中小企業のM&Aに必要な知識と戦略や実践方法を解説
「M&Aに必要な知識とは何ですか?」――その疑問に即答します。M&Aの基本概念から主要手法、メリット・リスク、成功事例、戦略立案の手順までを網羅的に解説します。
目次
▶目次ページ:第三者承継とは(経営戦略とM&A)
M&Aは合併と譲受を組み合わせ、企業の成長や事業承継を実現する手段です。まずは全体像を理解し、自社に合った活用方法を考えましょう。
M&A(Mergers and Acquisitions)は、企業や医療法人などの合併や譲受を指します。近年は団塊世代の経営者引退や後継者不足が背景となり、中小企業でも事業承継目的のM&Aが増加しています。適切に進めれば双方に大きなメリットをもたらします。
M&Aが注目される背景を確認する
譲受企業と譲渡企業では目的が異なります。理由を整理し、自社がどの立場で何を求めるのか明確にしましょう。
M&Aには複数の手法があります。ここでは代表的な4つを紹介し、特徴と活用シーンを解説します。
譲受企業はM&Aで多くの利点を享受できますが、成功には統合後のマネジメントが鍵となります。
メリットを最大化するためのポイント
譲渡企業にとってM&Aは事業継続と経営者引退の両立を図る有効手段です。
譲渡企業が留意すべきポイント
M&Aは成長を加速させる一方で、多面的なリスクを伴います。リスクの種類と回避策を知り、計画段階で織り込むことが成功への近道です。
企業文化や業務プロセスが大きく異なる場合、統合が円滑に進まず価値が毀損する可能性があります。統合計画を事前に緻密に策定し、責任者と期限を明確に定めることが欠かせません。
貸借対照表に現れない債務や過去の訴訟リスクは、取引後に表面化すると大きな損失に直結します。財務・法務・税務のデューデリジェンスを徹底し、潜在リスクを早期に特定しましょう。
買収後の体制変更が大きいと、キーパーソンが離職するおそれがあります。評価制度やキャリアパスを可視化し、従業員への丁寧な説明で不安を軽減することが重要です。
期待シナジーが実現しない、あるいは買収価格を過大に設定した場合、投資回収が困難になります。統合後のKPIを設定し、達成状況を定点観測して軌道修正を行いましょう。
負債比率上昇や市場環境の急変に備え、資金調達計画は複数シナリオで検討します。統合後もキャッシュフローを定期確認し、必要に応じて事業ポートフォリオを見直します。
譲渡側にとってもM&Aは万能ではありません。課題を把握し、対策を講じたうえで交渉に臨むことが不可欠です。
買収企業の人事制度へ合わせる場合、待遇差が発生することがあります。譲渡前から従業員説明会を開催し、変更点とメリットを丁寧に示すことで不安を軽減します。
自社ブランドが統合後に消える可能性や、意思決定権が縮小する点を認識しましょう。譲渡条件にブランド維持期間や役員構成の取り決めを盛り込む方法もあります。
交渉過程での機密情報流出リスクを抑えるには、秘密保持契約を徹底し、情報提供範囲を段階的に広げる方式が有効です。価格面では複数の評価手法を併用し、納得感を高めます。
買収側の方針転換により取引条件が変更されることがあります。主要取引先への早期説明と契約更新の準備を進めるとともに、税負担シミュレーションを実施し予期せぬ費用を回避します。
成功企業の共通項を抽出し、自社の戦略に落とし込むことで失敗確率を下げられます。
プラスチック射出成型業の澤村製作所は同業のカネバンへ事業を譲渡し、設備・顧客基盤を相互補完しました。強みの似通う企業同士であっても、工程や営業網の最適化で売上は伸長しています。
警備事業のライフ・コーポは人材サービスの日輪へ株式を譲渡し、高齢者の働き先確保という社会課題を同時に解決しました。異業種であっても目的が合致すればWin-Winを実現できます。
互いに「持続可能性」を掲げる両社は株式交換で親子関係を構築し、スキンケアと食品の両市場を拡大しました。共通の企業理念は円滑な統合と長期成長を後押しします。
成功事例に共通する五つの要点
成功までの道筋を十のステップに分け、各段階での留意点を示します。
各ステップを成功させる具体策
複数の要素を総合的に管理することで、価値創造を最大化できます。
統合計画は具体性と実行可能性を両立させ、全ステークホルダーへ早期に共有します。従業員・顧客・取引先の信頼を確保することがシナジー早期実現の近道です。
複数の評価手法を組み合わせ、過大・過小評価を防ぎます。法務・税務・人事など分野別に専門家を起用し、リスクの洗い出しと対策を体系的に行いましょう。
市場変化に応じて戦略を柔軟に修正し、短期的成果ではなく長期的企業価値向上を目指します。定期的な統合プロセス評価と改善が不可欠です。
M&Aは成長戦略と事業承継を両立できる有力手段ですが、メリットだけでなくリスクや課題も伴います。目的と戦略を明確にし、適切な手法選択、綿密なデューデリジェンス、丁寧なコミュニケーション、そして統合後のマネジメントを徹底することで、企業価値を高めるM&Aを実現できます。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画