吸収合併の要!存続会社の役割と手続を徹底解説

吸収合併における存続会社の役割と手続を詳しく解説します。合併契約書の作成から資本金の決定、会計処理、登記手続まで、存続会社が知っておくべき重要ポイントをステップごとに紹介します。

目次

  1. 存続会社の役割と定義
  2. 吸収合併の手続フロー
  3. 存続会社の資本金決定方法
  4. 存続会社の合併後決算処理
  5. 存続会社の合併後登記手続
  6. まとめ

存続会社の役割と定義

吸収合併において、存続会社は重要な役割を担います。ここでは、吸収合併の概念と存続会社の位置づけについて詳しく説明します。


吸収合併の概念

吸収合併とは、企業再編の一形態であり、一方の会社(存続会社)が他方の会社(消滅会社)の全ての資産、負債、権利義務を包括的に引き継ぐ方式です。この過程で、消滅会社は解散し、存続会社と一体化して新たな企業体制が形成されます。

吸収合併は、以下のような状況で選択されることが多いです:

業績好調な企業が、業績不振の企業を取り込む場合

親会社が子会社を統合し、経営効率を高める場合

企業グループ内での事業再編を行う場合

存続会社の位置づけ

存続会社は、吸収合併において中心的な役割を果たします。具体的には以下のような特徴があります:

1. 法人格の継続:存続会社は合併後も法人格を維持します。

2. 権利義務の承継:消滅会社の全ての資産、負債、契約関係などを引き継ぎます。

3. 事業の拡大:合併により、技術、人材、顧客基盤などを獲得し、事業規模を拡大できます。

4. シェア拡大:業界内でのシェアや販売網を広げる機会となります。

5. 複数社の吸収:一つの存続会社が複数の消滅会社を同時に吸収合併することも可能です。

存続会社は、合併後の新しい企業体制の中核となるため、合併の計画段階から様々な準備と検討が必要となります。次の項目では、具体的な手続の流れについて解説します。

▶目次ページ:M&Aの種類・方法(合併)

吸収合併の手続フロー

吸収合併を実施する際には、法令に基づいた適切な手続を踏む必要があります。以下、主要な手続について詳しく説明します。

合併契約書の策定と締結

合併契約書は、吸収合併の基本となる重要な文書です。会社法第748条に基づき、合併当事者間で締結する必要があります。

合併契約書に記載すべき主な事項:

存続会社と消滅会社の商号・本店所在地

合併の効力発生日

株式の割当比率(合併比率)

消滅会社の株主に対する株式等の割当てに関する事項

存続会社の資本金・準備金に関する事項

作成した合併契約書は、株主や債権者の保護のために備え置く必要があります(会社法第782条第1項、第794条第1項)。

反対株主の株式買取請求権

合併に反対する株主の利益を保護するため、会社法では反対株主に株式買取請求権を認めています(会社法第785条第1項、第797条第1項)。

反対株主の定義:

1. 合併を行うための株主総会決議が必要な場合: 

 事前に合併に反対する旨を会社に通知し、株主総会で反対した株主

 当該株主総会で議決権を行使できない株主

2. 株主総会決議が不要な場合: 

 全ての株主(特別支配会社を除く)

株式買取請求の期間: 合併の効力発生日の20日前から前日までの間に、買取を請求する株式数を明示して行う必要があります。

債権者保護手続の要点

債権者の利益を守るため、以下の手続を実施する必要があります:

1. 公告手続

2. 個別催告手続

3. 債権者に対する弁済等の措置

これらの手続は、合併の効力発生日前に完了させる必要があります(会社法第750条第6項)。また、債権者が異議を申し立てる期間として、最低1か月を確保することが求められます(会社法第789条第2項、第299条第2項)。

備置開始日の設定

備置開始日は、以下のいずれか最も早い日となります(会社法第782条第2項第1号〜第4号):

1. 合併契約の承認を目的とする株主総会の日の2週間前の日

2. 反対株主の株式買取請求に係る通知または公告のいずれか早い日

3. 新株予約権買取請求に係る通知または公告のいずれか早い日

4. 債権者異議手続が必要な場合、その公告または催告のいずれか早い日

株主総会での合併契約承認

合併契約締結後、株主総会を開催し、合併契約の承認を得る必要があります。ただし、簡易合併や略式合併の要件を満たす場合は、株主総会の承認を省略できる場合があります。

合併の効力発生と登記

合併の効力発生日において、存続会社は消滅会社の権利義務を包括的に承継します。ただし、登記が完了するまでは、第三者に対してその効力を主張できません(会社法第750条第2項)。

登記手続の期限: 効力発生日から2週間以内に、以下の登記を行う必要があります(会社法第921条)。

存続会社:変更登記

消滅会社:解散登記

存続会社の資本金決定方法

吸収合併における存続会社の資本金決定は、合併の形態や条件によって異なります。適切な資本金の設定は、税務面や経営戦略上重要です。

会社法に基づく計算手法

会社法では、存続会社の資本金について以下のように規定しています:

1. 資本関係のない会社との合併: 

 消滅会社の資産・負債を時価で評価し、資本金を決定します。

2. 親会社による子会社の吸収合併(または子会社同士の合併):  

 簿価を用いて資本金を決定します。

 これらの計算方法は、「取得」と「共通支配下の取引」という会計上の区分に基づいています。

税務面を考慮した資本金設定

資本金の額によって適用される税制が異なるため、税務面での影響を考慮して資本金を決定することが重要です。

主な考慮点:

1. 中小企業の判定基準:資本金1億円以下 

 軽減税率の適用:年間所得800万円までの部分に対して適用

 各種税制優遇措置の適用可能性

2. 地方税への影響: 

 資本金1億円超の企業:外形標準課税の適用

3. メリット・デメリットの比較: 

 資本金を抑えることでの税務上のメリット

 資本金が少ないことによる信用力への影響

 適切な資本金の設定には、専門家のアドバイスを受けることが推奨されます。

債務超過の消滅会社がある場合の対応

消滅会社が債務超過の状態であっても、現行の会社法では吸収合併が可能です。ただし、以下の点に注意が必要です:

1. 株主総会での説明: 

 消滅会社が債務超過であることを証明する必要があります。

2. 資本金の計上方法: 

 通常の方法とは異なる計算方法が採用されます。

 基本的に存続会社の資本金は増加しませんが、条件によっては増額が認められる場合があります。

3. 専門家への相談: 

 複雑な会計・税務処理が必要となるため、専門家のアドバイスが不可欠です。

存続会社の合併後決算処理

吸収合併後の存続会社における決算処理は、合併の性質によって異なります。主に「取得」と「逆取得」の2つのケースに分けて考える必要があります。

通常の吸収合併における会計処理

通常の吸収合併、すなわち存続会社が消滅会社の支配権を取得する場合、「取得」とみなされ、パーチェス法による会計処理が行われます。

パーチェス法の特徴:

1. 消滅会社の資産・負債を時価で評価

2. 取得原価と時価評価後の純資産との差額を「のれん」として計上

 「のれん」の計上例:

 • 簿価5億円の会社を時価7億円で吸収合併した場合

 • 差額の2億円が「のれん」(消滅会社の付加価値)として計上

 消滅会社の決算処理:

 • 吸収合併の効力発生日の前日を決算日とし、決算手続を行います。

逆取得時の会計処理

逆取得とは、法的には吸収合併であっても、経済的実態として消滅会社が取得企業とみなされる状況を指します。

逆取得が発生する条件:

 • 合併後、消滅会社の株主の議決権比率が存続会社の株主の議決権比率を上回る場合

逆取得時の会計処理の特徴:

 1. 簿価ベースでの取得処理

 2. 「のれん」の発生はありません

 3. 消滅会社(取得企業)の決算日は、吸収合併の効力発生日の前日となります

逆取得の会計処理は複雑になる可能性が高いため、専門家のサポートを受けることが推奨されます。

存続会社の合併後登記手続

吸収合併が成立した後、存続会社には速やかな登記手続が求められます。この手続は法的に重要であり、期限内に適切に行う必要があります。

登記手続の概要:

 1. 期限:効力発生日から2週間以内

 2. 必要な登記: 

  存続会社:変更登記

  消滅会社:解散登記

登記手続に必要な主な書類:

 1. 合併契約書

 2. 株主総会の議事録

 3. 資本金の計上証明書

 4. 消滅会社の登記事項証明書

注意点:

 • 契約内容や各会社の事業内容により、必要書類が異なる場合があります。

 • 専門家(弁護士、司法書士)に確認し、適切な手続を進めることが推奨されます。

 • 決算日に合わせたい場合は、効力発生日当日に登記申請を完了させる必要があります。

登記手続は合併の最終段階であり、法的な効力を確定させる重要なステップです。適切に行うことで、新しい企業体制の公的な認知が得られ、円滑な事業継続が可能となります。

まとめ

存続会社は吸収合併において中心的な役割を果たし、合併後の新たな企業体制の核となります。合併の手続は、合併契約書の作成から始まり、株主や債権者の保護、資本金の決定、会計処理、そして最終的な登記手続まで、多岐にわたります。各ステップで法令遵守と適切な判断が求められるため、専門家のサポートを受けながら慎重に進めることが重要です。適切に実施された吸収合併は、企業の成長と競争力強化につながる有効な戦略となります。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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