有限会社の株式譲渡は、譲渡先が既存株主か第三者かで手続が変わります。株主総会承認、名義書換、価格算定、税金、個人保証など、M&Aで会社売却を進める際の実務ポイントを分かりやすく解説します。
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▶目次ページ:第三者承継とは(小規模会社のM&A)
「有限会社だから会社売却は難しいのでは」と感じる経営者は少なくありません。結論からいえば、現在の有限会社でも株式譲渡によるM&A(合併・買収)は可能です。
2006年5月の会社法施行により、新たに有限会社を設立することはできなくなりました。ただし、それ以前から存在していた有限会社は「特例有限会社」として存続しており、法律上は株式会社の一種として扱われます。かつての「持分」は、現在では「株式」として扱われるため、会社の支配権を移す場面では株式譲渡が中心になります。
特例有限会社の株式には、すべて譲渡制限があるものと扱われます。譲渡制限とは、株式を自由に第三者へ渡せず、会社の承認を必要とする仕組みです。
これは、家族経営や少人数株主の会社で、知らない第三者が急に株主になることを防ぐための制度です。中小企業では、株主と経営者がほぼ同じ人であることも多く、会社の信用、従業員、取引先との関係に直結します。見落としやすい点ですが、M&A実務ではここで手続が止まることがあります。
株式譲渡では、経営者が持っている株式を買い手に譲り、会社の株主が入れ替わります。会社そのものは続くため、許認可、雇用契約、取引契約、借入金などは原則として会社に残ります。事業を止めずに承継しやすいのが特徴です。
一方、特定の店舗や一部の事業だけを譲るなら、事業譲渡という方法もあります。事業譲渡は譲る資産や契約を個別に移すため、許認可や取引先承諾が論点になりやすくなります。会社全体を第三者承継するなら、まず株式譲渡を検討するのが自然です。
有限会社の株式譲渡では、「誰に譲るのか」が最初の分岐点です。同じ株式譲渡でも、既存株主に譲る場合と、外部の第三者へ譲る場合では、承認手続の考え方が変わります。
特例有限会社では、既存株主が株式を取得する場合、その譲渡は会社が承認したものとみなされます。つまり、株主間で株式を移すだけであれば、原則として株主総会の承認を別途取る必要はありません。
たとえば、共同経営者の一人が他の株主に株式を譲る、兄弟で株式を持っている会社で一方の株主に持株を集約する、すでに株主である後継者へ株式を移す、といった場面です。ただし、贈与、相続、低額譲渡が絡むと税務上の時価が問題になります。名義だけを変えれば済む、という話ではありません。
親族や役員に譲る場合でも、相手がまだ株主でないときは会社の承認が必要です。相手が既存株主かどうかを確認したうえで、株主名簿の名義書換まで行います。株主名簿とは、誰が株主かを会社が管理する帳簿です。ここが古いままだと、将来の会社売却、相続、配当、議決権行使でトラブルになりやすいです。
価格をいくらにするかも重要です。時価より極端に低い金額で譲ると、譲受人に贈与税の問題が出ることがあります。親族内だから簡単、と考えすぎないこと。意外と多い落とし穴です。
外部の会社や個人へ株式を譲る場合は、会社の承認が必要です。M&Aで買い手企業に会社を譲るときは、この第三者譲渡に当たります。
承認機関は、原則として株主総会です。特例有限会社は取締役会を置けないため、通常の株式会社のように取締役会で承認するという進め方はできません。実務では、定款、登記、株主構成を確認したうえで、株主総会決議を前提に進めるのが安全です。
特例有限会社の株式譲渡制限は、会社の基本的な特徴です。株式を自由に売買できる会社にしたいからといって、有限会社のまま譲渡制限を撤廃することはできません。
買い手が自由な株式移転や将来の上場準備を重視する場合は、株式会社へ移行するかどうかを検討します。ただし、移行には登記や定款整備の手間がかかります。M&Aの前に必ず移行すべき、というものではありません。
外部の買い手へ会社を譲る場合、法務上の承認手続とM&A実務上の交渉を並行して進めます。順番を曖昧にすると、契約を結んだのに株式移転ができない、という事態になりかねません。
最初に、譲渡する株式数、譲渡価格、譲渡日、支払方法、役員退任の時期、従業員の雇用継続、個人保証の扱いを整理します。これらを株式譲渡契約に落とし込みます。株式譲渡契約は、英語表記の頭文字を取ってSPAと呼ばれることもあります。
契約書では、決算書の内容に大きな誤りがないこと、簿外債務がないこと、税金の未納がないことなどを確認事項として定めるのが一般的です。株式譲渡契約書は通常、印紙税の課税文書に当たらないため、収入印紙は不要です。
株式を譲ろうとする株主は、会社に対して譲渡承認を請求します。請求では、譲渡する株式数、譲受人の氏名または会社名、譲渡先の住所などを明らかにします。
この段階で、株主構成が整理されていない会社はつまずきます。過去の相続で株主が変わっているのに名簿が更新されていない、古い定款が見つからない、発行済株式数と出資口数の理解が混在している。こういうケースは珍しくありません。
会社は、株主総会で株式譲渡を承認するかどうかを決議します。承認した場合は、譲渡を請求した株主へ通知します。会社法上、原則として譲渡承認請求の日から2週間以内に通知しないと承認したものとみなされる仕組みがあるため、議事録と通知の管理は丁寧に行うべきです。
株主総会議事録は、単なる社内書類ではありません。買い手は、デューデリジェンスという調査で、承認手続が適法に行われているかを確認します。デューデリジェンスとは、買い手が財務、税務、法務、労務などを調べる手続です。
議事録の日付、出席株主、議決権数、決議内容、署名押印の整合性に不備があると、クロージング直前で補正を求められることもあります。小さな書類の乱れが、大きな遅れにつながります。
承認と契約、代金決済が終わったら、株主名簿の名義書換を行います。名義書換とは、会社の株主名簿に新しい株主を記載する手続です。これにより、買い手が会社に対して株主として権利を主張できる状態になります。
特例有限会社は、通常は株券を発行していない会社が多いです。ただし、定款変更などで株券発行会社になっている可能性がないとはいえません。古い会社ほど、定款、登記、株主名簿をまとめて確認する必要があります。
名義書換後の登記も忘れない
株式譲渡そのものは登記事項ではありません。ただし、譲渡に伴って代表取締役や取締役が交代する場合は、役員変更登記が必要です。M&Aでは、株式の移転日、役員変更日、金融機関への説明日を合わせて設計すると混乱を避けやすくなります。
有限会社の株式譲渡は、手続だけ整えば終わりではありません。経営者にとって本当に大切なのは、いくらで譲れるのか、手取りはいくら残るのか、従業員や取引先にどのような影響があるのかです。
特例有限会社の株式は上場していないため、市場価格がありません。M&Aでは、決算書、時価純資産、営業利益、将来の収益力、取引先、技術、人材、許認可などを見て価格交渉を行います。
中小企業の実務では、時価純資産に営業利益の数年分を加える考え方が使われることがあります。たとえば、時価純資産に営業利益の2〜5年分を上乗せするような目安です。ただし、これは機械的な公式ではありません。借入金、設備投資、オーナー依存度、買い手との相性で大きく変わります。
個人オーナーが株式を譲渡して利益が出ると、譲渡益に対して所得税や住民税などがかかります。譲渡益とは、譲渡価格から取得費や譲渡費用を差し引いた利益です。
ここで注意したいのは、譲渡価格と手取り額は同じではないという点です。役員退職金を組み合わせるか、借入金をどう扱うか、個人保証を外せるかによって、最終的な手残りは変わります。税金は成約直前に慌てて考えるものではなく、初期段階で試算しておくべき項目です。
株式譲渡では、会社の借入金は会社に残ります。一方で、経営者が個人保証をしている場合、譲渡後に保証が外れるかどうかは金融機関との協議が必要です。
「会社を譲ったのに保証だけ残る」という状態は、経営者にとって大きな不安です。買い手が保証を引き継ぐのか、金融機関が新しい保証人を求めるのか、借換えを行うのか。早めに道筋を確認しておくと、価格交渉や契約条件も現実的になります。
株式譲渡では、会社の雇用契約や取引契約は原則として続きます。それでも、経営者が変わると従業員や取引先は不安を感じます。特に有限会社では、長年の人間関係で取引が続いていることも多く、説明のタイミングを誤ると離職や取引縮小につながることがあります。
説明は早ければよい、というものでもありません。秘密保持を守りながら、成約の見通しが立った段階で、雇用継続、取引継続、経営方針を丁寧に伝えることが大切です。買い手と一緒に説明する場を作ると、安心感が高まりやすくなります。
有限会社のM&Aでは、「このまま譲るか、株式会社へ移行してから譲るか」という相談もあります。結論は、買い手の目的と、移行にかかる手間を比べて判断します。
買い手が事業の継続を重視し、有限会社のままで問題ないと考える場合は、そのまま株式譲渡で進める方が早いです。長い社歴、既存取引先との関係、決算公告義務がないことなどは、有限会社の特徴として評価されることもあります。
また、後継者不在の会社、家族経営の会社、地域密着の会社では、会社形態よりも事業の中身が見られます。利益が安定しているか、従業員が定着しているか、主要取引先が承継後も残るか。買い手はそこを重視します。
買い手がグループ管理の都合で株式会社化を求める場合や、将来の組織再編、資本政策、株式の設計を見据える場合は、株式会社へ移行してから譲る選択もあります。
ただし、株式会社へ移行すると、商号変更、登記、定款整備が必要です。一度株式会社へ移行すると、特例有限会社に戻ることはできません。売却前に急いで移行しても、譲渡価格が上がるとは限らないため、買い手候補の意向を確認してから判断する方が安全です。
休眠状態に近い有限会社を整理したい場合も、株式譲渡が選択肢になることがあります。ただし、休眠会社には未整理の税務申告、借入、滞納、過去の契約、名義資産が残っていることがあります。
買い手が見つかったとしても、会社ごと引き継ぐ株式譲渡では、過去の負債や法務リスクも一緒に引き継がれます。単に廃業手続を避けたいという理由だけで譲渡を急ぐのは危険です。まずは会社の中身を棚卸しし、清算、休眠継続、株式譲渡、事業譲渡のどれが適切かを比べます。
相談前にすべてを完璧にそろえる必要はありません。ただ、次の資料があると、株式譲渡の可否や価格の目安を早く確認できます。
定款、登記事項証明書、株主名簿、直近3期分の決算書、借入金一覧、許認可資料、主要取引先との契約書、従業員一覧、役員貸付金や役員借入金の明細。これらは、買い手が確認する基本資料でもあります。
兄弟、親族、元役員などが少数株主として残っている会社では、株式譲渡の前に意思確認が必要です。過半数の株式を持つ経営者だけが譲る場合でも、買い手は少数株主の存在を気にします。
M&Aでは、できるだけ全株式をまとめて譲る方が買い手に安心されます。少数株主が残ると、将来の配当、議決権、情報開示でトラブルになる可能性があるためです。話しにくい親族間の調整ほど、早めに始めることをおすすめします。
有限会社の株式譲渡は、既存株主への譲渡と第三者への譲渡で手続が異なります。M&Aで会社を譲る場合は、株主総会承認、名義書換、価格算定、税金、個人保証、従業員説明を一体で考えることが重要です。有限会社のまま進めるか株式会社へ移行するかも、買い手の意向と費用を踏まえ、早めに資料を整理して判断しましょう。
著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事
編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人