株式譲渡で譲渡益が出ても、確定申告の要否は上場・非上場、特定口座の源泉徴収、NISA、利益額で異なります。個人株主を対象に、20.315%の税率、損益通算・3年繰越、必要書類、e-Taxの手順、会社売却で注意したい取得費や申告の影響を分かりやすく解説します。
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▶目次ページ:株式譲渡(株式譲渡の税金)
「株を売って利益が出たら、必ず確定申告が必要」と思われがちです。しかし、実際の判断はそれほど単純ではありません。個人株主の場合は、株式の区分、口座の種類、利益や損失の状況を順に確認します。
この記事は、個人が株式を譲渡した場合を前提としています。法人が保有株式を譲渡した場合は、法人税の申告で処理するため、扱いが異なります。
税務上、株式は主に「上場株式等」と「一般株式等」に分けて計算します。中小企業の会社売却で譲渡する自社株は、通常、一般株式等に含まれる非上場株式です。
上場株式等と一般株式等は別の区分で計算し、原則として両者の損益を相殺できません。
譲渡益が出た場合は、申告が必要かを確認します。一方、損失であれば所得税の納付は通常生じません。
ただし、上場株式等の損失は、確定申告をすることで他の上場株式等の利益や一定の配当と相殺でき、控除しきれない損失を翌年以後3年間繰り越せる場合があります。
上場株式は、特定口座の源泉徴収の有無や一般口座によって対応が変わります。NISA口座の譲渡益は非課税です。
会社売却で扱う非上場株式には、証券会社の源泉徴収口座による自動納税は通常ありません。
同じ金額の譲渡益でも、口座区分が違えば申告の要否は変わります。証券会社の画面で「特定口座」とだけ確認して終わらず、源泉徴収ありか、源泉徴収なしかまで見てください。
証券会社が所得税等と住民税を源泉徴収するため、その口座内の上場株式等の譲渡益は、原則として確定申告が不要です。口座ごとに、申告するか申告不要とするかを選べます。
次のような場合は、源泉徴収ありの口座でも確定申告を検討します。
・他の口座で生じた上場株式等の譲渡損失と相殺したい
・上場株式等の譲渡損失を翌年以後へ繰り越したい
・過去から繰り越した損失を当年の利益から控除したい
申告すれば必ず得になるわけではありません。税金の還付額だけでなく、後述する扶養判定や国民健康保険料等への影響も含めて判断します。
譲渡益が出た場合は、自分で金額を計算して申告するのが原則です。
特定口座の源泉徴収なしであれば、特定口座年間取引報告書を使って比較的容易に計算できます。一般口座では、売却価額、取得費、手数料等を自分で集計します。
給与を1か所から受け、年末調整が済んでいる人などは、給与所得・退職所得以外の所得の合計が20万円以下であれば、所得税の確定申告が不要となる場合があります。
株式の譲渡益だけを見るのではなく、副業所得なども含めた合計で判定します。
住民税の申告は別に確認する
所得税の確定申告が不要でも、住民税の申告が必要になることがあります。
また、医療費控除などのために確定申告をする場合は、20万円以下の株式譲渡所得も申告に含める必要があります。居住する市区町村の案内も確認してください。
NISA口座で取得した対象商品から生じる譲渡益は非課税のため、その利益について確定申告は不要です。
ただし、NISA口座で生じた譲渡損失は税務上ないものと扱われ、課税口座の利益との損益通算や3年間の繰越控除はできません。
会社売却で経営者が譲渡する自社株は、一般に非上場株式です。証券会社が税金を差し引いてくれる仕組みではないため、譲渡した本人が譲渡益を計算し、原則として確定申告を行います。
ただし、「非上場株式を売ったら例外なく申告が必要」という意味ではありません。給与所得者の20万円以下の特例などに該当する余地はあります。
それでも、M&A(合併・買収)による会社売却では譲渡益が大きくなることが多く、実務上は申告が必要になるケースが大半です。
株式譲渡では、売却代金を受け取るのは株主です。株主が個人であれば、その個人の所得税の確定申告で処理します。
対象会社の法人税申告に株主個人の譲渡益を入れるわけではありません。ここを混同すると、納税資金の準備が遅れます。
会社員で年末調整を受けていても、非上場株式の譲渡所得は勤務先の年末調整では処理されません。申告が必要な場合は、翌年に自分で確定申告を行います。
会社売却後に役員や従業員として残る場合も同じです。
売却代金の全額に20.315%を掛けるわけではありません。税金がかかるのは、売却価額から取得費と譲渡費用を差し引いた譲渡益です。
譲渡益は、次の式で計算します。
譲渡価額-取得費-譲渡費用=株式等の譲渡所得等の金額
取得費には、創業時の出資額、増資時の払込額、過去に株式を買い取った代金などが含まれます。譲渡費用は、株式の売却に直接必要となった手数料等です。
創業から長い会社では、出資時の通帳や増資資料が見つからないことがあります。意外と多い落とし穴です。
資料がないまま申告時期を迎えると、本来の取得費を反映できず、譲渡益を大きく計算してしまうおそれがあります。
M&A支援の手数料や専門家報酬が、すべて自動的に譲渡費用になるとは限りません。契約内容、支払先、業務の目的を確認し、株式譲渡に直接必要な費用かを個別に判断します。
請求書、契約書、領収書はまとめて保管してください。
個人の株式等の譲渡益は申告分離課税となり、給与所得などとは分けて税額を計算します。
通常の税率は、所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%の合計20.315%です。
税額の概算は、次の式で求められます。
株式等の譲渡所得等の金額×20.315%=税額の概算
実際の申告では、前年以前からの繰越損失、源泉徴収税額なども確認します。大きな会社売却では、契約締結前に納税額と手取り額を試算しておくことが重要です。
上場株式等の損失を非上場株式の譲渡益から差し引くことは、原則としてできません。反対に、非上場株式の損失を上場株式等の利益から差し引くことも原則不可です。
複数の株式取引がある人は、同じ「株式」だから相殺できると思い込まないようにしてください。
損失が出た年は、税金がないから何もしなくてよい。そう判断すると、翌年以後の控除を失うことがあります。
申告義務の有無と、申告した方が有利かどうかは別の問題です。
一定の上場株式等の譲渡損失は、確定申告により、その年の上場株式等の譲渡益や申告分離課税を選んだ一定の配当所得等と損益通算できます。
控除しきれない損失は、翌年以後3年間の繰越控除が可能です。繰り越す間は、取引がない年も連続して確定申告する必要があります。
非上場株式など一般株式等の区分内では、その年の利益と損失を計算します。
しかし、一般株式等の損失を上場株式等の利益と相殺したり、翌年以後へ3年間繰り越したりする制度は、原則として利用できません。会社売却で損失が出た場合は、他の一般株式等の取引の有無も含めて確認します。
損益通算による還付だけを見ると、申告した方が有利に見えることがあります。
ただし、申告した譲渡所得が合計所得金額等に含まれることで、配偶者控除・扶養控除の判定、住民税の非課税判定、国民健康保険料や医療費の自己負担割合などに影響する場合があります。
自治体や加入制度によって結果が異なるため、税金と社会保険を合わせて比べる必要があります。
申告期限の直前になってから取得費の資料を探し始めると、手続が止まりやすくなります。売却が決まった年のうちに、必要書類を分けて保管するのが安全です。
所得税の確定申告は、原則として株式を譲渡した年の翌年2月16日から3月15日までに行います。期限日が土曜日、日曜日、祝日等に当たる場合は、翌開庁日となります。
納税期限も原則として同じです。
株式譲渡の申告では、一般に次の書類を使用します。
・所得税及び復興特別所得税の確定申告書
・申告書第三表(分離課税用)
・株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書
・損益通算や繰越控除を使う場合の確定申告書付表
国税庁の確定申告書等作成コーナーを使えば、入力内容に応じて必要な明細書等が作成されます。
特定口座年間取引報告書、一般口座の売買報告書、配当等の資料、前年以前の繰越損失が分かる申告書控えを準備します。
特定口座年間取引報告書は申告入力に使いますが、現在は原則として確定申告書への添付は不要です。
会社売却では、株式譲渡契約書、売却代金の入金資料、株式の取得費を示す資料、譲渡費用の契約書・請求書・領収書などを揃えます。
買い手から支払調書の写しを受け取った場合は、内容も確認してください。ただし、支払調書の交付や税務署への提出の要否と、売り手本人の確定申告義務は別に判断します。
国税庁の確定申告書等作成コーナーでは、スマートフォンやパソコンから申告書を作成し、e-Taxで送信できます。特定口座の情報は、マイナポータル連携や対応データの読み込みを利用できる場合があります。
一般的な流れは次のとおりです。
入力項目を誤ると、上場株式等と一般株式等の区分が入れ替わることがあります。
非上場株式のM&Aや取得費が複雑な案件では、作成画面へ入力する前に計算根拠を紙やデータで整理すると進めやすくなります。
M&A実務では、売却価額が決まった後に税金を考え始めるケースがあります。しかし、取得費、譲渡費用、役員退職金、支払時期などは、契約内容や実行前の手続と結び付いています。
確定申告の時点では直せないこともあります。
株式譲渡代金と役員退職金の配分によって、経営者の手取りが変わる場合があります。
ただし、退職金は在任期間、退任の実態、支給額の妥当性、会社側の資金負担などを確認する必要があります。単に「退職金なら税金が半分になる」と決めつけるのは危険です。
事業承継で親族へ株式を譲渡する場合、当事者間で合意した金額だけで安全とは限りません。
個人から著しく低い価額で財産を譲り受けると、時価との差額が贈与とみなされることがあります。非上場株式は時価の把握が難しいため、評価方法と譲渡価額の根拠を記録しておくことが重要です。
株式譲渡の所得税だけでなく、消費税の扱い、売り手・買い手の会計処理、役員退職金、支払調書なども確認します。それぞれ判断主体と必要書類が異なります。
論点を一つの申告処理にまとめず、誰が、どの税目で、いつ対応するかを整理してください。
株式譲渡の確定申告は、上場・非上場の区分、口座の種類、譲渡益や損失の有無で判断が変わります。個人の譲渡益には通常20.315%が課され、会社売却では取得費と譲渡費用の資料が手取り額を左右します。申告不要や損失控除を選べる場合も、扶養判定や国民健康保険料等への影響まで比べ、契約前から税額と必要書類を確認することが大切です。
著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事
編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人