事業再構築補助金とM&A活用で成長を加速させる
事業再構築補助金とM&Aを組み合わせれば、資金面の不安を抑えて大胆な事業転換が可能です。この記事では対象時期、申請手順、採択率を高めるコツまで丁寧に紹介します。
目次
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事業再構築補助金は、新型コロナウイルス感染症で影響を受けた事業者が、ポストコロナを見据えて大胆にビジネスモデルを変えるときに活用できる国の補助制度です。新分野への進出、事業転換、業種転換、業態転換、あるいは組織再編など、従来の枠から飛び出す計画を持つ企業を資金面で後押しします。補助金を活用すれば、設備投資やシステム導入など初期費用の負担を抑えながら新しい挑戦に踏み出せるため、多くの中小企業や中堅企業が採択を目指しています。
補助対象となるのは中小企業から中堅企業までと広範囲で、補助上限額は100万円から1億5,000万円までと柔軟です。企業規模や従業員数、申請枠によって上限額が変わる点に注意しましょう。また、最低補助金額が設定されているため、投資規模が小さすぎる場合は対象外となる可能性があります。
補助率は1/3から最大3/4までと幅があります。例えば補助率2/3で上限1億円の枠を活用する場合、残りの1/3は自己資金や借入でまかなう必要があります。補助金はあくまで一部支援である点を理解して、事業計画全体の資金繰りを組み立てることが重要です。
補助金を受けるには「事業再構築指針」に定められた5つの定義のいずれかに該当する事業計画を立案する必要があります。新市場進出、事業転換、業種転換、事業再編、国内回帰のうち、自社の取り組みがどこに当てはまるかを明確にし、その根拠を示すことが採択の第一歩です。
M&A(Mergers and Acquisitions)は、企業同士が合併や譲受を行い、短期間で事業を拡大したり、後継者不在の課題を解決したりする手段として広く使われています。既存の経営資源を素早く取り込み、市場シェアや技術、人材を一気に獲得できるため、スタートアップから老舗企業まで幅広く活用されています。
M&Aは主に買収、合併、会社分割の三形態があります。買収には株式取得による経営権の取得と、事業譲渡による特定事業の譲受があり、目的に応じて柔軟に設計が可能です。合併は複数企業を一つに統合してスケールアップを図る方法で、会社分割は有望な事業部門を切り出して独立させることで成長を促します。
譲受企業がM&Aを選択する理由は多岐にわたります。第一に企業間シナジーを活かした成長戦略の実現、第二に新規事業へ迅速に参入できるスピード、第三に後継者不足を抱える企業の事業承継という社会的課題の解決、第四に技術や人材など経営資源の獲得、第五に規模の経済を活かした競争力強化、そして第六に海外市場への展開加速です。これらを総合的に判断してM&Aは選ばれています。
事業再構築補助金の公募要領では、合併・会社分割・株式交換・株式移転・事業譲渡といった組織再編を通じて新市場進出や事業転換を行う場合、補助対象になり得ると明記されています。つまりM&Aそのものは補助対象外の経費を含むものの、M&A後に新たな事業形態で再構築を進める計画があれば、補助金を活用できる可能性が高まります。
譲受後に新分野展開や業態転換を行うなど、大きな方向転換を示せば、補助金の目的と合致し採択可能性が高くなります。ポイントは、単に企業を譲受けるだけではなく、その結果としてどのような市場でどのような価値を提供するかを具体的に示すことです。
補助金事務局は、計画が将来の成長につながるかどうかを重視します。売上や雇用の見込みを数値で示し、設備投資やシステム導入のスケジュール、資金使途を詳細に記すことで、実現可能性とインパクトをアピールしましょう。
補助金を活用するうえでの落とし穴は、補助対象外の経費が想定以上に多い点です。交付決定前に発注した契約や株式購入費、公租公課などは補助対象外と定められています。逆に、M&A後の建物費や設備費などは対象になるため、スケジュール管理が重要になります。
譲渡企業の株式を取得する費用、専門家報酬の成功報酬部分、公租公課はすべて対象外です。これらは自己負担となるため、譲受企業は資金計画に十分なゆとりを持たせておく必要があります。
一方で、M&A成立後に行う建物改装や機械装置・システムの導入、知的財産権取得、広告宣伝費、研修費などは補助対象となります。補助事業期間内の支払いが条件となるため、契約・支払のタイミングを調整し、補助対象経費の割合を高めることが賢明です。
やむを得ず交付決定前に支出が発生する場合は、事前着手届出制度を活用する方法があります。ただし、届出が受理されてもすべてが対象になるわけではないため、最終的な補助対象範囲は事務局の判断を待つ必要があります。
補助金申請は電子システムのみで受付されるため、環境整備とスケジュール感が極めて重要です。特にGビズIDプライムの取得と、認定経営革新等支援機関からの確認書取得には時間がかかるため、逆算して準備を進めましょう。
GビズIDプライムは郵送審査を経て発行されるため、申請から受取りまで約1週間を要します。余裕を持って手続きを始め、申請締切直前に慌てることのないよう注意が必要です。
事業計画書には、取り組み内容、将来展望、取得資産、収益計画の四点を必ず盛り込みます。補助金額が1,500万円以下なら10ページ以内、それ以上なら15ページ以内というページ制限があるため、図表を活用しながら要点を絞って記載しましょう。
提出書類には決算書や事業財務情報、従業員数を示す資料などが含まれます。不備があると申請そのものが無効になるため、チェックリストを作り二重三重の確認を行うことが大切です。
補助金は応募件数が多く競争率が高いため、事業計画の説得力を高める工夫が欠かせません。特にM&Aを絡めた再構築では、譲受企業としての戦略の一貫性と社会的意義を明示することで、審査員に強い印象を残すことができます。
申請書では生産性向上やシナジー効果を含む13の重要トピックを漏れなく説明することが求められます。認定経営革新等支援機関など専門家の知見を借りれば、制度変更への対応や説得力のある表現が可能になります。相談は早期に行い、草案段階からフィードバックを受けることで完成度を高めましょう。
補助金の趣旨に合致させるには、コロナ禍で受けた売上減少や事業環境の変化を数値で示し、そのうえで再構築が緊急かつ不可欠である理由を述べることが重要です。たとえば「2023年度売上が対2019年度比30%減」といった定量的なデータを盛り込み、実施しなければ事業継続が困難になる状況を訴求します。
譲受した経営資源をどう活かし、何年でどの程度の収益を上げるかを具体的に示します。「設備投資5,000万円を3年で回収、5年後に付加価値額前年比150%」など、将来の成果を数値で可視化することで、実現可能性の高さを訴えられます。
同種の申請が多い中で採択されるには、地域経済への波及効果や雇用創出、脱炭素やデジタル化など社会課題への貢献を盛り込み、加点要素を積極的に活用しましょう。パートナーシップ構築宣言や健康経営優良法人の取得など、評価アップにつながる取り組みは事前に整備しておくと有利です。
事業再構築補助金だけではカバーしきれないM&A初期費用には、事業承継・引継ぎ補助金や東京都事業承継支援助成金が活用できます。両制度を組み合わせることで、デューデリジェンス費用や仲介手数料など高額な専門家費用の負担を軽減できます。
譲渡企業・譲受企業ともに対象で、補助上限は300万円、下限50万円です。デューデリジェンスや仲介委託費、税理士・弁護士等の相談費用が補助対象となり、廃業費用も最大150万円まで支援されます。
東京都内の企業が後継者未定の場合、M&A仲介契約締結にかかる経費を助成します。申請下限20万円で、成功報酬は対象外ですが、着手金や調査費用などをカバーできるため、首都圏企業にとっては貴重な制度です。
複数補助金の同時活用では、交付規定により同一経費を二重に計上できない場合があります。各制度の公募要領を精査し、専門家と相談しながら最適な資金計画を設計しましょう。
補助金の交付決定が下りたら終わりではありません。交付後に予定された設備投資を完了し、期限内に実績報告書を提出して初めて補助金が入金されます。建物や機械装置の写真、納品書、請求書、支払証憑など必要書類を漏れなくそろえ、電子システムにアップロードすることが求められます。期日を過ぎると補助金が減額される、または不支給になる恐れがあるため、進捗をガントチャートで管理し、月次で内部チェックを行いましょう。
事業再構築補助金では、交付決定日から原則1年以内に設備投資を完了し実績報告を提出する必要があります。追加工事が生じると納期が遅れるリスクが高まるため、設計段階から余裕を持ったスケジュールを組み、取引先とも納期遵守の覚書を交わすと安心です。
実績報告が受理されると事務局が内容審査を行い、必要に応じて現地調査やオンラインヒアリングが行われます。問題がなければ確定通知が交付され、確定検査請求書を提出して補助金が入金されます。どの工程でも書類不備があれば差し戻しとなり、再提出のたびに時間が延びるため、一次提出の完成度が鍵です。
採択後でも、要件を満たせなければ補助金の一部または全部を返還する義務が発生します。特に賃上げ目標や最低賃金の引上げ目標を達成できない場合、未達成率に応じた返還が求められます。
賃上げ要件は複数年にわたりモニタリングされるため、年次決算のたびに人件費と総給与支給額を確認し、未達リスクがあれば早期に改善策を講じましょう。
経営が赤字で付加価値額も伸びず、かつ天災など不可抗力が認められる場合は返還免除が適用されることがあります。ただし客観的証拠資料の提出が必要です。
2025年に創設された中小企業新事業進出補助金は、事業再構築補助金の後継と位置づけられつつも、コロナ禍依存から脱却し恒常的な設備投資を後押しする制度です。補助上限は従業員数に応じて最大7,000万円(大幅賃上げ特例で9,000万円)で、補助率は一律1/2、最低投資額1,500万円が要件です。
新事業進出補助金では、AIやIoTを活用した新市場進出など、持続的に高い付加価値を生む計画が高評価となります。IT投資比率や収益モデルの独自性を数値で示すことで、審査員に成長ポテンシャルを示せます。
第1回公募は2025年6月開始、7月10日18時締切と発表されています。約1か月の短期決戦になるため、四半期前の4月公募要領公開と同時にドラフト計画を仕上げ、5月中に社内稟議と資金計画の確定、6月初旬に電子申請入力を完了する逆算スケジュールが理想です。
パートナーシップ構築宣言、くるみん認定、えるぼし認定、健康経営優良法人認定、技術情報管理認証などの取得企業は書類審査で加点を獲得できます。申請時点で取得が間に合わない場合でも、取得見込みや準備状況をアピールし加点漏れを防ぎましょう。
書類審査を通過すると、必要に応じてオンライン口頭審査が設定されます。経営者自身が1名のみ出席し、事業の適格性・優位性・実現可能性・継続可能性の4点を10〜15分でプレゼンし質疑応答を受けます。計画を骨子レベルで暗唱できる準備が不可欠です。
補助金申請・実行には総務、経理、現場、生産管理が連携したクロスファンクショナルチームが必要です。定例ミーティングと文書管理規程を整備し、負担が偏らない体制を敷くと、申請後の大量文書対応でも混乱を防げます。
経営者はM&Aと再構築の全社的意義を示し、部門長はKPIと進捗を管理、経理は証憑を整理しクラウドで共有するなど、役割を明確化することで申請漏れを防ぎ、補助事業終了後の監査にもスムーズに対応できます。
事業再構築補助金では確認書の取得が必須、新事業進出補助金では助言のみ認められ代行は不可とルールが異なります。契約書で役務範囲と報酬体系を明文化し、制度に違反しないよう管理しましょう。
採択後の成果報告では付加価値額や賃上げ実績を数値で証明する必要があります。売上、粗利益、労働分配率、従業員数、単価、設備稼働率などのKPIをあらかじめ設定し、月次で記録する仕組みを導入しておくと、実績報告書の作成が容易になります。
補助対象経費にはクラウドサービス利用費も含まれるため、ERPやBIを導入してリアルタイムデータ集計を行えば、経営判断の迅速化と証憑管理の効率化を同時に達成できます。
ここでは、譲受企業がM&Aを活用し事業再構築補助金を獲得した事例と、新事業進出補助金を活用した事例を比較し、共通点を整理します。
A社は工作機械メーカーから部品加工部門を譲受し、最新CNC設備を導入して航空機部品市場へ新規進出。補助金1億円を活用し、3年で売上1.8倍、従業員賃金平均15%増を実現しました。
B社は地域菓子メーカーと合併し、既存店舗を改装してカフェ業態へ転換。補助金7,000万円を活用し、客単価が2倍、観光客比率が60%に上昇。賃上げ特例で補助上限が拡大しました。
C社は受託開発中心から、AI需要予測SaaSに事業転換。設備投資2,000万円の半分を新事業進出補助金で賄い、1年で月次MRRが5倍に成長。賃上げ目標達成により追徴もなし。
3事例に共通する5つの成功要因
はい。株式購入費用は事業再構築補助金でも新事業進出補助金でも対象外です。補助対象外経費を含めた総資金計画を事前に設計してください。
併用は可能です。むしろ自己負担分の資金を確保するために、金融機関の協調融資を組み合わせるケースが一般的です。
軽微変更は事務局への届出で対応できますが、投資内容や事業目的が大幅に変わる場合は再審査が必要です。変更前に必ず専門家に相談しましょう。
補助金は採択後に精算払いで支給されるため、先行投資が必要です。一方、助成金は条件を満たせば受給できる給付型が多く、返還リスクが低い点が異なります。
新事業進出補助金では計画作成の代行が禁止されています。自社で策定し、専門家は助言に留める形で進めてください。
M&A後の投資に事業再構築補助金を用いれば、迅速な市場参入と資金負担軽減を同時に叶えられます。新事業進出補助金との比較で最適制度を選び、専門家と連携しながら賃上げ目標と投資回収を確実に達成しましょう。採択後は実績報告と返還リスク管理を徹底し、データドリブンでKPIを追跡することで持続的成長につなげましょう。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画