NPV計算方法を具体例で解説|投資判断の見方と注意点
NPV(正味現在価値)の計算方法を、1,000万円の投資例とExcelの式で分かりやすく解説します。将来キャッシュフロー、割引率、現在価値の関係に加え、プラス・マイナスの判断基準、M&Aや設備投資で使う際の注意点、計算ミスを防ぐExcel入力のポイントも確認できます。
目次

▶目次ページ:企業価値評価(DCF法)
NPV(正味現在価値)は、将来得られるキャッシュフローを現在の価値に直し、その合計から初期投資額を差し引いた金額です。計算の結論はシンプルで、「投資によって、求める収益率を上回る価値がどれだけ生まれるか」を金額で示します。
同じ1,000万円でも、今日受け取る場合と3年後に受け取る場合では価値が同じではありません。今日の1,000万円は運用や返済に使えますが、3年後の1,000万円はそれまで使えないためです。この差を反映するのが、現在価値と割引率の考え方です。
設定した割引率を上回る価値が見込まれます。一般には、投資を前向きに検討できる水準です。ただし、資金繰りや人員不足など、数値以外の制約も確認します。
設定した割引率を満たせない計算結果です。必ず現金損失が生じるとは限りませんが、同じ資金を別の用途に使う選択肢と比べて、投資価値が不足している可能性があります。
NPVと会計上の利益は別物です。利益は売上や費用を会計ルールに従って計算します。一方、NPVでは実際の資金の出入りであるキャッシュフローを使い、受け取る時期まで考慮します。黒字計画でも、設備投資や運転資金の負担が大きければNPVがマイナスになることも。意外と多い落とし穴です。
NPVの基本式は、次のとおりです。
NPV = Σ{CFt ÷(1+r)のt乗}- 初期投資額
式だけを見ると難しく感じますが、使う要素は4つです。
CFtは、t年目に投資から得られる正味のキャッシュフローです。売上収入だけではなく、仕入、人件費、税金、設備投資、運転資金の増減などを反映します。M&A(合併・買収)や企業価値評価では、一般にフリーキャッシュフローを使います。
割引率は、将来のキャッシュフローを現在価値へ直すための率です。企業全体が生み出すキャッシュフローを評価する場合は、WACC(加重平均資本コスト)を基準にすることがあります。WACCは、借入と株主資本に求められるコストを加重平均したものです。
社内の設備投資では、WACCに案件固有のリスクを加えたハードルレートを使う場合もあります。ただし、根拠なく一律に上乗せすると、成長投資を過小評価しやすくなります。
1年目ならtは1、2年目ならtは2です。受取時期が先になるほど分母が大きくなり、現在価値は小さくなります。早く回収できる投資ほど、ほかの条件が同じならNPVは高くなりやすい仕組みです。
nは、計算対象とする期間です。3年間の投資ならnは3となります。企業価値評価では、数年間の事業計画期間に加え、その後の価値を残存価値として計算することがあります。
この順番を守れば、計算自体は複雑ではありません。難しいのは数式よりも、キャッシュフローと割引率の前提を妥当に置くことです。
ここでは、初期投資額1,000万円、投資期間3年間、割引率5%の例を使います。
1年目のキャッシュフロー 400万円
2年目のキャッシュフロー 500万円
3年目のキャッシュフロー 300万円
400万円 ÷(1+0.05)の1乗 = 約380.95万円
1年後に受け取る400万円は、現在の約380.95万円に相当します。
500万円 ÷(1+0.05)の2乗 = 約453.51万円
2年後の500万円は、受取時期が1年目より遅いため、現在価値へ割り戻します。
300万円 ÷(1+0.05)の3乗 = 約259.15万円
3年後の300万円の現在価値は、約259.15万円です。
NPV = 380.95万円+453.51万円+259.15万円-1,000万円
NPV = 93.61万円
計算結果はプラス93.61万円です。この前提では、5%の割引率を考慮しても約93.61万円の価値が残るため、投資を前向きに検討できます。
ただし、「必ず93.61万円の利益が出る」という意味ではありません。予測したキャッシュフローが実現した場合の評価額です。
NPVは手計算でも求められますが、実務ではExcelを使うと前提変更が容易です。割引率や各年のキャッシュフローを変えれば、計算結果をすぐに比較できます。
ExcelのNPV関数は、通常、1年目以降のキャッシュフローを現在価値に割り引く関数です。0年目の初期投資を関数の範囲に含めると、初期投資まで1年分割り引かれてしまいます。
たとえば、割引率がB1、初期投資額がB2、1年目から3年目のキャッシュフローがB3からB5に入力されている場合、式は次の形です。
=NPV(B1, B3)-B2
初期投資をマイナス1,000万円として入力する場合は、NPV関数の結果にそのセルを加えます。
割引率、売上成長率、原価率、設備投資額などを入力セルとして分けると、計算の根拠を確認しやすくなります。数式の中に数値を直接入れるより、前提変更にも強い設計です。
標準ケースだけでなく、楽観ケースと悲観ケースも作ります。
変動させる主な項目
売上高、原価率、設備投資額、運転資金、割引率など、NPVへの影響が大きい項目を選びます。たとえば、売上が計画を10%下回る、設備投資が追加で必要になる、割引率が1%上がる、といった変化を入れます。
NPVがどの前提でマイナスへ転じるかが、投資リスクを判断する材料になります。
NPVは、新規出店、工場設備、ITシステム、不動産など幅広い投資判断に使えます。M&Aでも考え方は同じですが、買収価格だけでなく、買収後に必要となる追加投資や統合費用まで含めることが重要です。
DCF法は、将来のフリーキャッシュフローを現在価値に割り引いて事業価値を求める方法です。NPVの考え方が計算の中心にあります。企業価値評価では、事業計画期間のキャッシュフローに加え、その後の残存価値も現在価値へ割り戻します。
ただし、算定された事業価値と株主が受け取る株式価値は同じではありません。一般には、事業価値に非事業用資産を加え、有利子負債などを差し引いて株式価値を求めます。
IRR(内部収益率)は、NPVが0になる割引率です。NPVは投資によって増える価値を金額で示し、IRRは投資効率を率で示します。
小規模案件はIRRが高くても、増える価値の総額が小さいことがあります。反対に、大規模案件はNPVが大きくても、必要資金や回収期間が経営を圧迫することも。両方を確認し、資金制約が強い場合は投資回収期間も併用します。
| 案件 | NPV(億円) | IRR(%) | 投資額(億円) |
|---|---|---|---|
| A案 | 100 | 17 | 140 |
| B案 | 80 | 20 | 110 |
| C案 | 70 | 23 | 80 |
この表を使う場合も、NPVの最大値だけで結論を出してはいけません。案件を分割できるか、同時に実行できるか、資金調達余力があるかを確認します。
NPVは数字で結論が出るため、客観的に見えます。しかし、入力する前提が楽観的なら、精密に計算しても結果は楽観的です。M&A実務では、ここで判断が止まることがあります。
減価償却費は費用ですが、その期の現金支出ではないため、キャッシュフロー計算では調整が必要です。一方、設備投資や売掛金・在庫の増加は、利益にすぐ全額反映されなくても資金を使います。利益計画をそのままCFtへ入れないことが基本です。
企業全体に帰属するキャッシュフローを使うならWACC、株主に帰属するキャッシュフローを使うなら株主資本コストを用いるのが原則です。分子のキャッシュフローと分母の割引率が対応していないと、評価結果がゆがみます。
企業価値評価では、残存価値が評価額の大部分を占める場合があります。永久成長率を少し変えるだけでも結果が大きく動くため、過去実績、業界成長率、長期的な経済環境との整合を確認します。
NPVがプラスでも、投資直後の資金流出に耐えられなければ実行できません。人員、許認可、取引先との関係、借入余力、M&A後の統合体制など、金額化しにくい条件も同時に確認します。
経営会議には、NPVの金額だけでなく、初期投資額、予測期間、キャッシュフローの根拠、割引率、悲観ケースを示します。数字が変わった原因を追える資料にすると、投資後の検証にも使えます。
個別案件を計算する際は、初期投資額、投資期間、各年の予測キャッシュフロー、割引率の4点をそろえます。時期が年単位でない場合は、日付間隔に対応する計算方法を使う必要があります。
NPV計算は、将来キャッシュフローを割引率で現在価値に直し、その合計から初期投資額を引く方法です。プラスなら設定した収益率を上回る価値が見込まれますが、結論は予測と割引率に左右されます。Excelで標準・楽観・悲観の結果を比べ、M&Aや設備投資では資金繰り、IRR、実行体制も合わせて判断することが大切です。
著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事
編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人