M&A経営統合とは?メリットとデメリット、事例から学ぶ成功の秘訣

M&Aによる経営統合の定義や方法、合併との違いを解説します。また、経営統合のメリットとデメリット、統合後のプロセス、実際の事例も紹介します。企業の成長戦略立案に役立つ情報が満載です。

目次

  1. M&Aによる経営統合の定義
  2. 経営統合による持株会社設立の方法
  3. 経営統合と合併の違い
  4. 経営統合のメリット
  5. 経営統合のデメリット
  6. M&A後の統合プロセス(PMI)の手順
  7. 実例で見る経営統合の5つのケース
  8. まとめ

M&Aによる経営統合の定義

M&Aによる経営統合は、複数の会社が協力して親会社となる持株会社を設立し、その傘下に子会社として入る方法です。この手法では、持株会社が子会社の株式を保有し、グループ全体を統括する役割を担います。経営統合では、各社の法人格が維持されるため、既存の事業や社内制度を大きく変更する必要がないのが特徴です。

持株会社には、主に以下の2種類があります。

事業持株会社の特徴

事業持株会社は、子会社の株式を保有するだけでなく、自社でも事業を展開している会社です。多くの場合、既存の事業会社を持株会社化し、従来の事業を継続しながら子会社の管理も行います。この形態では、親会社自体も収益を生み出す事業体として機能します。

純粋持株会社の役割

純粋持株会社は、子会社の管理と統治のみを目的として設立された会社です。自社では事業活動を行わず、子会社の株式保有と経営管理に専念します。純粋持株会社の収益源は、子会社から受け取る配当金が主となります。この形態では、グループ全体の戦略立案や経営資源の最適配分に注力できるメリットがあります。

経営統合を選択する企業は、これらの持株会社の特徴を考慮し、自社の経営戦略や目的に合わせて最適な形態を選択します。事業の継続性や統合後の組織構造など、さまざまな要素を総合的に判断して決定することが重要です。

経営統合による持株会社設立の方法

経営統合を実施する際の持株会社設立方法には、主に3つの方式があります。それぞれの特徴を理解し、自社の状況に最適な方法を選択することが重要です。

株式移転方式の概要

株式移転方式は、既存の複数の会社が新たに親会社を設立する方法です。この方式では、既存会社の株主が新設される親会社の株主となります。株式移転により、対等な立場での経営統合が可能となり、各社の独立性を保ちやすいのが特徴です。

株式交換方式の仕組み

株式交換方式は、親会社が子会社の株式をすべて取得して持株会社を設立する方法です。子会社から受け取る株式の対価として、親会社は自社株式を交付します。この方式は、既に上場している会社が子会社を完全子会社化する際によく用いられます。

抜け殻方式のプロセス

抜け殻方式は、既存の親会社がそれまで行ってきた事業をすべて子会社に移転する方法です。この結果、親会社は事業活動を行わなくなり、子会社の統括のみを行う純粋持株会社となります。既存の上場会社を活用できるため、新たな上場手続が不要という利点があります。

各方式には、それぞれメリットとデメリットがあります。企業は自社の経営戦略、統合の目的、法的要件などを考慮して、最適な方式を選択する必要があります。

経営統合と合併の違い

経営統合と合併は、どちらもM&Aの手法ですが、その実施方法や結果には大きな違いがあります。それぞれの特徴を理解することで、自社に適した方法を選択できます。

合併の基本的な概念

合併とは、複数の会社が1つの会社にまとまる方法です。主に以下の2種類があります。

1. 吸収合併:1つの既存会社が存続し、他の会社を吸収する方法

2. 新設合併:既存の会社がすべて消滅し、まったく新しい会社を設立する方法

合併では、法人格が1つに統合されるため、組織や事業の完全な統合が図られます。

経営統合と合併の主な違い

経営統合と合併の最大の違いは、統合後の会社の数と法人格の扱いです。

 会社の数

  経営統合:各社の法人格が残るため、会社の数は変わりません。

  合併:複数の会社が1つになるため、会社の数が減ります。

 法人格: 

  経営統合:各社の法人格が維持されます。

  合併:吸収合併の場合は存続会社以外の法人格が消滅し、新設合併の場合はすべての法人格が消滅します。

 社内システム: 

  経営統合:各社が独立して存在するため、社内システムの統一は必須ではありません。

  合併:1つの会社になるため、社内システムの統一が必要です。

 統合の度合い: 

  経営統合:各社の独立性が比較的保たれます。

  合併:完全に1つの会社となるため、統合の度合いが高くなります。

これらの違いを踏まえ、企業は自社の状況や統合の目的に応じて、経営統合と合併のどちらを選択するか慎重に検討する必要があります。

経営統合のメリット

M&Aによる経営統合には、いくつかの重要なメリットがあります。これらのメリットを理解することで、経営統合を検討する際の判断材料となります。

システム統合にかかる負担の軽減

経営統合では、各社の法人格が維持されるため、社内システムの統合にかかる負担が比較的軽くなります。

既存のシステムをそのまま利用可能

システム統合のための大規模な投資が不要

従業員の業務環境の急激な変化を避けられる

これにより、統合後の混乱を最小限に抑え、スムーズな事業継続が可能となります。

経営リスクの分散効果

経営統合後も各社が独立して事業活動を続けるため、経営リスクを分散させることができます。

1社の業績悪化が他社に及ぼす影響を最小限に抑えられる

多角化戦略の実施が容易

市場環境の変化に対する耐性が向上

このリスク分散効果により、グループ全体の経営安定性が高まります。

従業員に与える影響の最小化

経営統合では、各社の組織体制や人事制度を大きく変更する必要がないため、従業員への影響を最小限に抑えることができます。

雇用条件や職場環境の急激な変化を避けられる

従業員の不安や反発を軽減できる

モチベーションの維持が比較的容易

これにより、統合後の人材流出を防ぎ、スムーズな事業継続が可能となります。

経営統合のこれらのメリットは、特に大規模な組織変更や急激な環境変化を避けたい企業にとって魅力的です。ただし、メリットを最大限に活かすためには、適切な統合戦略と管理体制の構築が不可欠です。

経営統合のデメリット

M&Aによる経営統合には多くのメリットがある一方で、いくつかのデメリットも存在します。これらのデメリットを認識し、適切に対処することが、成功した経営統合の鍵となります。

シナジー(相乗効果)創出の難しさ

経営統合では、各社の独立性が保たれるため、グループ会社間でのシナジー効果を生み出すことが難しくなる場合があります。

情報、スキル、ノウハウの共有が制限される可能性

協業や共同プロジェクトの立ち上げに時間がかかる

各社の文化や価値観の違いが障壁となりうる

これらの課題を克服するためには、グループ全体での戦略的な取り組みや、コミュニケーション強化が必要となります。

コスト(費用)増加の可能性

経営統合後も各社の体制が基本的に維持されるため、グループ全体でみると重複する機能や部署が存在し、コスト増加につながる可能性があります。

重複する管理部門や間接部門の存在

システムや業務プロセスの非効率性

グループ間調整にかかる時間とコスト

これらのコスト増加を抑制するためには、中長期的な視点での組織最適化や業務効率化が求められます。

経営統合のデメリットを最小限に抑えるためには、以下のような対策が考えられます。

1. グループ全体の明確なビジョンと戦略の策定

2. 効果的なコミュニケーション体制の構築

3. 段階的な業務プロセスの統合と効率化

4. 人材交流や共同プロジェクトの推進

5. 定期的な統合効果の検証と改善

これらの取り組みを通じて、経営統合のメリットを最大化しつつ、デメリットを最小化することが可能となります。経営統合を検討する企業は、これらのデメリットを十分に認識し、適切な対策を講じることが重要です。

M&A後の統合プロセス(PMI)の手順

M&A成立後の統合プロセスは、PMI(Post Merger Integration)と呼ばれ、M&Aの成功に大きな影響を与えます。PMIを効果的に実施することで、期待されるシナジー効果を最大化し、統合後の組織を成功に導くことができます。以下では、PMIを効果的に実施するための主要な手順について説明します。

1.統合方針の決定

統合プロセスの第一歩は、明確な統合方針を決定することです。この段階では以下の点に注意が必要です。

M&Aのクロージング(成約)までに方針を決定する

統合の目的と期待される効果を明確にする

統合の範囲と深度を決定する

主要なステークホルダーの理解と協力を得る

統合方針は、その後の統合プロセス全体の指針となるため、慎重に検討する必要があります。

2.統合作業の実施

統合作業は、M&Aが成立してから数か月間で集中的に実施します。この段階では以下の点に注意が必要です。

優先度の高い重要な作業から着手する

統合チームを編成し、責任者を明確にする

定期的に進捗状況を確認し、必要に応じて計画を調整する

クロージングまでに決められなかった詳細事項を調整する

統合作業の円滑な実施には、両社の協力と明確なコミュニケーションが不可欠です。

3.中期経営計画の策定

M&A成立後、約100日程度が経過したら、統合後の組織の方向性を示す中期経営計画を策定します。この計画は以下の要素を含む必要があります。

3~5年程度の期間を見据えた計画

統合によるシナジー効果を反映した目標設定

両社の強みを活かした成長戦略

統合後の組織構造と人材配置の方針

中期経営計画は、統合後の組織の羅針盤となるため、両社の意見を十分に反映させることが重要です。

4.効果の検証と改善

統合プロセスの最終段階として、効果の検証と継続的な改善が必要です。この段階では以下の点に注意が必要です。

定期的に統合の効果を測定し、評価する

当初の目標と実際の成果を比較分析する

課題が見つかった場合は迅速に対応策を講じる

必要に応じて新たな施策を立案し実行する

効果の検証と改善は、統合後の組織の持続的な成長と発展のために不可欠なプロセスです。

PMIの成功には、これらの手順を着実に実行することに加え、両社の文化や価値観の融合、従業員のモチベーション維持など、定性的な側面にも十分な注意を払う必要があります。また、統合プロセス全体を通じて、明確なコミュニケーションと透明性の確保が重要です。

実例で見る経営統合の5つのケース

経営統合の実例を見ることで、その多様性や実際の効果をより具体的に理解することができます。ここでは、日本企業による経営統合の代表的な5つのケースを紹介します。

マツキヨココカラ&カンパニーの事例

2021年に実施されたマツモトキヨシホールディングスとココカラファインの経営統合は、ドラッグストア業界に大きな影響を与えました。

統合後の店舗数:3,400店舗以上(国内最大級)

統合の目的: 

    1. マツモトキヨシ:アジアNo.1のドラッグストアチェーンを目指す

    2. ココカラファイン:マーケティング力の強化

この統合により、規模の経済を活かしたコスト削減や、相互の強みを活かした事業展開が期待されています。

伊藤ハム米久ホールディングスの統合

2016年に実施された伊藤ハム株式会社と米久株式会社の経営統合は、食品業界の再編を象徴する事例です。

統合方法:株式移転による共同持株会社の設立

統合の目的: 

    1. 消費者の低価格志向への対応

    2. 市場環境の変化への適応

統合によるシナジー効果として、原価低減、収益性の向上、新商品開発領域の拡大などが期待されています。

Zホールディングスの形成過程

2021年に実現したZホールディングス株式会社とLINE株式会社の経営統合は、日本のIT業界に大きな影響を与えました。

統合方法:株式交換によるLINE株式会社の完全子会社化

統合の背景:激化するグローバル競争への対応

この統合により、両社の持つ膨大なユーザー基盤やデータ、テクノロジーを活用した新しいサービスの創出が期待されています。

三十三フィナンシャルグループの誕生

2018年に実施された三重銀行と第三銀行の経営統合は、地方銀行の再編を象徴する事例です。

統合方法:株式移転による共同持株会社の設立

統合の目的: 

    1. 社会構造の変化に対応した地域経済への貢献

    2. 事業基盤や競争力の強化

この統合では、経営資源やノウハウの相互利用に重点が置かれ、新しい時代に対応した地域金融機関の姿を模索しています。

インフロニア・ホールディングスの設立

2021年に実施された前田建設工業、前田道路、前田製作所の経営統合は、建設業界の新たな動きを示す事例です。

統合方法:株式移転による共同持株会社の設立

統合の目的:3社の協力体制強化による競争力向上

この統合により、建設事業を中心とした関連事業の連携が強化され、総合インフラサービス企業グループとしての成長が期待されています。

これらの事例から、経営統合が業界再編や競争力強化、環境変化への対応など、様々な目的で実施されていることがわかります。各社の状況や目的に応じて、最適な統合方法や統合後の経営戦略が選択されています。

まとめ

M&Aによる経営統合は、複数の企業が協力して新たな価値を創造するための有効な手段です。持株会社の設立を通じて各社の独立性を保ちつつ、グループとしての競争力を高められる点が大きな特徴です。統合方法の選択や統合後のPMIプロセスを適切に実施することで、シナジー効果を最大化し、企業価値の向上につなげることができます。

著者|竹川 満 マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

相続の教科書