逆さ合併とは?メリットから手続まで徹底解説

逆さ合併の基本概念からメリット・デメリット、手続の流れ、会計処理、具体的事例まで詳しく解説します。企業の組織再編や戦略的M&Aを検討される方必見の情報です。

目次

  1. 逆さ合併の基本概念
  2. 逆さ合併の長所と短所
  3. 逆さ合併の手続の流れ
  4. 逆さ合併の会計処理と仕訳
  5. 逆さ合併の具体的事例
  6. 2020年以降の逆さ合併に関する法改正
  7. まとめ

逆さ合併の基本概念

逆さ合併は、企業の組織再編手法の一つで、通常の合併とは異なる特徴を持っています。この手法では、規模の小さい会社が大きな会社を吸収するという、一般的な合併とは逆の形態を取ります。

規模の小さい会社による大きな会社の吸収

逆さ合併の最大の特徴は、小規模な会社が自社よりも大きな規模の会社を吸収合併することです。これは、通常の吸収合併とは逆の関係性を持つ手法といえます。例えば、子会社が親会社を吸収するようなケースがこれに該当します。

吸収合併と新設合併の違い

合併には、吸収合併と新設合併という2種類の手法があります。それぞれの特徴は以下の通りです。

吸収合併: 

 o 存続会社が消滅会社を吸収する形式

 o 雇用、負債、資産などを引き継ぐ

 o 逆さ合併は吸収合併の一種

新設合併: 

 o 新たな会社を設立し、合併する会社を引き継ぐ形式

 o 契約や許認可は引き継がれない点に注意が必要

逆さ合併は、既存の会社が他社を吸収するため、吸収合併の一種として位置付けられます。この手法を選択する際は、それぞれの特徴を理解し、企業の状況や目的に合わせて適切な方法を選ぶことが重要です。

▶目次ページ:M&Aの種類・方法(合併)

逆さ合併の長所と短所

逆さ合併には、通常の合併とは異なる特有のメリットとデメリットがあります。これらを理解することで、企業の状況に応じた適切な判断が可能になります。

逆さ合併のメリット

1. 節税効果 

 o 多額の繰越欠損金を持つ会社が、含み益のある会社と合併することで、繰越欠損金を相殺し、法人税額を抑えるこ
   とができます。

 o ただし、繰越欠損金の利用には制約があり、適格合併の要件(例:存続会社と消滅会社間の5年以上の支配関係)を 
   満たす必要があります。

2. 合併差損の回避 

 o 消滅会社が債務超過の場合、通常の合併では合併差損が計上されますが、逆さ合併を行うことで、この問題を回避
   できる可能性があります。

 o 合併前に存続会社が保有する消滅会社株式の評価額を調整することで、合併差損の計上を避けることができます。

逆さ合併のデメリット

1. 複雑な手続 

 o 逆さ合併は通常の合併と比べて検討事項が多く、手続が煩雑になる傾向があります。

2. 上場維持のリスク 

 o 上場維持を目的として逆さ合併を利用する場合、証券取引所の承認が得られないと、裏口上場と見なされ、上場廃
   止のリスクがあります。

3. 株主総会手続の複雑化 

 o 合併対価として存続会社が消滅会社の株主に株式を付与する場合、実質的な支配権が消滅会社の株主に移ること
   で、株主総会の手続が複雑になる可能性があります。

4. 専門性の要求 

 o 逆さ合併は高度な専門知識が必要となるため、検討や実行の際には専門家のアドバイスが不可欠です。

これらのメリットとデメリットを十分に理解し、企業の状況や目的に照らし合わせて、逆さ合併の適否を慎重に判断することが重要です。

逆さ合併の手続の流れ

逆さ合併の手続は、存続会社と消滅会社でそれぞれ異なります。両社の手続の流れを理解することが、円滑な合併の実施につながります。

1. 存続会社の手続 

 o 決算公告

 o 合併契約締結

 o 合併書類事前設置開始

 o 株主総会による承認

 o 債権者保護手続

 o 株式買取請求への対応

 o 合併の効力発生

 o 変更登記

 o 事後設置開始

 o 財産や資産の名義変更手続

2. 消滅会社の手続 

 o 決算公告

 o 合併契約締結

 o 合併書類事前設置開始

 o 株主総会による承認

 o 債権者保護手続

 o 株式買取請求への対応

 o 新株予約権買取請求への対応

 o 株券提供手続

 o 登録質権者への対応

 o 合併効力発生

 o 解散登記

 o 事後設置開始

 o 財産や資産の名義変更手続

これらの手続は、企業の事業目的や状況に応じて適切に進める必要があります。逆さ合併の検討や実施にあたっては、法務や税務の専門家のサポートを受けることが重要です。適切な助言を得ることで、手続の漏れや誤りを防ぎ、スムーズな合併の実現につながります。

逆さ合併の会計処理と仕訳

逆さ合併における会計処理と仕訳を理解するためには、以下の重要な概念を把握する必要があります。

1. 合併対価 

 o 定義:権利義務の承継対価として、消滅会社の株主に交付されるもの

 o 例:存続会社の株式、新株予約権、社債など

 o 注意点:合併対価として存続会社の株式を交付する場合、消滅会社の株主は合併後に存続会社の株主となります

2. 取得企業 

 o 定義:企業または企業の事業に対して支配権を得る企業

 o 特徴:企業結合に関する会計基準で用いられる用語

 o 注意点:対価として株式を交付する企業が取得企業となります

3. 逆取得 

 o 定義:消滅会社の株主が存続会社の支配権を獲得した状態

 o 特徴:消滅会社の株主が実質的な支配権を得るため、消滅会社が取得企業となります

4. 会計処理の注意点 

 o 取得企業:通常のケースと変わりません

 o 被取得企業:取得企業の資産・負債を簿価で受け入れるため、時価が用いられない点に注意が必要です

逆さ合併における会計・仕訳処理は、特に逆取得の場合に留意が必要となります。適切な会計処理を行うためには、これらの概念を正確に理解し、専門家の助言を得ながら慎重に進めることが重要です。

逆さ合併の具体的事例

逆さ合併の理解を深めるため、実際に行われた事例を紹介します。

三井住友銀行とわかしお銀行の事例

2003年3月に実施された三井住友銀行とわかしお銀行の合併は、典型的な逆さ合併の事例です。

消滅会社:三井住友銀行(資本金1兆3,267億円、総資産98兆9,009億円)

存続会社:わかしお銀行(資本金208億円、総資産4,889億円)

合併後:商号を三井住友銀行に変更

この事例は、規模の小さい銀行が大規模な銀行を吸収するという逆さ合併の特徴を明確に示しています。また、逆取得のケースとしても注目されています。

みずほ銀行の事例

2013年に行われた旧みずほ銀行とみずほコーポレート銀行の合併も、逆さ合併の一例です。

背景:2011年に発生したシステムトラブル等の影響

目的:旧みずほ銀行の上場廃止を回避するため

この事例は、企業が直面する課題を解決するための戦略的な手段として逆さ合併が活用されたことを示しています。

これらの事例から、逆さ合併が単なる組織再編の手法ではなく、企業の経営戦略や課題解決のための有効なツールとして機能し得ることがわかります。各企業の状況や目的に応じて、逆さ合併を戦略的に活用することが重要です。

2020年以降の逆さ合併に関する法改正

近年、M&Aや組織再編において特定目的会社(SPC)の利用が増加しており、これに伴い逆さ合併に関する法制度の見直しが進んでいます。

1. SPCの活用と課題 

 o 目的:金融機関や投資家からの資金調達、M&Aや組織再編の実施

 o 課題: a. SPCが合併存続会社の場合は支配継続要件を満たすが、逆の場合は組織再編の適格要件を満たさない b. 逆さ合併後の資産移転でも、適格要件を満たさない場合、実質的な経済実態に変化がないとの見解が増加

2. 期待される税法改正 

 o 目的:企業の成長を促すM&Aや組織再編の円滑化

 o 内容:SPCを活用した逆さ合併に対応する税制の整備

3. 今後の展望 

 o 税法改正の実現により、M&Aや組織再編がさらに活性化する可能性

 o 市場ニーズや企業動向を見据えた制度設計の必要性

4. 企業の対応 

 o 税法改正の動向を注視

 o 事例や手法、注意点の継続的な検討

 o 専門家のアドバイスを積極的に活用

これらの法改正の動きは、逆さ合併を含むM&Aや組織再編の実務に大きな影響を与える可能性があります。企業は、最新の法改正情報を常に把握し、自社の戦略に適切に反映させることが重要です。また、複雑化する法制度に対応するため、専門家との連携を強化することも必要不可欠です。

まとめ

逆さ合併は、企業の組織再編において独自のメリットを持つ有効な手法です。しかし、その実施には高度な専門知識と慎重な検討が必要です。適切な専門家のアドバイスを受けながら、効果的な逆さ合併を実施することが、企業の持続的な成長につながります。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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