円滑なM&A承継のための中小企業経営者向け実践ガイド
事業承継に悩む中小企業経営者へ。M&Aを活用した承継のメリット・デメリットから具体的手続、譲渡後の経営者の選択肢まで解説します。専門家のサポートや費用面の注意点にも触れ、円滑な承継を実現するポイントをまとめました。本記事を読めば、承継の流れと注意点がよりはっきりします。
目次
▶目次ページ:事業承継とは(第三者への承継)
日本において、中小企業の事業承継問題は年々深刻化しています。帝国データバンクの調査では、後継者不在率が50%を超えており、特に親族内での事業承継が難しいケースが増加傾向にあります。これは、高齢の経営者が多いにもかかわらず、後を継ぐ人材がいないまま経営を続けている企業が多いことを示唆しています。
こうした状況を受け、近年は第三者承継としてのM&A(合併・譲受)を検討する経営者が増えてきました。中小企業が事業を継続させるために、M&Aという手段が現実的かつ有効な選択肢となりつつあるのです。実際、M&Aによる事業承継の割合は上昇し、調査では2割を超える結果も出ています。家族や従業員への承継が困難な場合、外部の企業へ譲渡することで、雇用や取引先関係、会社の存続を守る道が拓けるからです。
M&Aによる事業承継には大きなメリットがある一方で、避けて通れないデメリットも存在します。これらを正しく理解し、自社の状況に合わせて慎重に判断することが重要です。
事業の継続が可能
後継者がいない場合でも、M&Aを活用すれば事業を継続できるチャンスが広がります。従業員の雇用や取引先との関係を守れるため、経営者としての責任を果たしやすくなります。
企業価値と経営基盤の強化
M&A後は、買収側企業の資金力や人的リソースを活かせるため、企業規模を拡大しやすくなります。結果として、市場での競争力強化や新規事業への挑戦がしやすくなる可能性があります。
従業員の待遇改善
経営規模拡大により、給与や福利厚生面でプラスの変化が見込まれる場合があります。人材育成やキャリアアップの機会も増え、従業員のモチベーション向上につながります。
新たな成長機会獲得
買収先がもつ販売網や技術、経営ノウハウを取り込むことで、従来は難しかった新規事業や他地域・海外への進出が実現しやすくなります。
個人保証からの解放(場合による)
中小企業経営者の場合、借入時に個人保証を求められることが多いですが、M&Aによって負債の整理や条件変更が進むと、個人保証から解放される可能性があります。
経営権を手放す・権限が縮小する
会社を譲渡した場合、これまでの経営権を失うことになります。また、譲渡後も残留する場合、買収先企業の方針に従わなければならず、自由な経営判断ができなくなる可能性があります。
収入面の変化
会社を完全に離れれば、今まで得ていた役員報酬などの収入がなくなります。譲渡対価である程度の資金を確保できても、長期的な生活設計や投資プランを立てておく必要があります。
組織文化や人事体制の違い
買収先企業との組織文化が合わない場合、従業員のモチベーションが低下したり、離職率が上がったりするリスクがあります。PMI(統合プロセス)を丁寧に実施しないと、期待するシナジーが得られない恐れもあります。
従業員への影響
新体制への不安から退職者が出る可能性があります。譲渡条件として雇用継続を確保したとしても、実際の待遇や働く環境が変化するため、事前の説明や納得感を得るためのコミュニケーションが不可欠です。
統合の難しさ
買収企業の制度や価値観に合わせる過程で、実務上の混乱や衝突が生じることが少なくありません。統合がスムーズに進まないと、譲渡後の会社運営に大きな支障をきたすおそれがあります。
経営者はこれらメリット・デメリットを十分に理解し、従業員や取引先、さらには自身の将来像を踏まえてM&Aの是非を検討することが大切です。専門家のサポートを受けながら準備を進めることで、より適切な判断が下せるでしょう。
事業承継を円滑に進めるには、計画的かつ段階的なアプローチが不可欠です。中小企業庁の「事業承継ガイドライン」などを参考にしながら、以下の5ステップを意識するとよいでしょう。
60歳前後を目安に着手
経営者が60代に入る頃から、後継者の有無や事業の方向性を再確認します。M&Aを含む事業承継には数年単位の時間がかかることも多く、早期に動き始めるほど選択肢が広がります。
専門家への早期相談
税理士やM&A仲介会社、弁護士などに早めに相談し、自社の状況を客観的に把握しておくことが重要です。譲渡価格の相場や税務面の課題、潜在的な買い手候補などの情報を入手できます。
財務状況の可視化
売上高や利益率、負債の状況などを整理し、企業価値を高める余地を探ります。
組織・人材の分析
社員構成やスキル、リーダー層の状況を点検し、買収側から見た魅力と課題を洗い出します。
事業上の強み・弱みの確認
取引先や市場の位置づけを客観的に把握することで、譲渡条件の交渉や相手選定に役立ちます。
収益性と効率化
不採算事業の見直しやコスト削減、新技術・新事業への投資を検討し、財務体質を強化します。
ブランド力の向上
自社ブランドが持つ強みを再評価し、マーケティング戦略を再構築しておくと、買収側にとっての魅力が増します。
人材育成と組織活性化
従業員のスキルアップやモチベーション向上に取り組み、M&A後の円滑な統合をサポートできる体制を整えます。
M&Aの目的とゴール設定
会社を譲渡する主な目的(事業存続、後継者問題解決、会社規模の拡大など)を明確化し、譲渡後の将来像を描きます。
譲渡範囲や条件の確認
全株式譲渡なのか、一部株式譲渡なのか、あるいは特定事業部門のみ譲渡するのかを検討します。雇用継続や経営方針の継承など、譲渡条件となる要望もまとめておきましょう。
マッチングの開始
仲介会社などを通じて、希望条件に合った譲受候補を探します。企業規模、業種、経営理念の近さなどをチェックしながら進めることが重要です。
基本合意とデューデリジェンス
候補企業が見つかったら、基本的な条件をまとめた合意書を作成し、買収監査(デューデリジェンス)を実施します。問題点が見つかった場合は、その時点で条件交渉や修正が行われます。
最終契約とクロージング
譲渡価格や雇用条件などを最終決定し、契約書を締結したうえで株式や事業の引き渡しが行われます。
PMI(統合プロセス)の開始
譲渡後は、経営体制の移行や従業員への説明などを進め、組織の一体感を高めることが大切です。
これら5つのステップを踏むことで、M&Aを活用した事業承継の成功確率は格段に上がります。必要に応じて税理士や仲介会社、弁護士などの専門家を活用すると、想定外のリスクを最小限に抑えられるでしょう。
M&Aの準備を進めるにあたって、経営者が押さえておきたい具体的なポイントを整理します。
事業承継には、親族内承継、従業員(MBO)への承継、第三者への承継(M&Aなど)といった複数の方法があります。それぞれに一長一短があり、自社の状況によってはM&Aよりも親族内承継や従業員承継のほうが適している場合も考えられます。
これらを総合的に検討し、M&Aがベストだと判断したら、早めに専門家へ相談しましょう。
これらの条件を事前にまとめておくことで、譲受候補企業との交渉がスムーズになります。専門家とともに細部を詰めていく段階で、優先順位をはっきりさせておくのもポイントです。
秘密保持契約(NDA)の締結
機密情報を開示する前に、NDAを結ぶことで情報漏洩を防ぎます。
基本合意書の作成
譲渡対象や価格の目安、スケジュールなどの大枠を文書化し、双方が合意を確認します。
デューデリジェンス(買収監査)
譲受側が自社の財務や法務、事業内容などを詳しく調査します。ここで指摘された問題点は交渉の重要材料となります。
最終条件交渉
デューデリジェンス結果を踏まえて、譲渡価格や雇用条件などを最終決定します。
契約締結とクロージング
弁護士などの専門家と相談しながら契約書を作成し、正式にM&Aが成立します。
M&Aを円滑に進めるには、多方面の専門知識が必要です。経営者だけで全てを把握するのは難しいため、下記のような専門家のサポートを積極的に活用することが効果的です。特に中小企業の経営者にとっては、M&A仲介会社や会計士・税理士のサポートが大きな助けとなります。
マッチング支援
豊富なネットワークを通じて、譲受候補の企業を探し出し、条件面や経営方針の整合性などを確認して紹介してくれます。これにより、経営者が個人で買い手を探すよりも格段に効率的です。
企業価値評価
財務状況や将来性を踏まえ、適切な売却価格を算定する手伝いをします。価格が高すぎても買い手が現れず、低すぎると経営者が不利になるため、客観的な評価が重要です。
交渉や契約サポート
買収先企業とやり取りする際の調整役を担い、価格交渉や条件のすり合わせを支援します。また、譲渡契約に至るまでのスケジュール管理や必要書類のチェックなども代行し、M&Aプロセスをスムーズに進める役割を果たします。
PMIにおけるアドバイス
実際に譲渡が成立してからが本番という面もあり、PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)では組織統合の課題が必ず発生します。M&A仲介会社は、過去の成功・失敗事例を踏まえたアドバイスを行うことが可能です。
財務デューデリジェンス
買収側が実施するデューデリジェンスに対応する際、正確な財務情報を開示するためにも会計士や税理士の協力が不可欠です。
企業価値算定と税務戦略
企業価値を算定する際には多角的な分析が必要であり、税理士などの専門知識があれば、税務面での最適なスキームを検討できます。
M&A後の会計・税務サポート
クロージング後に経理・税務の体制を変更する必要があるケースも多いため、継続的なサポートを受けるとリスクが軽減されます。
法務デューデリジェンス
取引先との契約内容や知的財産の扱い、許認可の要件など、専門的な知識がなければ見落としがちな法的リスクを洗い出します。
契約書の作成とレビュー
譲渡契約や基本合意書などの重要書類を作成・確認し、万一のトラブルから経営者を守るための条項がしっかり盛り込まれているかをチェックします。
紛争リスクの抑制
後々に発生する可能性のある係争問題や、潜在的なリスクを事前に把握し、契約上でどのように対処するかを明確化しておくことが重要です。
専門家による総合的なサポート体制を整えれば、経営者は企業価値の向上や従業員とのコミュニケーションなど、本来注力すべき業務に集中できます。初期費用や成功報酬などのコストはかかりますが、長期的にはM&A成功の確率を高める投資と考えられるでしょう。
M&Aを実行するにあたって、どのような費用が発生するのかを把握しておくことは、経営者にとって重要なポイントです。仲介会社への報酬だけでなく、デューデリジェンス費用や税金など、多方面に費用がかかる可能性があります。
着手金・相談料
契約締結時点で支払う初期費用です。無料とする仲介会社もありますが、依頼前によく確認しましょう。
月額報酬
成約までに一定額の報酬を毎月支払うケースもありますが、近年は月額報酬がないプランを選択できる仲介会社も増えています。
中間報酬
基本合意を締結したタイミングで発生する報酬で、仲介会社によって金額設定が異なります。
成功報酬
M&Aが成立した際に発生する費用です。一般的に譲渡価格に応じて報酬率が上乗せされる仕組みが多く、譲渡金額が高いほど料率も上がる傾向にあります。
成功報酬は譲渡価格に大きく左右される
高い価格で譲渡を希望すれば、その分成功報酬も高くなる場合があります。
報酬体系は会社ごとに異なる
複数の仲介会社を比較し、契約条件やサポート内容を検討することが大切です。
費用対効果を常に意識
仲介会社が提供するサービスの質や専門性の高さを見極め、最適なパートナーを選ぶようにしましょう。
株式譲渡の場合
譲渡所得税として20.315%(所得税15%、住民税5%、復興特別所得税0.315%)が課されます。他の所得とは分離課税なので、給与などの収入と合算されるわけではありません。
事業譲渡の場合
売却益が発生した場合、法人税が課税対象となり、譲渡資産には消費税がかかるケースもあります。
特例措置の活用
承継形態によっては税制上の特例を受けられる場合もありますが、適用条件が細かく定められているため、税理士などに相談の上で判断しましょう。
税金の扱いは複雑であり、事前にプランを誤ると想定外のコストがかかることがあります。適切な形態を選ぶとともに、早めに専門家のアドバイスを受けておくことが肝心です。
M&Aが成立しても、それですべてが終わるわけではありません。譲渡後のPMI(Post Merger Integration)は、事業の継続性を確保し、シナジーを生み出すうえで非常に重要です。経営者は次の点を意識することで、M&A後の混乱を最小限に抑えられます。
会社の業績が好調な時期を狙う
経営状況が良好であれば、買い手企業も高い評価額を提示しやすくなります。また、従業員に対してもポジティブな印象を与えやすいでしょう。
後継者不在や体力のあるうちの決断
年齢とともに体力や判断力が衰える前に、できるだけ早期に行動を起こすのが望ましいです。
業界全体の動向を注視
業界再編期や市場好況期など、外部要因によっては買い手からの引き合いが増えるタイミングがあります。これを逃さずにつかむことが大切です。
事前の説明会と個別面談
従業員は自分の雇用がどうなるかに強い関心を持っています。M&Aの目的や影響範囲を正しく伝え、不安を取り除く努力が必要です。
待遇維持や向上に向けた交渉
可能な限り現在の給与や福利厚生を保つことを条件に盛り込むなど、従業員を守る措置を買い手企業と交渉しましょう。
労務面の統合
就業規則や評価制度、人事異動の方針などが大きく変わる可能性があるため、M&A成立後も継続的にコミュニケーションを図ることが重要です。
情報共有と組織の再編
経営に必要な情報を譲受側企業にしっかり伝え、組織再編がスムーズに進むよう協力します。特に会社独自のノウハウや取引先情報などは、しっかりドキュメント化しておくと統合が進みやすいです。
企業文化のすり合わせ
買収先と被買収企業で文化や慣習が違えば、従業員のモチベーション低下につながる可能性があります。双方の良い部分を取り入れる姿勢を示し、リーダーシップを発揮することが求められます。
取引先・顧客との関係維持
重要顧客や取引先に対しては、M&Aによる影響や今後の体制を丁寧に説明し、信頼を保つ努力を続ける必要があります。
モニタリングと調整
新体制に移行してからも定期的に問題点を洗い出し、必要に応じて組織や業務フローを修正します。経営者がアドバイザー的立場で関わる場合も多く、経験や人脈を活かして支援しましょう。
PMIは最初の1~2年が肝心と言われています。経営者が率先して動き、譲受側企業の経営陣と二人三脚で取り組むことで、スムーズな統合と事業のさらなる発展が期待できます。
M&A後、経営者が会社を去るだけでなく、引き続き何らかの形で事業に携わるケースは多く存在します。これは、「会社売却後も経営者として残るなら|中小企業のM&A成功の虎の巻」(参考)でも解説されているように、買収先企業側が、元の経営者の知見とノウハウを求める場合が増えているからです。
経営者として残る場合のメリットとデメリット
メリット
事業拡大と成長機会
買収側の資金や人材、技術を活用でき、これまで手が届かなかった事業分野や設備投資に挑戦できる余地が広がります。
従業員や顧客との関係維持
引き続きトップとして社内外をけん引すれば、従業員は安心し、顧客も安心感を得やすいです。
経営ノウハウの継続活用
長年培った経営ノウハウや人脈をフルに活かし、会社の成長に貢献できます。
個人保証などの負担軽減
M&Aにより、個人保証や過度な借入金の負担から解放されるケースもあります。
デメリット
経営の自由度が低下
すでに会社の所有権は買収先に移っているため、大きな意思決定には買収企業の了承が必要になります。
組織文化や上層部との衝突
元の社風と異なる体制や意思決定プロセスに合わせなければならず、ストレスを感じる場面が出てくる可能性があります。
収入・権限の変化
以前のように経営トップとしての裁量や金銭的報酬が得られないケースも想定されます。
新たな人間関係構築の必要性
譲受先企業の役員や従業員、さらにグループ会社などとの円滑な連携を築くには時間と労力が必要です。
趣味や旅行などの自己実現
会社経営から離れ、自由に時間を使えるようになります。長年忙しく動いていた経営者ほど、新鮮な気持ちで人生設計を練り直すことが可能です。
投資家としての活動
譲渡で得た資金を活用して、不動産投資や株式投資、スタートアップ支援を行うケースもあります。
新たな事業の立ち上げ
M&A後に得た資金をもとに、新しいビジネスを立ち上げる経営者も存在します。
地域貢献や社会活動
長年培った経験や人脈を、ボランティアや地域振興などの活動に活かす選択肢もあります。
いずれの道を選ぶにしても、M&Aによる譲渡益をどのように活用し、どのように第二の人生を送るかは経営者それぞれの価値観やライフプランに左右されます。会社に残留するか、新たな道へ進むか、事前に家族や周囲の意見も聞きながらじっくり検討することが大切です。
先述のとおり、譲渡後に引き続き経営に関与するかどうかは、中小企業のM&Aにおいて重要なポイントです。「会社売却後も経営者として残るなら|中小企業のM&A成功の虎の巻」(参考)には、残留を選択する際の具体的なポイントや成功事例が詳しく述べられています。ここでは特に注目すべき点をまとめます。
売却後も残ると決めた経営者は、買収先にとって「この経営者と組むメリットが大きい」と思わせることが重要です。そのためには、譲渡前から財務改善や事業計画の明確化、人材育成などに取り組み、会社の価値を高める努力が求められます。
役割分担の詳細設定
社長として続投するのか、相談役・顧問としてアドバイスするのか、あるいは特定の事業部門の担当となるのかを明確に決めておく必要があります。
意思決定プロセスの合意
買収先と経営判断の仕組みをどうするのか、承認フローや意思決定会議のメンバーなどを事前に詰めておくことが大切です。
経営者のモチベーション管理
自由度は低下しがちですが、新たな環境下でモチベーションを維持するためにも、責任範囲や評価制度をクリアにしておくほうがスムーズに仕事に取り組めます。
買い手企業が期待しているのは、経営者が持つノウハウや人脈、そして従業員をまとめる力です。したがって、
従業員の不安解消
M&A後の待遇や将来像について正しく伝え、円滑な業務継続を支えます。
取引先や顧客へのフォロー
急激な変化を嫌う顧客も多いので、従来の経営者自らが懇切丁寧に説明し、関係性を維持する努力を行うことが大事です。
自社の強みを体系化
経験や感覚に頼っていたノウハウをドキュメント化し、買収先企業が理解できる形で共有すると、のちのPMIがスムーズに進みます。
このように、会社売却後も経営者として残ることは単純に「会社に居続ける」という話ではなく、新しい環境の中で自らの役割を再設定することに大きな意味があります。
実際に会社を売却後も経営者が残る形を選択し、成功を収めた事例は少なくありません。たとえば、「中小企業のM&A成功の虎の巻」(参考)でも紹介されている以下のようなケースがあります。
ニッチ市場での成長事例
地方で技術力は高いが営業力に課題を抱えていた企業が、大手の販売網を持つ企業に買収されることで販路を拡大。元経営者はそのまま社長として残り、技術面の統括を続けながら売上を飛躍的に伸ばしたケース。
伝統産業と大手企業のコラボレーション
老舗の和菓子店が全国展開を目指す食品メーカーに事業を譲渡し、元社長は商品開発部長として伝統の味を守りつつ、大手の資本とマーケティング力で販路を拡大。従業員の雇用を守りながらブランド知名度も上昇させた。
ITベンチャーと大手通信会社の提携
資金不足や人材不足で思うように事業拡大できなかったIT企業が、大手通信会社の傘下に入ることで潤沢な予算と優秀な人材を獲得。元経営者は執行役員として新規事業を推進し、結果的に売上が数倍に伸びた事例。
これらに共通するのは、**「経営者自身が残留して指揮を執り続けることで、買収側企業の資金力やネットワークを最大限に活かせた」**点です。事業の核となるノウハウや人的ネットワークを活かせば、M&A後の統合プロセスを円滑に進められるうえ、大幅な成長を遂げることも可能になります。
M&Aは、中小企業の後継者不在問題を解決し、さらに事業を成長させるための有力な手段です。会社を譲渡するだけでなく、その後も経営者として残る選択肢を取れば、自社の強みを継続的に活かしたり、従業員や顧客の不安を和らげたりできる可能性があります。
一方、譲渡後は経営権の制限や新たな人間関係の構築など、デメリットや課題も多いのが現実です。
成功のためには、①早めの準備と専門家の活用、②財務・税務・法務面のリスク管理、③従業員や取引先との誠実なコミュニケーション、④買収先との役割分担や企業文化の統合を丁寧に進めることが不可欠です。
M&A成立後もアクティブに経営へ関与するのか、新しい道へ進むのかは各経営者の判断に委ねられますが、どちらの道を選ぶにせよ、綿密な計画と周囲の理解、そして的確なサポート体制が大切になります。自社と従業員を守り、さらに大きな成長につなげるため、ぜひ本記事を参考に事業承継を検討してみてください。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画