M&A増加の背景を読み解く成長戦略と事業承継の最前線ガイド

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M&A増加の理由と今後の動向|中小企業の会社売却判断

国内M&Aが増加する理由を、後継者不足、資本効率、人材・技術獲得の3面から解説。中小企業の会社売却で確認すべき税務、買い手選び、PMIの注意点も整理します。2025年の件数拡大を踏まえ、早めに準備すべき理由を示します。

目次

  1. M&A増加を最新件数から確認する
  2. 理由1 後継者不足が廃業回避を急がせる
  3. 理由2 資本効率重視で事業売却が進む
  4. 理由3 人材と技術を買う成長投資が広がる
  5. 2026年以降に強まる3つの動き
  6. 件数増加時代の会社売却で見るべき点
  7. まとめ

M&A増加の背景を読み解く成長戦略と事業承継の最前線ガイド

M&A増加を最新件数から確認する

M&A(合併・買収)は、もはや大企業だけの特殊な経営手法ではありません。民間調査によると、2025年の日本企業のM&A件数は5,115件となり、初めて5,000件を超えました。取引金額も35.7兆円規模とされ、過去最高水準です。

数字だけを見ると、M&A市場が単純に盛り上がっているように見えます。しかし、中小企業の経営者にとって大切なのは「件数が増えているから自社も売れる」という単純な話ではありません。増加の背景を理解し、自社がどの流れに当てはまるかを見極めることです。

M&Aは会社を残す手段として広がった

M&Aには、会社全体を引き継ぐ株式譲渡、一部の事業だけを譲渡する事業譲渡、複数の会社を1つにする合併などがあります。中小企業の会社売却では、株主が保有株式を買い手企業に譲渡する株式譲渡が多く使われます。手続が比較的分かりやすく、会社の契約や従業員との関係を大きく変えずに進めやすいためです。

ただし、どの方法がよいかは会社ごとに異なります。借入金、株主構成、許認可、不採算事業、含み益のある不動産、個人保証の有無によって、適したスキームは変わります。意外と多い落とし穴です。

件数増加は売り手にも買い手にも理由がある

M&Aが増えている理由は、売り手側の後継者不足だけではありません。買い手企業が人材、技術、商圏、顧客基盤を短期間で得たいという事情も重なっています。さらに、上場企業では資本効率を重視する流れが強まり、非中核事業を切り離す動きも広がっています。

つまり、M&A増加は「事業承継」「成長投資」「事業再編」が同時に進んでいる結果です。自社売却を検討する経営者は、買い手が何を求めているかを理解しておくと、交渉の見え方が変わります。

理由1 後継者不足が廃業回避を急がせる

中小企業のM&A増加で最も分かりやすい理由は、後継者不足です。子どもが会社を継がない、社内に経営を任せられる人材がいない、親族内で株式や借入保証の引継ぎに合意できない。こうした悩みは珍しくありません。

帝国データバンクの2025年調査では、後継者不在率は50.1%です。以前より改善しているものの、なお約半数の会社で後継者が決まっていません。中小企業の経営者の年齢は依然として高く、引退時期と会社の将来を同時に考えなければならない経営者は多い状況です。

親族内承継だけでは解決しにくい

以前は、会社は子どもや親族に承継するものという考え方が一般的でした。ところが現在は、子どもが別の仕事をしている、会社の借入を引き継ぎたくない、株式の買い取り資金を用意できないといった事情があります。

従業員承継も選択肢になりますが、経営能力と資金力の両方が必要です。役員として優秀な人でも、株式を買い取る資金や金融機関との交渉力まで備えているとは限りません。ここで判断が止まることがあります。

事業承継型M&Aは雇用と取引先を残しやすい

第三者へのM&Aであれば、買い手企業の資金力や経営資源を使いながら、会社、従業員、取引先を残せる可能性があります。廃業すると、従業員の雇用、地域の取引先、金融機関との関係が一気に失われます。黒字でも後継者がいなければ、廃業に近づくこともあります。

会社を高く売ることだけが目的ではありません。誰に引き継げば会社が続くか。そこが事業承継型M&Aの中心です。

早く動くほど選択肢が残る

後継者問題は、表面化してから動くと選択肢が狭くなります。経営者の体調、業績の悪化、主要社員の退職、取引先の離脱が重なると、買い手候補は慎重になります。

買い手企業は、過去の利益だけでなく、今後も事業が続くかを見ます。経営者が元気なうちに、決算書、株主名簿、借入金、個人保証、許認可、主要取引先との契約を整理しておくことが大切です。準備が早い会社ほど、候補先の比較がしやすくなります。

理由2 資本効率重視で事業売却が進む

M&A増加の2つ目の理由は、上場企業を中心に「選択と集中」が進んでいることです。東京証券取引所は、プライム市場とスタンダード市場の上場会社に対し、資本コストや株価を意識した経営への対応を要請しています。資本コストとは、株主や金融機関から資金を集めるために会社が負担しているコストのことです。

資本効率とは、会社が持つ資金や資産をどれだけ効率よく利益につなげているかという考え方です。利益が低い事業、成長性が見えにくい事業、グループ全体の戦略と合わなくなった事業は、外部への売却対象になりやすくなります。

カーブアウトが増えると買い手も売り手も動く

カーブアウトとは、会社の一部門や子会社を切り出して売却することです。大企業が非中核事業を手放すと、その事業を買う中堅企業や投資会社が動きます。その買い手企業が、周辺の中小企業を追加で買収することもあります。

この流れは、地域の中小企業にも関係します。大手グループの方針転換により、取引構造が変わることがあるためです。自社がどの業界再編の中にいるかを知ることは、売却タイミングの判断にもつながります。

TOBやMBOの増加は中小企業にも波及する

上場企業では、親子上場の解消、非公開化、MBOなどの動きも見られます。TOBは株式公開買付け、MBOは経営陣による買収を意味します。いずれも資本政策を見直す手段です。

こうした大型案件そのものは中小企業オーナーに遠く見えるかもしれません。しかし、上場企業が事業ポートフォリオを見直すと、仕入先、外注先、販売代理店、地域拠点の再編が起こります。結果として、中小企業にも提携、資本参加、会社売却の打診が届く場合があります。

理由3 人材と技術を買う成長投資が広がる

3つ目の理由は、買い手企業が「時間を買う」ためにM&Aを使うようになったことです。新規事業をゼロから始めるには、採用、教育、営業開拓、設備投資、システム構築に時間がかかります。M&Aなら、既に動いている事業をまとめて引き継げます。

特に、物流、建設、サービス、医療・介護、IT、製造業では、人材や技術をすぐに確保したいニーズが強くあります。有資格者、熟練技術者、特定顧客との関係、現場ノウハウは、求人広告だけでは簡単に集まりません。

人手不足への対応としてM&Aが使われる

人材不足の会社が、別の会社を買えばすべて解決するわけではありません。買収後に従業員が離職すれば、期待した効果は失われます。それでも、採用だけでは間に合わない業界では、既にチームとして動いている会社を迎える意味があります。

売り手側から見ると、自社の強みは売上や利益だけではありません。長く働く社員、資格者、現場責任者、職人、営業担当、顧客対応の仕組みも評価対象になります。決算書に出にくい価値です。

DXや新規参入では開発時間の短縮が重視される

DXは、デジタルトランスフォーメーションの略で、デジタル技術を使って事業や業務を変えることです。買い手企業は、IT人材やシステムを自社で育てるより、既に技術を持つ会社を迎えた方が早いと判断することがあります。

ただし、買収後の統合は簡単ではありません。システム、評価制度、営業方法、意思決定の速さが合わないと、期待したシナジーが出にくくなります。PMI(M&A後の統合プロセス)を見据えた買い手選びが欠かせません。

2026年以降に強まる3つの動き

M&A件数の増加は今後も続く可能性があります。ただし、増えるのは件数だけではありません。税務、買い手の属性、支援機関の質を見極める重要性も高まっています。

高額譲渡では税負担の確認が早まる

個人オーナーが株式を譲渡する場合、譲渡益に対して税金がかかります。通常は申告分離課税により、所得税、復興特別所得税、住民税を合わせた税率で計算します。さらに、令和5年度税制改正により、極めて高い水準の所得がある個人について、税負担を調整する措置が設けられています。

これは、すべての会社売却に影響するものではありません。しかし、株式譲渡益が大きく出るオーナーは、譲渡時期や申告時期も含め、早めに手取り額を試算する必要があります。税制だけを理由に急ぐのは危険ですが、譲渡時期、役員退職金、配当、株主構成の整理は早めに確認すべきです。

スモールM&Aとプラットフォーム利用が広がる

小規模事業でも、M&Aは以前より身近になりました。Web上のマッチングプラットフォームにより、店舗、Webメディア、EC、個人事業に近い小規模事業でも売買の機会が増えています。

一方で、手軽に相手を探せることと、安全に成約できることは別です。小規模M&Aでは、簿外債務、契約名義、従業員の雇用、許認可、個人資産との混同が問題になりやすいです。金額が小さいほど専門家費用を抑えたくなりますが、契約書と税務の確認を省くと後で困ります。

OUT-IN型の買収も選択肢になる

OUT-IN型とは、海外企業が日本企業を買収するM&Aです。円安や日本企業の技術力への評価を背景に、海外企業や海外ファンドが日本企業に関心を持つ場面があります。

中小企業では、いきなり海外企業と直接交渉する機会は多くありません。それでも、特殊な技術、ブランド、製造ノウハウ、海外で使える許認可や顧客基盤がある会社では、国内企業だけでなく海外資本も候補になる可能性があります。価格だけでなく、従業員対応、意思決定の文化、契約後の経営方針を確認することが大切です。

支援機関の質を見極める時代に入る

M&A市場の拡大に伴い、支援機関も増えました。中小企業庁は中小M&Aガイドラインを改訂し、手数料や業務内容の説明、不適切な買い手の排除、経営者保証への対応などを示しています。登録支援機関に関する情報提供受付窓口も設けられています。

支援機関が増えるほど、サービスの質には差が出ます。買い手の資金力を十分に確認しない、経営者保証の解除が曖昧なまま進める、買収後に現預金を過度に流出させるような相手を見抜けない。こうした失敗は、会社売却後の生活や従業員の雇用にも影響します。

件数増加時代の会社売却で見るべき点

M&Aが増えているからといって、急いで相手を決める必要はありません。むしろ、買い手候補が増える時代ほど、比較する力が重要です。高い価格を提示する相手が、必ずしも自社に合うとは限らないためです。

売却前に整理すべき実務論点

会社売却を考え始めたら、決算書だけでなく、株主、借入金、個人保証、役員貸付金、役員借入金、不動産、許認可、従業員の雇用条件、主要取引先との契約を確認します。これらは譲渡価格や契約条件に直結します。

株主構成と個人保証は早めに確認する

株主が複数いる会社では、全員が売却に同意するとは限りません。名義株や相続未整理の株式があると、交渉が進んだ後に止まることがあります。また、経営者保証は金融機関との調整が必要です。最終契約で「解除する予定」と書くだけでは不十分な場合があります。

不要資産や関連取引は価格に影響する

事業に使っていない不動産、社長個人との取引、親族会社との取引、回収見込みの低い貸付金があると、買い手は慎重になります。会社の価値を高めるには、利益を増やすだけでなく、買い手が安心して引き継げる状態に整えることが必要です。

買い手選びは価格と引継ぎ力の両方で見る

買い手候補を比較するときは、譲渡価格だけで判断しない方がよいです。従業員をどう処遇するか、取引先との関係をどう保つか、金融機関対応をどう進めるか、PMIを誰が担当するかを確認します。

買い手が上場企業、非上場企業、投資会社、同業企業、異業種企業のいずれかによって、重視するポイントも変わります。同業ならシナジーは出やすい一方で、従業員や取引先が競合関係を不安に思うことがあります。異業種なら新しい販路に期待できますが、事業理解に時間がかかることもあります。

専門家には手数料だけでなく支援範囲を確認する

M&Aの専門家に相談する際は、手数料の安さだけで選ばないことが大切です。相手候補の探索、企業価値算定、税務の手取り試算、契約書の調整、デューデリジェンス対応、金融機関との調整、PMIの助言まで、どこまで支援するのかを確認します。

仲介とFAの違いも押さえておきたい点です。仲介は売り手と買い手の間に立つ立場、FAは一方の当事者に助言する立場です。どちらが適しているかは案件によりますが、利益相反や情報管理について説明を受けておく必要があります。

買い手側は業界動向から候補先を絞る

買い手としてM&Aを検討する場合は、IT、建設、医療、物流、製造など、業界ごとの人材不足、許認可、設備投資、顧客構造を調べることが出発点です。人材確保が目的なのか、技術取得が目的なのか、商圏拡大が目的なのかを明確にしないと、買収後の統合で迷いが出ます。

売り手側は税務とスケジュールを逆算する

売り手側は、希望価格だけでなく、税引後の手取り額と成約までの時間を逆算します。会社売却は、初回相談から成約まで半年から1年以上かかることもあります。業績が落ちてから始めるより、買い手に説明できる材料があるうちに準備した方が、交渉の選択肢は残りやすいです。

まとめ

M&A増加の背景には、後継者不足、資本効率重視、人材・技術獲得の3つの流れがあります。件数が増えるほど、価格だけでなく買い手の信頼性、税務、個人保証、PMIの確認が重要です。会社を残す選択肢として考えるなら、業績が安定しているうちに情報を整理し、比較できる状態を作ることが第一歩です。

著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー 

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事

編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人