M&A企業買収巨額ランキングから学ぶ戦略的アプローチ

最新のM&A企業買収巨額ランキングを基に、成功事例と最新トレンドを徹底解説します。グローバル企業の戦略的アプローチや業界横断的M&Aの重要性、成功のための重要ポイントをご紹介します。

目次

  1. 2022年の巨額M&A企業買収ランキング
  2. グローバル企業のM&A動向
  3. 現代のM&Aトレンド
  4. M&A評価における重要ポイント
  5. 業界を跨ぐM&Aがもたらす新たな事業機会
  6. M&A成功のための重要な要素
  7. 変化するビジネス環境に対応したM&A事例
  8. まとめ

2022年の巨額M&A企業買収ランキング

2022年は、世界中で数多くの企業買収が行われ、特に大規模な取引が注目を集めました。本章では、その中でも代表的な事例をご紹介します。

以下が2022年の巨額M&A企業買収ランキングです。

これらのM&A事例は、新技術の獲得やシェア拡大、投資、多角化、完全子会社化など、様々な目的で実施されています。

上位を占める注目の海外取引

ランキング上位に位置する武田薬品工業とソニーの取引は、いずれも日本企業による海外企業の買収です。これらの取引は、新技術の獲得と世界市場でのシェア拡大を狙った戦略的なものといえます。

武田薬品工業は、新薬開発力の強化を目指してNimbus Lakshmi, Inc.を買収しました。一方、ソニーは、ゲーム開発会社であるBungie, Inc.を買収することで、ゲーム事業の競争力向上を図っています。

このような大規模な海外取引は、グローバル経済における企業の競争力を高めるとともに、国内市場にも大きな影響を与える可能性があります。

存在感を増す日本企業の買収案件

日本企業もM&Aによる企業買収に積極的に取り組んでおり、成功例が増加しています。特に医薬品業界やIT業界では、日本企業の技術力とブランド力が世界市場で高く評価され、多額の資金が投入される事例が目立っています。

例えば、横浜ゴムによるTrelleborg Wheel Systems Holding ABの買収は、産業車両用タイヤ製造分野でのシェア拡大を目指したものです。また、近鉄グループホールディングスによる近鉄エクスプレスの完全子会社化は、物流事業の強化を図る戦略的な動きといえます。

これらの日本企業による積極的なM&A活動は、日本経済の成長に寄与するとともに、グローバル市場における日本企業の存在感を高めることにつながっています。

▶目次ページ:企業買収(買収とは)

グローバル企業のM&A動向

近年、世界の大手企業を中心に、成長戦略としてのM&Aが積極的に活用されています。事業の拡大や市場シェアの獲得、成長戦略の一環として行われた過去の巨額買収の事例をご紹介します。

米国IT企業が主導するM&A戦略

米国のIT大手企業は、特に積極的にM&Aを展開しています。その代表例として、セールスフォースの戦略的なM&A活動が挙げられます。

セールスフォースの主なM&A事例:

1. Slackの買収(約277億ドル、2020年12月)

2. Tableau Softwareの買収(157億ドル)

3. MuleSoftの買収(65億ドル)

これらの大型買収に加え、セールスフォースは300社以上のスタートアップへの出資も行っており、過去5年間だけでも20社以上を買収しています。

セールスフォースのM&A戦略の目的は、様々な製品を統合し、クラウドベースのデータを重視した顧客中心の未来において優位性を確立することです。このような戦略的なM&Aにより、セールスフォースは急速に事業を拡大し、競争力を強化しています。

サービス産業における相次ぐM&A発表

サービス業界でも、大規模なM&Aが相次いで発表されています。以下に代表的な事例をご紹介します。

1. AT&TとTPGキャピタルの事例(2021年2月) 

 o AT&Tは衛星放送事業のディレクTVを分離し、株式の3割をTPGキャピタルに売却しました。

 o この取引の背景には、動画配信サービスの台頭による業績低迷があり、資本増強を目的とした大型M&Aとなりまし
   た。

2. チャーター・コミュニケーションズによるタイム・ワーナー・ケーブルの買収(2015年) 

 o 取引価格は負債込みで787億ドル(約9兆7,000億円)に達しました。

 o この買収により、チャーター・コミュニケーションズは業界首位のコムキャストを超える顧客数を獲得しました。

 o M&Aの背景には、Netflixなどの競合動画配信サービスへの顧客流出があり、規模拡大による経費圧縮と価格競争力
   強化が狙いでした。

これらの事例は、サービス業界における競争激化と、それに対応するための企業の戦略的なM&A活用を示しています。

現代のM&Aトレンド

近年、国内外のビジネス環境において顕著な変化が見られます。特に、事業領域の多様化や企業買収の増加、経営戦略におけるM&Aの重要性が高まっています。

企業が持続的な成長を実現するために、新たな市場や業界への進出、既存ビジネスの強化を目指す取り組みが活発化しています。また、海外市場への拡大も相まって、競争力向上や資金調達の重要性が増しており、企業間の資本提携やM&Aが盛んに行われています。

注目すべき点として、M&Aを実施する企業の競争力が、M&Aを実施していない企業と比べて大きく向上している傾向が見られます。

事業多角化を目指す企業の増加

企業が成長を続けるためには、事業領域の多様化が不可欠です。2022年に実施されたオリックスとディーエイチシー(DHC)のM&A事例は、この傾向を顕著に示しています。

オリックスによるDHC買収の概要:

2022年12月、オリックスがDHCを買収すると発表

DHCは化粧品通販や健康食品大手として知られる企業

オリックスは元々BtoB(企業向け)のリース会社だったが、事業拡大を続け多角化を推進

この買収の背景には、リース業界の需要低迷があります。経済産業省によると、2021年の業界全体のリース契約高は、2006年のおよそ半分の3兆2500億円強にとどまっています。このような状況下で、オリックスが成長のために多角化を推進したのは、戦略的な判断といえるでしょう。

株式上場後のM&A活発化

株式公開後、企業買収が増加する傾向が見られます。この背景には、以下のような要因があります:

1. 資金調達の容易さ: 

 o 上場企業は株式市場を通じて資金調達が容易になり、戦略的な買収を実行しやすくなります。

2. 経営状態の透明性向上: 

 o 上場により企業の経営状態の透明性が高まります。

 o これは投資家にとって魅力的な要素となり、M&Aの実行を後押しします。

3. 成長戦略の一環: 

 o 上場後、持続的な成長を示すためにM&Aを活用する企業が増えています。

一方で、上場することで経営状態の透明性が高まることにより、不用意なM&Aは実行しにくくなるという側面もあります。このため、上場企業はより慎重かつ戦略的にM&Aを検討する傾向があります。

経営戦略の核としてのM&A重視

経営戦略の中心にM&Aを据える企業が増加しており、競争力の向上や事業ポートフォリオの最適化が求められています。

M&Aを重要な戦略として採用する主な理由:

1. 新たな市場への進出や既存市場の拡大

2. 技術力やサービス品質の向上

3. 効率的な業務運営によるコスト削減

4. 経営資源の最適活用

これらの理由から、経営戦略におけるM&Aの重要性がますます高まっていることがわかります。企業は、M&Aを通じて迅速な成長や競争力強化を図り、変化の激しいビジネス環境に適応しようとしています。

M&A評価における重要ポイント

M&A取引において、売り手の財務データに基づいて算出した譲渡金額は重要な要素ですが、M&Aの成功には多角的な観点からの評価が不可欠です。以下に、M&A評価において重要なポイントをご紹介します。

1. 事業内容の評価: 

 o 売り手の事業が自社の戦略にどう適合するか

 o 将来の成長性や市場での競争力

2. 市場力の分析: 

 o 売り手の市場シェアや顧客基盤

 o ブランド力や業界での評判

3. 経営陣の質: 

 o 売り手の経営陣の能力や経験

 o 買収後の統合プロセスにおける協力度

4. 子会社との関係性: 

 o 売り手のグループ構造

 o 子会社の業績や戦略的重要性

5. 技術力やイノベーション能力: 

 o 特に最新技術の獲得を目的とするM&Aの場合に重要

 o 研究開発能力や特許ポートフォリオの評価

6. 販路や顧客基盤: 

 o 特に海外市場でのマーケティング強化を目的とする場合に重要

 o 既存の販売網や顧客関係の評価

7. シナジー効果の可能性: 

 o 買収後の統合によって生まれる相乗効果

8. 法的・規制上のリスク: 

 o 売り手が抱える法的問題や規制上の課題

 o 買収後に発生する可能性のある法的リスクの評価

9. 文化的適合性: 

 o 売り手と自社の企業文化の親和性

 o 統合後の従業員モチベーション維持の可能性

10. 長期的な価値創造: 

 o 買収が自社の長期的な成長戦略にどう寄与するか

 o 将来的な市場動向や技術変化への適応力

これらのポイントを適切に評価することで、単なる財務的な観点を超えた、戦略的で成功の可能性が高いM&Aを実現することができます。譲渡金額だけでなく、各企業の独自性や長期的な価値を自社のシナジー戦略と併せて適切に評価することが、M&Aの成功には不可欠です。

業界を跨ぐM&Aがもたらす新たな事業機会

業界を跨ぐM&Aを実施することで、異なる分野の企業連携が可能となり、新たなビジネスチャンスを創出することができます。これにより、国内市場はもとより世界市場での競争力も高めることが可能となります。

業界横断的なM&Aの具体例:

1. IT業界と自動車業界の連携: 

 o 自動運転技術の開発が加速

 o 新たな市場(コネクテッドカー、モビリティサービス)の創出

2. 金融業界とメディア業界の連携: 

 o オンライン取引の利便性向上

 o 金融サービスの普及促進

3. 小売業とテクノロジー企業の統合: 

 o オムニチャネル戦略の強化

 o カスタマーエクスペリエンスの向上

4. 製造業とAI企業の融合: 

 o 生産プロセスの最適化

 o 予測保全技術の向上

5. ヘルスケア産業とデータ分析企業の協業: 

 o 個別化医療の進展

 o 医療サービスの効率化

これらの業界横断的なM&Aによって、新たなサービスを創出し、企業価値を向上させる事例が増加しています。異なる業界のノウハウや技術を組み合わせることで、既存の市場に革新をもたらし、新たな成長機会を見出すことができます。

M&A成功のための重要な要素

M&Aを成功させるためには、以下のポイントが重要となります:

1. 相互理解とシナジー分析: 

 o 売り手と買い手がお互いの事業を深く理解する

 o 統合後のシナジー効果を詳細に分析する

2. 企業文化の尊重: 

 o 譲渡先の企業文化を尊重し、従業員のモチベーションを維持する

 o 両社の文化を融合させ、新たな企業文化を創造する

3. 綿密な統合戦略: 

 o M&A後の統合(PMI:Post Merger Integration)戦略を詳細に立案する

 o 売り手と買い手が協力してPMIを実施する

4. 適切な情報開示と関係維持: 

 o 取引先や関係機関に対して適切な情報開示を行う

 o 既存の取引関係や協力関係を維持・強化する

5. 人材の確保と育成: 

 o 重要な人材の流出を防ぎ、適切な配置を行う

 o 統合後の組織に必要なスキルを持つ人材を育成する

6. リスク管理: 

 o 法務、財務、運営面でのリスクを事前に特定し、対策を講じる 

 o コンプライアンスやガバナンス体制を強化する

7. コミュニケーション戦略: 

 o 従業員、顧客、株主など全てのステークホルダーに対して、明確なコミュニケーションを行う

 o 統合の進捗や成果を定期的に共有する

8. 柔軟な対応: 

 o 予期せぬ問題や環境変化に柔軟に対応できる体制を整える

 o 必要に応じて当初の計画を見直し、修正を加える

M&Aの成約がそのままM&Aの成功を意味するわけではありません。上記の事項をM&A実施後に問題なく実行することまでを一つのプロジェクトとして計画的に取り組むことが重要です。長期的な視点を持ち、統合後の運営まで見据えたアプローチを取ることで、M&Aの成功確率を高めることができます。

変化するビジネス環境に対応したM&A事例

ビジネス環境の変化に対応したM&A事例として、以下のようなものがあります:

1. IT企業と製造業の事例: 

 o 背景:IT業界の急速な成長と製造業のデジタル化需要

 o 事例:伝統的な製造業がIT企業を買収

 o 効果: 

  ・生産効率の向上

  ・新商品開発の加速

  ・新市場へのアプローチ

2. エネルギー企業と省エネ企業の事例: 

 o 背景:環境問題の深刻化と再生可能エネルギーへの需要増加

 o 事例:化石燃料業界の企業がエコ技術を持つ企業を買収

 o 効果: 

  ・再生可能エネルギービジネスの強化

  ・企業ブランドと企業価値の向上

  ・環境規制への対応力強化

3. 小売業とeコマース企業の統合: 

 o 背景:オンラインショッピングの急成長と実店舗の役割変化

 o 事例:大手小売チェーンがeコマースプラットフォームを買収

 o 効果: 

  ・オムニチャネル戦略の強化

  ・顧客データの統合と活用

  ・物流ネットワークの最適化

4. 製薬会社とバイオテック企業の連携: 

 o 背景:個別化医療の進展と新薬開発コストの上昇

 o 事例:大手製薬会社が革新的な技術を持つバイオテック企業を買収

 o 効果: 

  ・新薬パイプラインの強化

  ・研究開発能力の向上

  ・市場競争力の強化

5. 金融機関とフィンテック企業の融合: 

 o 背景:デジタル金融サービスの普及と顧客ニーズの変化

 o 事例:伝統的な銀行がフィンテックスタートアップを買収

 o 効果: 

  ・デジタルサービスの拡充

  ・顧客体験の向上

  ・運営コストの削減

これらの事例は、ビジネス環境の変化に適応するためのM&Aが、企業の持続的成長に大変有効であることを示しています。技術革新、顧客ニーズの変化、規制環境の変化など、様々な要因に対応するため、企業は積極的にM&Aを活用しています。

まとめ

2022年の企業買収ランキングから学ぶM&A戦略として、買収金額だけでなく多面的な観点からの評価が重要です。業界横断的なM&Aによる新たなビジネスチャンスの追求や、企業買収成功のためのポイントを押さえることが不可欠です。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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