EV/EBITDA倍率とは?計算式と目安・注意点を解説
EV/EBITDA倍率は、事業価値が本業の稼ぐ力の何倍かを示す指標です。基本の計算式、5倍・10倍の読み方、業界比較の考え方、負債や設備投資を見落とす注意点、M&Aで株式価値へ換算する手順まで、会社売却を考える経営者向けに解説します。
目次

▶目次ページ:企業価値評価(類似会社比較法)
「自社はEBITDAの5倍で評価される」と聞いても、その金額が高いのか安いのか、すぐには判断しにくいものです。EV/EBITDA倍率は、EVがEBITDAの何倍に相当するかを示し、事業の稼ぐ力と評価額の関係を確認するために使います。
計算式は、次のとおりです。
EV/EBITDA倍率 = EV ÷ EBITDA
EVはEnterprise Valueの略で、一般に事業全体の価値を表します。EBITDAは、税金、支払利息、減価償却費などの影響を受ける前の利益です。M&A(合併・買収)の買収価格を検討するときや、株式投資で同業他社を比較するときに多く使われます。
倍率が5倍なら、EVが年間EBITDAの5年分に相当するという意味です。このため、買収に投じた資金を本業の収益で何年かけて回収するかを示す「簡易的な目安」と説明されます。
ただし、実際に5年で回収できるとは限りません。EBITDAには、税金、運転資金の増減、設備投資、借入金の返済などが反映されていないためです。
計算式は簡単でも、EVとEBITDAの範囲がずれていると、倍率は正しく読めません。比較する会社同士で計算条件をそろえることが大切です。
上場会社を簡便に分析する場合、EVは一般に次の式で求めます。
EV = 株式時価総額 + 有利子負債 - 現預金
有利子負債から現預金を差し引いた金額を、純有利子負債といいます。非上場会社のM&Aでは、株式価値に純有利子負債を加えてEVを考え、遊休不動産や投資有価証券など、本業に使っていない資産を別に調整することがあります。
実務でよく使われる簡便な計算式は、次のとおりです。
EBITDA = 営業利益 + 減価償却費
減価償却費とは、機械や建物などの取得費を、使用する期間に分けて費用にする金額です。現金の支出は設備を購入した時点で発生しているため、営業利益に減価償却費を足し戻すと、本業が生む現金に近い利益を確認しやすくなります。
もっとも、EBITDAは営業キャッシュフローそのものではありません。売掛金や在庫の増減、税金、設備投資などを含まない点には注意が必要です。
株式価値が8,000万円、有利子負債が3,000万円、現預金が1,000万円の会社では、EVは1億円です。営業利益が1,500万円、減価償却費が500万円なら、EBITDAは2,000万円となります。
EV/EBITDA倍率は、1億円÷2,000万円で5倍です。
EV/EBITDA倍率には、すべての会社に共通する適正水準がありません。業種、会社規模、成長率、金利、市場環境、比較時点によって大きく動くためです。
上場会社の一部の業種や時期では、8〜10倍程度が参考にされることもあります。しかし、この数字を日本企業全体の割安・割高の境界線と考えるのは適切ではありません。中小企業の会社売却では、同業種で規模や収益構造が近い会社を選び、個別のリスクを加味して判断します。
倍率が低ければ、収益力に比べて評価額が低く、割安に見えます。ただし、成長の停滞、特定顧客への依存、借入金の負担、設備の老朽化などが織り込まれている場合もあります。
低いから有利とは限りません。
倍率が高い場合は、将来の成長、安定した収益、技術力、ブランド、買い手との相乗効果などが評価されている可能性があります。一方、業績悪化でEBITDAが一時的に小さくなり、倍率だけが高く見えるケースもあります。
非上場の中小企業は、株式を自由に売買しにくいうえ、経営者個人への依存や管理体制の未整備といったリスクを抱えやすい傾向があります。そのため、上場会社の倍率を自社へそのまま当てはめると、評価額が高くなり過ぎることがあります。
EV/EBITDA倍率は、会社ごとの会計や資金調達の違いをある程度ならして比較できる点に特徴があります。
EBITDAは税金と支払利息を差し引く前の利益です。国ごとの税率や、借入金と自己資本の割合が異なる企業でも、本業の収益力を比べやすくなります。海外企業との比較に使われる理由の1つです。
同業上場会社の倍率を調べ、自社のEBITDAに掛けることで、EVの概算を求められます。短時間で評価額の幅を確認できるため、M&Aの初期検討でも利用されます。
一時的な修繕費や移転費用、買収後には発生しない経費、通常水準と大きく異なる役員報酬などを確認します。こうした調整を、EBITDAの正常化といいます。
ただし、売り手に有利な費用を何でも足し戻せるわけではありません。買収後も必要な人件費や維持費は残す必要があります。
倍率は便利な一方、1つの数字だけで会社の安全性や将来性まで判断することはできません。意外と多い落とし穴です。
EBITDAは支払利息を差し引く前の利益です。そのため、多額の借入金を抱え、利払い負担が重い会社でも、EBITDAだけを見ると収益力が高く見える場合があります。
EVに純有利子負債を含めるだけでなく、毎年の返済額、借入条件、担保、財務制限条項なども確認する必要があります。
EBITDAは減価償却費を足し戻すため、老朽設備の更新に多額の資金が必要な会社でも、高い数値が出ることがあります。設備投資が欠かせない事業では、今後の更新計画や維持投資額も確認します。
EBITDAがゼロなら、ゼロで割ることになるため倍率は計算できません。マイナスの場合は数値上の計算ができても、通常は割安・割高を比べる指標として役立ちません。
このような会社では、将来のキャッシュフローを使うDCF法、資産と負債を基準にする時価純資産法、売上高を基準にする方法など、別の評価方法を検討します。
会社売却を検討する経営者は、直近1期だけでなく、過去3期程度のEBITDAの推移を確認しておくとよいでしょう。併せて、借入金と現預金、今後の設備更新、一時的な損益、主要顧客への依存、経営者が退任した後も利益を維持できるかを整理します。
倍率を高く見せることだけが目的ではありません。買い手が懸念する点を早めに把握し、利益の再現性と事業リスクを資料で説明できる状態にすることが重要です。
また、EV/EBITDA倍率は簡便な評価方法であるため、最終的な譲渡価格はDCF法や時価純資産法などでも確かめます。複数の方法から妥当な価格帯を確認しておけば、買い手から示された金額を落ち着いて検討しやすくなります。
EV/EBITDA倍率は、事業価値が本業の稼ぐ力の何倍かを示し、企業比較やM&A価格の検討に役立つ指標です。ただし、8〜10倍などの数字は一律の適正水準ではなく、業種や規模、成長性で変わります。借入金、設備更新、一時的な利益も確認し、ほかの評価方法と併用して自社の株式価値を判断することが大切です。売却前から根拠資料を整えておきましょう。
著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事
編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人