株式譲渡の代金には、原則として消費税がかかりません。ただし、仲介・FA・弁護士・税理士などへの報酬には消費税がかかり、法人が株式を売ると課税売上割合が下がることがあります。売り手・買い手の注意点、5%算入ルール、会計処理、事業譲渡との違いを解説します。
目次

▶目次ページ:株式譲渡(株式譲渡の税金)
会社売却で株式を譲渡しても、その売却代金に消費税を上乗せする必要はありません。株式は有価証券に該当し、その譲渡は消費税が課されない取引だからです。
株式の譲渡額が大きくても、売買の回数が多くても、株式代金そのものに消費税がかかるわけではありません。ただし、法人による株式譲渡では、後述する課税売上割合を通じて納付税額に影響することがあります。
法人が子会社株式や取引先の株式を売る場合、株式の譲渡対価は消費税の非課税売上として扱います。
例えば、帳簿価額1,000万円の株式を3,000万円で売っても、3,000万円に消費税を上乗せして買い手へ請求することはありません。差額の2,000万円には法人税等が関係しますが、株式代金に消費税がかかるわけではない点に注意が必要です。
オーナー経営者が個人で持っている自社株を第三者へ売る場合も、通常、株式代金に消費税はかかりません。
個人株主には、株式の取得費と譲渡費用を差し引いた譲渡益に対する所得税・住民税などが関係します。消費税と所得税を混同しないようにしましょう。
非課税取引とは、消費税の対象となる取引のうち、政策的な理由などから法律で消費税をかけないと定められたものです。株式や土地の譲渡などが該当します。
一方、不課税取引は、給与、寄附、配当金など、そもそも消費税の対象にならない取引です。
この違いは、法人の課税売上割合を計算するときに表れます。株式譲渡は非課税売上として計算に関係するため、消費税を請求しなくても、決算時の納付税額に影響することがあります。
「株式譲渡が非課税なら、M&A(合併・買収)に関する費用もすべて非課税」と考えるのは誤りです。
株式の譲渡代金と、専門家などから受けるサービスの対価は、別々に消費税を判定します。
M&Aの仲介手数料やFAへの報酬には、通常、消費税がかかります。FAとは、売り手または買い手の一方に立って助言する専門家です。
成功報酬だけでなく、着手金、月額報酬、企業価値算定費用などが発生する場合は、それぞれの請求書で消費税額を確認します。
例えば、成功報酬が2,000万円であれば、通常は別途200万円の消費税がかかります。会社売却の資金計画では、株式代金だけでなく、報酬の税込総額まで見込んでおく必要があります。
法務調査、財務・税務調査、契約書の確認、税務申告などの専門家報酬にも、通常は消費税がかかります。
株式譲渡の代金が非課税だからといって、弁護士や税理士、公認会計士から受けるサービスまで非課税になるわけではありません。
上場株式等の売買を証券会社へ依頼した場合の委託手数料、株式の移管手数料、口座管理手数料などにも、内容に応じて消費税がかかります。
消費税を支払ったからといって、その全額を必ず仕入税額控除できるとは限りません。仕入税額控除とは、売上時に預かった消費税から、経費などで支払った消費税を差し引く仕組みです。
法人が個別対応方式を使っている場合、株式の売却に直接必要となった費用は、非課税売上だけに対応する費用と判断され、仕入税額控除の対象外になることがあります。意外と多い落とし穴です。
株式の譲渡代金には消費税がかかりません。それでも、課税事業者である法人が株式を売ると、納付する消費税が増える場合があります。
原因となるのが、課税売上割合です。
課税売上割合は、会社の売上全体のうち、消費税が課される売上の割合を示す数字です。
基本的には、次の考え方で計算します。
課税売上割合 = 課税売上高 ÷ 総売上高
課税売上割合が下がると、経費や設備投資などで支払った消費税のうち、仕入税額控除できる金額が減ることがあります。
法人が有価証券を譲渡した場合、原則として、譲渡対価の全額ではなく5%相当額を課税売上割合の分母に入れます。
例えば、株式を10億円で譲渡した場合、課税売上割合の計算では、その5%に当たる5,000万円が非課税売上として分母に加わります。
全額の10億円が加わるわけではありません。それでも、本業の売上規模によっては課税売上割合が大きく下がることがあります。
株式譲渡前の課税売上高が10億円で、ほかに非課税売上がない会社を考えます。
株式譲渡がなければ、課税売上割合は原則として100%です。一方、10億円の株式譲渡を行うと、その5%である5,000万円が分母に加わるため、課税売上割合は約95.2%になります。
さらに株式譲渡額が大きい場合や、利息などの非課税売上がほかにもある場合は、95%を下回ることがあります。
一般課税を採用している会社では、課税売上高が5億円以下で、課税売上割合が95%以上であれば、原則として課税仕入れにかかる消費税の全額を控除できます。
課税売上高が5億円を超える場合、または課税売上割合が95%未満の場合は、支払った消費税の全額を控除できません。個別対応方式または一括比例配分方式によって、控除できる金額を計算します。
株式譲渡によって95%を下回ると、これまで全額控除できていた会社でも、決算時の計算方法が変わる可能性があります。
なお、簡易課税制度を利用している会社では、一般課税とは計算方法が異なります。自社にどの制度が適用されているかも確認してください。
個別対応方式では、消費税がかかる経費を次の3つに分けます。
・課税売上だけに必要な経費
・非課税売上だけに必要な経費
・課税売上と非課税売上の両方に共通する経費
株式売却だけのために支払った証券会社の手数料や一部の専門家報酬は、非課税売上だけに必要な経費として、仕入税額控除できない場合があります。
一方、会社全体の経営判断や事業運営にも関係する費用は、共通経費として課税売上割合を使って計算することがあります。
同じM&A関連費用でも、業務の内容によって消費税の取扱いが変わることがあります。
仲介契約書やFA契約書、業務報告書、請求書などを保存し、どの業務に対する費用なのか説明できるようにしておくことが大切です。
一括比例配分方式では、課税仕入れにかかる消費税額に課税売上割合を掛けて、控除額を計算します。
この方式を選んだ場合、原則として2年以上継続した後でなければ、個別対応方式へ変更できません。
株式を譲渡する年度だけ都合のよい方法に変更できるとは限らないため、将来の設備投資や不動産取引も含めて検討します。
買い手企業が支払う株式代金には、消費税が含まれていません。そのため、株式の取得代金について仕入税額控除を受けたり、消費税の還付を受けたりすることはできません。
例えば、買い手企業が株式を5億円で取得しても、その5億円に5,000万円の消費税が含まれているわけではありません。
「株式を買えば、取得代金の10%が還付される」という理解は誤りです。
株式代金は非課税ですが、買収に伴う財務・税務・法務調査、企業価値算定、契約支援などの費用には、通常、消費税がかかります。
買い手企業は、次の金額を分けて管理する必要があります。
・消費税がかからない株式取得代金
・消費税がかかる専門家報酬
・融資や株式移管などに関する諸費用
・株式取得後に必要となる統合費用
専門家報酬に含まれる消費税を仕入税額控除できるかどうかは、買収の目的や費用の内容、会社が採用している消費税の計算方式によって判断します。
法人が株式を売却したときは、受け取った代金と株式の帳簿価額との差額を、原則として有価証券売却益または有価証券売却損として処理します。
株式代金には消費税が含まれないため、株式の売却仕訳で仮受消費税は計上しません。
帳簿価額1,500万円の株式を1,600万円で売却した場合、差額の100万円が売却益です。
仕訳の考え方は次のとおりです。
借方 現金預金 1,600万円
貸方 有価証券 1,500万円
貸方 有価証券売却益 100万円
売却した株式が子会社株式や関連会社株式である場合は、会社の勘定科目や決算書の表示に合わせて処理します。
帳簿価額1,500万円の株式を1,000万円で売却した場合、差額の500万円が売却損です。
仕訳の考え方は次のとおりです。
借方 現金預金 1,000万円
借方 有価証券売却損 500万円
貸方 有価証券 1,500万円
売却益や売却損の勘定科目は、株式の保有目的や会社の会計方針によって異なる場合があります。
株式は、保有目的などによって、売買目的有価証券、子会社株式・関連会社株式、その他有価証券などに分類されます。
M&Aで子会社株式を売る場合は、帳簿価額だけでなく、売却までに計上した評価差額や付随費用なども確認します。
有価証券の保有目的・勘定科目・決算区分一覧
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保有目的 |
内訳 |
勘定科目 |
決算区分 |
|
売買目的の有価証券 |
短期での取引を目的とした株式 |
有価証券 |
流動資産 |
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満期保有目的の債券 |
1年超に満期が到来する社債 |
投資有価証券 |
固定資産 |
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子会社株式および関連会社株式 |
子会社株式 関連会社株式 |
関係会社株式 |
固定資産 |
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その他の有価証券 |
上記のどれにも該当しないもの |
投資有価証券 |
固定資産 |
会計ソフトへ入力するときは、株式の譲渡対価を非課税売上として処理します。
ただし、課税売上割合の計算では譲渡対価の5%を使うため、会計ソフトが自動で正しく集計するか確認が必要です。ソフトによっては専用の税区分を選ぶか、決算時に手作業で調整します。
株式譲渡額の全額が課税売上割合の分母に入ってしまうと、消費税額を誤って計算するおそれがあります。
株式譲渡では、株主が会社の株式を売ります。一方、事業譲渡では、会社が事業に含まれる資産や権利を個別に譲渡します。
そのため、事業譲渡の対価は一律に非課税とはなりません。譲渡する資産ごとに、消費税がかかるかどうかを判定します。
事業譲渡で消費税がかかる主な資産は、次のとおりです。
・商品、原材料、仕掛品などの棚卸資産
・建物、機械、車両、備品
・ソフトウェア、特許権、商標権
・営業権やのれん
特に、のれんの金額が大きい場合は、消費税額も大きくなります。買い手の資金負担に影響するため、契約交渉の早い段階で確認する必要があります。
事業譲渡に含まれていても、次のような資産には原則として消費税がかかりません。
・土地
・株式や社債などの有価証券
・売掛金、貸付金などの金銭債権
・現金や預金
事業譲渡契約書では、譲渡価格を各資産へ合理的に配分し、課税対象となる資産の金額と消費税額を明確にします。
消費税だけを比較すると、株式譲渡の方が負担を抑えやすく見えます。ただし、譲渡方法は消費税だけでは決められません。
株式譲渡では、会社の法人格が変わらないため、会社が負っている債務や契約関係は原則として会社に残ります。簿外債務や将来発生する可能性がある債務も含め、買い手はデューデリジェンスで確認します。
許認可も一般には会社に残りますが、株主変更や役員変更の届出が必要な場合や、特定の許認可について再審査が必要な場合があります。
また、旧経営者の個人保証は、株式を売っただけでは自動的に解除されません。金融機関と交渉し、保証の解除または買い手側への切替えを進める必要があります。
事業譲渡では、買い手が引き継ぐ資産や負債を選びやすい一方、取引先との契約、従業員、許認可などを個別に引き継ぐ手続が必要です。
消費税、所得税・法人税、手続の負担、承継するリスクを一緒に比較しましょう。
株式譲渡の消費税は、契約を結んだ後よりも前に確認した方が対応しやすい論点です。
譲渡価格だけを見て進めると、専門家報酬の消費税や仕入税額控除の減少により、当初の想定より手取りが少なくなることがあります。
売り手が法人の場合は、少なくとも次の事項を確認します。
・株式譲渡を実行する事業年度
・当期の課税売上高と課税売上割合の見込み
・株式譲渡対価の5%を加えた納税シミュレーション
・仲介手数料、FA費用、専門家報酬の消費税
・各費用が課税売上、非課税売上、共通のどれに対応するか
・個別対応方式と一括比例配分方式の適用状況
・簡易課税制度の適用の有無
・契約書、請求書、計算資料の保存方法
大きな株式譲渡を予定している場合は、実行年度を変えることで課税売上割合や資金繰りへの影響が変わることもあります。ただし、税金だけを理由に実行時期を決めるのではなく、買い手との条件や事業上の事情も踏まえて判断します。
個人オーナーが自社株を売る場合は、株式代金の消費税よりも、次の項目が重要です。
・株式の取得費
・売却のために直接支払った譲渡費用
・株式譲渡益にかかる所得税・住民税
・確定申告の要否
・役員退職金を組み合わせる場合の税負担
・会社の借入金に対する個人保証の解除
取得費を確認できないと、譲渡益が実際より大きく計算され、税負担が増えることがあります。過去の株式払込資料、相続・贈与関係の資料、株主名簿などを早めに集めておきましょう。
買い手企業は、次の事項を整理します。
・株式代金に消費税が含まれないこと
・買収関連費用に含まれる消費税
・専門家報酬の仕入税額控除の可否
・株式譲渡と事業譲渡の資金負担の違い
・株式取得後の会計処理
・簿外債務や偶発債務の調査
・許認可や主要契約に株主変更条項がないか
・旧経営者の個人保証をどう解除するか
M&A実務では、株式取得代金以外の費用が後から増え、資金計画を見直すケースも珍しくありません。消費税を含む諸費用を早い段階で一覧にすることが大切です。
株式譲渡の対価には原則として消費税がかかりませんが、仲介・FA・専門家への報酬には通常、消費税がかかります。法人が株式を売る場合は、譲渡対価の5%が課税売上割合に影響し、仕入税額控除が減ることもあります。契約前に売り手・買い手双方の税区分と納税額を試算し、所得税・法人税、個人保証、承継リスクも含めて譲渡方法を判断することが大切です。
著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事
編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人