PER計算から学ぶM&A企業価値評価と投判断実践ガイド


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PER計算で考える非上場M&Aの株式価値と売却価格

PER計算をM&Aの株式価値算定でどう使うかを、類似上場企業比較法、利益調整、流動性ディスカウント、赤字企業への対応まで解説します。

目次

  1. PER計算をM&Aで見る意味
  2. 類似上場企業から株式価値を試算する流れ
  3. 非上場会社では利益をそのまま使わない
  4. 算定倍率を調整して価格目安を見直す
  5. PERだけで判断しにくい会社の評価方法
  6. 売却前に経営者が確認したい実務論点
  7. まとめ

PER計算から学ぶM&A企業価値評価と投判断実践ガイド

PER計算をM&Aで見る意味

PERは、株価が利益の何倍で評価されているかを見る指標です。株式投資で使う数字という印象が強いかもしれませんが、M&A(合併・買収)の株式価値算定でも、収益力をもとに価格の目安を考える材料になります。

PERは「Price Earnings Ratio」の略で、日本語では株価収益率といいます。基本式は、PER=株価÷EPSです。EPS(1株当たり純利益)とは、当期純利益を発行済株式数で割った数字です。

M&Aで大切なのは、PERが「企業価値」そのものではなく、主に「株式価値」を考えるための倍率だという点です。企業価値、事業価値、株式価値は似ていますが、意味は異なります。価格交渉でここを混同すると、買い手との認識がずれることがあります。

株式価値を利益から逆算する考え方

上場企業であれば、株価と発行済株式数から時価総額を確認できます。時価総額は、株式市場がその会社の株式全体をいくらと見ているかを示す数字です。

非上場会社には市場株価がありません。そのため、似た事業を営む上場企業のPERを参考にし、自社の利益に掛け合わせて株式価値の目安を逆算することがあります。

M&Aでは投資指標より価格交渉の材料になる

株式投資では、PERを見て株価が割安か割高かを判断します。一方、中小企業M&Aでは、PERだけで「売れる価格」を決めることは多くありません。

ただし、買い手が上場会社や投資ファンドの場合、類似上場企業のPERや予想利益を見ながら、買収価格の妥当性を検討することがあります。つまりPERは、最終価格そのものではなく、価格の説明力を高めるための補助線です。

PERが高い会社と低い会社の見方

PERが高い会社は、将来の成長期待が大きく織り込まれている可能性があります。反対にPERが低い会社は、割安に見える一方で、成長鈍化や業界不安が反映されている場合もあります。

中小企業の会社売却では、単に「PER何倍なら高い」と見るのではなく、利益の安定性、取引先の分散、後継者不在、設備投資の必要性などを合わせて見る必要があります。

類似上場企業から株式価値を試算する流れ

M&A実務でPERを使う場合、代表的なのはマーケット・アプローチの一種である類似上場企業比較法です。マーケット・アプローチとは、似た会社や取引事例の倍率を参考に価値を考える方法です。

基本式は修正利益に平均PERを掛ける

PERを使った株式価値の基本式は、次のように整理できます。

対象会社の株式価値=対象会社の修正当期純利益×類似上場企業の平均PER

ここでいう修正当期純利益とは、決算書上の当期純利益をそのまま使うのではなく、M&Aの評価に合うように実態へ近づけた利益です。意外と多い落とし穴です。決算書の利益だけを見ると、会社の本当の稼ぐ力を見誤ることがあります。

計算手順を4段階で押さえる

類似上場企業を選ぶ

はじめに、自社と近い業種、ビジネスモデル、顧客層を持つ上場企業を数社選びます。製造業でも、受託加工と自社ブランド販売では利益率や成長性が違います。業種名だけで選ぶと、倍率が大きくずれることがあります。

類似企業のPERを算出する

次に、類似上場企業ごとにPERを確認します。上場企業のPERは、時価総額÷当期純利益で大枠を把握できます。実務では、過去実績だけでなく、来期の予想当期純利益や予想EPSを使った予想PERも確認します。

M&Aは、過去の利益だけでなく将来の収益を買う面があるためです。

対象会社の利益を調整する

非上場会社では、オーナー経営者の役員報酬、家族役員の報酬、保険料、役員車、個人的な性格が強い経費などが利益に影響していることがあります。これらを事業運営に必要な水準へ直すことで、修正当期純利益を計算します。

修正利益に倍率を掛ける

最後に、調整後の利益に類似上場企業の平均PERを掛けます。たとえば、対象会社の修正当期純利益が5,000万円、類似上場企業3社の平均PERが15倍であれば、株式価値の目安は次のようになります。

5,000万円×15倍=7億5,000万円

この7億5,000万円は、PERをもとにした株式価値の試算です。実際の譲渡価格は、純資産、借入金、運転資金、役員退職金、税金、買い手との交渉条件などで変わります。

非上場会社では利益をそのまま使わない

会社売却を考える経営者にとって、PER計算で最も重要なのは倍率よりも利益の調整です。倍率がいくら精緻でも、掛ける利益が実態とずれていれば、算定結果もずれます。

M&A実務では、ここで判断が止まることがあります。経営者は「黒字だから高く売れる」と考えていても、買い手は利益の中身を細かく見ます。

役員報酬と私的経費は正常収益力を左右する

中小企業では、経営者の役員報酬が同規模企業より高い、または低いことがあります。高すぎる場合は、買い手の視点では将来利益を増やせる余地があります。低すぎる場合は、買収後に適正報酬を支払う必要があり、利益は下がるかもしれません。

役員車、交際費、保険、社宅費用なども同じです。事業に必要な費用か、オーナー個人に近い費用かを確認し、修正後の利益を作ります。

一過性の損益も調整対象になる

本社移転費用、災害損失、大口不良債権、遊休資産の売却益などは、毎年続くものではありません。PERは利益を分母にした指標なので、一時的な利益や損失があると倍率の意味が薄れます。

買い手は、過去1年だけでなく、3年から5年程度の利益推移を確認することが一般的です。

予想利益を使う場合は前提を確認する

PER計算では、直近実績だけでなく予想利益を使うことがあります。特に成長企業や受注残がある会社では、来期以降の利益を見た方が実態に近い場合があります。

ただし、予想利益は前提次第で大きく変わります。主要顧客との取引継続、原材料費、人件費、設備投資、採用計画を確認しなければ、楽観的な計画になりがちです。

算定倍率を調整して価格目安を見直す

類似上場企業の平均PERが分かっても、それを非上場会社へそのまま使うのは慎重に考えるべきです。上場会社と非上場会社では、株式の売りやすさ、情報開示、規模、資金調達力が違うからです。

流動性ディスカウントを考慮する

上場会社の株式は、市場で比較的すぐに売却できます。一方、非上場会社の株式は、買い手を探し、条件を交渉し、契約手続を進めなければ売却できません。

この売りにくさを反映する考え方が、流動性ディスカウントです。たとえば、類似上場企業の平均PERが15倍でも、非上場会社には30%程度のディスカウントを検討し、10倍前後の倍率で交渉することがあります。ただし、これは固定ルールではありません。会社の規模、利益の安定性、買い手の競争状況によって変わります。

規模と成長性の差も倍率に影響する

上場会社は、複数拠点、広い顧客基盤、管理体制、採用力を持つことが多いです。中小企業が同じ業界にあっても、特定の取引先に依存していたり、経営者個人の営業力に頼っていたりすると、上場企業と同じPERを使うのは難しくなります。

一方で、ニッチ市場で高い利益率を持つ会社や、買い手とのシナジーが明確な会社では、一定のプレミアムが付くこともあります。シナジーとは、買収後に売上増加やコスト削減が見込める相乗効果のことです。

買い手の事情で価格が変わる

同じ会社でも、買い手によって評価は変わります。既存顧客に追加販売できる買い手、技術者を確保したい買い手、地域展開を急ぐ買い手では、PERの見方が違います。

そのため、PER計算は「この価格で必ず売れる」という答えではなく、買い手候補ごとの交渉余地を考える出発点として使います。

PERだけで判断しにくい会社の評価方法

PERは便利ですが、万能ではありません。特に赤字会社、利益が大きく変動する会社、資産を多く持つ会社では、PERだけで評価すると実態から離れることがあります。

赤字企業にはPERを使いにくい

当期純利益がマイナスの場合、PERは通常の意味では使えません。分母である利益が赤字になるため、倍率を比べても価格判断の材料になりにくいからです。

この場合は、中小企業M&Aでもよく使われるEV/EBITDA倍率を検討します。EV/EBITDA倍率とは、企業価値を営業利益と減価償却費の合計で割る指標です。設備投資が大きい会社や、減価償却費が多い会社では、現金を生む力を見やすくなります。

純資産が厚い会社はPBRも見る

不動産、現預金、有価証券を多く持つ会社では、利益だけでなく純資産も重要です。PBR(株価純資産倍率)は、株価が1株当たり純資産の何倍かを見る指標です。

赤字でも、時価のある不動産や余剰資金を持つ会社は、純資産を基準に価値を考える方が実態に合う場合があります。反対に、帳簿上の純資産が大きくても、売却しにくい資産や老朽設備が多い場合は注意が必要です。

将来収益を重視するならDCFも比較する

成長計画が明確で、将来キャッシュフローを見積もれる会社では、インカム・アプローチも検討します。インカム・アプローチとは、将来の収益やキャッシュフローを現在価値に直して企業価値を考える方法です。

PERは比較しやすい一方で、個別会社の将来計画を細かく反映しにくい面があります。そのため、実務ではPER、EV/EBITDA、純資産、DCFなどを組み合わせ、価格帯を確認します。

▶関連:インカムアプローチとは将来収益で企業価値を測る手法を解説

▶関連:M&A価値評価のタイミングと3つの主要アプローチ法を解説

売却前に経営者が確認したい実務論点

PER計算で一定の目安が出ても、会社売却の準備はそこで終わりません。買い手は、価格だけでなく、買収後に安定して利益を出せるかを見ます。

決算書の説明資料を整える

買い手に納得してもらうには、過去の利益がなぜ増減したのかを説明できる資料が必要です。大口案件の有無、原価率の変化、人件費の増減、設備投資、借入金の返済状況などを整理しておくと、利益調整の議論が進みやすくなります。

個人保証と借入金の扱いを確認する

中小企業のM&Aでは、経営者保証や金融機関借入が価格交渉に影響します。株式価値の試算が高くても、借入金が重い、運転資金が不足している、金融機関との関係が不安定といった事情があれば、買い手は慎重になります。

手取り額は株式価値と一致しない

PER計算で出た株式価値は、経営者の手取り額とは違います。株式譲渡では、譲渡価格から取得費や譲渡費用を差し引いた譲渡益に税金がかかります。役員退職金を組み合わせる場合は、会社側の資金繰りや税務上の相当性も確認が必要です。

細かい制度計算よりも、まずは「価格」「税金」「借入金」「退職金」「個人保証解除」を一体で見ることが大切です。

買い手に見られるリスクを先に洗い出す

買い手は、PERが低い会社を単純に割安とは見ません。主要取引先への依存、従業員の高齢化、設備の老朽化、許認可、在庫評価、未払残業代、属人的な営業などを確認します。

こうしたリスクを早めに整理しておくと、買い手からの質問に落ち着いて対応できます。会社売却では、良い点を見せるだけでなく、弱点をどう説明するかも価格形成に影響します。

PERは交渉を始めるための物差し

PER計算は、自社の価値をざっくり把握するうえで役立ちます。ただし、M&Aの価格は、数式だけで決まるものではありません。買い手候補の数、交渉の進め方、開示資料の分かりやすさ、経営者の引継ぎ方針によっても変わります。

専門家に相談する前に準備したい資料

直近3期分の決算書、月次試算表、借入金明細、固定資産台帳、主要取引先別の売上、役員報酬の内訳、将来計画をそろえると、PER計算の精度が高まります。すべてが整っていなくても、早い段階で現状を確認しておく意味はあります。

まとめ

PER計算は、類似上場企業の倍率と自社の修正利益から株式価値の目安を考える方法です。ただし、非上場会社では利益調整、流動性、規模差、赤字時の代替指標を必ず確認します。会社売却では、PERを答えではなく、価格交渉と準備を進めるための出発点として使うことが大切です。

著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー 

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事

編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人


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