子会社株式譲渡とは?手続・税金・会計の実務ポイントを解説
子会社株式譲渡は、親会社が保有する子会社株式の全部または一部を第三者へ売却するM&A手法です。売却目的の整理、カーブアウト、6段階の手続、メリット・デメリット、譲渡価格、法人税、連結会計、従業員や金融機関への対応まで、親会社が判断すべき実務ポイントを分かりやすく解説します。
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▶目次ページ:株式譲渡(子会社の譲渡)
子会社株式譲渡とは、親会社が保有する子会社株式の全部または一部を第三者へ売却するM&A(合併・買収)手法です。親会社が子会社への支配を失う割合まで株式を譲渡すれば、経営権も買い手へ移ります。
株式譲渡では、子会社の法人格は変わりません。資産、負債、契約、許認可、従業員の雇用関係は、原則として子会社に残ったままです。資産や契約を一つずつ移さず、同じ会社のまま買い手の傘下へ移せることが大きな特徴です。
100%を譲渡して親会社との資本関係をなくす場合もあれば、一部だけを譲渡し、共同経営を続ける場合もあります。一部譲渡後も親会社が支配を維持するのであれば、経営権は親会社側に残ります。
100%譲渡では、通常、子会社は親会社の連結範囲から外れ、買い手企業の傘下に入ります。一部譲渡では、親会社が議決権の過半数を維持するなど、実質的な支配が残れば子会社のままです。
過半数を失っても、重要な影響力が残る場合は関連会社として扱われることがあります。売却代金だけでなく、譲渡後に親会社がどこまで関与するのかを先に決めることが重要です。
共同事業を続けたいのか、経営から完全に離れたいのか。目的によって、譲渡割合や株主間契約の内容は変わります。
子会社株式譲渡が選ばれる主な目的は、不採算事業からの撤退、コア事業への経営資源の集中、資金調達、事業構成の見直しです。
黒字子会社であっても、親会社との相乗効果が小さく、十分な成長投資ができないため、より相性のよい企業へ譲渡することがあります。子会社を売ることが、親会社と子会社の双方にとって成長につながる場合もあるためです。
「赤字だから売る」という理由だけでは、社内や買い手への説明が弱くなります。売却で得る資金の使途、改善する財務指標、失う売上や利益、消滅する相乗効果まで整理すると、経営判断の軸がぶれにくくなります。
子会社株式譲渡では、株式を売る前に親会社と子会社の関係を整理する必要があります。このように子会社や事業部門をグループから切り離す取組は、広くカーブアウトと呼ばれます。
決算書では独立した会社に見えても、実際の運営は親会社に大きく依存していることがあります。ここを整理しないまま交渉を始めると、買い手の調査で問題が見つかり、価格の引下げや交渉中止につながりかねません。
親会社名義の商標、共同利用しているシステム、共通の仕入契約、グループ内貸付金、出向者、親会社所有の不動産などが混在している場合、そのままでは売却後の事業運営が難しくなります。
買い手が事業を続けるために必要な機能は、子会社へ移す必要があります。反対に、売却対象に含めない資産や契約は、親会社へ戻すことになります。
意外と多い落とし穴が、子会社単独では経理、人事、IT、購買などを行えないケースです。売却後すぐに完全独立できない場合は、一定期間だけ親会社が必要なサービスを提供する移行支援契約を検討します。
子会社全体を同じ法人のまま移したい場合は、株式譲渡が基本となります。一方、子会社の特定事業だけを売りたい場合は、事業譲渡や会社分割を利用する方法があります。
事業譲渡では、売却する資産、負債、契約などを選べます。不要な資産やリスクを除外できる反面、契約相手の同意、資産の名義変更、従業員の承諾などが必要になりやすく、手続は増えます。
売却したい事業を会社分割によって新会社などへ移し、その会社の株式を譲渡する方法です。売却対象を会社単位に整理できるため、複数事業が混在している場合に検討されます。
ただし、会社分割の法的手続や税制上の要件が加わるため、準備期間が長くなることがあります。
スピンオフは、一般に子会社株式を親会社の株主へ分配し、親会社と子会社の資本関係を分離する方法です。第三者へ売却して現金を得る方法とは目的が異なります。
一定の要件を満たす場合は課税を繰り延べられますが、資本政策や税務を含む専門的な検討が欠かせません。
子会社株式譲渡は、一般に次の6段階で進みます。実際には複数の作業を並行して進めますが、社内決裁を後回しにすると、買い手との合意後に手続が止まることがあります。
売却目的、譲渡割合、希望時期、最低条件、買い手候補の基準を整理します。親会社が取締役会設置会社で、子会社株式の譲渡が重要な財産の処分に当たる場合は、取締役会の決議が必要です。
さらに、譲渡する子会社株式の帳簿価額が親会社の総資産額の5分の1を超え、譲渡後に子会社の議決権の過半数を保有しなくなるなど、会社法上の要件に該当する場合は、原則として親会社の株主総会による特別決議も必要になります。
定款や会社の機関設計によって必要な決議が異なることもあるため、早い段階で確認します。
買い手候補と秘密保持契約を結び、子会社の事業内容や決算情報を開示します。複数の候補先から条件を受け取り、価格だけでなく、従業員の処遇や事業方針も比較します。
候補先を絞った段階では、基本合意書を締結するのが一般的です。基本合意書には、想定価格、譲渡範囲、独占交渉期間、今後の調査範囲などを定めます。
デューデリジェンスとは、買い手が子会社の事業やリスクを調査する手続です。財務、税務、法務、人事、事業、ITなどの資料を確認します。
簿外債務、未払残業代、税務申告の誤り、重要契約の解除条件、許認可上の問題などが見つかると、価格や契約条件が変更されることがあります。
問題を隠して進めると、後でより大きな不信につながります。事前に問題を把握し、対応策とともに説明することが重要です。
株式譲渡契約では、譲渡価格、支払方法、実行日、実行の前提条件、表明保証、補償、競業避止、従業員対応などを定めます。
表明保証とは、決算書、税務申告、契約関係などについて、親会社が一定の事実を正しいと約束する条項です。約束した内容と事実が異なり、買い手に損害が生じた場合は、親会社が補償を求められることがあります。
契約を結んだ日と、株式や代金を実際に受け渡す日は、分けて設定されることも少なくありません。
子会社の株式に譲渡制限が付いている場合は、子会社の承認が必要です。承認機関は、原則として取締役会設置会社では取締役会、それ以外の会社では株主総会ですが、定款に別の定めがある場合もあります。
承認請求を受けた子会社が、原則として2週間以内に結果を通知しなかった場合、承認したものとみなされることがあります。必要書類と期限を正確に管理することが大切です。
クロージングでは、株式譲渡代金の決済、必要書類の受渡し、役員交代の準備などを行います。契約で定めた条件が満たされていることを確認し、株式を買い手へ譲渡します。
その後、子会社の株主名簿を書き換えます。株主名簿に記載されることで、買い手は子会社に対して株主としての権利を主張できるようになります。
子会社株式譲渡には、資金獲得や経営効率の改善といったメリットがあります。一方で、売却後に失う利益や経営資源もあります。
譲渡代金だけを見て判断してはいけません。売却前後のグループ全体の損益と事業運営を比較する必要があります。
株式譲渡では、事業譲渡のように資産や契約を一つずつ移す必要が少ないため、手続は比較的簡素です。条件が整えば、早期に売却代金を得られる可能性があります。
得た資金は、借入金の返済、設備投資、新規事業、研究開発、株主還元などに使えます。
赤字子会社を譲渡すれば、親会社が将来負担する可能性のある追加支援や損失を減らせます。経営人材や資金を、利益を生みやすい事業へ振り向けることも可能です。
ただし、業績不振の子会社は、そのままでは買い手が見つからないこともあります。赤字の原因や改善可能性を整理して伝えることが必要です。
グループの経営資源には限りがあります。非中核事業を譲渡すれば、人材、資金、経営者の時間をコア事業へ集中できます。
子会社側も、より相乗効果の高い買い手の傘下に入ることで、販売網や技術、人材を活用できる場合があります。
黒字子会社を譲渡すれば、将来の利益や配当を受け取れなくなります。売却時に多額の現金を得ても、中長期で見ると保有を続けた方が有利だったということもあります。
将来の利益と売却代金を比べて判断する必要があります。
共同仕入れ、顧客紹介、技術共有、ブランド利用などの相乗効果は、売却後に失われる可能性があります。
売却後も取引を続ける場合は、価格や期間を契約で定めます。これまで無償で行っていた支援が有償になることもあるため、残る事業への影響を確認します。
売却価格が子会社株式の税務上の帳簿価額を上回る場合、原則として譲渡益が生じます。譲渡益には法人税等が課されるため、売却代金の全額が親会社の手元に残るわけではありません。
売却理由が十分に伝わらないと、子会社の従業員が「親会社に見放された」と感じることがあります。親会社側の従業員や取引先からも、今後の経営方針を不安視される可能性があります。
情報漏えいへの配慮は必要ですが、公表後は速やかで丁寧な説明が欠かせません。
子会社の価格は、決算書に記載された純資産や利益だけでは決まりません。子会社が単独で生み出せる利益、将来の成長性、借入金、必要な運転資金などを踏まえて評価します。
特に重要なのが、親会社との取引や支援を除いた後も事業を続けられるかという視点です。
親会社から通常より安く仕入れている、共通部門の費用が十分に負担されていない、親会社の営業網で売上を得ているといった場合、現在の利益をそのまま企業価値の計算に使うことはできません。
独立後に必要となる人件費、システム費、賃料、管理部門費用などを加え、正常な利益を見積もります。反対に、一時的な損失や不要な費用が含まれていれば、その影響を除いて考えます。
株式価値の交渉では、事業から生じる価値を計算した後、借入金などを差し引き、余剰な現預金を加える考え方がよく使われます。
クロージング時点の現預金、借入金、運転資金を基に、最終価格を調整する契約もあります。計算方法や対象科目が曖昧だと、決済直前に価格がまとまらなくなることがあります。
親会社が子会社の借入金を保証している場合、子会社株式を譲渡しても保証が自動的に消えるわけではありません。金融機関と協議し、クロージングまでの保証解除や買い手側の保証への切替えを進めます。
グループ内貸付金、未収入金、未払金、共同契約なども整理が必要です。売却後に親会社だけが責任を負う状態を残さないことが重要です。
価格調整の基準
譲渡価格を契約締結時に固定するのか、クロージング時の現預金、借入金、運転資金に応じて調整するのかを決めます。
価格調整を行う場合は、計算基準、対象科目、会計方針、確認手続まで具体的に定めます。
表明保証と補償
表明保証の対象を広げすぎると、売却後に親会社が負う責任も大きくなります。補償の対象、上限額、請求できる期間を確認します。
既に買い手へ説明した問題を、通常の表明保証から除外することも検討します。
競業避止義務
買い手から、一定期間、親会社や他の子会社が同じ事業を行わないよう求められることがあります。
対象事業、地域、期間が広すぎると、親会社の将来の事業展開を妨げます。必要な範囲に限定し、既存事業などを例外として定めることが重要です。
税務上の譲渡益と、連結決算上の売却損益は、同じ金額になるとは限りません。ここを取り違えると、経営会議や取締役会へ示した売却効果と、実際の決算が大きくずれることがあります。
売却代金、単体決算、連結決算、納税額を分けて試算します。
親会社の税務では、原則として株式の譲渡対価と、子会社株式の税務上の帳簿価額との差額を中心に、譲渡損益を計算します。
譲渡益は他の所得と合算され、法人税、地方法人税、住民税、事業税などの対象になります。標準的な法人実効税率はおおむね30%前後ですが、会社規模、所在地、所得額などによって30%台前半になることもあります。
2026年4月1日以後に開始する事業年度からは、対象となる法人について防衛特別法人税の影響も考慮する必要があります。
譲渡損が生じた場合は、通常、損金に算入できます。ただし、完全支配関係にある法人間の取引やグループ通算制度を利用している場合は、損益の繰延べなど別の取扱いが生じることがあります。
売却前に子会社から親会社へ配当すれば、子会社の現預金が減り、一般に株式価値も下がります。親会社が受け取る配当には、一定の要件の下で受取配当等の益金不算入制度が適用されます。
ただし、一定の配当については、子会社株式の税務上の帳簿価額を減額する制度があります。配当した金額だけ株式譲渡益が減り、必ず税負担が軽くなるわけではありません。
配当可能額、受取配当の税務、株式帳簿価額への影響を一体で確認します。
100%譲渡などによって親会社が子会社への支配を失えば、子会社の資産と負債は連結貸借対照表から外れます。子会社の売上や利益も、支配を失った後は連結損益に含まれません。
連結上の売却損益は、親会社単体の子会社株式帳簿価額だけでは計算しません。子会社を取得した後の利益、のれん、非支配株主持分などを反映するため、単体上の譲渡損益とは異なります。
一部の株式を譲渡しても支配を維持する場合、子会社は連結範囲に残ります。連結上の売却差額は、原則として損益ではなく資本剰余金として処理します。
株式譲渡によって支配を失う場合は、子会社を連結範囲から外し、連結上の売却損益を計上します。譲渡後に関連会社として残る場合と、資本関係がほぼなくなる場合でも処理が異なります。
譲渡割合ごとに、単体と連結の両方を試算することが重要です。
株式の譲渡は、原則として消費税の非課税取引です。事業譲渡では、譲渡する資産の種類に応じて消費税がかかります。
事業譲渡では、買い手が取得した資産の減価償却や、税務上ののれんの償却を行える場合があります。この効果が、買い手の提示価格に反映されることもあります。
ただし、税額だけで手法を決めるのは危険です。契約移転の手間、許認可、従業員の承継、買い手の希望を含め、最終的な手取り額と実行可能性を比べます。
株式譲渡では、従業員の勤務先である子会社自体は変わりません。そのため、雇用契約、勤続年数、給与、役職などは、原則としてそのまま続きます。
ただし、買い手が人事制度を統合する過程で、将来の評価制度や福利厚生が見直される可能性はあります。法律上の雇用継続だけでなく、従業員が安心して働ける説明が重要です。
公表前は、情報漏えいを防ぐ必要があります。一方、公表後も説明を遅らせると、憶測や不安が広がります。
売却理由、買い手の概要、雇用維持の方針、処遇、経営陣の体制を、確定している事項と未確定の事項に分けて伝えます。
重要な技術や取引関係を持つ従業員には個別面談を行い、将来の役割や処遇を説明します。必要に応じて、一定期間の在籍を条件とする報奨制度も検討します。
取引先との契約に、株主の変更を理由とする解約条項や事前承諾条項が入っていることがあります。株式譲渡では契約当事者が変わらなくても、株主変更によって契約解除や承諾が必要になる場合があります。
許認可は子会社に残るのが一般的ですが、業種によっては株主変更の届出や承認が必要です。主要顧客、仕入先、賃貸借、ライセンス、補助金などの条件を早期に確認します。
子会社の借入金は、株式譲渡後も子会社に残ります。親会社保証や親会社による担保提供がある場合は、金融機関の同意を得て解除する必要があります。
買い手が保証を引き継ぐ場合でも、金融機関の審査には時間がかかることがあります。保証解除をクロージングの前提条件とし、日程に余裕を持って協議します。
売却後も親会社保証だけが残る状態は避けなければなりません。
子会社株式譲渡は、資金の確保、不採算事業からの撤退、コア事業への集中に役立つ一方、利益事業や相乗効果を失い、法人税や従業員対応も生じます。譲渡割合、切り離す機能、社内決裁、価格、税務・連結会計、親会社保証の解除まで早期に整理し、売却後に残る責任も含めて実行可否を判断することが重要です。
著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事
編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人