を維持しました。余剰金の範囲で取得したため、財務安全性も確保できました。

第三者承継に備え事前に金庫株を確保したC社

将来のM&Aを視野に入れる非上場のC社は、10%相当の金庫株を事前取得。譲受候補先への対価として自己株式を充当する計画を立て、現金流出を抑えつつ企業価値を高める準備を整えました。

活用を成功させるためのポイントを総復習

これまでの内容を踏まえ、金庫株を使った事業承継を軌道に乗せる要点を再確認します。

企業の財務体力を正確に把握する

取得額とキャッシュフローの関係を精査し、投資計画に支障が出ないよう資金繰りを管理する。

スケジュールは税制優遇の期限から逆算する

3年以内・3年10か月以内といった期限を守ることが節税効果を最大化する鍵。

手続はガバナンスと透明性を優先する

株主総会決議、公告、登記などを怠らず実施し、取引価格の妥当性を資料で説明できるよう備える。

まとめ

金庫株は納税資金確保や株式分散防止に役立つ一方、分配可能額の制約や資金流出リスクを伴います。財務状況を見極め、優遇税制の期限を守りつつ専門家と進めれば、後継者の経営権を守りながらスムーズな事業承継を実現できます。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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