事業譲渡契約書の書き方と押さえるべき重要ポイントを解説


Powered by みつき税理士法人


事業譲渡契約書の書き方と中小企業M&Aの実務上の注意点

事業譲渡契約書で定める譲渡対象、資産・負債、従業員、取引先契約、表明保証、競業避止義務、印紙税を解説します。株式譲渡と異なり個別承継となるため、会社売却や第三者承継で後悔しない確認点を整理します。

目次:

  1. 事業譲渡契約書は承継範囲を決める書面
  2. 契約書に盛り込むべき基本項目
  3. 個別承継で止まりやすい実務論点
  4. 表明保証と競業避止義務の決め方
  5. 印紙税と電子契約の扱い
  6. 契約書作成を会社売却の判断に生かす
  7. まとめ

事業譲渡契約書の書き方と押さえるべき重要ポイントを解説

▶目次ページ:M&Aの種類・方法(事業譲渡)

事業譲渡契約書は承継範囲を決める書面

事業譲渡契約書は、会社が営む事業の全部または一部を他社へ譲渡するときに、売り手と買い手の間で締結する最終契約書です。単なる形式書類ではありません。

事業譲渡では、株式譲渡のように会社そのものの株主が変わるのではなく、対象となる事業だけを切り出して移転します。そのため、何を引き継ぎ、何を残すのかを契約書で細かく決める必要があります。ここが曖昧なまま進むと、譲渡後に「この設備は含まれていると思っていた」「この負債は引き継がないはずだった」といった争いになりやすいです。

M&A(合併・買収)の実務では、事業譲渡契約書は最終条件を固めるだけでなく、買い手が安心して事業を引き継げるか、経営者が想定外の責任を負わずに譲渡できるかを左右します。特に中小企業では、取引先との口頭合意、従業員との長年の関係、店舗や許認可の扱いが契約書に十分反映されていないこともあります。意外と多い落とし穴です。

株式譲渡との違いは個別に引き継ぐ点

株式譲渡では、会社の株式を買い手へ譲渡するため、会社が持つ資産、負債、契約、従業員との雇用関係は原則として会社の中に残ります。会社の外側にいる株主が変わるイメージです。

一方、事業譲渡では、対象となる資産や契約を1つずつ移します。不動産、設備、在庫、商標、営業権、取引先契約、リース契約、債務などを個別に特定し、必要に応じて相手方の同意も取得します。従業員についても自動では移りません。一般には、従業員本人の同意を得たうえで、売り手側を退職し、買い手企業と新たに雇用契約を結ぶ流れになります。

契約書で決める範囲が譲渡価格にも影響する

契約書に記載する譲渡対象は、譲渡価格にも直結します。設備や在庫だけを譲渡するのか、取引先との継続契約、ブランド、ノウハウ、従業員、営業データまで含めるのかで、買い手が見込む価値は変わります。

たとえば、同じ店舗事業でも、店舗設備だけを引き渡す場合と、店長や主要スタッフ、顧客台帳、仕入先契約、屋号まで一体で引き継ぐ場合では、買い手にとっての収益性が大きく異なります。契約書は、価格交渉で合意した価値の中身を確認するための資料でもあります。

契約書に盛り込むべき基本項目

事業譲渡契約書では、ひな形を埋めるだけでは足りません。事業ごとの実態に合わせて、譲渡対象、代金、実行日、従業員、取引先、責任範囲を具体的に書き分けることが大切です。

譲渡対象事業と譲渡資産を特定する

最初に定めるのは、どの事業を譲渡するのかです。「飲食事業」「EC事業」「〇〇店の運営事業」など、名称と内容をできるだけ明確にします。複数店舗を運営している会社であれば、対象店舗名まで記載することもあります。

資産は別紙目録で1つずつ確認する

譲渡資産には、機械装置、什器備品、在庫、車両、不動産、商標、ドメイン、ソフトウェア、顧客リストなどが含まれます。実務では、契約書本文に大まかな方針を書き、詳細は別紙目録で整理することが多いです。

「店舗什器一式」「事業に関する資産一切」という表現だけでは、引渡し当日に揉めることがあります。高価な機械、リース物件、レンタル品、個人所有物、買い手が不要とする在庫は、別紙で分けておくべきです。写真、管理番号、取得価額、帳簿価額、設置場所を記載しておくと確認しやすくなります。

負債や契約は相手方の同意が要ることもある

債務や契約上の地位を買い手に移す場合、債権者や取引先の承諾が必要になることがあります。契約書では、承継する債務の内容、金額、債権者名、承諾取得の担当者、承諾が得られなかった場合の扱いを決めておきます。

債権譲渡や債務引受は、専門用語が多く見落としやすい領域です。たとえば、売掛金を譲渡する場合は債務者への通知が必要になることがあり、借入金やリース債務を移す場合は金融機関やリース会社の承諾が前提になりやすいです。

譲渡価額と支払条件を明確にする

譲渡価額は、金額だけでなく、支払時期、支払方法、振込先、振込手数料の負担、消費税の扱いを定めます。分割払いにする場合は、未払い時の対応や担保の有無も検討が必要です。


事業譲渡では、クロージング日、つまり譲渡実行日に在庫や売掛金の金額が変動していることがあります。そのため、契約締結時点では概算額を置き、実行日時点の棚卸や残高確認により後日精算する条項を入れることもあります。ここを抜かすと、引渡し後に「在庫が想定より少ない」「古い在庫が混じっていた」という不満につながります。

のれんや営業権の扱いも確認する

譲渡価額には、目に見える資産だけでなく、顧客基盤、ブランド、従業員の技術、取引先との関係などの価値が含まれることがあります。これらは会計や税務では「のれん」として整理される場合があります。のれんとは、事業の収益力に対して支払う上乗せ価値のことです。

のれんが大きい案件では、買い手は将来の利益を重視し、経営者は譲渡後の手取り額を重視します。契約書だけでなく、価格算定資料、税務処理、消費税の扱いもあわせて確認しておくと安心です。

譲渡実行日とクロージング条件を置く

契約締結日と譲渡実行日は、同じ日とは限りません。契約締結後に、株主総会の承認、取引先の同意、従業員の転籍承諾、許認可の取得、金融機関との調整を行い、その後にクロージングすることがよくあります。

前提条件は実行できない場合の安全装置

クロージング条件とは、譲渡を実行する前に満たすべき条件です。たとえば、主要従業員の転籍承諾、主要取引先の契約承継同意、許認可の取得、重要な表明保証違反がないことなどが挙げられます。

これらを契約書に入れておけば、重要条件が満たされない場合に、買い手が実行を拒める余地が生まれます。経営者側にとっても、どこまで協力すればよいのかが明確になります。M&A実務では、ここで判断が止まることがあります。

個別承継で止まりやすい実務論点

事業譲渡契約書で特に注意すべきなのは、資産のリストよりも、実際に事業を続けるための「人・取引先・許認可」です。契約上は譲渡できても、現場が動かなければ買い手は事業を運営できません。

従業員の引継ぎは本人同意を前提にする

事業譲渡では、従業員は当然には買い手企業へ移りません。転籍する従業員の範囲、処遇、給与、退職金、有給休暇、社会保険、説明方法、同意書の取得期限を契約書で整理します。

キーパーソンは前提条件に入れる

店舗の店長、工場長、営業責任者、技術責任者など、事業の継続に欠かせない人材が転籍しない場合、買い手にとって譲り受ける意味が薄れることがあります。このような人材については、転籍同意の取得をクロージング条件にすることがあります。

ただし、従業員への説明を急ぎすぎると不安が広がります。経営者、買い手、専門家が説明時期と内容をそろえ、雇用条件の変更点を丁寧に伝えることが重要です。従業員から見ると、会社売却よりも「自分の仕事と給与はどうなるのか」が最大の関心事です。

取引先契約は自動では移らない

事業譲渡では、取引基本契約、賃貸借契約、代理店契約、保守契約、フランチャイズ契約などを個別に確認します。契約書の中に、譲渡禁止条項や事前承諾条項が入っていることもあります。

承諾が取れない場合の扱いを決めておく

主要取引先が承諾しない場合、買い手は想定した売上を引き継げません。そのため、契約書では、承諾取得を誰が行うのか、期限はいつか、承諾が取れない契約を譲渡対象から外すのか、譲渡価額を調整するのかを定めます。

賃貸店舗を譲渡する場合は、貸主の承諾が必要になることも多いです。店舗の内装や設備だけを譲渡しても、賃貸借契約を引き継げなければ営業を続けられません。飲食店、美容室、介護事業などでは特に重要です。

許認可は原則として引き継げない前提で考える

飲食業、建設業、運送業、介護事業、産業廃棄物処理業などでは、許認可が事業継続の前提になります。事業譲渡では、許認可が自動で買い手に移らないことが多いため、買い手が新たに取得するまで営業できない期間が発生する可能性があります。

空白期間を避けるには譲渡日を逆算する

許認可の取得に時間がかかる場合、契約締結日、申請日、許認可取得見込み日、譲渡実行日を逆算して決めます。実務では、譲渡日だけ先に決めてしまい、あとから許認可の取得が間に合わないと分かることがあります。これは避けたい失敗です。

必要に応じて、買い手が許認可を取得するまで売り手が一定期間協力する、業務委託でつなぐ、譲渡対象を段階的に移すといった設計も検討します。ただし、名義貸しと見られる方法は避けるべきです。法令違反になるおそれがあるためです。

表明保証と競業避止義務の決め方

契約書で揉めやすいのは、譲渡対象のリストだけではありません。譲渡後に問題が見つかったとき、誰がどこまで責任を負うのかも重要です。表明保証、補償、解除、競業避止義務は、経営者の将来リスクに関わります。

表明保証は開示した事実の正確性を約束する条項

表明保証とは、契約締結日や譲渡実行日において、一定の事実が真実で正確であると約束する条項です。たとえば、譲渡対象資産に重大な問題がないこと、未開示の債務がないこと、重要契約に違反していないこと、従業員との未払い賃金問題がないことなどを定めます。

買い手は、デューデリジェンスで確認しきれないリスクを表明保証で補おうとします。デューデリジェンスとは、買い手が財務、税務、法務、労務などを調査する手続です。

売り手側は責任範囲を限定する

経営者側は、あらゆる不備について無制限に責任を負う内容になっていないか確認すべきです。実務では、「重要な点において」「知る限り」「一定期間内に請求されたものに限る」などの限定を設けることがあります。

もちろん、虚偽説明や重要な隠し事は避けなければなりません。むしろ、早めに開示して契約上の扱いを決めた方が、譲渡後の紛争を防ぎやすくなります。問題を隠して高く売るより、問題を織り込んで成立可能性を高める判断が重要です。

補償条項と解除条項は実行前後で分けて考える

補償条項では、表明保証違反や契約違反があった場合に、どの損害を、いくらまで、いつまで請求できるかを定めます。買い手は広い補償を求めがちですが、経営者側は上限額や請求期間を設けることで、譲渡後の不安を抑えられます。

解除条項は、原則としてクロージング前の重大違反に備えるものです。譲渡実行後に契約を巻き戻すと、従業員、取引先、資産、許認可の扱いが混乱します。そのため、実行後は解除ではなく補償で処理する設計が多くなります。

競業避止義務は期間・地域・事業内容を具体化する

競業避止義務とは、事業を譲渡した会社が、譲渡後に同じ事業を行い、買い手の顧客や従業員を奪うことを防ぐための約束です。会社法上、事業を譲渡した会社には、別段の意思表示がない限り、同一市町村と隣接市町村で20年間、同一事業を行わない義務が生じます。また、特約で同一事業を行わない旨を定める場合は、30年以内の範囲で効力を持つとされています。

ただし、経営者個人や親族会社まで当然に制限されるわけではありません。経営者個人の活動も制限したい場合は、契約書や別途の誓約書で明確に定める必要があります。ここを曖昧にすると、譲渡後の仕事や投資活動をめぐって認識がずれやすいです。

禁止しすぎると経営者の次の仕事に影響する

競業避止義務は、買い手保護のために必要ですが、広すぎると経営者の将来の活動を大きく制限します。対象事業、地域、期間、禁止される役割、親族会社や関連会社の扱いを具体的に決めることが大切です。

たとえば、「同一または類似の事業を一切行わない」とだけ書くと、どこまで禁止されるのか分かりにくくなります。譲渡した事業と関係のない顧問業務、投資、親族会社の支援まで制限されるのか。契約締結前に確認しておくべきです。

商号を使い続ける場合は債務リスクを確認する

買い手が売り手側の商号を使い続ける場合、譲渡前の事業で生じた債務について、買い手が責任を負う可能性があります。会社法では、買い手が売り手側の商号を引き続き使用する場合、売り手側の事業によって生じた債務を弁済する責任を負う旨が定められています。

このリスクを避けるには、契約書で旧債務を引き継がないことを明記するだけでなく、必要に応じて免責登記や債権者への通知を検討します。屋号、ブランド名、店舗名を使い続ける場合も、債権者や取引先に誤解を与えないか個別確認が必要です。ブランドを残したい案件ほど、法務確認が欠かせません。

印紙税と電子契約の扱い

事業譲渡契約書は、税務面でも確認が必要です。特に紙で契約書を作る場合は、収入印紙の貼付漏れに注意します。金額が大きいM&Aでは、印紙税額も無視できません。

紙の契約書は第1号文書として印紙税を確認する

紙の事業譲渡契約書は、一般に印紙税法上の第1号文書である「営業の譲渡に関する契約書」に該当します。記載された契約金額に応じて、収入印紙を貼付します。

契約金額の記載がない場合でも、一定の印紙税が必要になります。反対に、契約金額が1万円未満の場合は非課税となる扱いがあります。実際の税額は、契約書の内容、記載金額、複数の課税文書に該当するかどうかによって判断が変わることがあるため、最終確認は税理士等に依頼すると安全です。

取引金額

印紙税額

契約金額の記載のないもの 

200 

1万円未満 

非課税 

10万円以下 

200 

10万円を超え50万円以下 

400 

50万円を超え100万円以下 

1,000 

100万円を超え500万円以下 

2,000 

500万円を超え1,000万円以下 

1万円 

1,000万円を超え5,000万円以下 

2万円 

5,000万円を超え1億円以下 

6万円 

1億円を超え5億円以下 

10万円 

5億円を超え10億円以下 

20万円 

10億円を超え50億円以下 

40万円 

50億円を超えるもの 

60万円 

消印漏れや印紙不足にも注意する

収入印紙は貼るだけでは足りません。再利用を防ぐため、印紙と契約書にまたがるように消印します。消印は、文書の作成者、代理人、従業員などのうち1人が行えばよいとされています。

印紙を貼り忘れたり、税額が不足したりすると、過怠税の対象になることがあります。契約当日に慌てて印紙を用意するのではなく、最終契約書の金額が固まった段階で確認しておくと安心です。

電子契約では印紙税が課されないのが一般的

電子契約サービスで契約を締結する場合、紙の課税文書を作成しないため、一般に印紙税は課されません。紙で複数通作成する場合と比べ、印紙税の負担を抑えられることがあります。

ただし、電子契約にする場合でも、契約当事者の本人確認、電子署名の権限、社内承認、添付別紙の管理、クロージング時の原本確認方法は整理しておくべきです。印紙税だけで電子契約を選ぶのではなく、M&A後に契約書を証拠として使いやすいかも見ておきます。

契約書作成を会社売却の判断に生かす

事業譲渡契約書は、専門家が作るものだから経営者は読まなくてよい、という書類ではありません。むしろ、会社売却や第三者承継を進める経営者が、自分の譲渡条件を確認するための最重要資料です。

ひな形は出発点であって完成形ではない

インターネット上のひな形は、基本条項を知るには役立ちます。しかし、事業譲渡は業種、資産、従業員、許認可、取引先、金融機関、個人保証の状況によって契約内容が大きく変わります。

「一式」という表現は減らす

ひな形を使うと、「本件事業に関する資産一式」「必要書類一式」といった文言が残りやすくなります。これでは、何が含まれるのか分かりません。少なくとも高額な資産、重要契約、承継しない資産、買い手が不要とする負債は、別紙で明確にします。

承継しないものも書く

譲渡対象だけでなく、譲渡対象外のものを書くことも有効です。現金預金、役員貸付金、個人所有の車両、古い在庫、未回収債権、特定の借入金など、引き継がないものを明記しておくと、後日の誤解を防げます。

専門家に確認すべき場面を見極める

事業譲渡契約書では、法務、税務、会計、労務が重なります。弁護士は契約条項や許認可、税理士は譲渡益、消費税、印紙税、会計処理、M&Aアドバイザーは譲渡条件や交渉全体を確認します。

特に、次のような案件では早めの相談が望ましいです。許認可が必要な事業、従業員の転籍が多い事業、主要取引先の承諾が必要な事業、金融機関借入や個人保証がある事業、不動産や知的財産を含む事業、譲渡対価にのれんが大きく含まれる事業です。

会社法上の承認手続も忘れない

株式会社が事業の全部を譲渡する場合や、重要な一部を譲渡する場合などには、効力発生日の前日までに株主総会で契約の承認が必要になることがあります。株主が経営者1人だけなら見落としがちですが、親族株主や少数株主がいる会社では重要な確認事項です。

契約書が完成していても、必要な社内承認が終わっていなければ、クロージングが遅れる可能性があります。株主構成、定款、取締役会の有無、承認スケジュールを早めに整理しておくと、交渉全体が進めやすくなります。

譲渡後の手取り額と残る責任を確認する

経営者にとって大切なのは、契約書上の譲渡価額だけではありません。税金、未払費用、専門家報酬、借入金返済、個人保証の解除、表明保証責任が残る期間まで含めて、実際にどれだけ手元に残り、どのリスクが残るかを確認する必要があります。

会社売却の現場では、価格交渉では合意できても、契約書の責任条項で不安が強くなり、経営者が決断できなくなることがあります。譲渡対象、価格、税金、従業員、取引先、保証責任を一体で確認することが、納得できる事業譲渡につながります。

まとめ

事業譲渡契約書は、譲渡対象、従業員、取引先、許認可、表明保証、競業避止義務、印紙税を具体化し、譲渡後の争いを防ぐための重要書類です。ひな形をそのまま使わず、自社の事業内容と譲渡条件に合わせて整えることで、会社売却や第三者承継の判断がしやすくなります。

著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー 

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事

編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人

相続の教科書