PER(株価収益率)は株価評価の重要指標です。本記事では、PERの定義、計算方法、活用法を詳しく解説します。PBRとの違いや、PERを用いた投資戦略についても触れ、効果的な投資の方法を紹介します。
目次
▶目次ページ:企業価値評価(価値評価の概要)
PER(株価収益率)は、企業価値を評価する上で重要な指標の一つです。この指標を理解し、適切に活用することで、投資判断の精度を高めることができます。ここでは、PERの基本的な概念と、その重要性について詳しく解説します。
PER(Price Earnings Ratio)は、株価を1株当たりの利益(EPS)で割った値を指します。この指標は、企業の収益力に対して株価がどの程度の水準にあるかを示すものです。具体的には、以下の式で表されます。
PER(株価収益率)(倍)= 株価 ÷ 1株当たり純利益(EPS)
例えば、ある企業の株価が1,000円で、EPSが100円の場合、PERは10倍となります。このPERの値が意味するところは、投資家がその企業の1年分の利益に対して10倍の金額を支払う意思があるということです。
PERは、株式投資において割安な投資先を見つけ出すための重要なツールとなります。その活用方法には以下のようなものがあります。
1. 同業他社との比較:
同じ業界内で複数の企業のPERを比較することで、相対的な割安感を判断できます。
2. 業界平均との比較:
当該企業のPERを業界平均のPERと比較することで、その企業の市場での評価を把握できます。
3. 過去のPERとの比較:
同じ企業の過去のPERと現在のPERを比較することで、株価の割安感や割高感を判断できます。
4. 将来の成長性の考慮:
PERが高くても、将来の成長性が期待できる企業であれば、投資対象として検討する価値があります。
これらの方法を組み合わせることで、より正確な投資判断を行うことが可能となります。
PERを算出するためには、以下の手順を踏む必要があります。
1. 企業の株価を確認する:
これは、株式市場での現在の取引価格を指します。
2. 企業のEPS(1株当たり利益)を調べる:
EPSは、企業の当期純利益を発行済株式数で割ることで求められます。この情報は、企業の四半期報告書や決算短
信などで確認できます。
3. 株価をEPSで割る:
確認した株価をEPSで割ることで、PERを算出できます。
例えば、ある企業の当期純利益が1,000万円、発行済株式数が100万株の場合、
EPSは10円(1,000万円÷100万株)となります。
この企業の株価が200円だとすると、PERは20倍(200円÷10円)と計算されます。
PERの算出は比較的簡単ですが、その解釈には注意が必要です。単にPERの値が低いからといって、必ずしもその株が割安というわけではありません。企業の成長性や業界の特性、市場全体の動向なども考慮に入れて、総合的に判断することが重要です。
PERは株価の割安・割高を判断する上で重要な指標ですが、その判断基準は一概に定められるものではありません。
以下のようなポイントを参考にすることで、より適切な評価が可能となります。
1. 業界平均との比較:
同業他社や業界平均のPERと比較することで、相対的な割安・割高を判断できます。例えば、成長性の高いIT業界では比較的高いPERが許容される傾向がありますが、成熟した製造業では低いPERが求められる傾向があります。各業種の過去のPER推移を分析することで、その業種が市場からどの程度評価されているのかを把握する手がかりとなります。
2. 過去のPER推移との比較:
対象企業の過去数年間のPER推移を見ることで、現在のPERが過去の水準に比べて割安なのか割高なのかを判断できます。ただし、企業の事業環境や成長段階の変化によって、適正なPERの水準も変化する可能性があることに注意が必要です。
3. 日経平均株価PERとの比較:
日本の株式市場では、日経平均株価PERが長期にわたり15倍程度で推移してきたことから、国内の上場会社では15倍が一つの判断基準とされることがあります。ただし、これはあくまで目安であり、個別企業の評価には他の要素も考慮する必要があります。
4. 成長性の評価:
将来の成長性が期待できる企業の場合、現時点で高いPERであっても割安と判断できる場合があります。例えば、新技術の開発や新市場への参入など、将来的な利益成長が見込める企業は、一時的に高いPERでも投資価値があると判断されることがあります。
5. 財務状況の考慮:
PERだけでなく、企業の財務状況も併せて検討することが重要です。例えば、負債比率が高い企業や、キャッシュフローが悪化している企業の場合、たとえPERが低くても慎重な判断が必要です。
6. 配当利回りとの関係:
PERが高くても配当利回りが高い場合、または逆にPERが低くても配当利回りが低い場合など、両者の関係を見ることで、より総合的な投資判断が可能となります。
7. マクロ経済環境の考慮:
金利環境や経済成長率などのマクロ経済要因も、適正なPERの水準に影響を与えます。例えば、低金利環境下では、相対的に株式の魅力が高まり、全体的にPERが上昇する傾向があります。
これらのポイントを総合的に考慮しながら、PERを活用した割安・割高の判断を行うことが重要です。ただし、PERは過去の業績に基づく指標であるため、将来の成長性や潜在的なリスクを完全に反映しているわけではありません。したがって、PERだけでなく、他の財務指標や定性的な情報も併せて分析し、多角的な視点から投資判断を行うことが賢明です。
PERは重要な投資指標ですが、単独で使用するよりも、他の指標と組み合わせて活用することで、より総合的な企業評価が可能となります。ここでは、PERと他の主要な投資指標との関係性について解説します。
PER(株価収益率)とPBR(株価純資産倍率)は、どちらも企業価値を評価する上で重要な指標ですが、その意味合いと計算方法に違いがあります。
1. PER(株価収益率):
o 計算方法:株価 ÷ 1株当たり純利益(EPS)
o 意味:企業の収益力に対する株価の評価を示す
o 特徴:企業の成長性や収益力を反映しやすい
2. PBR(株価純資産倍率):
o 計算方法:株価 ÷ 1株当たり純資産
o 意味:企業の純資産(株主資本)に対する株価の評価を示す
o 特徴:企業の資産価値を反映しやすい
PERは企業の収益力に焦点を当てているのに対し、PBRは企業の資産価値に注目しています。例えば、PERが低くPBRが高い企業は、現在の収益は低いが、保有資産の価値が高いと市場で評価されていると解釈できます。逆に、PERが高くPBRが低い企業は、現在の収益は高いが、資産価値はそれほど高く評価されていないと考えられます。
PERやPBRに加えて、他の指標も組み合わせることで、より多角的な企業評価が可能となります。以下に、主要な指標とその活用方法を紹介します。
1. PER(株価収益率):
o 活用法:企業の収益性を把握し、割安感や業種内競争力を判断する
o 注意点:成長企業や業績変動の大きい企業の評価には不向きな場合がある
2. PBR(株価純資産倍率):
o 活用法:企業の資産評価を行い、資産効率や株主資本利益率を判断する
o 注意点:無形資産の多い企業では実態を反映しにくい場合がある
3. EPS(1株当たり利益):
o 活用法:企業の利益性を把握し、成長性や配当金額を予測する
o 注意点:一時的な特別損益の影響を受けやすい
4. ROE(自己資本利益率):
o 活用法:企業の資本効率を評価し、収益性と財務レバレッジを判断する
o 注意点:短期的な利益追求につながる可能性がある
5. 配当利回り:
o 活用法:投資収益の安定性を評価し、インカムゲインの可能性を判断する
o 注意点:配当の持続可能性を考慮する必要がある
6. EBITDA倍率:
o 活用法:企業の収益力を評価し、設備投資や減価償却の影響を排除して比較する
o 注意点:負債の状況を考慮していないため、財務リスクの評価には不向き
これらの指標を組み合わせて活用することで、企業の財務状況や市場評価をより多面的に分析することができます。例えば、PERとROEを併せて見ることで、企業の収益性と効率性を同時に評価できます。また、PERと配当利回りを比較することで、成長株と高配当株のバランスを取ることができます。
PERは単なる数値指標ではなく、効果的な投資戦略を立てる上で重要な役割を果たします。ここでは、PERを活用した具体的な投資アプローチと、長期的な視点でPERを捉える重要性について解説します。
PERを用いた株式選びは、初心者にも理解しやすく、株式の価値を評価する上で有効な方法です。以下に、PERを活用した銘柄選択のポイントを紹介します。
1. 業種別の比較:
同じ業種内で複数の企業のPERを比較します。例えば、自動車業界内でA社のPERが15倍、B社が20倍、C社が25倍の場合、A社が相対的に割安である可能性があります。
2. 市場平均との比較:
対象企業のPERを市場全体の平均PERと比較します。例えば、日経平均のPERが20倍の時に、ある企業のPERが15倍であれば、その企業は市場平均より割安と判断できる可能性があります。
3. 過去のPER推移の分析:
対象企業の過去数年間のPER推移を分析します。現在のPERが過去の平均より低ければ、割安である可能性があります。
4. 成長性の考慮:
高成長が期待される企業の場合、PERが高くても投資価値がある可能性があります。例えば、新技術を持つIT企業では、現在のPERが40倍でも、将来の高成長を織り込んで妥当と判断される場合があります。
5. 財務健全性の確認:
PERが低くても、負債比率が高いなど財務状況に問題がある企業には注意が必要です。PERと併せて、自己資本比率や負債比率などの財務指標も確認しましょう。
6. 配当利回りとの組み合わせ:
PERが低く、かつ配当利回りが高い企業は、安定した投資先となる可能性があります。例えば、PERが10倍で配当利回りが4%の企業は、魅力的な投資対象かもしれません。
7. マクロ経済環境の考慮:
金利環境や経済成長率などのマクロ経済要因も考慮します。例えば、低金利環境下では、相対的に高いPERでも許容される傾向があります。
これらのポイントを総合的に考慮しながら、自身の投資方針に合った銘柄を選択することが重要です。ただし、PERだけで投資判断を行うのではなく、他の財務指標や企業の将来性、市場環境なども併せて分析することが賢明です。
PERは短期的な株価変動を予測するツールではなく、長期的な投資判断に活用することでその真価を発揮します。以下に、長期投資の観点からPERを活用する方法を紹介します。
1. 景気サイクルを考慮した分析:
景気サイクルの低迷期には企業業績が悪化し、PERが一時的に高くなることがあります。しかし、景気回復期待が高まれば、こうした企業の株価が上昇する可能性があります。長期的な視点で景気サイクルを捉え、PERを解釈することが重要です。
2. 成長ステージの評価:
企業の成長ステージによって適正なPERは変化します。例えば、創業期の企業は利益が少ないためPERが高くなりがちですが、将来の成長性を考慮すると投資価値がある場合があります。企業の成長ステージを見極め、長期的な成長可能性を評価することが重要です。
3. 平均回帰の考え方:
PERは長期的に見ると平均値に回帰する傾向があります。例えば、通常20倍前後で推移している企業のPERが一時的に40倍まで上昇した場合、長期的には20倍程度に戻る可能性があります。この原理を理解し、割高・割安を判断する際の参考にします。
4. 複数年のEPS予想を考慮:
単年度のEPSだけでなく、向こう数年間のEPS予想を考慮してPERを評価します。例えば、現在のPERが高くても、今後数年間で大幅な増益が予想される場合、長期的には割安となる可能性があります。
5. 配当成長との関連性:
PERが高くても、毎年安定して配当を増やしている企業は、長期投資の観点から魅力的な場合があります。配当成長率とPERを併せて分析することで、より総合的な判断が可能となります。
6. 産業構造の変化を考慮:
長期的な産業構造の変化を見据えてPERを解釈することも重要です。例えば、デジタル化の進展により、従来型産業のPERが低下し、IT関連企業のPERが上昇するといった傾向が見られます。
7. 複合的な指標の活用:
PERだけでなく、PBRやROE、配当利回りなど複数の指標を組み合わせて総合的に評価します。例えば、「PERが低く、PBRも1倍以下で、さらに配当利回りが高い」といった条件を設定し、長期投資の対象を絞り込む方法があります。
長期投資の視点でPERを活用する際は、一時的な株価変動や短期的な業績に惑わされず、企業の本質的な価値や成長可能性に焦点を当てることが重要です。また、定期的に投資対象を見直し、企業の状況や市場環境の変化に応じて柔軟に対応することも忘れてはいけません。
PERを含む各種指標は、投資判断の材料の一部に過ぎません。企業の競争力、経営戦略、業界動向、技術革新の可能性など、定性的な要素も十分に考慮に入れた上で、総合的な判断を行うことが長期的な投資成功の鍵となります。
PER(株価収益率)は、企業価値を評価する上で重要な指標の一つです。PERを適切に理解し活用することで、投資判断の精度を高めることができます。ただし、PERはあくまで一つの指標であり、他の財務指標や定性的な要素と組み合わせて総合的に判断することが重要です。長期的な視点で企業の成長性や産業構造の変化を見据えつつ、自身の投資方針に合った銘柄選択を行うことが、成功する投資戦略の鍵となります。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事