企業概要書(IM)のM&Aでの役割、重要性と注意点を解説

企業概要書M&Aとは、売り手企業の情報を整理し、買い手候補に伝える重要資料です。本記事では、企業概要書の役割や作成時の注意点、買い手側がチェックすべきポイントなどを分かりやすく解説します。

目次

  1. 企業概要書(IM)とは何か
  2. ノンネームシートとの違い
  3. 企業概要書(IM)の開示タイミング
  4. 企業概要書(IM)の重要性と役割
  5. 企業概要書(IM)に記載される主な項目
  6. 企業概要書(IM)作成時の売り手の注意点
  7. 企業概要書(IM)受領時の買い手の注意点
  8. まとめ

企業概要書(IM)とは何か

企業概要書は英語でInformationMemorandumと呼ばれ、「IM」と略されることもあります。M&Aを検討する際、売り手企業が買い手企業に対して自社を詳しく知ってもらうための資料として使われる、とても大切な書類です。ノンネームシートよりも詳細な情報が盛り込まれ、売り手企業の社名、財務状況、事業内容、従業員の状況などが記載されます。

売り手企業はこの企業概要書を通じて「うちの会社にはこんな強みがある」「こんな将来性がある」ということを買い手候補に知ってもらいます。買い手側も、「この会社は自分たちの事業と相性がいいか」「成長が見込めるか」という点を判断しやすくなるため、M&Aの最初期からとても注目される資料といえます。

ノンネームシートとの違い

M&Aには「ノンネームシート」と呼ばれる書類も登場します。こちらは企業名や詳細情報を伏せたまま、業種や大まかな財務指標、事業内容などを簡単にまとめるための資料です。買い手候補はまずノンネームシートを見て「大まかに面白そうだな」と思えば秘密保持契約(NDA)を結び、さらに詳しい企業概要書(IM)を入手する、という流れになります。

ノンネームシートは検討の“入り口”であり、企業概要書はより踏み込んだ“本格検討”のための情報源といえるでしょう。企業概要書には売り手企業の名前や所在地といった機密情報が入りますから、やみくもに配布すると情報漏洩のリスクが高まります。そこで、まずは匿名情報で興味を持ってもらえるかを確認し、守秘義務契約締結後に詳しい資料を渡すわけです。

企業概要書(IM)の開示タイミング

企業概要書には売り手企業が公表していない内容が多数含まれます。たとえば財務状況の詳細や事業のノウハウ、取引先とのつながりなど、もし漏洩すると経営に打撃を受けかねない機密情報が盛り込まれます。そのため、誰彼構わず開示するわけにはいきません。以下のような手順を踏むのが一般的です。


買い手候補リストアップ・ノンネームシート提示

売り手企業やアドバイザリーが、譲受してくれそうな相手を探し、まずはノンネームシートを提示します。


秘密保持契約(NDA)の締結

買い手候補がノンネームシートを見て「詳しい話を聞きたい」と思ったら、秘密保持契約を結びます。


企業概要書(IM)の開示

守秘義務が守られる状態になったら、売り手企業は企業概要書(IM)を買い手候補に提供します。


このように、秘密保持契約によって情報漏洩リスクを最小化しつつ、買い手候補へ正確な企業情報を伝えていくのがポイントです。特に売り手企業名や財務データは、競合や取引先に知られたくない情報も多いため、管理はとても慎重に行われます。

企業概要書(IM)の重要性と役割

企業概要書は売り手・買い手の双方にとって、非常に大きな意味を持ちます。売り手企業側にとっては、自社の特徴や魅力をどれだけうまく伝えられるかによって、希望通りの条件が引き出せるかが左右されます。買い手企業側にとっては、投資や事業戦略を検討する際の判断材料になるため、M&Aの成否を分けるキーポイントでもあります。


売り手企業にとって

企業概要書によって、自社の強みや財務の健全性、事業の将来性などをわかりやすく伝えられます。たとえば、表やグラフを取り入れて整理することで、買い手候補の興味を引きやすくなるでしょう。また、企業概要書を作成する過程で自社の実態を改めて把握でき、経営者自身が新たな発見を得る機会にもなります。


買い手企業にとって

企業概要書は検討すべきM&A案件の最初の“本格情報”となります。社名を含む詳細情報が記載されているため、「自社の強みとどれだけシナジーが得られるか」「投資に見合うリターンはあるか」を具体的に考えることができます。また、顧問税理士や顧問弁護士に相談する際にも、企業概要書を見せることでスムーズに助言を受けられるでしょう。

企業概要書(IM)に記載される主な項目

ここからは、企業概要書(IM)で一般的にどのような情報が整理・記載されるのかを具体的に見ていきます。企業概要書は、譲渡企業(売り手)を深く理解してもらうために作成する書類ですから、多角的な項目をきちんと整えておくことが大切です。


企業概要

社名、所在地、設立年月日、資本金、株主構成、役員構成など、基本情報をまとめます。これはいわば「譲渡企業の顔」に当たる部分です。会社設立後に本社移転や支店開設などがあった場合は、その経緯を詳しく書くと理解が深まります。沿革や保有認可・許可の有無、株式や保有不動産の状況なども、可能な範囲で正確に記載しましょう。


事業内容・ビジネスモデル

何を作り、どのようにサービスを提供し、どんな取引先とやり取りしているのかを整理します。具体的には事業フロー、市場ポジション、競合優位性、取引先の数や業種などをわかりやすくまとめます。もし譲渡企業ならではのノウハウや強みがあれば、「自社ならではのビジネス運営の仕組み」として示すことが効果的です。同業はもちろん、異業種の譲受企業が興味を持つケースも考えられるため、専門用語ばかりにならないように注意します。


組織

社内組織の体制がどうなっているのか、組織図や役職、従業員数などを示します。従業員のスキル、保有資格、平均年収、年齢構成なども記載の対象です。実際にM&Aが進んだとき、どのような人材がどれだけ在籍していて、引き継げるノウハウはどの程度か、といった点は譲受企業(買い手)にとって重要な判断材料になります。就業規定や実際の労務状況が食い違っていないかの確認も大切です。


財務・業績

直近3期分程度の貸借対照表や損益計算書、キャッシュフロー関連の資料を記載するのが一般的です。さらに、譲渡企業の帳簿上の数字を時価ベースに近づけた修正を行い、「本来どのぐらいの営業利益があるのか」を正確に示すことがポイントとなります。過去数期で売上や利益に急激な変動がある場合は、その理由を説明しておくと信用度が高まります。


固定資産・設備

工場や店舗、事務所などの所在地や面積、保有する機械設備や車両などの内容を書き出します。大きな額のリース契約がある場合もリストアップするとよいでしょう。これらの現物資産は、譲受後の追加投資が必要かどうかを考えるうえでも重要ですし、融資を受ける際には担保評価の材料になる可能性があります。


許認可・法規制

建設業や飲食業など、事業を行ううえで許認可が必要な業種は多くあります。許認可番号や有効期限をはじめ、関連する法規制の状況を正確に整理しておくことは不可欠です。M&Aスキームによっては、許認可をそのまま引き継げないケースもあるため、譲受企業が安心して事業を継続できるよう、漏れのない情報提供が大切です。


事業計画

事業計画は、譲渡企業が今後どのように成長を見込んでいるのかを示す部分です。実行中の施策や今後の投資予定、どのぐらいの売上拡大を想定しているかなどを、数字とともに提示します。ここがしっかりしていると、譲受企業としては将来的なシナジー効果や投資対効果をイメージしやすくなります。

また、この事業計画はバリュエーション(企業価値評価)にも影響を与えます。未来の成長が見込めると判断されれば、最終的な譲渡額が高まる可能性もあるでしょう。


譲渡理由

経営者の高齢化に伴う後継者不在がきっかけなのか、新規事業へ集中するためなのか、あるいはさらなる発展のために資金力のある企業に経営を託したいのか。そうした譲渡理由を明らかにしておくと、譲受企業はより具体的に協議を進めやすくなります。ここに矛盾があると、「本当は資金繰りに問題があるのでは?」と疑心を抱かせる可能性もあるので、正直かつ明確に書くことが重要です。


なお、企業概要書の作成時には、いきなり詳細な数値や資料を詰め込むだけでなく、「エグゼクティブ・サマリー」と呼ばれる短いまとめを冒頭に用意する方法もあります。多忙な経営陣が要点を素早く把握できるよう、1~2ページ程度で企業の魅力や注目してほしいポイントを端的に示すのが理想です。譲受企業サイドが最初に目を通す“入り口”になるため、自社の良いところをしっかりアピールしながら、詳細本文を読むための道筋をつくるという役割を担います。

企業概要書(IM)作成時の売り手の注意点

企業概要書をどれだけ丁寧に作り込むかが、譲受企業の数を増やす鍵になります。また、質の良い企業概要書によって、最終的な譲渡条件が有利になるケースも多いです。譲渡企業が気を付けるべき具体的なポイントを見ていきましょう。


自社の強みや魅力をはっきり打ち出す

M&Aでは、数多くの案件が日々検討されているため、譲渡企業が埋もれてしまわないように自社の持つ強みを効果的にアピールする必要があります。「同業他社に比べて何が優れているのか」「顧客層にどのような特徴があるのか」「技術やノウハウがどの程度確立されているのか」など、譲受企業が面白いと感じる要素を全面に押し出しましょう。


虚偽や過度な粉飾をしない

企業概要書に事実と異なる内容が含まれると、デューデリジェンス(企業調査)でほぼ確実に露見します。そうなると、譲受企業の信頼を大きく損ない、交渉が頓挫する可能性もあります。赤字や売上減少などのマイナス要因を隠すのではなく、正直に示したうえで「改善施策が進行中」であることを説明する方が、かえって前向きな印象を与えられる場合もあるのです。


専門家のサポートを受ける

企業概要書には、財務・法務・労務など多岐にわたる情報が含まれます。M&A仲介会社や専門家のアドバイスを受けながら作成すると、抜け漏れが少なく、かつ譲受企業が関心を持ちやすいアピールポイントがうまく組み込まれた資料に仕上がるでしょう。豊富な実績を持つアドバイザーであれば、譲渡企業が見落としがちな要素も的確に補ってくれます。

企業概要書(IM)受領時の買い手の注意点

一方、譲受企業が企業概要書を受け取って検討を始める際にも、いくつか押さえておきたいポイントがあります。企業概要書は「譲渡企業の自己紹介レポート」といえるため、読み手である譲受企業側も慎重に扱う必要があるのです。


情報漏洩リスクに注意する

守秘義務契約が結ばれているとはいえ、譲渡企業が競合他社や取引先に知られたくない情報も多数含まれています。特に財務情報や技術ノウハウ、従業員の詳細は外部に出ると譲渡企業の信用を損なう恐れがあるため、取り扱いには細心の注意を払うようにしましょう。


数字の正確性・妥当性をよく確認する

企業概要書に書かれた数値について、顧問税理士や顧問弁護士、あるいはM&Aの専門家にチェックしてもらうことが大切です。場合によっては認識の違いや見せ方の工夫で、思っていた内容と違うことが後から判明するかもしれません。初期の段階で不明点があれば必ず質問し、しっかり情報を整理してから次のステップに進みましょう。


自社のM&A戦略と合致しているかを検討する

企業概要書には、譲渡企業の事業計画や将来性も示されています。譲受企業側はそこに書かれた数値目標をどの程度実現可能と考えるのか、自社の経営資源やリソースを投入したときにシナジーは生まれるのかといった視点で検討することが大事です。また、譲渡企業が求める条件(経営者の残留希望や従業員の雇用維持など)に、自社が柔軟に対応できるかも判断材料となります。


M&Aアドバイザーや専門家に相談する

譲受企業も、企業概要書の内容だけで全てを判断するのは難しいでしょう。財務分析やリスク評価など専門分野の知識が必要な場面が多々あります。事前にM&Aアドバイザーや会計・税務の専門家に相談することで、数字の裏付けやリーガルリスクを適切に見極められます。


企業概要書は、M&Aの交渉を始める前段階で「この案件は自社の戦略に合っているのか」を大まかに測るための材料です。もちろん最終的には、デューデリジェンスや条件交渉、最終契約などの手続きを経て判断することになりますが、最初の印象を左右する重要資料であることは間違いありません。譲渡企業・譲受企業双方が正しく活用できれば、お互いの目的を果たしやすい交渉へと進むことが期待できます。

まとめ

企業概要書(IM)は、譲渡企業と譲受企業を結ぶ重要な架け橋です。譲渡企業にとっては自社の魅力を伝える名刺代わりの書類であり、譲受企業にとっては投資や事業戦略を判断する基礎資料となります。お互いが最適な相手と出会うためにも、企業概要書は正直かつ丁寧に作成し、受け取った側も専門家の知見を活かしながら慎重に確認していきましょう。双方が納得のいくM&Aを実現するためには、この企業概要書の扱い方が大きなカギを握っているといえます。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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