インカムアプローチとは将来収益で企業価値を測る手法を解説
「インカムアプローチとは何か?」という疑問に対し、将来どれだけ稼げるかに着目して企業価値を導く方法と即答します。本記事では考え方・計算手順・メリットまで、小学生でも理解できる言葉で詳しく解説します。
目次
▶目次ページ:第三者承継(M&A)(企業価値評価)
インカムアプローチは、企業や資産が将来生み出すキャッシュフローを現在の価値に割り引き、企業価値を算出する手法です。将来の収益性を重視するため、収益力が高い企業や成長が見込まれる企業の評価に適しています。単なる会計数値では測れない潜在的な成長機会やリスクまで可視化できる点が大きな特長です。
評価の出発点は事業計画に基づくフリーキャッシュフロー(FCF)の予測です。予測したFCFを資本コストなどで割り引き、今日の価値に換算することで企業の本質的な価値を導きます。
収益を生む力そのものに注目するため、会計上の純資産額や株式市場の一時的な価格変動に左右されにくい評価が可能です。経営者が思い描く将来像や投資家が想定する成長シナリオを、数字として可視化できるメリットがあります。
企業価値評価には大きく三つの考え方があります。それぞれの違いを押さえることで、インカムアプローチの位置付けが明確になります。
類似企業の株価や成約事例など、市場の客観的な価格情報を参照して評価します。市場が活発で比較対象が豊富な場合に有効ですが、短期的な相場変動の影響を受けやすい点に注意が必要です。
資産の再調達原価や簿価純資産をもとに価値を算出します。清算価値に近い視点を提供しますが、将来収益や無形資産の価値を反映しにくいという課題があります。
将来キャッシュフローをベースにするため、成長戦略やシナジー効果を評価に織り込みやすく、中長期の意思決定に役立ちます。
インカムアプローチには複数の計算手法があり、対象企業の特性に合わせて使い分けます。
DCF法(Discounted Cash Flow法)は、予測期間内のFCFと永続価値を割り引き、現在価値を合計して企業価値を算定します。
FCFの算定は営業利益から運転資本と投資を調整
営業利益に減価償却費を加え、税金・運転資本増減・設備投資を調整してFCFを算出します。これにより、本当に自由に使えるキャッシュを把握できます。
割引率は資本コストで企業のリスクを反映
加重平均資本コスト(WACC)を基準に、業界特性やベータ係数を加味して割引率を設定します。割引率が高いほど将来キャッシュフローの現在価値は低く評価されます。
永続価値はゴードン成長モデルで見積
予測期間終了後も企業が一定成長を続けると仮定し、永続成長率と割引率の差で永続価値を導きます。永続価値は企業価値の大部分を占めることが多く、前提条件の妥当性が評価の要です。
将来の利益またはキャッシュフローを一定期間予測し、その合計を現在価値に割り引いて企業価値を求めます。安定的な収益構造を持つ企業や不動産、インフラ事業の評価に適しています。
将来支払われると見込む配当金を現在価値に割り引き、株式価値を算出する手法です。配当性向が明確で継続的に配当を実施している企業に向いています。
インカムアプローチは企業の将来性を価値に組み込めるため、中小企業の経営者が成長戦略を描く際に力強い指針となります。
投資計画や新規事業の収益予測を評価に反映できるため、戦略の実現可能性を定量的に検証できます。
M&Aの場面では、統合後に生じるコスト削減や売上増加といったシナジー効果をキャッシュフローに織り込めるため、譲受企業にとっての本当の価値を測りやすくなります。
インカムアプローチは将来収益を重視する分、見込値の設定方法次第で評価額が大きく変動します。ここでは代表的な三つの課題を整理します。
キャッシュフロー予測は事業計画の精度に依存します。経営環境が変われば数値は大きくぶれるため、達成確度を慎重に検証しなければなりません。
割引率は企業固有のリスクを反映しますが、ベータ係数や資本コストの算定には専門知識が必要です。わずかな違いでも現在価値に大きな差が生じるため注意が必要です。
将来の収益が見込めない事業や清算を視野に入れた企業では、キャッシュフローを前提とする評価が成り立ちません。この場合はコストアプローチなど他手法を選ぶ必要があります。
五つのステップを、一つずつ押さえましょう。
まず営業利益から税金を控除し、減価償却費を加算、運転資本増減と設備投資を調整してフリーキャッシュフロー(FCF)を算定します。
事業計画の信頼性を高めるポイント
過去実績と市場動向を突き合わせ、保守・標準・楽観の三通りで試算すると、予測のブレを抑えられます。
加重平均資本コスト(WACC)は株主資本コストと負債コストを比率加重した値です。
ベータ係数の求め方と留意点
同業上場企業の株価を用い、市場全体と比較して感応度を測定します。業界が特殊な場合は類似企業を慎重に選定します。
予測期間終了後のキャッシュフローに永続成長率を掛けて算出した値を、割引率との差で割り永続価値とします。
ゴードン成長モデル適用の注意点
永続成長率は長期GDP成長率を上限に設定するなど、現実的な水準に抑制することが重要です。
企業価値(EV)から有利子負債を差し引き純資産を足し戻すと株主価値になります。発行済株式数で割れば1株価値が得られます。
負債調整と1株当たり価値の算定
負債は帳簿価額ではなく時価で評価することで、より正確な株主価値を導けます。
評価結果を経営判断に生かすためには、いくつかの実務上の工夫が不可欠です。
キャッシュフロー予測と割引率の算定根拠を明文化すると、評価の客観性が高まります。
ベースケースに加え楽観・悲観シナリオを試算し、企業価値の幅を把握することでリスクを定量化できます。
マーケットアプローチやコストアプローチなど複数の結果を比較し、妥当な価格帯を導くと恣意性を抑えられます。
第三者の意見を取り入れることで、前提条件の偏りや数値入力ミスを防ぎ、評価の信頼性を向上させます。
インカムアプローチは企業の将来キャッシュフローを現在価値に換算して本質的な価値を測る有力な手法です。将来性やシナジー効果を反映できる半面、前提条件次第で評価がぶれやすい点に注意が必要です。前提の透明化と複数手法の比較を行い、専門家の助言を得ながら自社の価値を的確に把握しましょう。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事