M&Aか起業か徹底比較で叶える未来の賢い経営者入門
M&Aと起業、どちらで経営者になるべきか迷いますか?初期費用・資金調達・人材確保・許認可・顧客引継など実務面を具体例で比較し、時間とリスクを最小化しつつ夢を実現する最短ルートを税理士がやさしく解説します。
目次
▶目次ページ:企業買収(買収とは)
M&Aも起業も、最終的には自分が会社の所有権と経営権を握り、意思決定を行う点で同じです。しかし出発点が異なります。M&Aは既に走り出している会社を譲受し、その実績ごとバトンを受け取って経営を続ける方法です。一方、起業はゼロから会社を立ち上げ、理念や仕組み、商品サービスまでも自分で設計して動かしていく方法です。まずはこの違いを押さえることが、資金計画や行動スケジュールを立てる第一歩になります。
M&Aでは、前経営者が保有する株式を譲受することで会社の所有権を獲得します。譲受が成立した瞬間から取引先や顧客、従業員、許認可、そして現金・預金までもが一体で移転するため、スピーディーに事業を推進できる土台が整っています。個人向けスモールM&A案件であれば、1,000万円未満でも検討できる事例が増えており、会社員の方が独立を目指す手段としても現実味があります。
起業では、登記手続を経て会社を設立し、資本金を払い込んで事業を始めます。提供する商品やサービス、営業フロー、人材体制など全てを自分の手で作り上げる楽しさがありますが、顧客が付くまでの時間と追加資金の確保が課題になります。立ち上げ後も運転資金が減り続ける“ゼロイチ”の局面を乗り越える覚悟が欠かせません。
M&Aと起業の初期費用を比べることで、自分が準備すべき資金の大きさと内訳が明確になります。
M&Aの主な支出は三つに絞られます。第一に株式譲渡対価です。個人向け案件では500万円前後から検討でき、1円譲渡という特殊事例もあるものの一般的には対象外と考えます。第二にM&A仲介会社への報酬で、各社報酬体系に違いはあるものの、小規模案件では100万〜500万円が相場です。第三にデューデリジェンス費用や最終譲渡契約書のリーガルチェック、役員変更登記といった諸費用で、総額100万円以上になります。つまり買収金額が500万円の場合、合計で700〜1,000万円を見込むと良いでしょう。
株式会社を設立するだけでも、登録免許税15万円、定款認証約6万円、印紙代4万円などで合計30万円前後が掛かります。資本金は1円でも登記可能ですが、取引先や金融機関からの信用を得るためには100万円以上が目安です。さらに、オフィス取得費用や設備投資、広告宣伝費、事業開始後の運転資金を合わせると、学習塾のような小規模ビジネスでも500万円程度、飲食店では1,000万円程度が必要になります。最初の売上が見込めない期間も自前で資金を確保する点が、M&Aとの大きな差です。
試算上はM&Aも起業も700〜1,000万円前後の資金が目安となります。しかしM&Aの場合は譲受企業が持つ現金・預金を承継できるため、追加運転資金の手当が不要なケースがあります。起業は運転資金も含めて調達しなければならず、資金面での負担は相対的に大きくなります。
費用だけでなく、得られる時間価値やリスクも天秤に掛けて判断しましょう。
M&Aの最大の魅力は、既にある顧客基盤や取引先、人材、許認可、経営ノウハウを一括で受け取れる点です。前経営者が一定期間伴走してくれるケースも多く、立ち上がりから事業拡大フェーズに集中できます。「時間をお金で買う」という表現がぴったりです。
借入金の個人連帯保証を引き継ぐことが一般的で、買収資金の借入と合わせて二重の負担になる恐れがあります。さらに、デューデリジェンスで発見できなかった簿外債務が後日判明するリスクや、前経営者への信頼で成り立っていた顧客・従業員が離れるリスクも無視できません。
起業は最初から自由な事業設計が可能で、市場にまだ出ていない商品やサービスを創造できます。既存ビジネスの枠に縛られず、理念に沿った企業文化を築ける点は大きなやりがいです。
ゼロからの顧客・取引先開拓、人材リクルーティングは大きなハードルです。特に優秀人材を早期に採用するには高い人件費が必要で、IT関連であればさらに資金負担が増します。
中小企業市場では、数百万円から数千万円で譲受可能なスモールM&Aが増えています。これは後継者不足に悩む経営者が事業を継続させる選択肢としてM&Aを選び始めたためです。また取引規模が小さい分、交渉からクロージングまでの期間が比較的短く、個人でも実行しやすいことから注目されています。
親族内承継の割合は過去には9割以上でしたが、現在は半数程度に減少しています。少子化や後継者の意向、能力不足などを背景に、将来を託す相手を探す企業が増加しました。その結果、経験ある第三者に事業を承継する案件がマッチングサイトに数多く掲載され、個人でも手を挙げやすい環境が整っています。
後継者不在の背景にある三つの要因を整理
これらの要因が重なり、経営者が60代70代になっても後継問題が解決せず、黒字でも廃業せざるを得ない企業が増えています。M&Aは地域や業界の雇用を守る社会的機能も果たしているのです。
会社設立に伴う各種手続や設備投資、許認可取得を省略できるため、スモールM&Aは起業の準備時間とコストを大幅に削減できます。譲受企業の顧客と従業員、文化をそのまま活用できることで、初動から売上とキャッシュフローを確保しやすい点が評価されています。
時間短縮効果は許認可引継でさらに拡大
建設業や金融関連、酒類製造などでは新規許認可取得が数カ月から数年掛かる場合があります。株式譲渡であれば許認可を承継できるため、大幅な時間短縮が可能となります。時間こそが最大の資源であることを意識しましょう。
スモールM&Aであっても、成功には準備とコミュニケーションが不可欠です。
従業員や取引先との関係は、人間的な信頼を基盤に成り立っています。経営者が交代すれば、文化や方針が変わるのではないかという不安が生まれます。まずは丁寧なあいさつと対話を重ね、前経営者からの紹介や伴走期間を通じて新体制への安心感を醸成しましょう。
売却理由が不採算部門の整理である場合、譲受直後から再建プランを実行する責任があります。M&A仲介会社や税理士、公認会計士のサポートを受け、財務・税務面のリスクを十分に把握しておくことが大切です。
経営方針の変更は従業員の不安要因です。早期にヒアリングを行い、待遇や評価制度の変更は段階的に行うなど、優秀人材の退職を防ぐ取組が欠かせません。
人材流出を防ぐ三つのアクション
小さな誠意の積み重ねが、離職率を下げる鍵となります。
ここまでに整理した初期費用、時間価値、リスク、そして従業員や顧客との関係性を踏まえると、判断軸は大きく三つに集約されます。
売上が立つまでの時間を短縮したい場合、顧客基盤やノウハウを承継できるM&Aが優位です。
ビジネスモデルを白紙から描きたい場合、起業は最大の自由を提供します。
連帯保証や簿外債務リスクを背負えるか、ゼロイチの資金燃焼リスクを抱えられるか、自身のリスク許容度を明確にすることが最終的な決め手になります。
M&Aを活用して起業する際は、準備からクロージング後の運営まで一連の流れを体系的に押さえることで、失敗リスクを大きく減らせます。ここでは原文と参考文献に示された具体的なポイントを時系列で整理します。
スモールM&A市場では案件数が多い一方で、開示情報が限られるため実態把握が難しい場合があります。このとき、M&A仲介会社を介すことで次の三つの利点が得られます。
特に個人が初めてM&Aを行う場合は、専門家の客観的視点が意思決定の羅針盤となります。
仲介会社に依頼する前の三つの準備
これらを明確にしておくことで、仲介会社との初回面談が深く実りあるものになります。
中小企業のオーナーは「自分が育てた会社を信頼できる人に託したい」という思いを強く持っています。したがって価格や条件だけでなく、譲受側の人柄やビジョンが成約の決め手になるケースが多いです。
こうした誠実なコミュニケーションが、友好的承継を後押しします。
熱意を伝える具体的アクションプラン
これらは時間と手間こそ必要ですが、結果的に従業員や取引先の信頼を早期に獲得する近道となります。
最後に、M&Aと起業のどちらが自分に合うかを自己診断するためのセルフチェックリストを示します。原文・参考情報の論点を基に、項目を整理しました。
チェック項目 はい いいえ
早期に安定した売上を確保したい □ □
顧客や従業員のマネジメント経験がある □ □
自由度よりも既存資産の活用を重視する □ □
連帯保証や簿外債務への耐性がある □ □
ゼロから事業を作るワクワク感を重視する □ □
新規性の高いビジネスモデルを試したい □ □
チェックが左側に多ければM&A、右側に多ければ起業が向いていると言えます。自分の強みと資金計画を照らし合わせ、最適な道を選びましょう。
今回の記事では、M&Aと起業を費用・時間・リスク・自由度の観点から比較しました。費用はどちらも700〜1,000万円が目安ですが、M&Aは顧客基盤や許認可を引継ぎ時間を短縮できる点が優位です。一方、起業は自由度が高く新事業を創造できます。自分の時間価値とリスク許容度を明確にし、最短で経営者への一歩を踏み出しましょう。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画