吸収合併における存続会社の役割と手続を詳しく解説します。合併契約書の作成から資本金の決定、会計処理、登記手続まで、存続会社が知っておくべき重要ポイントをステップごとに紹介します。
目次
▶目次ページ:M&Aの種類・方法(合併)
吸収合併において、存続会社は重要な役割を担います。ここでは、吸収合併の概念と存続会社の位置づけについて詳しく説明します。
吸収合併とは、企業再編の一形態であり、一方の会社(存続会社)が他方の会社(消滅会社)の全ての資産、負債、権利義務を包括的に引き継ぐ方式です。この過程で、消滅会社は解散し、存続会社と一体化して新たな企業体制が形成されます。
吸収合併は、以下のような状況で選択されることが多いです。
存続会社は、吸収合併において中心的な役割を果たします。具体的には以下のような特徴があります。
法人格の継続
権利義務の承継
事業の拡大
シェア拡大
複数社の吸収
存続会社は、合併後の新しい企業体制の中核となるため、合併の計画段階から様々な準備と検討が必要となります。次の項目では、具体的な手続の流れについて解説します。
▶関連:吸収合併とは
吸収合併を実施する際には、法令に基づいた適切な手続を踏む必要があります。以下、主要な手続について詳しく説明します。
合併契約書は、吸収合併の基本となる重要な文書です。会社法第748条に基づき、合併当事者間で締結する必要があります。
合併契約書に記載すべき主な事項
作成した合併契約書は、株主や債権者の保護のために備え置く必要があります(会社法第782条第1項、第794条第1項)。
合併に反対する株主の利益を保護するため、会社法では反対株主に株式買取請求権を認めています(会社法第785条第1項、第797条第1項)。
反対株主の定義
合併を行うための株主総会決議が必要な場合
株主総会決議が不要な場合
株式買取請求の期間: 合併の効力発生日の20日前から前日までの間に、買取を請求する株式数を明示して行う必要があります。
債権者の利益を守るため、以下の手続を実施する必要があります。
これらの手続は、合併の効力発生日前に完了させる必要があります(会社法第750条第6項)。また、債権者が異議を申し立てる期間として、最低1か月を確保することが求められます(会社法第789条第2項、第299条第2項)。
備置開始日は、以下のいずれか最も早い日となります(会社法第782条第2項第1号〜第4号)。
合併契約締結後、株主総会を開催し、合併契約の承認を得る必要があります。ただし、簡易合併や略式合併の要件を満たす場合は、株主総会の承認を省略できる場合があります。
合併の効力発生日において、存続会社は消滅会社の権利義務を包括的に承継します。ただし、登記が完了するまでは、第三者に対してその効力を主張できません(会社法第750条第2項)。
登記手続の期限
効力発生日から2週間以内に、以下の登記を行う必要があります(会社法第921条)。
吸収合併における存続会社の資本金決定は、合併の形態や条件によって異なります。適切な資本金の設定は、税務面や経営戦略上重要です。
会社法では、存続会社の資本金について以下のように規定しています。
資本関係のない会社との合併
親会社による子会社の吸収合併(または子会社同士の合併)
これらの計算方法は、「取得」と「共通支配下の取引」という会計上の区分に基づいています。
資本金の額によって適用される税制が異なるため、税務面での影響を考慮して資本金を決定することが重要です。
主な考慮点
中小企業の判定基準:資本金1億円以下
地方税への影響
メリット・デメリットの比較:
適切な資本金の設定には、専門家のアドバイスを受けることが推奨されます。
消滅会社が債務超過の状態であっても、現行の会社法では吸収合併が可能です。ただし、以下の点に注意が必要です。
株主総会での説明
資本金の計上方法
専門家への相談
吸収合併後の存続会社における決算処理は、合併の性質によって異なります。主に「取得」と「逆取得」の2つのケースに分けて考える必要があります。
通常の吸収合併、すなわち存続会社が消滅会社の支配権を取得する場合、「取得」とみなされ、パーチェス法による会計処理が行われます。
パーチェス法の特徴
「のれん」の計上例
• 簿価5億円の会社を時価7億円で吸収合併した場合
• 差額の2億円が「のれん」(消滅会社の付加価値)として計上
消滅会社の決算処理
• 吸収合併の効力発生日の前日を決算日とし、決算手続を行います。
逆取得とは、法的には吸収合併であっても、経済的実態として消滅会社が取得企業とみなされる状況を指します。
逆取得が発生する条件
• 合併後、消滅会社の株主の議決権比率が存続会社の株主の議決権比率を上回る場合
逆取得時の会計処理の特徴
逆取得の会計処理は複雑になる可能性が高いため、専門家のサポートを受けることが推奨されます。
吸収合併が成立した後、存続会社には速やかな登記手続が求められます。この手続は法的に重要であり、期限内に適切に行う必要があります。
登記手続の概要
存続会社:変更登記
消滅会社:解散登記
登記手続に必要な主な書類
注意点
登記手続は合併の最終段階であり、法的な効力を確定させる重要なステップです。適切に行うことで、新しい企業体制の公的な認知が得られ、円滑な事業継続が可能となります。
存続会社は吸収合併において中心的な役割を果たし、合併後の新たな企業体制の核となります。合併の手続は、合併契約書の作成から始まり、株主や債権者の保護、資本金の決定、会計処理、そして最終的な登記手続まで、多岐にわたります。各ステップで法令遵守と適切な判断が求められるため、専門家のサポートを受けながら慎重に進めることが重要です。適切に実施された吸収合併は、企業の成長と競争力強化につながる有効な戦略となります。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画