確定申告での株式譲渡益の書き方と損益通算繰越控除活用術
株式譲渡益が出たら確定申告は必要ですか?結論は口座の種類や利益額で決まります。本記事では、初心者でも迷わない書き方と節税のコツを、手書き・ネットの両申告方法とともに具体例で解説します。
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株式を売却して得た「株式譲渡益」は、給与や事業所得とは区別して申告する「申告分離課税」の対象です。申告分離課税にすることで、他の所得の大小に影響されずに税額を計算でき、損益通算や繰越控除などの制度も使いやすくなります。ただし、申告をしなければ税務署には取引内容が分からないため、法律では一定の場合に確定申告書の提出を義務付けています。適切に申告していないと、後日多額の追徴課税が発生するおそれがあるため注意が必要です。
投資初心者ほど「証券会社が源泉徴収してくれているから大丈夫」と思いがちですが、源泉徴収ありの特定口座を使っていても、複数口座の損益をまとめたい、譲渡損失を3年間繰り越したいなどの目的があれば、あえて確定申告することで税金を取り戻せる場合があります。つまり「必要だから仕方なくやる」だけでなく「節税のチャンスを逃さないために活用する」という前向きな発想が大切です。
株式譲渡益にかかる税率は、所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%を合計した20.315%です。計算方法はシンプルでも、金額が大きくなると納税額も一気に跳ね上がります。例えば、譲渡益が300万円のケースを見てみましょう。
半年から1年の売買で60万円以上の税負担が生じるため、申告時点で資金が足りず延納や分納になる人も少なくありません。余裕をもって納税資金を確保しておくことが、無駄な延滞税を回避する第一歩です。
上場株式を一般口座や源泉徴収なしの特定口座で売却した場合、または未上場株式の譲渡益が20万円以上になった場合は確定申告が必須です。源泉徴収ありの特定口座でも、複数口座の損益を通算したい、損失を翌年以降に繰り越したいといったケースでは申告を行うことで税金が戻る可能性があります。
一方、源泉徴収ありの特定口座やNISA口座のみで取引し、他に所得がない場合は原則として申告不要です。ただし、医療費控除などの理由で確定申告をするなら、同時に株式関係の情報も入力しておくと損益通算や還付の機会を逃さずに済みます。
株式譲渡所得は、売却価格から取得費と譲渡費用を差し引いて算出します。具体的には次の式です。
譲渡所得 = 売却価格 - 取得費 - 売却手数料
取得費には購入代金のほか、購入時の売買手数料、株式分割で取得単価が変わった際の按分計算結果なども含まれます。譲渡費用は売却の際に証券会社へ支払った委託手数料が代表例です。
計算例で納税額をイメージする
5,000万円で取得した株式を6,000万円で売却し、取得時と売却時の手数料が合わせて100万円かかった場合の譲渡所得は次のように計算します。
この9,000,000円に20.315%を掛けると、納税額は1,828,350円となります。計算自体は一行ですが、取得費や手数料を正確に把握しておかないと税額が過大になる点がポイントです。
必要経費に含める取得費と手数料の範囲
取得時の売買手数料や印紙税、さらに株式移管手数料なども取得費に含められます。経費に入れ忘れるとその分だけ譲渡所得が大きくなり、結果として税負担が増えるので要注意です。特定口座年間取引報告書や取引明細を保管し、取得費用を漏れなく拾い上げることが節税の基本と言えます。
確定申告期間は毎年原則として2月16日~3月15日です。2024年に株式を譲渡した場合、2025年3月15日が提出期限になります。期限は土日祝日と重なると翌平日になりますが、なるべく余裕をもって準備しましょう。
期限までに申告しない場合は無申告加算税が、期限後に納付が遅れると延滞税が課されます。無申告加算税は本来の税額が50万円までは15%、50万円超の部分は20%と高率です。さらに納付が遅れる日数に応じて延滞税が上乗せされるため、数か月放置するだけで数十万円規模の追加負担になることもあります。初めての確定申告でも、早めの下書きとe-Tax利用で締切前に余裕を持たせましょう。
申告作業は「①年間損益を集計する → ②必要書類をそろえる → ③申告書を作成し提出する」の三段階で整理すると迷いません。また、手書きとインターネットでは操作手順が異なりますが、入力する情報は同じです。
まず、特定口座年間取引報告書や一般口座の取引明細で、1年間の売却価格・取得費・手数料を一覧にします。複数の証券会社を利用している場合は、エクセルなどにまとめて損益を自動計算すると計算ミスを防げます。未上場株式を譲渡した場合は、譲渡契約書で売却価格と必要経費を確認します。
準備する主な書類は以下のとおりです。
多いように感じますが、国税庁の作成コーナーなら質問に答えていくだけで自動で生成されます。
手書きの場合は、計算明細書を二面から記入し、一面へ転記する流れが公式様式で推奨されています。数字を転記したら、第三表→第一表→第二表の順に記入し、控除額や納税額を最終確認します。国税庁作成コーナーを使う場合は「収入金額・所得金額の入力」画面で生年月日や申告方法を選択し、「金融・証券税制」から「株式等の譲渡」をクリックして入力を進めます。最後に納税額と還付額を確認し、e-Taxで送信するか、PDFを印刷して郵送します。
これで申告の基本フローは完了です。後半では、確定申告が必要・不要なケースの具体例と、損益通算・繰越控除を活用した節税テクニックを詳しく解説します。
国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を利用すれば、パソコンやスマートフォンから24時間いつでも申告書を作成できます。ここでは原則的な6ステップを整理します。画面遷移は毎年微調整がありますが、基本構造は変わりません。
トップページの「作成開始」ボタンをクリックし、利用規約に同意して次へ進みます。マイナンバーカード方式ならICカードリーダーやスマホ対応アプリでの認証が必要です。ID・パスワード方式を事前に税務署で取得しておくとカードリーダーが不要になります。
生年月日や提出方法を入力後、質問形式に答えると自分に必要な入力項目が自動で絞り込まれます。株式譲渡益のみを申告する場合でも、給与所得や医療費控除があるかどうかを聞かれるので、あらかじめ資料を手に取れる場所に置いておくと効率的です。
「金融・証券税制」から「上場株式等の譲渡所得等」の入力画面を開き、課税方法で「申告分離課税」を選びます。次に「特定口座年間取引報告書の内容を入力する」をクリックすると、自動計算用のフォームが表示されます。
証券会社が発行した年間取引報告書を見ながら、銘柄名、売却価格、取得費、委託手数料などを入力します。複数の証券会社を利用している場合は「追加入力」ボタンでフォームを増やし、全口座の損益を登録します。入力後に「計算」ボタンを押すと自動で譲渡所得額が反映されます。
「収入金額・所得金額の入力」画面に戻り、給与所得や公的年金等、所得控除の項目を順番に入力します。医療費控除やふるさと納税(寄附金控除)がある場合は、この画面で忘れずに入力しましょう。
最後に「計算結果確認」画面で納税額または還付額を確認します。問題がなければe-Tax送信を行うか、PDFを印刷して郵送します。e-Taxなら24時間提出でき、控え書類もデータ保管できるため、手続後の管理が楽になります。
これらのステップを押さえておけば、インターネット申告は手書きよりも短時間で完了します。続く後半では、確定申告が不要なケースの判断基準や、損益通算・繰越控除の具体的な節税シミュレーションを紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください
確定申告の要否は「どの口座で取引したか」「年間の所得がいくらか」で決まります。ここでは上場株式・未上場株式それぞれについて、原則と例外を具体的に整理します。自分がどちらの表に当てはまるかを判定し、必要な手続を漏れなく行いましょう。
上記のいずれかに該当する場合、申告書第三表(分離課税用)まで作成し、翌年3月15日までに提出する義務が生じます。提出しないと無申告加算税や延滞税の対象となるため注意が必要です。
給与所得者と自営業者で異なる判定基準
給与所得者は年末調整でほとんどの所得税計算が完結しますが、給与以外の所得が年間20万円を超えると確定申告が必要になります。例えば源泉徴収ありの特定口座で18万円の利益が出ただけなら申告不要ですが、不動産所得が5万円あると合算25万円となり申告義務が発生します。一方、自営業者やフリーランスなど給与所得が無い人は、基礎控除後の合計所得が48万円を超えた時点で確定申告が必要です。取引額が小さくても、事業所得や雑所得と合算すると基準を超えることがあるため、早めの損益把握が大切です。
これらに当てはまると申告は原則不要ですが、医療費控除や住宅ローン控除など別目的で確定申告を行うなら、株式情報も入力することで還付を受けられる可能性があります。また確定申告が不要でも、住民税の申告が必要な自治体もあるため、自治体サイトで確認しましょう。
NISA口座利用者が注意すべきポイント
NISA口座の譲渡益と配当金は非課税ですが、同口座で発生した損失は損益通算や繰越控除に使えません。NISA口座で▲30万円の損失、特定口座で+10万円の利益という場合でも相殺できず、10万円分に課税されます。損失が出る可能性の高い投資は課税口座で行い、値上がり益を期待する長期保有銘柄をNISAに入れる、といった口座選択が節税のコツです。
源泉徴収ありの特定口座であっても、➀配当所得と損益通算したい、➁他口座の赤字と相殺したい、➂住宅ローン控除や寄附金控除で還付を受けたい、といった場合は確定申告をすると税金が戻ることがあります。年間取引報告書を用意し、特定口座の「源泉徴収税額」を入力するだけで自動計算されるので、還付額を確認してから提出するかどうか決めても遅くはありません。
損益通算と繰越控除は、株式投資における二大節税ツールです。制度を正しく理解していれば、赤字が出ても翌年以降の利益と相殺でき、結果として手元資金を増やすことにつながります。
損益通算には「譲渡所得同士の通算」と「配当所得との通算」の二種類があります。特定口座・一般口座を問わず、同一年に発生した上場株式の譲渡損と譲渡益は相殺できます。ただし未上場株式と上場株式を混ぜて通算することはできません。配当所得と通算する場合は、配当金を申告分離課税で申告する必要がある点がポイントです。
複数口座間で損益通算する手順
これにより源泉徴収済みの税金が一部または全額戻る場合があります。還付は口座指定で最短約3週間後に入金されるため、早めの申告ほど資金繰りのメリットが大きくなります。
配当所得と相殺する際の注意点
上場株式の配当金を総合課税で申告する場合は配当控除が使えますが、損益通算したいなら必ず「申告分離課税」を選択します。総合課税と分離課税を併用すると計算が複雑になり、税負担が増えることもあるため、初めての人は税理士に相談すると安心です。
譲渡損失が損益通算し切れずに残った場合、その損失は3年間繰り越せます。繰越控除を使うには、赤字が出た年・翌年・翌々年すべてで確定申告を行う必要があります。途中の年に申告を忘れると権利が消滅するため注意が必要です。
繰越控除は3年間有効なので、大きな損失が出た翌年以降にIPO投資や短期売買でまとまった利益を得る計画がある人ほど恩恵を受けられます。例として、初年度に▲200万円の損失があり、翌年+120万円、2年目+60万円、3年目+30万円の利益が見込まれる場合、3年間で合計210万円の利益をほぼゼロ課税にできます。結果として、約40万円の税負担をカットできる計算です。
繰越控除を使わない方が有利な場面もある
一方で、赤字を繰り越すために申告すると、前年の住民税非課税基準を超えてしまい、子どもの保育料や国民健康保険料が上がるケースもあります。赤字をあえて申告しないことで、住民税や社会保険料を抑え、トータルでは得になる世帯も存在します。短期的な還付金額だけで判断せず、将来のライフプランと照らし合わせて選択しましょう。
損益通算や繰越控除は強力な節税策ですが、適用すると所得区分が変わり社会保険料・住民税・各種控除に連動します。メリットだけに目を奪われず、シミュレーションソフトやエクセルで「申告する場合」と「申告しない場合」の負担総額を比較しましょう。自作が難しい場合は、証券会社の還付試算ツールや税理士への無料相談を活用するのも一案です。
例として、扶養控除対象の子が10万円の譲渡損を繰り越すために申告すると、基礎控除前の所得が48万円を超えて扶養から外れ、家族の所得税・住民税が合計で12万円増えることがあります。還付額が5万円だった場合、世帯全体では7万円のマイナスです。制度の仕組みを知らずに申告すると、かえって損をする典型例と言えます。
税法は毎年改正があり、2026年度からは配当所得と譲渡所得の課税方式統一なども予定されています。専門家に相談すれば最新法令を踏まえたアドバイスが得られ、申告書の記載漏れを防げます。さらに電子申告の代理送信を依頼すれば、マイナンバーカードやID・パスワードの準備が不要となり、手続負担の軽減にもつながります。
e-Taxを利用すると、添付書類の省略や還付のスピードアップ、24時間提出可能といった利点があります。マイナンバーカード方式なら電子署名もカード1枚で完結し、提出後は控えデータが自動保存されるため紙の保管スペースも不要です。ただし初回設定にはカードリーダーやスマホアプリのインストールが必要で、操作に慣れないと手続が長引くこともあります。ID・パスワード方式は税務署で事前発行が必要なため、締切直前に駆け込みで取得するのは避けましょう。
→ ブラウザとICカードリーダーの互換性を確認し、ドライバを最新版に更新する。
→ 税務署へ本人確認書類を持参して再発行手続を行う。
→ PDFファイルは1つの書類ごとに15MB以内に分割し、解像度を下げて再出力する。
これらのトラブルは締切直前に起こると致命的です。初回は余裕を持ってテスト送信を行い、エラーがないか確認しましょう。
株式譲渡益の確定申告は、口座種別と所得額で要否が変わります。申告が不要な場合でも、損益通算や繰越控除を活用すれば税金が戻る可能性があります。節税策は扶養判定や社会保険料にも影響するため、家族全体で試算し、迷ったら専門家に相談することが賢明です。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事