M&A増加の背景を読み解く成長戦略と事業承継の最前線ガイド

M&A増加の波はなぜ起き、企業はどう備えるべきか─事業承継問題や人材不足に悩む経営者に、増加の背景と成功の秘訣を端的にお伝えします。

目次

  1. M&Aの定義と概要と最近のM&A増加傾向
  2. M&A実施の主な目的と双方のメリット
  3. 一般的なM&Aの手法と選択のポイント
  4. 国内企業のM&A件数の増加傾向と背景
  5. 国内企業でM&Aが増加している三つの要因
  6. 今後の会社売却動向予測とM&A市場の拡大可能性
  7. 国内企業におけるM&A成功のポイントと注意点

M&Aの定義と概要と最近のM&A増加傾向

M&Aとは「Mergers and Acquisitions」の略で、企業同士が合併したり、ある企業が別の企業を譲受したりする経営戦略です。かつては主に大企業が用いる手法でしたが、現在では中小企業でも一般的になりました。背景には国内市場の縮小や後継者不足があり、1985年に約260件だった国内M&A件数は2022年に4,304件へと16倍超に増加しています。増加の流れは長期的に続いており、企業規模や業種を問わずM&Aが経営課題解決の有力な選択肢となっています。

M&Aとは企業が合併や譲受で成長を図る戦略

合併は複数企業の法人格を一つにまとめる方法、譲受は他企業の経営権を取得する方法です。どちらも単独では得られない速度で事業拡大や課題解決を実現できる点が魅力です。

かつては大企業中心も今は中小企業が主役

近年の増加件数の大半は中小企業です。後継者不在や人材不足、収益基盤の脆弱化といった課題に対し、M&Aは迅速かつ確実な解決策となり得るためです。

M&A実施の主な目的と双方のメリット

M&Aの目的は譲渡企業と譲受企業で異なりますが、合致すれば双方が大きな利益を得られます。

譲渡企業の目的は後継者確保と雇用維持など

後継者の確保

経営者高齢化に伴う事業承継問題の解決。

従業員の雇用維持

会社存続で雇用を守る。

売却益の獲得

経営者の資産価値を最大化し次の人生設計に活用。

譲受企業の目的は事業拡大や人材確保

業拡大

新規市場への参入や既存事業の補強。

人材確保

専門知識を持つ人材を一括で獲得。

技術・ノウハウ取得

革新的技術や独自ノウハウを吸収しイノベーションを促進。


双方の目的が一致すると、シナジー効果が生まれ、単独では得られない成果が期待できます。

一般的なM&Aの手法と選択のポイント

企業の状況に応じて適切な手法を選ぶことが成功への第一歩です。

合併には吸収合併と新設合併の二形態がある

吸収合併は一方が存続し他を取り込む方法、新設合併は新会社を設立して統合する方法です。

株式譲渡は対価が現金で手続が比較的簡易

譲受企業が譲渡企業の株式を取得する形態で、柔軟かつスピーディーに実行できます。

事業譲渡は資産負債を事業単位で移転

必要な事業だけを引き継げるため、リスクを限定しやすい点が特徴です。

会社分割は分社化でリスクや部門を切り出す方法

組織再編と成長戦略を両立でき、不要資産の切り離しにも有効です。

国内企業のM&A件数の増加傾向と背景

1985年以降、リーマンショックや東日本大震災など一時的な落ち込みを除き、国内M&Aは一貫して増加しています。特に2021年・2022年は二年連続で過去最多を更新し、中小企業の活用が顕著です。

1985年260件から2022年4304件へ16倍超

数字は公表分のみで、未公表案件を含めればさらに多いと推測されます。

リーマンショック等で一時減少も長期的には増加

経済危機後の回復期にはむしろM&Aが活発化し、成長戦略として定着しています。

国内企業でM&Aが増加している三つの要因

増加の根底には三つの構造的要因があります。

事業承継型M&Aの拡大―後継者不在率57.2%

帝国データバンク調査によると、2022年の後継者不在率は57.2%。経営者が高齢化する中、M&Aが承継手段として浸透しています。

経営者の高齢化―平均年齢63.02歳で6割が60代以上

東京商工リサーチのデータでは社長平均年齢が過去最高を更新。高齢の経営者が引退を意識しM&Aを検討するケースが増えています。

人口減少による人材不足―生産年齢人口の急減

総務省統計では生産年齢人口が1995年から減少し続け、2050年にはさらに5,275万人減少と予測。人材確保を目的にM&Aを活用する企業が増加中です。

今後の会社売却の動向予測とM&A市場の拡大可能性

M&A市場はこれからどのように変化していくのでしょうか。三つの柱と二つの補助要因で展開を占います。

後継者不足によるM&A需要が一段と高まる見込み

経営者の平均年齢は63.02歳、60代以上の割合は6割超。帝国データバンク調査の後継者不在率57.2%は今後も改善の兆しが薄く、2025年には700万人規模の従業員が行き場を失うリスクが指摘されています。これを回避する“出口戦略”としてM&Aは最優先の選択肢となり、案件数は今後数年間で着実に増えると予想されます。

クロスボーダーM&Aで成長機会を海外へ拡張

国内市場縮小を背景に、海外企業とのM&A(IN-OUT型・OUT-IN型)の金額規模は既に国内同士を凌駕する勢いです。為替環境・金融緩和策・各国の投資優遇税制も追い風となり、IT、飲料、製薬、半導体など複数業界で大型案件が続出しています。参考記事では、ソフトバンクによるアーム社買収(約3兆3,000億円)やアサヒグループによる欧州ビール事業買収(約1兆2,000億円)など、国内企業が巨額投資で海外市場を取り込む具体例が示されました。今後は円安局面でも現地通貨建てファイナンスを活用した案件増加が見込まれます。

小規模M&A市場が裾野を広げる

スタートアップ創業者が“スモールエグジット”を狙う傾向は日本でも拡大中です。特にAI・SaaS・フィンテック領域では、製品ライフサイクルが短く大企業のオープンイノベーション需要が高いことから、数千万円〜数億円規模の買収が活発化。買い手から見れば新規事業創出と人材確保を同時に実現できるため、マッチングプラットフォームや専門仲介会社の参入も相まって市場は指数関数的な成長が見込まれます。

IN-IN・IN-OUT・OUT-INの三分類で見る数量と金額の動向

参考記事によれば、2020年時点で国内同士(IN-IN)は全体の約79%を占め件数ベースで主流ですが、IN-OUTの平均取引金額はIN-INの約6.75倍と規模で圧倒。OUT-INは件数こそ少ないものの技術やブランドを求める海外勢が高値で買収する傾向にあり、2018年には前年比約2.2倍の金額増となりました。これら三分類の特徴を理解し、自社の戦略に合わせた選択を行うことが重要です。

制度融資返済開始や業界再編も追い風に

参考記事は“2025年以降、本格化する制度融資返済が経営を圧迫し、資金に余裕のない企業が売却を検討する”点を強調しています。また、上場企業では非中核事業の切り離しが進み、バリューアップと資本効率改善を狙ったスピンオフ案件が増加。結果として業界再編の波が中堅・中小企業にまで及び、地域経済単位でのグループ化が進むでしょう。

コロナ禍の減少は一時的、金額より件数重視へシフト

2020年から2021年にかけてクロスボーダーM&Aは渡航制限等で大幅減少したものの、国内同士は前年比−1.9%と軽微な落ち込みにとどまりました。件数は3,730件と過去三番目の水準で、取引金額が縮小した点が特徴です。“量より質”へシフトした結果、デューデリジェンスや統合プロセスの実務力がより問われる時代に入ったといえます。

国内企業におけるM&A成功のポイントと注意点

案件数が増えるほど成功と失敗の差も顕著になります。原文が挙げる三つのポイントは、シナジー効果の検証、デューデリジェンスの徹底、専門家の活用です。

シナジー効果は定量と定性の両面で検証する

シナジーの源泉は「事業補完性」「コスト削減」「技術融合」「市場拡大」の四領域に集約できます。例えば技術融合では共同研究開発費の割引率や特許件数増加率を、コスト削減では管理部門重複率や購買単価減少率を客観的指標として設定し、統合後1〜3年での達成可否をローリングで確認すると実効性が高まります。実現可能なシナジーを具体化した統合計画(PMIロードマップ)を契約締結前に作成することが成功の鍵です。

デューデリジェンスでリスクを可視化し交渉を有利に

財務面では貸借対照表のオフバランス項目、法務面では知財係争や独占禁止法リスク、人事面では未払残業代・退職給付債務、事業面では主要顧客依存度やサプライチェーン集中度を精査します。調査結果は価格調整条項や表明保証条項に反映し、想定外リスクをヘッジします。デューデリジェンスには平均で1〜3か月を要するため、早期着手が重要です。

専門家と連携し複雑な手続を効率化する

税務ストラクチャー設計では株式譲渡課税・組織再編税制・グループ内取引の移転価格を整理し、PMIでは財務報告基準の統一や人事制度統合を段階的に実施する必要があります。外部アドバイザーは契約交渉だけでなく統合後の経営管理体制まで見据えた提案を行うため、早期に関与させるほどメリットが大きいのです。

成功事例に学び自社に合わせてカスタマイズする

参考記事の原木屋産業は建設資材業界、後継者不在を背景に商圏拡大を狙う大手とのシナジーが決め手でした。一方、大阪エアコンは空調技術という専門性を武器に商空間プロデュース企業との連携を図り、新サービス開発へ踏み出しました。両事例とも従業員ケアと取引先の信頼維持を重視し、譲受企業の提案を比較検討したうえで“最も文化が近い”相手を選択した点が成功要因です。これらの学びを自社の策略に活かすことが重要です。

PMI(統合プロセス)を軽視せず長期計画を策定する

契約締結はゴールではなくスタートです。経営理念の共有、ITシステムの接続、評価制度の統合など、100日・半年・1年の三段階で成果指標を設定し、進捗をモニタリングする体制を整えましょう。PMIを怠るとシナジー達成が遅延し、離職や取引解消で想定利益が減少するリスクがあります。

数字で見る国内M&Aの長期トレンド

レコフデータによると1985年はわずか約260件だったM&A件数が、2000年に1,000件を、2006年に2,000件を突破し、2019年には4,088件と過去最高を記録しました。2021年には4,300件を超え、2022年は4,304件と再び最高値を更新しています。景気後退や災害など一時的なショックがあっても、中長期では右肩上がりの成長曲線を描いている点が特徴です。

バブル崩壊直後の1993年から2006年にかけては規制緩和が追い風となり、件数が急拡大しました。さらに2011年から2019年にかけてはアベノミクスによる景気刺激策と金融緩和が企業の投資マインドを後押しし、後継者難の中小企業が承継対策としてM&Aを選択する流れが加速しました。

業界別に見るM&Aの活発度

IT・ソフトウェア、食品、医薬品、調剤薬局、ドラッグストア、建設、製造、運送の八業界が特に件数の伸び率で目立ちます。医療機器分野ではキャノンによる東芝メディカルシステムズ買収、富士フイルムによる和光純薬工業買収が象徴的で、技術集約型領域ほど大型化が顕著です。

OUT-IN型が注目される理由

海外企業が日本企業を買収するOUT-IN型は1985年当時はほぼゼロでしたが、1990年代以降緩やかに増加し、2018年には件数・金額とも大きく跳ね上がりました。背景には“円安が進み日本企業の買収コストが相対的に低下”“日本の高い技術力やブランド価値に海外資本が着目”という要因があります。2020年時点のシェアは件数ベースで約6%ながら、エレクトロニクスや素材分野で高額案件が進み、国内技術の国際的評価を裏付けています。

M&Aを活用した雇用維持と地域経済の保全

後継者不在で黒字廃業に追い込まれる企業が増えれば、地域の雇用機会と税収は一気に縮小します。M&Aは会社と従業員だけでなく、取引先・金融機関・自治体など地域全体のサプライチェーンを守る防波堤として機能します。中小企業が早期に専門家へ相談し最適な譲受企業を探すことは、地域経済の持続可能性を高める社会的意義のある行動といえるでしょう。

▶関連:バイアウトとイグジットの意味と違い|成功戦略と注意点

▶関連:M&A子会社化のメリット・デメリットと成功事例を徹底解説

▶関連:関連会社・兄弟会社とは?企業間関係の種類と特徴を徹底解説

▶関連:M&A経営統合とは?メリットとデメリット、事例から学ぶ成功の秘訣

▶関連:コングロマリットとは?多角経営の特徴とコンツェルンとの違い

▶関連:アライアンスとは?M&Aとの違いから成功のポイントまで解説

▶関連:中小企業のためのM&Aと資本提携ガイド:特徴や契約書のポイントを解説

▶関連:2024年のM&A件数予測と市場動向|過去の推移と増加要因から読み解く未来

▶関連:急拡大するM&A市場:現状分析と今後の展望を詳しく解説

▶関連:2024年版|M&A業界の最新動向!業務内容業界別の事業承継の今後は?

▶関連:2024年M&Aトレンドを読み解く:業界別の現状と今後の展開

▶関連:中小M&A推進計画の全貌:背景から実施までを徹底解説

▶関連:初心者のためのM&Aの本21選!事業承継におすすめの本も紹介!

▶関連:M&A勉強におすすめの5つの方法|初心者から上級者まで

▶関連:M&A小説から学ぶ企業戦略:おすすめ書籍15選と選び方ガイド

▶関連:M&A歴史を紐解く:明治から現代までの変遷と支援制度

まとめ

M&Aは後継者不足や市場縮小に直面する企業の頼れる戦略です。シナジーを数字で検証し、徹底調査でリスクを抑え、専門家と協働すれば成功率は格段に高まります。増加する案件の波を捉え、持続的な成長と雇用を守りましょう。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

相続の教科書