M&Aとリストラの真実:従業員への影響と対策を徹底解説

M&Aにおける従業員への影響を詳しく解説します。リストラの可能性、給与や福利厚生への影響、適切な情報開示のタイミングなど、M&Aを成功させるために経営者が知っておくべきポイントを紹介します。

目次

  1. M&Aが従業員の雇用に与える影響
  2. M&A手法別の雇用への影響
  3. M&A後の従業員保護策
  4. M&A情報の従業員への開示プロセス
  5. 従業員から見たM&Aのメリットとデメリット
  6. まとめ

M&Aが従業員の雇用に与える影響

M&A(合併・買収)は、企業の経営戦略として重要な選択肢の一つですが、従業員の雇用に様々な影響を及ぼす可能性があります。ここでは、M&Aが従業員の雇用条件にどのような変化をもたらすかについて、具体的に解説します。

リストラの可能性について

M&Aの実施後、従業員の雇用契約は基本的に継続されます。一般的に、M&Aによる人員リストラはほとんど行われません。売り手と従業員の間の雇用契約は、そのまま買い手に引き継がれることが通常です。

ただし、M&Aの手法によっては、従業員があらためて買い手と雇用契約を締結する必要がある場合もあります。例えば、事業譲渡の場合は、移転する資産ごとに手続が必要となるため、従業員も新たに雇用契約を結ぶことになります。

給与への影響

M&A後は、給与の適正化が図られることがあります。ただし、給与の調整は短期間で行うのが難しいため、2年程度かけて段階的に適正化されるケースも少なくありません。

給与の変更要因としては、以下のようなものが考えられます:

買い手の企業規模

担当する業務内容の変更

仕事量の増減

従業員は、給与だけでなく、様々な環境の変化に適応することが求められます。

福利厚生の変化

福利厚生制度については、基本的に買い手が売り手の制度を引き継ぐことになります。しかし、法的に必要とされる項目を除いて、福利厚生の内容を決定する権限は企業側にあります。

そのため、経営の合理化や効率化を目的として、福利厚生の内容が変更される可能性があります。福利厚生の変更には、内容によって従業員の同意が必要な場合と、必要でない場合があります。

退職金制度の継続性

退職金制度のM&A後の取り扱いは、採用されたM&Aのスキーム(手法)によって異なります。

株式譲渡の場合: 売り手の退職金制度を買い手がそのまま引き継ぎます。

事業譲渡の場合: 買い手の制度に従うことになります。

買い手の方針次第では、退職金制度が消滅したり、金額が減額されたりする可能性もあります。このような変更を行う場合は、従業員に丁寧に説明し、理解を得ることが重要です。

M&Aによる雇用への影響は多岐にわたるため、経営者は従業員の不安を軽減し、スムーズな移行を実現するために、適切な情報提供と丁寧な説明を心がける必要があります。

M&A手法別の雇用への影響

M&Aの手法によって、従業員の雇用条件に与える影響は異なります。ここでは、雇用に影響が出やすい手法と、比較的影響が少ない手法について解説します。

雇用条件が変わりやすい手法

雇用契約に影響が出やすいM&Aの手法には、以下の3つがあります:

1. 事業譲渡

2. 会社分割

3. 吸収合併

これらの手法では、売り手の資産ごとに移転の手続が必要となります。従業員は、買い手が提示する新たな雇用条件を確認した上で、改めて雇用契約を締結する必要があります。

この再締結の過程で、従来とは異なる雇用条件が提示される可能性があります。そのため、従業員にとっては不安要素となる場合があります。

雇用条件が維持されやすい手法

一方、雇用契約への影響が比較的少ないM&Aの手法には、以下のようなものがあります:

1. 株式譲渡

2. 株式引渡

3. 株式交換

4. 株式移転

これらの手法では、買い手が売り手の経営権と所有権をすべて譲り受けます。そのため、従業員や雇用契約も、通常はそのまま引き継がれます。

従業員は、特に異論がなければ、買い手企業において従来と同様の雇用条件で就労を継続することができます。このため、従業員にとっては比較的安心感のある手法といえるでしょう。

M&Aを検討する際は、従業員への影響を考慮し、適切な手法を選択することが重要です。また、どの手法を選択した場合でも、従業員に対して丁寧な説明を行い、不安を軽減する努力が必要です。

M&A後の従業員保護策

M&A後に大切な従業員を守り、人材の流出を防ぐためには、いくつかの重要な方策があります。ここでは、その具体的な方法について解説します。

適切な譲渡先企業の選び方

M&A後のリストラを避けるためには、売り手と買い手の相性が非常に重要です。適切な譲渡先を選定する際のポイントは以下の通りです:

社風の類似性

経営理念の共通点

従業員に対する考え方の一致

特に、売り手の従業員を積極的に受け入れようとする企業を選ぶことで、雇用の維持はもちろん、待遇の向上も期待できる可能性があります。

雇用継続に向けた交渉のポイント

M&Aの交渉過程で、買い手と「当面はリストラを行わない」という合意を取り付けることが重要です。具体的には以下のステップを踏みます:

1. 雇用継続について明確な確約を得る

2. その合意内容をM&Aの最終契約書(例:株式譲渡契約書)に明記する

書面化された契約は簡単には反故にできないため、従業員のリストラを回避できる可能性が高まります。

人材流出防止の重要性と共通利益の確認

人材の確保は、M&Aの売り手と買い手双方にとって重要な課題です。この点について、両者の利害が一致していることを確認し、共通認識を持つことが大切です。

売り手の対応:

M&A後も従業員の雇用を確保し続けたいという意向を明確にする

M&Aの契約に待遇と雇用を維持する条項を盛り込む

買い手が条項を確実に守るかという観点で選定を行う

買い手の対応:

獲得した優秀な人材の離職を防ぐための施策を講じる

従業員が新しい環境に早く馴染めるよう細やかな配慮を行う

これらの取り組みにより、M&A後の人材流出リスクを軽減することができます。

従業員保護策を適切に実施することで、M&A後も安定した事業運営を行うことが可能になります。経営者は、これらの点に十分注意を払いながらM&Aを進めることが求められます。

M&A情報の従業員への開示プロセス

M&Aは極めて機密性の高い情報であるため、従業員への開示には慎重な対応が求められます。ここでは、従業員に不安を与えずにM&Aの情報を適切に開示するプロセスについて解説します。

法的な開示義務の有無

従業員に対するM&A実施の告知には法的な義務はありません。しかし、従業員は会社にとって重要な資産であるため、適切なタイミングで情報を伝えることが望ましいです。

譲渡前に開示すべき対象者

M&Aの基本合意がなされた時点で、以下の対象者に情報を開示します:

経営層

キーパーソン(重要な役職者や技術者など)

これらの人々はM&Aの成否や譲渡後の事業運営に大きな影響を与える可能性があるため、時間をかけて丁寧に説明し、理解を得ることが重要です。

譲渡後の一般従業員への開示

一般従業員への開示は、以下のタイミングで行います:

譲渡手続完了直前

譲渡手続完了直後

この段階では、従業員の処遇も契約で決まっているため、具体的な回答ができます。早すぎる開示は情報漏洩のリスクがあるため、広く周知するのは実行直後が最適です。

注意点:

取引先企業やメディアより先に従業員に伝えること

噂や報道で従業員が知ることがないようにすること

効果的な情報開示の場と質疑応答の重要性

従業員への情報開示は、以下のいずれかの場で実施します:

最終契約前日の集合後

契約当日の朝礼

契約翌日の朝礼

開示の際は、売り手と買い手が揃って参加することが望ましいです。開示の目的は以下の通りです:

従業員の不安や質問に回答すること

M&Aが未来に向けたポジティブな選択であることを理解してもらうこと

言葉遣いに配慮しながら、丁寧な説明を心がけましょう。また、十分な質疑応答の時間を設けることで、従業員の不安を軽減し、円滑なM&Aの実現につなげることができます。

従業員から見たM&Aのメリットとデメリット

M&Aは企業にとって重要な経営戦略ですが、従業員にとっても大きな影響があります。ここでは、M&Aが従業員にもたらすメリットとデメリットについて詳しく解説します。

M&A後に期待できる従業員のメリット

M&Aは、売り手で働いていた従業員にとっても、いくつかのメリットをもたらす可能性があります。主なメリットは以下の3点です:

1. 雇用の継続 

 o 売り手企業が廃業を選択した場合と比べ、M&Aでは事業が継続されます。

 o 従業員は買い手企業で受け入れられ、基本的に同様の労働条件で働き続けられます。

2. 待遇面の向上 

 o M&Aの買い手は、一般的に売り手より規模の大きい企業であることが多いです。

 o 企業規模に比例して、給与水準や福利厚生が向上する可能性があります。

 o 買い手企業の制度に合わせて、従業員の待遇が改善されることも期待できます。

3. 将来性の拡充 

 o 会社規模の拡大により、担当業務の領域や人間関係が広がります。

 o 異業種とのM&Aの場合、新しい仕事に挑戦できる機会が生まれます。

 o キャリアパスの選択肢が増え、将来の可能性が広がる可能性があります。

これらのメリットにより、M&Aは従業員にとってもポジティブな変化をもたらす機会となり得ます。

M&A後に従業員が退職してしまう理由

一方で、M&Aにより雇用が確保されても、完了後に従業員が自主的に退職するケースも見られます。主な退職理由は以下の2点です:

1. 組織再編や事業の効率化による影響 

 o M&A後の組織再編や事業効率化の過程で、希望退職者の募集が行われることがあります。

 o 応募した社員が退職するケースがあります。

 o 買い手の経営方針や組織風土に馴染めず、転職を選択する従業員もいます。

2. M&A後の業績悪化 

 o 予想外の業績悪化が起こる可能性もあります。

 o 特に、株式譲渡や株式引渡のような、買い手の負債も含めて引き継ぐM&Aで起こりやすい問題です。

 o 売り手従業員の人件費が買い手の経営を圧迫するケースもあります。

 o 業績悪化を食い止めるために、人件費削減やリストラが実施される可能性があります。

これらの要因により、M&A後に従業員が不安を感じたり、自主的な退職を選択したりすることがあります。

M&Aを成功させるためには、従業員のメリットを最大化し、デメリットを最小限に抑える努力が必要です。経営者は従業員の不安や懸念に耳を傾け、適切なコミュニケーションと支援を行うことで、人材の流出を防ぎ、円滑な統合を実現することが重要です。

まとめ

M&Aは企業の成長戦略として重要ですが、従業員への影響も大きいため、慎重な対応が求められます。雇用継続や待遇維持の努力、適切な情報開示、従業員の不安解消が重要です。M&Aの成功には、経営者と従業員の相互理解と協力が不可欠であり、これらを通じて、企業価値の向上と従業員の満足度向上の両立を目指すことが重要です。

著者|竹川 満 マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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