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M&Aと資本提携で伸ばす中小企業成長戦略の事例と実務を解説

M&Aと資本提携、結局どちらを選ぶべきか悩む方へ。本記事では目的に合わせた最適選択の判断基準と成功例を具体的に示します。

目次

  1. 資本提携の概要と仕組み
  2. M&Aと資本提携の主な相違点
  3. M&Aと資本提携で用いられる主要手法
  4. M&Aと資本提携がもたらすメリット
  5. 資本提携と業務提携の比較
  6. メリットを具体例でイメージする
  7. どちらを選ぶべきか判断する視点
  8. 資本提携を成功させる五つのポイント
  9. 資本業務提携の特徴と意義
  10. M&Aと資本提携に伴うデメリットとリスク
  11. M&Aと資本提携の実施手順
  12. M&Aと資本提携における契約書の重要性
  13. 中小企業におけるM&A成功例の分析
  14. 大手企業の資本提携成功事例
  15. まとめ

資本提携の概要と仕組み

資本提携は、二つ以上の企業が互いの株式を一定割合で保有し合う、または片側が相手先に出資して株式を取得し、資金・技術・ノウハウなどの経営資源を共有する協力手段です。合併のように経営権を譲受企業に移すわけではなく、譲渡企業と譲受企業がそれぞれの独立性を保ちながら相乗効果を追求できる点が特徴です。

資本提携の形態は大きく分けて二つに整理できます。一つ目は相互持ち合いで、両社が対等な立場で株式を取得し合い、長期的視点で共同事業を推進します。二つ目は一方向の出資で、主に大手がスタートアップや中小企業に資金を供給し、技術や市場を補完する形態です。出資比率は三分の一未満に抑え、株主総会の特別決議を単独で阻止できない範囲に設定するのが一般的です。

資本提携がもたらす主な効果は次の五点です。

  • 経営資源の有効活用 
  • リスク分散 
  • 迅速な事業展開 
  • ブランド力向上 
  • 新たな市場や技術領域への参入

これらの効果を最大化するには、提携目的を数値目標まで具体化し、提携後の協力体制や役割分担を事前に合意しておくことが不可欠です。

資本提携を選択する典型的な目的

資本提携を検討する企業の多くは、単独では解決が難しい課題を抱えています。例えば資金不足、技術獲得、人材確保、販路開拓、後継者問題などです。出資を伴わない業務提携でも一定の協力は可能ですが、資本面で結びつきを強めることで、中長期的な関係を担保しつつ大きなシナジーを狙える点が資本提携の強みと言えます。

M&Aと資本提携の主な相違点

M&Aも資本提携も株式を取得する点では共通しますが、最大の違いは経営権の移転有無です。

経営権の移転と意思決定権限

M&Aでは譲受企業が50.1%以上の株式を取得し経営権を握ります。これにより経営方針・人事・ブランド戦略を抜本的に変更できます。一方、資本提携では出資比率を50%未満に抑えるため、各社は経営の独立性を維持できます。重要事項は取締役派遣や株主間契約で協議しながら決定します。

手続・期間・コスト

M&Aはデューデリジェンスや株主総会決議、許認可など多岐にわたる手続が求められ、クロージングまで半年から一年以上かかることも珍しくありません。資本提携は株式譲渡または第三者割当増資が中心で、手続が比較的簡便なため、数週間から数か月で実行できるケースもあります。

適用シーンの違い

後継者不在への対応や事業の全面譲受を目指す場合はM&Aが第一候補になります。対して、研究開発力の強化や販路相互利用など、限定した領域で協力しつつ独立経営を続けたい場合は資本提携が有効です。

M&Aと資本提携で用いられる主要手法

M&Aで多用される三つの手法

  1. 買収(株式取得・事業譲渡)
  2. 合併(対等合併・吸収合併)
  3. 会社分割(新設分割・吸収分割)

資本提携で活用される二つの手法

  1. 株式譲渡(相対取引・市場買付・TOB)
  2. 第三者割当増資


手法選択では目的、税務影響、所要時間、既存株主の反発度合いを総合的に検討します。

M&Aと資本提携がもたらすメリット

M&Aの六大メリット

  1. 経営資源統合によるシナジー創出
  2. 迅速な事業拡大・多角化
  3. 重複業務の統合によるコスト削減
  4. 後継者問題の解決策
  5. 廃業危機の回避と雇用維持
  6. 譲渡企業オーナーの資産現金化

資本提携の六大メリット

  1. 技術・販路の相互活用
  2. 経営独立性を維持しつつ協力可能
  3. リスクの分散と資金調達手段の多様化
  4. パートナー企業の資源を活かした迅速な市場参入
  5. 大手との連携によるブランド力向上
  6. 提携範囲を柔軟に調整できる

資本提携と業務提携の比較

資本提携と業務提携は、どちらも複数企業が協力して共通の目的を達成する手段ですが、資本の移動有無と拘束力の強さが決定的に異なります。

資本関係の有無が生む結びつきの違い

資本提携では実際に株式が動き、譲受企業が譲渡企業の株式を保有することで財務的な結びつきが生まれます。そのため、契約解消時には株式の買戻や売却といった手続が不可欠で、時間とコストがかかります。対して業務提携は契約だけで協力範囲を定めるため、目的が達成できなかった場合や市場環境が変化した場合に比較的容易に解消できます。

協力範囲とシナジーの広がり方

業務提携は研究開発や共同販売など限定分野での連携が多く、企業文化に踏み込まずに済むという柔軟性があります。しかし協力範囲が狭い分、包括的なシナジー創出や長期的なブランド統合には限界があります。資本提携は資本を介して協力関係を固定化するため、経営層同士のコミットメントが強く、部門横断的なプロジェクトでも齟齬が生じにくいというメリットがあります。

解消時のリスクと費用

業務提携は契約終了で済むものの、共通ブランドを掲げていた場合は顧客離れや販促やり直しによるコストが発生します。資本提携は株式を買い戻すための資金手当てが必要で、譲受側の財務負担が一時的に増大する点に留意しなければなりません。

メリットを具体例でイメージする

販路拡大の具体例

地方製造業と都市部販路を持つ企業の資本提携では、追加投資を抑えつつ首都圏へ短期間で進出できました。譲受企業も製造ラインの外注先確保で在庫リスクを軽減しました。

研究開発シナジーの具体例

医療機器スタートアップが大手精密部品メーカーから第三者割当増資を受けた結果、製品の歩留まりが20%以上向上し、量産体制を一年前倒しで構築できたケースがあります。

財務シナジーの具体例

赤字続きのソフトウェア開発会社がITホールディングスから出資を受け、信用力が向上。銀行融資の金利が年率1%低下し、資金繰りが大幅に改善しました。

どちらを選ぶべきか判断する視点

経営権の移転が目的か

事業承継で経営権を移したい場合はM&Aが第一候補になります。資本提携では経営権が移らないため、抜本的な組織再編には向きません。

投下資本とリターンのバランス

M&Aは多額の対価が必要です。資本提携は比率を調整すれば数千万円規模で開始でき、成長余地の大きいスタートアップや中小企業との協業に適しています。

時間軸と柔軟性

変化の早い業界では、まず資本提携や業務提携で成果を検証し、確認後に追加出資やM&Aへと段階的に進めるアプローチも有効です。

資本提携を成功させる五つのポイント

1.目的と目標値を文書化する

例:二年以内に共同開発製品の売上を五億円にする、といった定量目標を協定書に明記します。

2.適切な出資比率を設計する

三分の一未満を原則としつつ、議決権制限株式などを活用しガバナンスを確保します。

3.表明保証と解除条項を設ける

情報の正確性を保証し、想定外の事態発生時に契約を解除できる条件を設定します。

4.コミュニケーション体制を整える

経営層会議に加え、現場担当者が相談できる共同プロジェクトルームを設けます。

5.進捗評価と再協議の仕組みを入れる

四半期ごとにKPIを共有し、達成度に応じて提携範囲や出資比率を見直します。

資本提携は万能策ではありませんが、適切な設計と管理を行えば、中小企業でも大手に負けないスピードと規模で成長機会を掴むことが可能です。

資本業務提携の特徴と意義

資本業務提携は、資本提携と業務提携を同時に行い、資金面と業務面の双方から強固な関係を築く方法です。株式を保有し合うことで長期的な協力体制を確立しつつ、共同研究や販路共有など幅広い業務連携を進めます。これにより経営資源を最大限に活用し、単独では難しい大規模プロジェクトや海外展開も実現できる点が大きな魅力です。

包括的協力でシナジー最大化

資本業務提携では、人材、技術、設備、ブランドなどを同時に共有できるため、売上・コスト・研究開発・財務の四つのシナジーが一気に発現しやすい特徴があります。たとえば製造業とIT企業が資本業務提携を結ぶケースでは、IT側が持つデジタル技術を製造ラインに組み込み、生産効率と品質を同時に向上させるなど多面的な成果が期待できます。

経営一体感と独立性の両立

株式を持ち合うことで経営方針を共有しやすくなる一方、出資比率を三分の一未満に抑えれば、各社独自の意思決定も維持できます。資本の結び付きを背景にしつつ、業務範囲を案件ごとに柔軟に調整できる点が資本業務提携の強みです。

リスク分散と長期視点での成長

出資による財務リスクは複数社で分担し、業務提携によって事業リスクも分散されます。そのため研究開発投資が大きい分野や海外マーケット開拓など、中長期の視点で成長を図る際に有効な手法として選ばれています。

M&Aと資本提携に伴うデメリットとリスク

M&Aや資本提携は魅力的な反面、進め方を誤ると深刻な課題を招く恐れがあります。

M&A実行時の主なリスク

M&Aでは適切な譲受企業が見つからない、従業員のモチベーションが下がる、ブランドイメージが変化するなどのリスクがあります。特に統合プロセスが複雑なため想定外のコストが発生しやすく、期待したシナジーが得られない場合は業績が悪化する恐れもあります。またデューデリジェンスで把握できなかった法的・財務的問題が後から表面化すると、大きな負担となる点に注意しなければなりません。

資本提携で留意すべきリスク

資本提携の場合、経営への干渉や利益相反、情報漏洩などが代表的リスクです。出資比率が上がると独立性が脅かされる可能性があり、提携解消時には株式買戻しで多額の資金が必要になることもあります。加えて株主からの反発や市場評価の下落が起こると、資金調達コストが上昇する点にも留意すべきです。

デメリットを減らす五つの対策

  1. 綿密な事前調査と計画立案でリスクを可視化する
  2. 明確な提携目的と達成指標(KPI)を設定し共有する
  3. 表明保証・解除条項を契約書に盛込み、不測の事態に備える
  4. 進捗を定期確認し、未達時は迅速に協議して対策を講じる
  5. 機密情報管理ルールを共同で制定し、情報漏洩を防止する

M&Aと資本提携の実施手順

成功の鍵は、検討・交渉・締結の各段階を順序立てて進めることにあります。

M&A準備交渉クロージングの流れ

M&Aは検討・準備、マッチング・交渉、最終契約・クロージングの三段階に分かれます。検討段階では目的やスキームを明確にし、交渉段階では候補先とNDA締結後、基本合意・デューデリジェンスへ進みます。最終段階で最終契約書を締結し、株主総会決議や対価支払いを経て取引完了です。

資本提携進行の三段階

資本提携も同様に検討・準備、マッチング・交渉、最終契約・実行に分かれますが、デューデリジェンスは必要に応じて実施し、クロージングまでの期間が短い点が特徴です。社内体制を整え、目標に沿った出資比率や提携範囲を具体的に定めることが成功のポイントです。

専門家活用で手続を効率化

両手法とも法務・税務・財務の専門知識が不可欠です。税理士や弁護士、M&Aアドバイザーを早期に関与させることで、手続短縮とリスク軽減を同時に図れます。

M&Aと資本提携における契約書の重要性

契約書は合意内容を明確化し、将来のトラブルを防ぐ役割を持ちます。

M&A契約書に必須の十項目

①取引スキーム 

②譲渡価格と支払方法 

③スケジュール 

④デューデリジェンス範囲 

⑤役員処遇 

⑥独占交渉権 

⑦表明保証 

⑧秘密保持 

⑨解除条件 

⑩紛争解決方法

資本提携契約書に盛込む十二項目

①提携目的 

②出資額と比率 

③業務範囲・役割分担 

④取締役派遣 

⑤提携期間とマイルストーン 

⑥利益配分・費用負担 

⑦株式譲渡制限 

⑧優先買取権 

⑨秘密保持 

⑩契約変更・解除条件 

⑪表明保証 

⑫反社会的勢力排除条項

契約書作成で注意すべき点

曖昧な文言を避け、具体的な数値や期限を記載することが重要です。またリスク想定と対応策を事前に条文化し、法令違反を防ぐため専門家のチェックを受けるようにしましょう。

中小企業におけるM&A成功例の分析

VR企業とシステム開発企業の成功要因

VR/AR開発企業COMBOとシステム開発企業テクノモバイルのM&Aでは、VR技術とWebシステム開発技術が補完関係を築きました。顧客基盤を相互活用し、テクノモバイルの経営ノウハウがCOMBOの管理体制を強化したことが成功につながりました。

金融IT企業買収で事業承継解決

非金融系システム開発企業コウイクスが金融システム分野のSDアドバイザーズの子会社となった事例では、後継者問題の解決と事業領域拡大を同時に実現しました。金融と非金融双方の技術者が協力することで新たなソリューションを提供し、顧客満足度を高めています。

大手企業の資本提携成功事例

家具と家電小売の補完提携

ニトリホールディングスがエディオン株式10%を取得した提携では、家具と家電の商材を組み合わせた生活提案が可能になりました。両社の物流網とEC基盤を統合し、顧客体験を向上させた点が高く評価されています。

郵便とIT企業のDX資本業務提携

日本郵政が楽天に約1,500億円を出資したケースでは、郵便インフラとIT技術を融合しDXを加速させました。楽天の物流需要と日本郵政の配送網を結び付け、フィンテックサービスも拡充しています。

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まとめ

M&Aは経営権を移転して全社的な統合を図る手法、資本提携は独立性を保ちつつ協力関係を築く手法です。資本業務提携は両者の長所を合わせ、大規模シナジーを狙えます。いずれの方法でも目的・リスク・手続を明確にし、契約書を整備しながら専門家と連携することが成功の近道です。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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