自己株式の事業承継での活用法とは?金庫株を利用する注意点も解説

事業承継における自己株式(金庫株)の活用方法とそのメリット・デメリットについて解説します。相続税の納税資金確保や株式分散防止など、効果的な活用法と注意点を詳しく説明します。

目次

  1. 事業承継における自己株式の利用
  2. 事業承継で自己株式が活用できるケース
  3. 事業承継における自己株式活用の注意点
  4. まとめ

事業承継における自己株式の利用

事業承継の際に自己株式(金庫株)を活用することで、後継者の税金負担を軽減し、円滑な承継を実現できる可能性があります。金庫株とは、会社が自社の発行した株式を株主から買い取り、自社で保有している株式のことを指します。


2001年の商法改正以前は、自己株式の取得には様々な制限がありましたが、改正後はその制限が大幅に緩和されました。現在では、取得目的や時期、回数に制限なく、企業は自社株式を株主から買い戻すことができるようになっています。

金庫株という呼び名は、会社が自社株を保管しているイメージから生まれたと考えられています。この自己株式の活用は、特に中小企業の事業承継において重要な役割を果たす可能性があります。

事業承継の場面で自己株式を活用する主な方法としては、以下の2点が挙げられます:

 1. 相続税の納税資金の確保

 2. 株式の分散防止による経営の安定化

これらの方法を適切に活用することで、スムーズな事業承継を実現し、企業の継続的な発展を支援することができます。次の項目では、これらのメリットについて詳しく見ていきましょう。

事業承継で自己株式が活用できるケース

事業承継において自己株式を活用できる場面は、大きく分けて2つあります。それぞれについて詳しく説明していきます。

相続税支払いの資金源としての活用

事業承継の際、経営者から後継者へ自社株をはじめとする財産が引き継がれますが、これらの資産は即座に現金化できるとは限りません。特に非上場企業の株式は流動性が低く、換金が容易ではありません。

そこで、相続した自社株を会社に買い取ってもらい、その買取金額を相続税の支払いに充てるという方法が有効です。この方法には、以下の2つの税務上の優遇措置があり、これらを併用することでより大きな効果を得ることができます。

 1. みなし配当課税の不適用 通常、自社株を発行会社に譲渡した場合、株主に生じる株式譲渡益は「みなし配当」とし
    て総合課税の対象となり、多額の税金がかかりやすくなります。しかし、相続で取得した非上場株式を相続税の申
        告期限から3年以内に発行会社に譲渡した場合、その譲渡益は「みなし配当」として扱われず、税率20.315%の通
        常の譲渡益課税が適用されます。

 2. 取得費加算の特例 相続や遺贈で財産を受け取った人が、その財産を相続発生から3年10ヶ月以内に譲渡した場合、
        譲渡所得の計算上、支払った相続税の一部を取得費とみなすことができます。これにより、譲渡所得を減少させ、
        税負担を軽減することができます。

これらの優遇措置を活用するためには、所定の書類を税務署に提出する必要があります。適切な手続きを踏むことで、相続税の納税資金を効果的に確保することができます。

株式分散を防ぐ効果

経営者が亡くなった場合、その保有していた株式は法定相続人に相続されます。法定相続人が多数いる場合、株式が分散され、後継者の持株比率が低下する可能性があります。これにより、後継者に経営権を集中できなくなり、重要な意思決定が難しくなるなど、安定した会社経営に支障をきたす恐れがあります。

自己株式を活用することで、このような状況を回避し、株式の分散を防ぐことができます。具体的には、会社が後継者以外の相続人から自社株を買い取ることで、持株比率を維持し、経営権の集中を図ることができます。

経営権を維持するためには、少なくとも株主総会における普通決議が可能な50%超の株式を保有することが必要です。しかし、より強固な経営権を確保するためには、約70%の株式を保有することが望ましいとされています。

株式の分散防止策としては、経営者が存命中に金庫株を保有するよう手続きしておくことが最も確実です。ただし、経営者が亡くなった後でも、以下の条件を満たすことで、会社が強制的に自社株の買取りを行うことができます:

1. 譲渡制限株式であること

2. 定款に売渡請求が可能であることが明記されていること

3. 自己株式取得が財源規制に違反しないこと

これらの条件を満たすことで、経営者の死後も効果的に株式の分散を防ぎ、安定した経営基盤を維持することが可能となります。


事業承継における自己株式活用の注意点

自己株式の活用には多くのメリットがありますが、同時にいくつかのデメリットも存在します。事業承継を検討する際には、これらのデメリットも十分に理解し、慎重に判断する必要があります。主なデメリットとして、以下の2点が挙げられます。

 1. 買付ルールの制限 自社株買いは株価に影響を与える可能性があるため、一定のルールが定められています。具体的
    には、株式の取得時点の「分配可能額」までしか自社株買いを行うことができません。分配可能額は、「その他の
        資本剰余金の額+その他利益剰余金の額」で計算されます。

このルールにより、財務状況によっては十分な量の自社株を買い取ることができない場合があります。そのため、自社株買いを行う際には、事前に余剰金の額を確認し、ルールに則った取引を行うことが重要です。

 2. 多額の取得資金の必要性 自社株買いを行うためには、実際に現金(キャッシュ)が必要となります。剰余金の分配
        可能額が十分であっても、実際に金庫株を取得するための資金が不足している場合、自社株買いを実行することが
        できません。

また、自社株買いによってキャッシュが減少すると、経営資金が不足するリスクも生じます。資金不足に陥ると、会社の成長に向けた投資ができなくなる可能性があります。

これらのデメリットを考慮すると、事業承継を行う際に自社株買いを利用するかどうかは、企業の財務状況を十分に考慮して慎重に判断する必要があります。特に以下の点に注意が必要です:

 • 自社株買いを行うための十分な資金的余裕があるか

 • 自社株買い後も事業運営に支障がないか

 • 将来の投資計画に影響を与えないか

これらの点を総合的に検討し、自社の状況に応じた最適な判断を下すことが重要です。場合によっては、自社株買い以外の事業承継方法を検討することも必要かもしれません。

自己株式の活用は事業承継において有効なツールとなり得ますが、同時にリスクも伴います。メリットとデメリットを十分に理解し、専門家のアドバイスを受けながら、自社にとって最適な事業承継策を選択することが成功への鍵となります。

まとめ

事業承継における自己株式の活用は、相続税の納税資金確保や株式分散の防止など、大きなメリットがあります。一方で、買付ルールの制限や多額の取得資金の必要性といったデメリットも存在します。適切な活用のためには、企業の財務状況を慎重に検討し、専門家のアドバイスを受けながら計画的に進めることが重要です。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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