有限会社の株式譲渡とM&A|メリットと注意点を徹底解説

特例有限会社の株式譲渡とM&Aについて解説します。譲渡制限や承認手続、企業価値評価方法、注意点などを詳しく説明し、円滑なM&A実施のポイントを紹介します。

目次

  1. 特例有限会社の概要
  2. 【売り手】特例有限会社の売却可能性
  3. 【買い手】特例有限会社買収のメリット
  4. 特例有限会社M&Aのプロセス
  5. 特例有限会社M&Aの企業価値算定方法
  6. 特例有限会社M&A実施時の留意点
  7. まとめ

特例有限会社の概要

特例有限会社は、2006年5月1日の会社法施行以前に設立された有限会社のことを指します。会社法施行後、新たな有限会社の設立はできなくなりましたが、既存の有限会社は特例有限会社として存続することが認められています。

正式名称と特徴

特例有限会社の正式名称は「特例有限会社」です。これは、会社法施行時に有限会社から特例有限会社へ自動的に移行したものを指します。特例有限会社は法的には株式会社の一形態として扱われますが、旧有限会社法の特徴を一部引き継いでいます。

株式会社との主な相違点

特例有限会社と株式会社には、いくつかの重要な違いがあります。主な相違点は以下の通りです。

1. 資本金の最低額

 o 特例有限会社:300万円

 o 株式会社:1円

2. 取締役会の設置

 o 特例有限会社:不可

 o 株式会社:任意

3. 取締役の任期

 o 特例有限会社:なし

 o 株式会社:2年(最大10年まで延長可能)

4. 決算公告義務

 o 特例有限会社:なし

 o 株式会社:あり

これらの違いにより、特例有限会社は小規模事業者や家族経営に適した形態として存続しています。

【売り手】特例有限会社の売却可能性

特例有限会社の売却は可能ですが、株式譲渡に制限があるため、一定の手続が必要となります。特例有限会社は譲渡制限株式会社として扱われるため、株主総会の承認が必要です。

事業承継問題の解決策

特例有限会社の多くは小規模事業者や家族経営であるため、後継者問題に直面することがあります。株式譲渡による事業承継は、以下のような問題を解決する手段となります:

1. 経営者の高齢化

2. 後継者不在

3. 昇給や待遇改善の困難さ

株式譲渡により、適切な後継者に経営権を移すことで、会社の存続と発展を図ることができます。

人材不足の解消手段

特例有限会社の多くは慢性的な人手不足に悩んでいます。株式譲渡を通じて事業を承継することで、以下のような効果が期待できます。

1. 新たな経営資源の獲得

2. 特殊技術の継承

3. 従業員の雇用維持

特に、特殊技術を持つ会社の場合、株式譲渡によって技術の継承と発展を図ることができます。

休眠会社の整理方法

休眠状態にある特例有限会社を整理する際、株式譲渡は有効な選択肢の一つです。以下のようなメリットがあります。

1. 複雑な廃業手続の回避

2. 譲渡益の獲得可能性

3. 会社の債務や義務の整理

株式譲渡を通じて第三者に会社を譲渡することで、煩雑な手続を避けつつ、休眠会社を効率的に整理することができます。

【買い手】特例有限会社買収のメリット

特例有限会社を買収する側にとっても、いくつかのメリットがあります。これらのメリットは、事業拡大や新規事業参入を考える企業にとって魅力的な要素となります。

会社維持コストの削減

特例有限会社を買収することで、以下のようなコスト削減効果が期待できます。

1. 取締役の任期制限がないため、役員変更に伴う登記費用の削減

2. 決算公告義務がないため、公告費用の削減

3. 最低資本金が300万円のため、資本金に関する柔軟な運用が可能

これらの特徴により、会社の維持・運営にかかるコストを抑えることができます。

社会的信用力の向上

特例有限会社は2006年以前に設立された企業であるため、長年の事業継続が社会的信用につながります。買収側にとっては以下のメリットがあります。

1. 長い社歴による信頼性の獲得

2. 既存の取引先や顧客との関係性の継承

3. 業界内での知名度や実績の活用

これらの要素は、新規事業を立ち上げる際や、既存事業を拡大する際に大きな強みとなります。

企業情報の秘匿性維持

特例有限会社には決算公告義務がないため、企業情報の秘匿性を高く保つことができます。これは以下のような状況で有利に働きます。

1. 競合他社に経営情報を知られたくない場合

2. 新規事業や研究開発を秘密裏に進める場合

3. オーナー経営を維持したい場合

情報開示の制限により、戦略的な経営判断や事業展開を秘密裏に進めることが可能となります。

特例有限会社M&Aのプロセス

特例有限会社のM&Aを行う際は、一般的な株式会社のM&Aとは異なるプロセスを踏む必要があります。以下に、その流れを詳しく説明します。

1.株式譲渡承認の請求

株式譲渡を行う株主は、会社に対して譲渡承認の請求を行う必要があります。この請求には以下の情報を含める必要があります。

1. 譲渡する株式の種類と数量

2. 譲渡の相手方(譲受人)の情報

3. 譲渡の理由や条件

この請求を受けて、会社側は株式譲渡の承認可否を決定します。

2.株主総会での承認決議

特例有限会社では、株式譲渡の承認は株主総会で行う必要があります。以下の手順で進められます。

1. 株主総会の招集

2. 株式譲渡承認の議案提出

3. 株主による決議

4. 決議結果の記録

株主総会で承認されれば、株式譲渡を進めることができます。

3.譲渡承認の通知

会社は、譲渡承認請求を行った株主に対して、株主総会の決議結果を通知する必要があります。この通知は以下の点に注意して行います。

1. 譲渡承認請求の日から2週間以内に通知

2. 承認または不承認の結果を明確に伝達

3. 不承認の場合は、その理由を説明

2週間以内に通知がない場合、株式譲渡は承認されたものとみなされます。

4.株式譲渡契約の作成

株式譲渡の承認を得た後、売り手と買い手で株式譲渡契約を締結します。契約書には以下の項目を含める必要があります。

1. 譲渡日

2. 譲渡価格

3. 譲渡の目的

4. 支払方法

5. 誓約事項

6. 損害賠償や補填に関する取り決め

株式譲渡契約書は課税文書ではないため、収入印紙は不要です。

5.株主名簿の更新手続

株式譲渡契約締結後、株主名簿の名義書換が必要となります。以下の手順で行います。

1. 売り手と買い手による共同での名義書換請求

2. 会社による株主名簿の更新

3. 買い手への株主名簿記載事項証明書の交付

この手続により、買い手が正式に株主として認められ、株主としての権利を行使できるようになります。

特例有限会社M&Aの企業価値算定方法

特例有限会社のM&Aを行う際、適切な企業価値の算定が重要となります。主な算定方法には以下の3つがあります。

資産基準アプローチ

資産基準アプローチ(コストアプローチ)は、会社の資産を基に企業価値を算出する方法です。主な特徴は以下の通りです。

1. 簿価純資産や時価純資産を基に算出

2. 営業権(のれん)を加味して計算することも可能

3. 比較的客観的な評価が可能

営業権を算出する際には、経営理念、取引先関係、従業員のスキル、市場シェア、特許権などの要素を考慮します。

収益性基準アプローチ

収益性基準アプローチ(インカムアプローチ)は、将来の利益予測を基に企業価値を算出する方法です。主な特徴は以下の通りです。

1. DCF法(割引キャッシュフロー法)や配当還元法などがある

2. 会社の将来性を反映させやすい

3. 主観的な評価になりやすい

特例有限会社の場合、将来予測が難しいケースも多いため、適用には注意が必要です。

市場比較アプローチ

市場比較アプローチ(マーケットアプローチ)は、類似企業との比較を通じて企業価値を算出する方法です。主な特徴は以下の通りです。

1. 類似企業の財務データや取引事例を参考に算出

2. 客観的な市場評価を反映できる

3. 適切な比較対象を見つけることが難しい場合がある

特例有限会社の場合、決算公告義務がないため、比較対象となる情報を入手することが困難な場合があります。

特例有限会社M&A実施時の留意点

特例有限会社のM&Aを行う際には、いくつかの重要な留意点があります。これらを十分に理解し、適切に対処することで、円滑なM&Aの実施が可能となります。

株式譲渡の制限

特例有限会社の株式には譲渡制限が設けられています。この制限には以下のような特徴があります。

1. 会社の承認なしに第三者へ株式を譲渡することはできない

2. 譲渡制限は定款に明記されていなくても適用される

3. 小規模な株式会社や同族会社でも同様の制限が設けられていることがある

譲渡制限の目的は、会社経営への影響を制御し、会社の存続を確保することにあります。M&Aを検討する際は、この制限を踏まえた上で手続を進める必要があります。

株主総会承認の必要性

特例有限会社で株式譲渡を行う場合、株主総会の承認が必要となります。この点に関して以下の事項に注意が必要です。

1. 取締役会での承認では不十分であり、必ず株主総会の承認が必要

2. 特例有限会社では取締役会の設置自体が認められていない

3. 株主総会の招集や議決権行使に関する手続を適切に行う必要がある

株主総会の承認を得るためには、株主への十分な説明と理解を得ることが重要です。

従業員の離職リスク

M&Aに伴う事業承継により、従業員の雇用環境に変化が生じる可能性があります。以下のような点に注意が必要です。

1. 労働条件(給与、勤務時間など)の変更可能性

2. 会社の将来に対する不安から生じる離職

3. 新しい経営方針や企業文化への適応の困難さ

従業員の不安を軽減し、スムーズな移行を実現するためには、適切なコミュニケーションと配慮が不可欠です。

取引先・顧客関係の変化

M&Aによる経営権の移転は、既存の取引先や顧客との関係に影響を与える可能性があります。以下の点に留意する必要があります。

1. 取引先や顧客への適切な説明と理解の獲得

2. 契約条件や取引内容の変更に伴うリスク

3. 信頼関係の維持と強化のための施策

M&A後も良好な取引関係を維持するためには、慎重かつ丁寧な対応が求められます。

まとめ

特例有限会社のM&Aは、通常の株式会社とは異なる特徴と手続が必要です。株式譲渡制限や株主総会承認の必要性など、独自の留意点があります。適切な企業価値評価と慎重な手続の実施により、円滑なM&Aが可能となります。従業員や取引先への配慮も重要であり、総合的な視点でM&Aを進めることが成功への鍵となります。

著者|竹川 満 マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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