事業継承と事業承継は同じようで少し違います。先代から引き継ぐ内容の違いや進め方を把握することで、スムーズに引き継ぎを実現できます。本記事では、両者の意味や進め方のポイントを分かりやすく解説します。事業の本質を正しく理解し、後継者育成や経営資源の引き継ぎを円滑に進めるポイントを学びましょう。この記事を読めば、両者の違いと進め方を総合的に理解できます。
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▶目次ページ:事業承継とは(事業承継とは)
事業承継と事業継承は、一見同じような言葉に思えますが、実は受け継ぐ対象に微妙な違いがあります。たとえば「承継」は先代が守ってきた企業理念やビジョン、形に残らない精神的なものを含めて受け継ぐイメージがあります。一方で「継承」は、具体的な権利や財産などの形あるものを受け継ぐ場合によく用いられます。
ただし、実際の現場で厳密に区別して使われているわけではなく、一般的にはどちらを使っても大きな誤りではないのが現状です。とはいえ「事業承継」という言葉は、公的機関や関連する法律(たとえば経営承継円滑化法や事業承継税制など)でも多く用いられています。そのため、近年は「事業承継」の呼び方が主流になっています。
事業「承継」は、抽象的なイメージや経営理念、ビジョン、企業文化のように形のない要素まで含めて受け継ぐことを意味します。具体例としては、長年培われたブランド力や技術ノウハウ、そして創業者の想いなどがあります。一方で事業「継承」は、権利や資産、財産のような形のあるものを引き継ぐ場面で使われる表現です。
とはいえ、このような区分があっても、日常的には両方の言葉がほぼ同じ意味で使われることも多いです。官民問わず公的には「事業承継」で統一される流れが強いため、一般的には「事業承継」の表現がよく使われます。しかし「継承」の表記も決して誤りではありません。
公的機関や法律では「事業承継」という表現が使われることが多いです。例えば「経営承継円滑化法」「事業承継税制」など、制度や法令名にも「承継」という言葉が採用されています。こうした背景から、会社を次世代に引き継ぐ話題を正式に扱う際には「事業承継」という表現のほうが馴染んでいると言えます。
ただし、すでに述べたように、日常会話や解説記事などでは「継承」が使われていても大きな問題はありません。ポイントは、どちらの表現を使っていても、本質的には「企業や事業を受け継ぐ」という目的に変わりはないということです。
事業承継や事業継承を行う際、次世代の経営者に引き継ぐべき経営資源は、大きく「ヒト(経営)」「資産」「知的資産」の3つに分けられます。中でも「ヒト」の要素は、単なる役職や株式所有といった形式面だけでなく、長い時間をかけて培われるリーダーシップや現場との信頼関係などを含みます。現経営者が担ってきた役割を後継者にスムーズに引き継ぐには、早めの準備と十分なコミュニケーションが重要です。
また「資産」には、事業用不動産や設備、運転資金、株式など多岐にわたるものが含まれます。資産の移転方法や税務対策は、早期に専門家へ相談することで、余計な負担を抑えやすくなります。そして「知的資産」は、企業のブランド力やノウハウ、顧客基盤など、目には見えにくいものの、企業価値を大きく左右する重要な要素です。これらは現経営者がどのように次世代へ伝えるかによって、後継者の経営力に大きな影響を与えます。
事業承継や事業継承には、大きく分けて「親族内承継」「役員・従業員への社内承継」「第三者への承継(M&A)」の3つの方法があります。以下では、それぞれの特徴とメリット・デメリットを見てみましょう。
親族内承継は、経営者の子供や兄弟姉妹などの親族に事業を引き継ぐ方法です。家族ならではの強い信頼関係が背景にあるため、周囲の理解も得やすく、早期から後継者育成を進められることが大きなメリットです。ただし、適切な後継者が親族内にいないケースや、相続にまつわる問題などが生じる場合もあります。
後継者不在の場面などで、会社に精通した役員や従業員に経営を引き継ぐ方法です。既に組織や業務内容をよく理解していることから、比較的スムーズな移行が期待できる利点があります。しかし、後継者となる人物が資金面で難しさを抱える場合もあるほか、経営者としての資質を十分に見極める必要があります。
社外の第三者に会社を譲渡する方法です。親族内や社内に後継者が見当たらない場合でも、広い選択肢から次世代の経営者を探せる点が特徴です。譲渡対価を得られる可能性があるため、現経営者にとっては大きな魅力となる場合もあります。一方で、従業員の雇用や企業文化の維持がうまくいかず、社内の混乱を招くリスクがある点には注意が必要です。
中小企業庁のガイドラインによると、事業承継を円滑に進めるためには、主に次の5ステップが推奨されています。
1.事業承継に向けた意識づけ
経営者自身が事業承継を「自社の将来に関わる重要課題」として認識し、準備を早期に始めることが肝心です。いつ頃、どのような形で事業を引き継ぐかを大まかに検討します。
2.経営状況・経営課題の把握(見える化)
自社の現状や業界動向、強みと弱みを客観的に洗い出し、問題点を明らかにします。数字や資料による客観的データを基に、将来の課題を把握することが大切です。
3.経営改善(磨き上げ)
見える化によって明らかになった課題を解決するために、経営体質を強化したり、企業価値を高める取り組みを行います。財務面や組織体制を整備しておくことで、後継者が引き継ぎやすい環境が整います。
4.事業承継計画の策定
具体的な承継時期や引き継ぎ方法、後継者育成のスケジュールなどを計画に落とし込みます。親族内承継の場合は相続対策、社内承継の場合は人材教育、第三者承継の場合は譲渡先探しなど、それぞれに必要な準備を明確にします。
5.事業承継の実行
計画に基づき、実際に承継を進めていきます。後継者が定まっている場合は役職や株式の移転を行い、第三者への承継(M&A)を検討する場合は譲渡先を探し、具体的な条件交渉を行います。
これらのステップは状況によって順番が前後することもありますが、いずれにしても「早めの準備」が成功の鍵です。
事業承継は単純な経営者交代にとどまらず、企業の存続をかけた重大なプロセスです。ヒト・資産・知的資産という三つの経営資源をいかにバランスよく引き継ぐかが重要なポイントになります。また「後継者にどのような形で事業を渡すのか」「そのために必要な資金や書類手続はどうするのか」「従業員や取引先への告知はどのように進めるか」など、多岐にわたる要素を慎重に検討する必要があります。
事業承継の際には、経営者がこれまで築き上げてきた企業の歴史や文化を次世代にどうつないでいくかも重要です。特に中小企業の場合、現経営者の個人的な信用力が経営基盤を支えているケースも多いため、後継者との綿密な連携が求められます。
中小企業庁の『事業承継ガイドライン』では、事業継承を進めるための5つのステップを提示しています。
1. 事業継承に向けた準備の必要性の認識
①経営者が事業継承の重要性を理解する
②大まかな承継時期や選択肢を検討する
③早めの準備開始が望ましい
2. 経営状況・経営課題等の把握(見える化)
①自社の現状を客観的に分析する
②業界動向や市場性も考慮する
③会社の将来展望を描く
3. 事業継承に向けた経営改善(磨き上げ)
①分析結果を基に、経営課題を解決する
②企業価値を高める取り組みを行う
4. 事業継承計画の策定
①具体的な継承計画を立てる
②後継者の育成計画も含める
5. 事業継承の実行
計画に基づいて、実際の継承を進める
①親族や従業員への継承の場合
・後継者候補やその家族の意思確認
・時間をかけて承継意思を固める
②第三者への継承(M&A)の場合
・適切な引継ぎ先の選定
・M&Aの実施
これらのステップは必ずしも直線的に進むわけではなく、状況に応じて前後することもあります。重要なのは、早期に準備を始め、計画的に進めることです。
事業を次の世代に引き継ぐ過程は、会社の将来を左右する大きな岐路です。事業継承と事業承継の違い自体はさほど大きくありませんが、公的には「事業承継」が多く使われる傾向があります。大切なのは、経営権や資産といった有形の要素だけでなく、企業理念やノウハウなどの無形資産も含めてスムーズに引き継ぐことです。早めに計画を立て、最適な承継方法を選択し、後継者の育成や社内外との連携をしっかり進めることで、次世代への円滑な引継ぎが可能になります。企業の未来を担う後継者が、強みを活かしながら新たな飛躍を目指せるよう、今のうちから準備を始めてはいかがでしょうか。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事