事業継承と事業承継の違いは、実務で使う正式用語かどうかにあります。公的手続で使う表記、株式・資産・信用の引き継ぎ、親族・従業員・M&A(合併・買収)による承継方法、税務・法務で見落としやすい確認点を、中小企業の経営者向けに会社売却の視点も含めて分かりやすく解説します。
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▶目次ページ:事業承継とは(事業承継とは)
「事業継承」と「事業承継」は、日常会話では同じ意味で使われることがあります。けれども、会社の引き継ぎを専門家に相談する場面や、税制・補助金・契約書を確認する場面では「事業承継」を使うのが基本です。
事業承継は「じぎょうしょうけい」と読みます。会社の経営権、株式、事業用資産、負債、契約、従業員との関係、取引先からの信用などを、次の経営者へ引き継ぐことを指します。単に社長の肩書を渡すだけではありません。中小企業では、社長個人の信用が取引や借入を支えていることも多く、その信用をどう引き継ぐかが大きな課題になります。
一方、事業継承は「じぎょうけいしょう」と読まれることが多く、伝統、文化、技術、理念などを受け継ぐという意味合いで使われます。王位継承、伝統芸能の継承、創業の精神の継承といった表現を思い浮かべると分かりやすいでしょう。
法律名や行政の制度では「承継」が使われています。たとえば、経営承継円滑化法、事業承継税制、事業承継計画といった表現です。そのため、金融機関、税理士、弁護士、譲渡支援の専門家に相談する資料では「事業承継」と書くのが無難です。
小さな違いに見えます。ですが、実務ではこの表記ゆれが、相談内容の整理を遅らせることがあります。「理念を継承したい」のか、「株式や経営権を承継したい」のかが曖昧なままだと、税務、法務、資金面の検討が進みにくくなるためです。
英語では、事業承継は一般にBusiness Successionと表現されます。継承という言葉だけを英語にするとInheritanceやSuccessionと訳されることがありますが、会社の引き継ぎを実務として扱う場合は、単なる相続や文化の継承より広い意味になります。
事業継承という言葉が必ず誤りというわけではありません。創業者が築いた理念、職人技、地域との関係、社風などを次世代に伝えたい場合には「継承」の表現が自然に合うこともあります。ただし、会社の引き継ぎ全体を説明する記事、契約、計画書、税務相談では「事業承継」に統一したほうが伝わりやすくなります。
「後継者は決まっているから大丈夫」と思っていても、株式や不動産、借入、個人保証の整理が進んでいないケースは珍しくありません。事業承継では、誰に社長を任せるかだけでなく、何を、どの順番で、どの条件で引き継ぐかを決める必要があります。
株式会社では、経営権の中心は株式です。代表者を交代しても、株式が先代や親族に分散したままだと、後継者が重要な意思決定をしにくくなる場合があります。特に同族会社では、相続人が複数いると株式が分散しやすく、後から株主間の意見調整が難しくなることがあります。
親族内承継では、株式を相続、贈与、売買のどれで移すかが重要です。方法によって税金、資金負担、他の相続人への配慮が変わります。従業員承継では、後継者が株式を買い取る資金を用意できるかが問題になります。ここで検討が止まることは、会社売却の実務でもよくあります。
事業用不動産、機械設備、在庫、売掛金、借入金なども承継の対象になります。会社名義の資産だけでなく、社長個人が所有し会社へ貸している土地や建物がある場合も注意が必要です。会社を引き継ぐ人が事業を続けるには、使う資産を安定して利用できる状態にしておかなければなりません。
また、負債や個人保証の扱いも避けて通れません。親族や従業員への承継では、後継者が金融機関との関係を引き継ぐ必要があります。第三者承継では、買い手企業が借入や保証をどう扱うかを確認します。会社の価値があっても、保証解除の見通しが立たないと、経営者が売却判断をしにくくなります。
事業承継で引き継ぐものには、知的資産も含まれます。知的資産とは、会社の強み、技術、ノウハウ、顧客基盤、取引先との信頼、従業員の経験、ブランドなど、目に見えにくい経営資源のことです。
決算書の数字が同じでも、特定の社長だけに顧客がついている会社と、組織として顧客対応ができている会社では、引き継ぎやすさが変わります。会社売却を考える場合も、買い手企業は利益だけでなく「社長が退いた後も事業が続くか」を重視します。ここは意外と多い落とし穴です。
事業承継の方法は、大きく親族内承継、役員・従業員への社内承継、第三者承継に分かれます。どれが正解というより、自社の後継者候補、株主構成、財務状態、経営者の年齢、家族の考え方によって向き不向きが変わります。
親族内承継は、子どもや親族に会社を引き継ぐ方法です。従業員や取引先から受け入れられやすく、早い段階から後継者教育を進められる点が強みです。一方で、本人に経営意思がない場合や、他の相続人との公平性が問題になる場合があります。
後継者に会社を任せたい気持ちが強くても、株式をどのように移すか、相続時に他の家族と争いにならないか、納税資金をどう用意するかを確認しなければなりません。気持ちだけでは進みません。
役員や従業員への社内承継は、会社の業務をよく知る人に引き継げる点が魅力です。現場の混乱を抑えやすく、取引先にも説明しやすい方法です。ただし、後継者候補が株式を買い取る資金を持っていないことがあります。
また、社長の肩書だけを渡しても、実質的な権限が先代に残っていると後継者は経営判断ができません。従業員が「結局は先代に確認しなければならない」と感じると、承継は形だけになります。
親族や社内に後継者がいない場合、第三者承継としてM&A(合併・買収)を検討できます。中小企業の会社売却では、株式譲渡により会社全体を買い手企業へ引き継ぐ方法がよく使われます。事業の一部だけを譲渡する場合には、事業譲渡が選択肢になることもあります。
第三者承継では、経営者が譲渡対価を得られる可能性があります。一方で、従業員の雇用、取引先との関係、社名やブランドの扱い、個人保証の解除、譲渡後の関与期間などを条件として整理する必要があります。会社売却は「売れるかどうか」だけでなく、「何を守りたいか」を決める作業でもあります。
事業譲渡は、会社が行う事業の全部または一部を他社に譲渡するM&A手法です。会社そのものの株主を変える株式譲渡とは異なり、資産、契約、従業員、ノウハウなどを個別に移す点に特徴があります。後継者問題の解決として使われることもありますが、会社全体を引き継ぐ事業承継とは整理が異なります。
「事業承継という表記が正しい」と分かっただけでは、会社は引き継げません。実際には、経営者の気持ち、後継者候補の意思、株式の移転、金融機関対応、従業員への説明、譲渡価格の考え方を一つずつ整理する必要があります。
事業承継を進める流れは、一般に5つの段階で考えると整理しやすくなります。
経営者が、自社の将来課題として事業承継を考え始める段階です。まだ後継者を決めていなくても、年齢、健康状態、家族の意向、社内の人材、会社売却の可能性を幅広く見ます。
決算書、借入、株主構成、資産、契約、従業員の状況を整理します。売上や利益だけでなく、社長に依存している業務、属人的な営業先、古い契約書の有無も確認します。
承継前に、利益率の低い取引、不要資産、回収が遅い売掛金、社長しか分からない業務を見直します。会社を磨き上げることで、親族にも従業員にも第三者にも引き継ぎやすくなります。
親族内承継や社内承継では、後継者育成、株式移転、相続対策を計画に落とし込みます。第三者承継では、譲渡希望条件、譲れない条件、相談先、買い手候補の方向性を整理します。
計画書は後から直せる形で作る
事業承継計画書は、一度作ったら終わりではありません。後継者の意思、業績、金融機関の方針、家族の状況は変わるため、定期的に見直す前提で作るほうが実務に合います。
最後に、役職変更、株式移転、契約整理、金融機関対応、従業員や取引先への説明を進めます。M&Aの場合は、買い手探し、企業価値の検討、条件交渉、基本合意、買収監査、最終契約、譲渡実行という流れになります。
事業承継は、後継者が決まってから始めるものではありません。後継者がいないからこそ、早く始める必要があります。時間があれば、親族内承継、社内承継、第三者承継を比較できます。時間がなくなると、廃業か急な売却かという選択になりやすく、従業員や取引先に十分な説明ができないまま進むおそれがあります。
経営者にとって、会社を誰かに渡す決断は簡単ではありません。長く守ってきた会社ほど、迷うのは自然です。ただ、迷っている間にも年齢、業績、業界環境は変わります。言葉の違いを確認した段階で、自社の承継方法まで一歩進めて考えることが大切です。
事業継承と事業承継は似た言葉ですが、会社の引き継ぎを正式に扱う場面では「事業承継」を使うのが基本です。重要なのは表記だけでなく、株式、資産、負債、信用、理念を誰にどう渡すかを決めることです。後継者が未定なら、親族内・社内・第三者承継を早めに比較し、自社に残したい価値と手放せる条件を先に整理しましょう。
著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事
編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人