M&Aや株式譲渡に伴う確定申告について、必要なケースや手続のポイント、税金の仕組みを解説します。事業承継時の注意点や専門家への相談のメリットも紹介し、適切な申告のための情報を提供します。
目次
確定申告とは、個人が1年間の収入や経費、そこから算出される所得を申告する手続です。この手続は、所得税や住民税の正確な額を算出するために必要不可欠です。
確定申告の対象期間と期限は以下の通りです:
• 対象期間:前年の1月1日から12月31日まで
• 申告期限:2月16日から3月15日まで
個人事業主や法人の場合、所得に応じた所得税を納付する必要があります。法人の場合は、事業年度終了後2か月以内に申告・納付を行うことが求められます。
確定申告は、自身の経済活動を正確に報告し、適切な納税を行うための重要な手続です。特に、株式譲渡や事業承継、M&Aなどの複雑な取引を行った場合には、慎重に対応する必要があります。
▶目次ページ:株式譲渡(株式譲渡の税金)
確定申告が必要となる主なケースには、以下のようなものがあります:
1. 配当所得がある場合: 株式や投資信託からの配当金を受け取った場合、その所得に対して確定申告が必要です。
2. 不動産所得がある場合: 賃貸物件などからの家賃収入がある場合、その所得に対して確定申告が必要です。
3. 譲渡所得がある場合: 不動産や株式などの資産を売却して利益が出た場合、その譲渡所得に対して確定申告が必要
です。
これらのケースに該当する場合、それぞれの所得に適用される税率や控除を正確に把握し、適切に申告を行うことが求められます。特に、M&Aや事業承継に伴う株式譲渡の場合、複雑な税務処理が必要となることがあるため、注意が必要です。
確定申告と年末調整は、どちらも所得税の精算を行う制度ですが、対象者や手続の方法に違いがあります。
1. 対象者:
o 年末調整:主に会社員を対象とします。
o 確定申告:法人、個人事業主、複数の収入源を持つ人などを対象とします。
2. 手続の時期:
o 年末調整:毎年12月に会社が行います。
o 確定申告:翌年の2月16日から3月15日の間に個人が行います。
3. 所得の範囲:
o 年末調整:給与所得のみを対象とします。
o 確定申告:全ての所得を対象とします。
4. 必要性:
o 年末調整:給与所得のみで年収が2,000万円を超えない場合は、年末調整のみで問題ありません。
o 確定申告:複数の所得がある場合や、特定の控除を受けたい場合などに必要です。
株式譲渡による所得がある場合、特に非上場株式の譲渡や大規模な取引の場合は、確定申告が必要となることが多いため、注意が必要です。
上場株式の譲渡に関する確定申告の必要性は、使用している証券口座の種類によって異なります。主な証券口座の種類と確定申告の要否は以下の通りです:
1. 一般口座: 基本的に確定申告が必要です。
2. 特定口座(源泉徴収なし): 基本的に確定申告が必要です。
3. 特定口座(源泉徴収あり): 譲渡益が生じた場合でも、確定申告は不要です。証券会社が源泉徴収を行うためで
す。
ただし、上場株式であっても、市場(証券会社)を通さず相対で譲渡した場合は、非上場株式を譲渡した場合と同じ扱いになります。このような場合は、通常、確定申告が必要となります。
M&Aや事業承継の一環として上場株式を譲渡する場合、取引の規模や方法によっては特別な税務処理が必要となる可能性があるため、専門家への相談をお勧めします。
非上場企業の株式を譲渡する際、得られる所得は税務上「譲渡所得」として扱われます。この場合、原則として確定申告が必要となります。
非上場企業の株式譲渡に関する主な特徴は以下の通りです:
1. 取引方法: 非上場企業の株式譲渡は、証券市場を通じて行われません。
2. 譲渡価額の算定: 株式の譲渡価額や取得コストは個別に計算する必要があります。
3. 譲渡所得の計算: 譲渡価額から取得費と譲渡費用を差し引いた金額が譲渡所得となります。
4. 確定申告の必要性: 非上場株式の譲渡所得については、原則として確定申告が必要です。
特に、事業承継やM&Aの一環として非上場株式を譲渡する場合、取引の規模が大きくなることが多く、複雑な税務処理が必要となる可能性があります。このような場合は、税理士などの専門家に相談し、適切な確定申告を行うことが重要です。
株式譲渡を行った場合でも、特定の条件下では確定申告が不要となることがあります。主な場合は以下の通りです:
株式譲渡で損失(赤字)が生じた場合、基本的に確定申告は不要です。ただし、以下の点に注意が必要です:
• 上場株式の譲渡損の場合、確定申告をすることで損失を3年間繰り越すことができます。
• 非上場株式の譲渡損は繰り越しができないため、確定申告のメリットは少なくなります。
特定口座(源泉徴収あり)を利用して株式譲渡を行った場合、確定申告は不要です。これは、譲渡時に証券会社が源泉徴収を行うためです。
譲渡所得が20万円以下である場合、確定申告は不要です。ただし、以下の点に注意が必要です:
• 事業承継やM&Aなどの大規模な株式譲渡では、譲渡所得が20万円を超えることがほとんどです。
• 複数の株式譲渡を行った場合、合計の譲渡所得が20万円を超えると確定申告が必要になります。
これらの条件に該当する場合でも、他の所得と合算して確定申告を行うことで、還付を受けられる可能性があります。状況に応じて、税理士などの専門家に相談することをお勧めします。
株式譲渡を行った際には、様々な税金が課されます。ここでは、個人が株式譲渡を行った場合の税金について説明します。
個人の株式譲渡に関して課税される主な税金は以下の3つです:
1. 所得税:
o 税率:15%
o 譲渡益に直接適用される税金です。
2. 復興特別所得税:
o 税率:0.315%(所得税額の2.1%)
o 東日本大震災からの復興を支援するための時限的な税金で、2037年までの適用となります。
3. 住民税:
o 税率:5%
o 所得税と同じく、譲渡益に直接適用される税金です。
これらを合計すると、個人の株式譲渡においては、譲渡益に対して20.315%の税金が課されることになります。
株式譲渡所得に対する課税方式は「分離課税」と呼ばれます。分離課税の主な特徴は以下の通りです:
1. 他の所得と分離: 株式譲渡所得は、給与所得などの他の所得と合算せずに、単独で課税されます。
2. 一定の税率: 所得の大小に関わらず、一定の税率(20.315%)が適用されます。
3. 損益通算の制限: 上場株式と一般株式(非上場株式)の譲渡所得は、それぞれ別々に計算され、互いに損益通算することはできません。
分離課税方式により、株式譲渡所得に対する税金の計算が他の所得と独立して行われるため、事業承継やM&Aにおける株式譲渡の税務処理がより明確になります。
事業承継の一環として株式譲渡を行う場合、通常の株式譲渡とは異なる点に注意が必要です。主な留意点は以下の通りです:
親族間で株式譲渡を行う場合、譲渡価額の設定に特に注意が必要です:
• 第三者間取引の場合:両者の合意のもとでの金額で問題ありません。
• 親族間取引の場合:株式の譲渡価額と時価との差が大きいと判断されると、多額の税金(贈与税など)が発生する可能性があります。
適切な譲渡価額の設定のためには、非上場株式の評価方法を理解し、正確な株価算定を行うことが重要です。
事業承継における株式譲渡では、贈与税や相続税にも注意が必要です:
• 通常の株式譲渡:譲渡所得に課税され、基本的には売り手が税金を負担します。
• 贈与や相続とみなされる場合:買い手に贈与税や相続税が課される可能性があります。
特に親族間での株式譲渡の場合、取引の実態が贈与や相続と判断されないよう、適切な価格設定と手続が重要です。
株式譲渡の一部を退職金として受け取ることで、節税できる可能性があります:
• 適用条件:役員として5年以上勤務している場合
• メリット:退職金に課せられる税金が通常の半分になります
ただし、以下の点に注意が必要です:
• 一定の条件を満たさない場合、この仕組みは適用できません。
• 条件によっては逆に税金が増える可能性もあります。
退職金を活用した節税を検討する際は、事前に税理士等の専門家に相談し、個別の状況に応じた適切な判断を行うことが重要です。
株式譲渡で得た所得の確定申告は、特に事業承継やM&Aのような大規模な取引の場合、非常に複雑になる可能性があります。以下の理由から、プロの専門家への相談をおすすめします:
1. 専門知識の必要性:
o 税務、法律、会計の各分野に関する専門的な知識が不可欠です。
o 株式譲渡に関する最新の法改正や税制の変更にも対応する必要があります。
2. 複雑な手続:
o 事業承継は単なる株式売買以上に、多くの作業や手続を必要とします。
o 適切な譲渡価格の設定や、各種書類の作成など、専門的なサポートが役立ちます。
3. リスク管理:
o 不適切な申告は、後日の税務調査で指摘される可能性があります。
o プロの助言を受けることで、このようなリスクを最小限に抑えることができます。
4. 節税対策:
o 専門家は、合法的な範囲内で最適な節税方法を提案できます。
o 個々の状況に応じた、効果的な税務戦略を立てることができます。
5. 時間と労力の節約:
o 複雑な確定申告の作業を専門家に任せることで、本業に集中できます。
o 誤りのリスクを減らし、効率的に手続を進めることができます。
株式譲渡、特に事業承継やM&Aに伴う譲渡の場合は、税理士や公認会計士などの専門家に相談することで、適切な確定申告と効果的な税務戦略を実現できる可能性が高まります。
株式譲渡に伴う確定申告は、取引の規模や状況によって必要性が変わってきます。上場株式と非上場株式、譲渡損益の有無、使用する口座の種類などによって対応が異なるため、個々のケースに応じた適切な判断が求められます。特に事業承継やM&Aに関連する株式譲渡では、複雑な税務処理が必要となる場合が多いため、専門家への相談を検討することをお勧めします。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画