事業再構築補助金とM&Aの対象費用・代替制度の選び方
事業再構築補助金はM&Aの買収対価や仲介手数料には使えません。新規公募終了後の代替制度、M&A後の設備投資、補助金受給会社を売買する際の承認手続と返還リスクを解説します。

目次
▶目次ページ:事業承継とは(事業承継の相談先・費用)
「M&Aで事業再構築補助金を使えるのか」と調べている方は、まず制度の現在地を確認する必要があります。結論からいうと、事業再構築補助金の新規応募申請は第13回公募をもって終了しています。そのため、2026年時点でM&A(合併・買収)と組み合わせて新たに補助金を検討する場合は、旧制度に申し込むのではなく、後継的な成長投資制度やM&Aに特化した補助金の公募状況を確認する流れになります。
ただし、旧制度のルールが不要になったわけではありません。過去に事業再構築補助金を受けた会社を売却する場合や、補助金で取得した設備を持つ会社を買収する場合には、承認手続や返還リスクの確認が今も重要です。買い手候補との交渉中に「この設備は自由に使えるのか」「補助金返還が必要ではないか」という確認で止まることがあります。意外と多い落とし穴です。
この記事では、旧・事業再構築補助金の基本を残しつつ、現在のM&A実務で確認すべき代替制度、対象費用、承認手続、資金計画の考え方を整理します。
旧・事業再構築補助金を確認すべき場面は、大きく2つあります。1つは、過去に採択された会社を売却・買収する場面です。補助金で取得した機械、建物、システムなどが残っていれば、M&A後の利用方法や承継手続を確認しなければなりません。
もう1つは、M&A後の成長投資を検討する場面です。旧制度そのものには新規申請できなくても、どの費用が補助対象になりやすく、どの費用が対象外になりやすいかという考え方は、後継制度の検討にも役立ちます。
売り手である経営者は、補助金で取得した資産の一覧、取得日、取得価額、残存簿価、使用目的、処分制限の有無を整理します。残存簿価とは、会計上まだ費用化されていない資産の帳簿上の価値です。
買い手から資料を求められて慌てるケースは珍しくありません。M&Aでは、補助金の有無が譲渡価格や契約条件に影響することがあります。
買い手は、補助金を受けた事業や設備を買収後も同じ目的で使えるかを確認します。買収後に別事業へ転用する予定がある場合、財産処分や目的外使用に当たる可能性があります。単に設備が新しい、建物がきれいというだけでは判断できません。
M&Aと補助金を組み合わせるときの基本は、「M&Aそのものの費用」と「M&A後の新事業投資」を分けることです。ここを混同すると、資金計画が大きくずれます。
旧・事業再構築補助金は、会社や事業を買うための資金を補助する制度ではありません。一般に、株式取得費用、事業譲渡の買収対価、M&A仲介手数料、成功報酬、デューデリジェンス費用などのM&A直接費用は、旧制度で補助対象とする前提では考えない方が安全です。
デューデリジェンスとは、買い手が買収前に財務、税務、法務、労務などを調べる手続です。M&Aでは重要な費用ですが、設備投資や新事業の実施費用とは性質が異なります。
「M&Aに関係する費用なら補助される」と考えると危険です。仲介手数料やデューデリジェンス費用を支援する制度は別にありますが、それは事業再構築補助金ではなく、後述する事業承継・M&A補助金などの領域です。
一方で、M&A後に新たな製品・サービスへ進出するための投資は、補助金の対象になり得ます。たとえば、買収した工場を新製品ライン向けに改修する費用、新事業用の機械装置やシステム構築費、新サービスを広げるための広告宣伝・販売促進費などです。
後継的に確認される中小企業新事業進出促進補助金でも、対象経費として機械装置・システム構築費、建物費、運搬費、技術導入費、知的財産権等関連経費、外注費、専門家経費、クラウドサービス利用費、広告宣伝・販売促進費などが示されています。ただし、公募回ごとに要件や受付期間が変わるため、実際に申請する際は必ず最新の公募要領を確認します。
補助金の審査では、買収そのものよりも、その後に何を変えるかが見られます。既存事業の延長にすぎない投資ではなく、新しい市場、新しい顧客、新しい製品・サービスにどうつながるかを説明する必要があります。
使途の説明は決算書とつなげる
事業計画では、設備投資額だけでなく、売上、粗利、人件費、借入返済、自己資金を一体で見せることが重要です。補助金は後払いが原則となるため、採択されても先に資金を用意しなければならない場面があります。
補助金を受けた会社をM&Aで売却・買収すること自体が、直ちに禁止されるわけではありません。ただし、補助金で取得した資産や補助事業には、通常の会社売買とは異なる制約が残ります。
事業再構築補助金で取得した資産のうち、一定額以上の建物、機械器具、備品などは処分制限財産に該当します。処分制限期間内に転用、売却、廃棄などを行う場合は、一般に事前承認が必要です。無断で処分した場合、交付決定の取消しや補助金返還の対象になる可能性があります。
処分制限期間は、設備の種類によって5〜10年程度、またはそれ以上に及ぶこともあります。売り手は「もう数年前の補助金だから大丈夫」と決めつけないことが大切です。
株式譲渡では、会社そのものが存続するため、補助対象資産の所有者は変わらないことがあります。それでも、代表者、支配株主、事業計画、設備の使い方が変わる場合には、社名等変更、GビズID引継ぎ、承継、財産処分などの確認が必要になる可能性があります。
事業譲渡では、補助金で取得した資産や補助事業そのものが別会社へ移ることがあります。この場合、承継承認や財産処分の論点が出やすくなります。M&Aの契約前に、対象資産の範囲と事務局への確認事項を洗い出すことが重要です。
補助事業の完了後も、一定期間、事業化状況報告などの義務が残る場合があります。買い手は、未提出の報告がないか、賃上げや付加価値額などの要件に未達がないか、過去に事務局から指摘を受けていないかを確認します。
M&A実務では、補助金返還の可能性があると、譲渡価格から差し引く、表明保証を入れる、一定額を留保するなどの調整が行われることがあります。表明保証とは、契約時点で売り手が一定の事実を保証する条項です。
事業再構築補助金の新規公募が終わった現在、M&Aと補助金を組み合わせる場合は、目的に応じて制度を選びます。大きく分けると、M&A後の新規事業投資を支援する制度と、M&Aの専門家費用やPMIを支援する制度です。
中小企業新事業進出促進補助金は、既存事業とは異なる新市場・高付加価値事業への進出を後押しする制度です。公募回によって受付期間は変わるため、申請を検討する際は最新の公式情報を確認する必要があります。
制度上の補助金額は、従業員数に応じて下限750万円から、通常枠で最大7,000万円、賃上げ特例で最大9,000万円とされています。ただし、上限は従業員数別に異なります。補助率は原則1/2で、一定の特例により2/3となる場合があります。
M&Aとの関係では、買収した会社や事業の技術、人材、顧客基盤を使って、新しい製品・サービスへ進出する場合に検討しやすい制度です。たとえば、製造業を譲り受けた後に医療機器部品へ進出する、食品事業を譲り受けた後に冷凍総菜の新ブランドを立ち上げる、といった場面です。
この制度も、基本は新事業のための投資を支援する制度です。買収対価や仲介手数料を補助金でまかなう前提にすると、資金繰りが崩れます。自己資金、金融機関借入、役員借入、補助金の入金時期を分けて管理する必要があります。
M&Aの仲介手数料、FA費用、デューデリジェンス費用などを検討する場合は、事業承継・M&A補助金が候補になります。公式サイトや公募要領では、専門家活用枠として、M&Aにより経営資源を引き継ぐ、または引き継ぐ予定の中小企業等を対象に、FAや仲介に係る費用、デューデリジェンス、セカンド・オピニオン、表明保証保険料などが補助対象経費として示されています。
また、PMI推進枠では、M&Aに伴い経営資源を譲り受ける予定の中小企業等のPMIに係る専門家費用や設備投資費用が対象とされています。PMIとは、M&A後に人事、会計、システム、営業管理などを統合するプロセスです。
専門家活用枠は、主にM&A成約に向けた専門家費用を支援する制度です。PMI推進枠は、M&A後の統合に関する取り組みを支援する制度です。同じM&A関連でも、使える場面が違います。
複数の補助金を使う場合、同じ経費を重複して申請することは通常できません。設備投資、専門家費用、広告費、システム費を切り分け、どの制度で申請するかを早めに整理します。
▶関連:事業承継・引継ぎ補助金の概要
補助金ありきでM&Aを進めると、実務では止まりやすくなります。先に決めるべきなのは、どの会社・事業を、どのスキームで引き継ぎ、その後どの新事業に投資するかです。
株式譲渡では、売り手会社の権利義務や契約関係が原則として会社に残ります。事業譲渡では、対象事業や資産・契約を個別に移すため、補助対象資産や補助事業の承継確認がより細かくなりがちです。
会社分割や合併を使う場合も、補助事業の実施主体が変わるか、取得財産の所有者が変わるか、事業計画と実態がずれないかを見ます。会社法上は実行できるスキームでも、補助金ルール上の承認や届出が別途必要になることがあります。
専門家や支援機関へ相談する前に、少なくとも3つを整理します。買い手側なのか売り手側なのか。過去に補助金を受けた会社のM&Aなのか、これから補助金を申請したい段階なのか。M&A後に予定している新事業の内容、投資額、設備、雇用計画はどこまで固まっているのか。
この3点が曖昧なままでは、使う制度も、必要な承認手続も、資金繰りも決まりません。M&A実務では、ここで判断が止まることがあります。
補助金の事業計画は、外部専門家の助言を受けることはできますが、経営者自身が説明できる内容にすることが大切です。制度によっては、計画作成の丸投げが認められない場合もあります。
補助金申請書は、単なる作文ではありません。M&Aの目的、買収後の投資、収益計画、資金調達、従業員への影響をつなげる経営計画です。経営者自身が「なぜこのM&Aが必要なのか」を説明できなければ、金融機関や買い手候補への説明にも一貫性が出ません。
補助金申請は電子申請が前提となることが多く、GビズIDプライムアカウントが必要になる場合があります。取得には一定の時間がかかるため、申請締切の直前に準備すると間に合わないことがあります。
M&Aの検討と補助金申請を同時に進める場合は、基本合意、デューデリジェンス、契約、資金調達、補助金申請のスケジュールを一枚の工程表にまとめておくと、判断がしやすくなります。
補助金とM&Aを組み合わせると、通常のM&Aよりも確認事項が増えます。制度を知っているだけでは足りません。契約、税務、会計、資金繰り、事務局対応を同時に進める必要があります。
補助金で取得した資産に返還リスクがある場合、買い手はその分を価格交渉に反映しようとします。売り手としては、財産処分の有無、報告義務の履行状況、補助事業の継続可能性を事前に説明できるようにしておくべきです。
株式譲渡契約や事業譲渡契約では、補助金の受給履歴、取得財産、報告義務、返還リスク、承認・届出の責任分担を明記します。口頭確認だけでは危険です。
補助金は後払いであり、M&Aの買収資金と設備投資資金は別に必要になります。金融機関には、買収資金、補助対象外費用、補助対象投資、補助金入金までのつなぎ資金を分けて説明します。
中小企業のM&Aでは、代表者の個人保証や担保の解除・引継ぎも重要です。補助金で取得した資産に担保を設定する場合には、別途承認が必要になる可能性があります。補助金だけでなく、金融機関対応も同じスケジュールに入れておく必要があります。
会社売却を検討する経営者は、補助金関係の書類を早めに整理してください。採択通知、交付決定通知、実績報告、補助金額確定通知、取得財産管理台帳、事業化状況報告、財産処分関係書類がそろっていると、買い手の調査が進みやすくなります。
小さな書類不足が、譲渡価格や契約時期に影響することもあります。補助金を受けたこと自体は強みになり得ますが、管理が不十分だと不安材料に変わります。
事業再構築補助金は新規公募が終了しており、M&Aの買収対価や仲介手数料に使う制度ではありません。現在は、M&A後の新事業投資、専門家費用、PMIなど目的別に代替制度を確認します。補助金受給会社を売買する場合は、承認、財産処分、返還リスクを早めに確認し、譲渡条件と資金計画に反映することが重要です。
著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事
編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人