事業再構築補助金をM&Aで活用する方法とは?活用時期・申請プロセス

M&Aで事業再構築補助金を活用する方法や適切な時期、採択されるためのポイントを解説します。M&A関連の他の補助金制度や申請プロセスも紹介しています。

目次

  1. 事業再構築補助金の概要
  2. M&Aの概要
  3. M&Aにおける事業再構築補助金の活用可能性
  4. 事業再構築補助金をM&Aで活用するタイミング
  5. 事業再構築補助金の申請プロセス
  6. M&Aを伴う事業計画の採択率を高めるポイント
  7. M&A関連の他の補助金制度
  8. まとめ

事業再構築補助金の概要

事業再構築補助金は、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた事業者の支援を目的とした制度です。この補助金は、ポストコロナ時代を見据えた新たな取り組みや、事業の再構築に挑戦する企業を後押しするものです。

事業転換を支援する補助金

この補助金制度は、企業の大胆な事業転換を応援するものです。具体的には、新分野への進出や事業転換、業種転換、業態転換、さらには事業再編などが支援の対象となります。従来の事業モデルから脱却し、新たな挑戦を行う企業にとって、強力な味方となる制度といえます。

補助金の対象と上限金額・補助率

事業再構築補助金の特徴は、その幅広い補助対象と柔軟な補助金額にあります。

・補助対象:中小企業から中堅企業まで幅広く対象 

・補助率:1/3~3/4

・補助上限額:100万円~1.5億円

補助金額は、企業の規模や従業員数、資本金などによって異なります。また、申請枠の種類によっても変わってきます。

注意すべき点として、最低補助金額が設定されていることがあります。そのため、小規模な補助事業の場合、対象外となる可能性があります。

利用するための要件

事業再構築補助金を利用するためには、「事業再構築の定義」に該当する必要があります。事業再構築指針によると、以下の5つの定義が示されています。

 1. 新市場進出:既存事業とは異なる市場への進出

 2. 事業転換:主たる事業の変更(業種は変更なし)

 3. 業種転換:主たる業種の変更

 4. 事業再編:組織再編を行い、新市場進出、事業転換、業種転換のいずれかを実施

 5. 国内回帰:海外製造から先進性を有する国内製造へと拠点を整備

これらの定義に該当する事業計画を立案し、実行することが、補助金獲得の鍵となります。

M&Aの概要

M&A(Mergers and Acquisitions)は、企業の合併・買収を意味する言葉です。場合によっては、業務提携や資本提携なども含まれることがあります。M&Aは企業戦略の一つとして、多くの企業で活用されています。

M&Aの主要な形態

M&Aには主に以下の3つの形態があります。

 1. 買収(Acquisition) 

   • 株式取得:対象企業の株式を取得し、経営権を獲得する方法

   • 事業譲渡:対象企業の事業の一部または全部を譲り受ける方法

 2. 合併(Merger) 複数の企業が一つの企業に統合される形態

 3. 会社分割(Split-off) 企業の一部門や事業を分離し、別会社として独立させる形態

これらの形態は、企業の状況や目的に応じて選択されます。

企業がM&Aを選択する理由

企業がM&Aを実施する目的は多岐にわたりますが、主な理由として以下が挙げられます。

 1. シナジー効果の追求 

   • 企業間の相乗効果による成長戦略の実現

   • 新規事業への迅速な参入

   • 既存事業の強化やシェア拡大

   • 新たな顧客層の獲得

 2. スピーディーな事業展開 

   • 企業をゼロから立ち上げるよりも短期間で事業を拡大できる

 3. 事業承継問題の解決 

   • 後継者不足に悩む企業の事業継続

   • 従業員の雇用維持

 4. 経営資源の獲得 

   • 技術、ノウハウ、人材など、必要な経営資源を効率的に獲得

 5. 競争力の強化 

   • 規模の経済や範囲の経済を活かした競争力向上

 6. グローバル展開の加速 

   • 海外市場への迅速な進出や事業拡大

M&Aは、これらの目的を達成するための有効な手段として、多くの企業で活用されています。ただし、M&Aの成功には綿密な計画と慎重な実行が不可欠です。

M&Aにおける事業再構築補助金の活用可能性

M&Aと事業再構築補助金は、一見すると別々の概念のように思えますが、実際には密接に関連しています。事業再構築補助金事務局が発表した公募要領には、M&Aを通じた事業再構築の可能性が明確に示されています。

具体的には、以下のように記載されています。

「事業再編とは、会社法上の組織再編行為(合併、会社分割、株式交換、株式移転、事業譲渡)などの補助事業の開始後に行い、新たな事業形態のもとに新市場進出(新分野展開、業態転換)、事業転換、業種転換のいずれかを行うことをいう。」

この定義から、M&Aによる組織再編を通じて事業再構築を行う場合、事業再構築補助金の対象となる可能性が高いことがわかります。

ただし、注意すべき点があります。M&Aを実施すれば自動的に補助金が受けられるわけではありません。以下の条件を満たす必要があります。

 1. M&Aによって新たな事業形態を構築すること

 2. その新たな事業形態のもとで、以下のいずれかを行うこと 

   • 新市場進出(新分野展開または業態転換)

   • 事業転換

   • 業種転換

 3. 事業計画が成長性を見込めるものであること

つまり、M&Aを単に実施するだけでなく、それを通じて事業の大きな転換や新たな挑戦を行うことが求められます。また、その計画が将来の成長につながるものであることを示す必要があります。

M&Aと事業再構築補助金を組み合わせることで、以下のようなメリットが期待できます。

 • 事業再構築に必要な資金の一部を補助金で賄える

 • M&Aによる迅速な事業転換と、補助金による資金支援の相乗効果

 • 新規事業や新市場進出のリスクを軽減できる

ただし、M&Aと事業再構築補助金の両方の要件を満たす必要があるため、綿密な計画と戦略が求められます。専門家のアドバイスを受けながら、慎重に進めることが成功の鍵となります。

事業再構築補助金をM&Aで活用するタイミング

M&Aを実施する際に事業再構築補助金を活用する場合、そのタイミングは非常に重要です。補助金の対象となる経費と対象外の経費を正確に理解し、適切なタイミングで申請することが求められます。

補助対象外のM&A関連経費

事業再構築補助金の公募要領には、M&Aに関連する特定の経費が補助対象外であることが明記されています。
主な対象外項目は以下の通りです。

 1. 株式の購入費用

 2. M&Aに関連する公租公課

 3. 交付決定前に発注(契約)した経費

特に注意が必要なのは、補助対象となる経費の条件です。補助金の対象となるのは、「補助事業の実施期間内に、補助事業のために支払ったこと」を確認できる経費に限られます。

このため、M&Aの交渉や契約締結にかかる費用、デューデリジェンス(企業価値評価)の費用、アドバイザリー費用などは、通常、補助対象外となります。

M&A後の経費

事業再構築補助金は、M&A成立後の事業展開や再構築に関わる経費に活用できます。
主な補助対象となる経費は以下の通りです。

 1. 建物費

 2. 設備費

 3. 機械装置・システム構築費

 4. 技術導入費

 5. 専門家経費

 6. 運搬費

 7. クラウドサービス利用費

 8. 外注費

 9. 知的財産権等関連経費

 10. 広告宣伝・販売促進費

 11. 研修費

これらの経費は、M&A後の新たな事業展開や、既存事業の再構築に必要な投資に充てることができます。

ただし、補助金の申請にあたっては、事業拡大につながる事業資産(有形・無形)への相応の規模の投資を含む必要があります。単なる経費の補填ではなく、将来の成長に向けた積極的な投資が求められます。

M&Aを実施する前に事業再構築補助金を活用したい場合は、「事前着手届出制度」の利用を検討することも可能です。この制度を活用すれば、交付決定前のM&A関連経費も補助対象となる可能性があります。

ただし、事前着手届出制度の利用には条件があり、すべてのケースで適用されるわけではありません。詳細については、事業再構築補助金事務局や専門家に相談することをお勧めします。

事業再構築補助金の申請プロセス

事業再構築補助金の申請には、いくつかの重要なステップがあります。これらのプロセスを適切に進めることが、補助金獲得の鍵となります。

1. GビズIDプライムアカウント取得の手順

事業再構築補助金の申請は、電子申請システムを通じてのみ受け付けられます。そのため、最初のステップとして「GビズIDプライムアカウント」の取得が必要です。

GビズIDとは:

 • 法人・個人事業主向けの共通認証システム

 • 社会保険の電子申請など、様々な行政サービスで使用可能

取得手順:

 1. 必要書類(申請書と印鑑証明書)を準備

 2. 書類を郵送

 3. 約1週間程度で受け取り可能

早めに取得手続を開始することをお勧めします。アカウント取得に時間がかかると、申請期限に間に合わない可能性があります。

2. 事業計画の立案

事業計画の策定は、補助金申請の核心部分です。決められたフォーマットはありませんが、以下の4項目について、A4サイズで計15ページ以内(補助金額1,500万円以下の場合は計10ページ以内)にまとめる必要があります。

 1. 補助事業の具体的な取り組み内容

 2. 将来の展望(事業化に向けて想定している市場および期待される効果)

 3. 本事業で取得する主な資産

 4. 収益計画

事業計画の作成には相当の時間を要するため、早めに着手することが重要です。また、「認定経営革新等支援機関」からの確認書も必要となるため、計画策定の段階から専門家に相談することをお勧めします。

3. 申請書類の準備と提出

申請には以下の書類が必要です:

 1. 事業計画書

 2. 認定経営革新等支援機関・金融機関による確認書

 3. 決算書(直近2年間の貸借対照表、損益計算書、製造原価報告書、販売管理費明細、個別注記表)

 4. ミラサポplus「電子支援サポート」の事業財務情報

 5. 従業員数を示す書類

 6. 収益事業を行っていることを説明する書類

さらに、申請する事業類型によっては追加の提出資料が必要になる場合があります。

申請書類の準備には時間がかかるため、余裕を持って取り組むことが大切です。また、提出前に全ての書類を再度確認し、不備がないようにしましょう。

申請は電子システムを通じて行います。システムの操作に不慮のトラブルが発生する可能性もあるため、申請期限直前の提出は避け、余裕を持って進めることをお勧めします。

M&Aを伴う事業計画の採択率を高めるポイント

M&Aを含む事業再構築補助金の申請において、採択される可能性を高めるためには、いくつかの重要なポイントがあります。これらを押さえることで、より説得力のある事業計画を作成することができます。

専門機関を活用した事業計画の策定

事業再構築補助金の申請数は非常に多く、採択率は決して高くありません。そのため、専門的な知識と経験を持つ支援機関の活用が重要です。

支援機関活用のメリット:

 1. 申請書類の作成支援

 2. 事業計画の妥当性チェック

 3. 補助金制度に関する最新情報の提供

 4. 採択されやすい表現や構成のアドバイス

特に、事業計画書で検討が必要な13個の重要トピックを確実にカバーすることが大切です。その中でも、生産性向上とシナジー効果(相乗効果)については、具体的かつ説得力のある記述が求められます。

支援機関を利用する際のポイント:

 • 早めに相談を開始する

 • 自社の状況や目標を明確に伝える

 • アドバイスを受けるだけでなく、積極的に質問する

 • 複数の支援機関の意見を聞くことも検討する

コロナ禍の影響と事業再構築の緊急性を強調

事業再構築補助金は、コロナ禍における企業支援策の一環です。そのため、申請理由にはコロナの影響と事業再構築の必要性を明確に示すことが重要です。

強調すべきポイント:

 1. コロナ禍による具体的な影響(売上減少の数値など)

 2. 現状の深刻さと事業再構築の緊急性

 3. ポストコロナ・ウィズコロナ時代への対応策

また、補助事業での投資回収期間を具体的に示すことも、説得力を高める上で効果的です。例えば、「X年でY円の投資を回収できる」といった具体的な数値を示すことが望ましいです

M&Aによる事業再構築の明確化

M&Aを通じた事業再構築を計画している場合、その内容や事業化の妥当性・実現性を明確に説明することが求められます。

記載すべき主な内容:

 1. 現在直面している経営課題の明確化

 2. M&Aによる課題解決の具体的方法

 3. M&A以外の選択肢(代替案)とその比較

 4. M&Aの実施時期や契約に関する具体的な計画

 5. M&A後の取り組み内容とその期待効果

特に、M&Aによって何が変わり、どのような新しい価値が生まれるのかを具体的に説明することが重要です。単にM&Aを実施するだけでなく、それを通じてどのように事業を再構築し、成長につなげていくのかというビジョンを明確に示すことが求められます。

これらのポイントを押さえた事業計画を作成することで、採択される可能性を高めることができます。ただし、補助金の採択には競争があるため、独自性のある提案や、社会的意義の高い事業計画であることも重要な要素となります。

M&A関連の他の補助金制度

M&Aを検討する企業にとって、事業再構築補助金以外にも活用できる補助金制度があります。これらの制度を適切に利用することで、M&Aに伴う経済的負担を軽減し、より円滑な事業承継や事業拡大を実現することができます。

事業承継・引継ぎ補助金(M&A補助金)

「事業承継・引継ぎ補助金」は、M&Aの手続きにかかる費用を補助対象としている制度です。この補助金は主に3つの事業を対象としていますが、M&Aに関連するのは「専門家活用事業」です。

補助金の概要:

 • 対象:M&Aの譲渡側(売り手)と譲受側(買い手)の両方の中小企業

 • 補助率:経費の2/3以内(売り手支援型で要件に該当しない場合は1/2以内)

 • 補助上限額:300万円

 • 補助下限額:50万円(下限額を下回る申請は受付不可)

 • 廃業費用の場合の上限額:150万円

補助対象となる主な費用:

 1. デューデリジェンス(買収監査・企業調査)費用

 2. M&A仲介業者への委託費用

 3. 専門家(公認会計士、税理士、弁護士など)への相談費用

この補助金を活用することで、M&Aの初期段階で発生する高額な専門家費用の負担を軽減することができます。特に、中小企業にとっては大きな支援となるでしょう。

東京都の事業承継支援助成金(M&A委託費の補助)

東京都では、「事業承継支援助成金」という独自の制度を設けています。この制度は、事業承継または経営改善を実施する過程で活用する外部専門家などへの委託費用を助成するものです。

助成金の概要:

 • 対象:後継者未定の事業区分の場合、M&A仲介業者などとの契約締結に要する経費も対象

 • 助成限度額:最大200万円

 • 申請下限額:20万円

 • 注意点:成功報酬は対象外

この助成金の特徴は、M&A仲介業者との契約締結に要する経費も対象としている点です。ただし、成功報酬は対象外となっているため、契約内容をよく確認する必要があります。

これらの補助金制度を活用する際の注意点:

 1. 申請時期:各補助金制度には申請期間が設定されているため、計画的な申請が必要

 2. 要件の確認:各制度の詳細な要件を確認し、自社が対象となるか慎重に検討

 3. 専門家の活用:申請手続きが複雑な場合もあるため、必要に応じて専門家のサポートを受ける

 4. 重複申請の確認:複数の補助金制度を併用する場合、重複申請が可能かどうか確認が必要

これらの補助金制度を適切に活用することで、M&Aに伴う経済的負担を軽減し、より戦略的な事業承継や事業拡大を実現することができます。ただし、各制度の詳細な要件や申請手続きは変更される可能性もあるため、最新の情報を確認することが重要です。

まとめ

事業再構築補助金は、M&Aを活用した事業再構築を支援する有効なツールです。M&A後の新たな事業展開や既存事業の再構築に必要な投資に活用できます。ただし、M&Aの手続きそのものは補助対象外となるため、タイミングや対象経費に注意が必要です。効果的な活用には、専門家の助言を得ながら綿密な計画を立てることが重要です。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

相続の教科書