株式譲渡と消費税:原則非課税の理由と課税ケースを解説

株式譲渡は原則として消費税非課税ですが、例外的に課税される場合もあります。本記事では、株式譲渡における消費税の取り扱いや、課税・非課税の判断基準、会計処理方法などを詳しく解説します。

目次

  1. 株式譲渡と消費税の関係:原則非課税の理由
  2. 消費税に関する株式譲渡の会計処理方法
  3. 株式譲渡時の消費税計算方法と注意点
  4. 専門家への相談:株式譲渡における税務のアドバイス
  5. まとめ

株式譲渡と消費税の関係:原則非課税の理由

株式譲渡は、一般的に消費税の課税対象外となります。しかし、特定の状況下では消費税が課税される可能性があるため、その取り扱いには注意が必要です。ここでは、株式譲渡と消費税の関係について詳しく解説していきます。

株式譲渡の定義と特徴

株式譲渡とは、株主が保有する株式を他の企業や個人に譲渡し、会社の経営権を移転する行為を指します。この方法には以下のような特徴があります。

・節税効果が高い ・手続が比較的簡単 ・中小企業のM&Aでも頻繁に活用される

株式を多く所有すると、筆頭株主として経営に関する発言権が生じます。このため、株式譲渡は単なる金銭的な取引だけでなく、会社の支配権移転にも関わる重要な手続となります。

株式譲渡が消費税非課税となる根拠

株式譲渡が原則として消費税非課税となる理由は、以下の点にあります。

1. 消費税の性質: 消費税は、商品の売買やサービス提供に課せられる税金です。

2. 株式の性質: 株式を含む有価証券の譲渡は、消費行為とは見なされません。

3. 取引の分類: 課税取引・非課税取引・不課税取引の3種類のうち、株式譲渡は非課税取引に該当します。

4. 資本移転の扱い: 株式の取引は、売り手から買い手への資本移転として扱われます。これは手形や小切手などの取り扱いと同様です。

つまり、株式譲渡は消費ではなく資本の移動と見なされるため、原則として消費税の課税対象外となるのです。

事業譲渡における消費税の取り扱い

事業譲渡の場合、株式譲渡とは異なり、消費税が課税されます。その理由と特徴は以下の通りです。

・法人である会社が取引主体となるため、課税対象となる
・法人税と消費税の両方が課せられる
・株式譲渡に比べて税負担が大きくなりやすい

一方、株式譲渡の場合は、条件によっては非課税となりますが、取引で発生した利益に対して所得税が発生します。このように、譲渡の形態によって税金の取り扱いが大きく異なることに注意が必要です。

株式譲渡で消費税が発生するケース

原則として非課税とされる株式譲渡ですが、以下のような条件下では消費税が課税される可能性があります。

1. 高額な有価証券取引

2. 少額であっても頻繁に売買を繰り返す場合

これらの場合、控除しきれない消費税の支払いが必要となることがあります。

有価証券とは、株式・債券・手形などの財産的価値を有するものを指します。
有価証券は保有目的によって以下の4つに分類されます。

保有目的

内訳

勘定科目

決算区分

売買目的の有価証券

短期での取引を目的とした株式

有価証券

流動資産

満期保有目的の債券

1年超に満期が到来する社債

投資有価証券

固定資産

子会社株式および関連会社株式

子会社株式 関連会社株式

関係会社株式

固定資産

その他の有価証券

上記のどれにも該当しないもの

投資有価証券

固定資産

 このうち、「有価証券」として処理できるものには、売買目的証券や1年以内に償還される債券などが該当します。

株式譲渡における消費税の発生有無を判断する際に重要となるのが、課税売上割合です。課税売上割合とは、売上高のうち課税売上が占める割合を指し、消費税の課税計算で算定されます。この割合が低いほど、消費税額が高くなる傾向があります。

課税売上割合が95%以上の場合、消費税は控除されますが、95%以下の場合は控除しきれない消費税が課税されます。そのため、非課税売上高に該当する株式の取引額を減らし、頻繁な取引を避けることで、課税売上割合を高く保つことが重要です。

▶目次ページ:株式譲渡(株式譲渡の税金)

消費税に関する株式譲渡の会計処理方法

株式譲渡を行う際には、消費税の仕訳や会計処理について正しく理解しておく必要があります。ここでは、有価証券譲渡益と有価証券譲渡損の両方のケースについて、適切な仕訳と会計処理の方法を解説します。

有価証券譲渡益の仕訳手順

有価証券譲渡益とは、有価証券を譲渡・譲受することによって得た利益を指します。例えば、15,000円で購入した株式を16,000円で売却した場合、1,000円の利益が発生します。

この場合の仕訳は以下のようになります:

(借方)現金預金 16,000円 / (貸方)有価証券 15,000円

                           有価証券譲渡益 1,000円

有価証券譲渡益は、損益計算書上で営業外収益として計上されます。

有価証券譲渡損の仕訳手順

一方、有価証券譲渡損は、有価証券を譲渡・譲受することによって発生した損失を指します。例えば、15,000円で購入した株式を、株価下落によって10,000円で売却した場合、5,000円の損失が発生します。

この場合の仕訳は以下のようになります:

(借方)現金預金 10,000円

       有価証券譲渡損 5,000円 / (貸方)有価証券 15,000円

有価証券譲渡損は、損益計算書上で営業外費用として計上されます。

これらの仕訳を正確に行うことで、株式譲渡に伴う損益を適切に会計処理することができます。また、これらの取引が課税売上割合にどのように影響するかを把握することも、消費税の計算において重要です。

株式譲渡時の消費税計算方法と注意点

株式譲渡で消費税が生じた場合、その税額の計算には課税売上割合の算定が必要となります。課税売上割合を求める計算式は以下の通りです:

課税売上割合 = 課税売上高 ÷ (課税売上高 + 非課税売上高)

この計算式から分かるように、非課税売上高が分母に含まれているため、非課税売上高の金額によって課税売上高の割合も変動します。

株式譲渡での消費税の控除に重点を置く場合は、以下の点に注意する必要があります:

1. 非課税売上高の管理: 非課税売上高を適切に管理し、できるだけ低く抑えることで、課税売上割合を高く保つこと
   ができます。

2. 取引頻度の調整: 株式の売買を頻繁に行うと、非課税売上高が増加し、課税売上割合が低下する可能性がありま
   す。取引のタイミングを慎重に検討することが重要です。

3. 課税売上割合の継続的なモニタリング: 定期的に課税売上割合を確認し、95%を下回らないよう管理することが
   望ましいです。

4. 税務専門家への相談: 複雑な取引や大規模な株式譲渡を行う場合は、税理士などの専門家に相談し、最適な税務戦
   略を立てることをお勧めします。

5. 記録の保持: 全ての株式取引と関連する非課税売上高の記録を正確に保持し、税務調査に備えることが重要です。

これらの点に注意しながら、慎重に消費税の計算を行うことで、不必要な税負担を避けることができます。ただし、税法は複雑で頻繁に改正されるため、最新の情報を常に把握しておく必要があります。

専門家への相談:株式譲渡における税務のアドバイス

株式譲渡に関する税務、特に消費税の取り扱いは複雑です。条件によって課税・非課税の判断が分かれ、税額も大きく変動する可能性があります。そのため、適切な節税対策を講じるには、専門家のサポートが不可欠です。

株式譲渡の税務に関して専門家に相談することで、以下のようなメリットが得られます:

1. 正確な税務判断: 経験豊富な専門家が、個々の取引の特性を考慮し、適切な税務判断を提供します。

2. 効果的な節税戦略: 取引のタイミングや方法を工夫することで、合法的に税負担を軽減する方策を提案します。

3. リスク管理: 潜在的な税務リスクを事前に特定し、対策を講じることができます。

4. 最新の税制対応: 頻繁に変更される税法や規制に対して、最新の情報に基づいたアドバイスを受けられます。

5. 複雑な取引のサポート: M&Aなど、複雑な株式取引に関しても、専門的な知識に基づいたガイダンスを提供しま
   す。

専門家への相談を検討する際は、以下の点に注意しましょう:

・公認会計士や税理士など、資格を持つ専門家を選ぶ
・株式譲渡やM&Aの経験が豊富な専門家を探す
・料金体系を事前に確認し、予算を立てる
・相談内容を事前に整理し、効率的な相談を心がける

適切な専門家のサポートを受けることで、株式譲渡に関する税務を適切に管理し、ビジネスの健全な成長を支援することができます。

まとめ

株式譲渡における消費税の取り扱いは、原則として非課税ですが、特定の条件下では課税される可能性があります。課税売上割合や取引の頻度、金額などが影響を与えるため、注意深い管理が必要です。適切な会計処理と税務戦略を実施するためには、専門家のアドバイスを受けることが重要です。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

相続の教科書