TOB(Take Over Bid)とは?M&Aにおける役割と実施のポイントを解説

M&Aの重要手法であるTOB(株式公開買付)について、その定義から目的、LBOやMBOとの違い、実施手順まで詳しく解説します。永谷園の事例も交えて、TOBの実務的な側面も紹介します。

目次

  1. TOB(株式公開買付)とは
  2. LBO(レバレッジド・バイアウト)との違い
  3. MBO(マネジメント・バイアウト)との違い
  4. TOB手続が必要となるケース
  5. TOBの2つの種類
  6. TOBのメリットとデメリット
  7. TOBの実施手順
  8. TOBの実例:永谷園のMBOによる上場廃止(2024年6月)
  9. まとめ

TOB(株式公開買付)とは

TOB(Take Over Bid)は、日本語で株式公開買付と呼ばれる、M&A(合併・買収)の手法の1つです。具体的には、不特定多数の株主に対して、公開の場で株式の買取りを呼びかける方法です。

TOBの主な特徴は以下の通りです:

証券取引所を通さずに実施されます

買付価格や期間などを公告します

取引所外で株券等を買い付けます

TOBは、大量の株式を短期間で取得したい場合や、経営権の獲得を目指す際に有効な手段となります。

証券取引所を介さない理由

TOBが証券取引所を介さずに実施される理由は、主に以下の点にあります:

1. 株価変動の抑制:通常のM&Aで証券取引市場内で大量の買い注文が出されると、対象企業の株価が急上昇する可能
   性があります。TOBを利用することで、この急激な株価上昇を避けることができます。

2. 買収コストの管理:株価が急上昇すると、想定していた価格で株式を購入できなくなるリスクがあります。TOBを
   使用することで、買収コストをより正確に管理することが可能になります。

3. 透明性の確保:TOBは公開の場で行われるため、株主に対して公平な機会を提供し、取引の透明性を高めることが
   できます。

TOBの主な目的

TOBの主な目的は以下の通りです:

1. 経営権の取得:対象企業の株式の過半数(50%超)を取得することで、経営権を獲得することができます。

2. 子会社化:対象企業を子会社化し、グループ経営の強化や事業シナジーの創出を図ることができます。

3. 自社株の集中:上場企業が自社の株式を買い戻すことで、株主還元や経営の安定化を図ることができます。

4. 非上場化:上場企業を完全子会社化し、非上場化することで、短期的な株価変動に左右されない長期的な経営戦略の実行が可能になります。

TOBは、企業の成長戦略や事業再編において重要な役割を果たす手法の1つといえます。

LBO(レバレッジド・バイアウト)との違い

LBO(Leveraged Buyout)は、TOBと同じくM&Aの手法の1つですが、以下の点でTOBとは異なります:

1. 資金調達方法: 

 o LBO:買収対象企業の資産や将来のキャッシュフローを担保として、金融機関から資金を調達します。

 o TOB:必ずしも借入金を使用せず、自己資金や増資などで資金を調達することもあります。

2. リスク: 

 o LBO:高いレバレッジ(借入比率)を利用するため、リスクが高くなる傾向があります。

 o TOB:資金調達方法によってリスクレベルが異なります。

3. 目的: 

 o LBO:主に投資収益を目的とした買収に用いられます。

 o TOB:経営権の取得や事業シナジーの創出など、より幅広い目的で利用されます。

4. 規模: 

 o LBO:比較的小規模な企業の買収に適しています。 

 o TOB:大規模な上場企業の買収にも利用されます。

ただし、TOBの資金調達にLBOの手法を用いることもあります。その場合、エクイティ(自己資金)の割合を低く抑え、大部分をローンで調達するTOBは、LBOとしての性格も併せ持つことになります。

MBO(マネジメント・バイアウト)との違い

MBO(Management Buy Out)は、現経営陣による自社買収を指します。TOBとMBOの主な違いは以下の通りです:

1. 買収主体: 

 o MBO:現経営陣が買収の主体となります。

 o TOB:現経営陣に限らず、外部の企業や投資家が買収主体となることがあります。

2. 目的: 

 o MBO:経営陣の独立や事業承継、非上場化などが主な目的です。

 o TOB:経営権の取得、子会社化、事業シナジーの創出など、より幅広い目的があります。

3. 資金調達: 

 o MBO:経営陣が投資ファンドや金融機関から資金を調達することが多いです。

 o TOB:自己資金、増資、借入金など、様々な方法で資金を調達します。

4. 規制: 

 o MBO:上場企業の場合、一般的にTOB規制の対象となります。

 o TOB:常にTOB規制の対象となります。

ただし、上場企業に対するMBOを実施する場合、TOBの手法を用いることが一般的です。この場合、MBOとTOBの特徴を併せ持つ取引となります。

TOB手続が必要となるケース

TOB手続が必要となる主なケースは以下の2つです:

5%ルールについて

5%ルールは、以下の条件に該当する場合にTOB手続が必要となることを定めています:

買付後に発行済株式の5%以上を保有することになる場合

株券等の買付け等の後における株券等所有割合が5%を超える場合

このルールの目的は、大量の株式取得が経営や株価に与える影響が大きいため、株主や市場に対して適切な情報開示を行うことにあります。

1/3ルールの概要

1/3ルールは、以下の条件に該当する場合にTOB手続が必要となることを定めています:

買付後の株式所有割合が発行済株式の1/3を超える場合

株券等の買付け等の後における株券等所有割合が1/3を超える場合

ただし、以下の場合は例外とされています:

株主数が10人以下の場合

特定の大株主からの相対取引の場合

1/3ルールは、実質的な経営支配権の取得につながる可能性が高い取引について、TOB手続を義務付けることで、株主保護と取引の公平性を確保することを目的としています。

これらのルールにより、大量の株式取得や経営権の変動を伴う取引については、TOB手続を通じて適切な情報開示と株主の平等な機会提供が確保されています。

TOBの2つの種類

TOBは、対象会社の取締役会の同意の有無によって、主に2つの種類に分類されます。

敵対的TOBの特徴

敵対的TOB(hostile takeover bid)の主な特徴は以下の通りです:

1. 定義:対象会社の取締役会の同意を得ずに実施される買収手法です。

2. 事前告知:多くの場合、相手方への事前の告知なしに実施されます。

3. 条件面:事前の告知があっても、条件面で合意に至らない場合は敵対的TOBとなります。

4. 成功率:一般的に友好的TOBと比べて成功率が低くなる傾向があります。

5. リスク:対象会社が買収防衛策を講じる可能性があり、買収コストが高くなるリスクがあります。

6. 目的:経営陣の刷新や企業価値の向上を目指す場合が多いです。

敵対的TOBは、対象会社の現経営陣との対立を伴うため、慎重な戦略立案と実行が求められます。

友好的TOBの特徴

友好的TOB(friendly takeover bid)の主な特徴は以下の通りです:

1. 定義:対象会社の取締役会と事前に合意の上で実施される買収手法です。

2. 事前協議:買収者と対象会社の間で事前に協議や申し入れが行われます。

3. 同意:対象会社の取締役会から同意を得た上で実施されます。

4. 成功率:敵対的TOBと比べて成功率が高い傾向にあります。

5. 用途:グループ企業の完全子会社化や事業再編などに用いられることが多いです。

6. メリット:円滑な経営統合や事業シナジーの早期実現が期待できます。

友好的TOBは、買収者と対象会社の双方にとってメリットのある形で進められるため、M&Aの成功確率を高める手法として広く活用されています。

TOBのメリットとデメリット

TOBには、売り手(対象会社)と買い手(買収者)それぞれにメリットとデメリットがあります。

売り手の視点

売り手(対象会社)のメリットとデメリットは以下の通りです:

メリット:

1. 経営改善:買い手の経営資源や専門知識を活用し、経営改善が期待できます。

2. 事業拡大:買い手の安定した経営基盤や資金を活用し、新規事業展開や海外進出などが可能になります。

3. リスク軽減:経営上のリスクを買い手と分担することができます。

4. 株主還元:TOB価格がプレミアム付きの場合、株主に対する還元となります。

デメリット:

1. 経営権の喪失:経営の主導権が買い手に移ることになります。

2. 従業員の不安:雇用条件の変更や人員整理への不安が生じる可能性があります。

3. 企業文化の変化:買い手との統合により、既存の企業文化が変化する可能性があります。

4. 短期的な業績低下:統合作業に伴い、一時的に業績が低下するリスクがあります。

買い手の視点

買い手(買収者)のメリットとデメリットは以下の通りです:

メリット:

1. 経営権取得:対象会社の経営権を迅速に取得することができます。

2. シナジー効果:既存事業とのシナジーを創出し、企業価値の向上が期待できます。

3. 市場シェア拡大:対象会社の顧客基盤や販売網を活用し、市場シェアを拡大できます。

4. 買収コストの管理:買付価格を事前に設定できるため、買収コストの管理がしやすくなります。

デメリット:

1. 高コスト:市場価格にプレミアムを上乗せした価格設定が一般的なため、通常の株式取得よりもコストが高くなります。 

2. 資金調達リスク:大規模なTOBの場合、多額の資金調達が必要となり、財務リスクが高まる可能性があります。 

3. 情報の非対称性:対象会社の詳細な内部情報が不足している場合、想定外のリスクに直面する可能性があります。 

4. 統合コスト:買収後の経営統合に多大な時間とコストがかかる場合があります。 

5. レピュテーションリスク:特に敵対的TOBの場合、市場や社会からの評価が低下するリスクがあります。

TOBを検討する際は、これらのメリットとデメリットを慎重に評価し、自社の経営戦略に合致しているかを十分に検討することが重要です。

TOBの実施手順

TOBの実施には、法令に基づいた一連の手続が必要です。主な手順は以下の通りです。

公開買付開始公告と公開買付届出書

1. 公開買付開始公告の公開: 

 o TOBを行う予定であることを公開します。

 o 公開買付期間、買付価格、買付予定数などの基本的な条件を明示します。

2. 公開買付届出書の提出: 

 o 公開買付開始公告の公開後、直ちに内閣総理大臣に提出します。

 o TOBの詳細な内容や条件、買付者の情報などを記載します。

これらの手続により、既存株主に対する売付け申込みの勧誘が可能となります。

意見表明報告書の役割

1. 提出期限: 

 o 対象会社は、公開買付開始公告から10営業日以内に意見表明報告書を提出する必要があります。

2. 内容: 

 o TOBに対する賛同・反対の意見を表明します。

 o 公開買付けに関する質問や意見を記載することもできます。

3. 目的: 

 o 株主に対して、経営陣の見解を提供し、適切な判断材料を提供します。

対質問回答報告書の提出

1. 提出条件: 

 o 対象会社が意見表明報告書に質問を記載した場合に必要となります。

2. 提出期限: 

 o 買収者は、質問を受け取ってから5営業日以内に提出する必要があります。

3. 配布: 

 o 買収者は対質問回答報告書の写しを作成し、関係者に送付します。

公開買付報告書の作成

1. 公表事項: 

 o 公開買い付けの終了後、応募株式等の数など、内閣府令で定める事項を公表します。

2. 報告書提出: 

 o 公開買付報告書を内閣総理大臣に提出します。

3. 完了: 

 o 公開買付報告書の提出をもって、TOBの手続は完了します。

これらの手順を適切に実施することで、TOBの透明性と公平性が確保され、株主の利益が保護されます。

TOBの実例

永谷園ホールディングス(HD)は、2024年6月にMBO(マネジメント・バイアウト)を通じたTOBの実施を発表しました。この事例は、日本の食品業界における大手企業の非上場化という点で注目を集めました。

主な特徴:

1. MBOの形態:現経営陣が参加するMBOを実施。

2. 連携先:三菱商事系の投資ファンドである丸の内キャピタルと連携。

3. 手法:TOB(株式公開買付)を通じて株式を取得。

4. 経営陣の立場:永谷園HDの経営陣はこのTOBに賛同。

5. 上場状況:TOB完了後、上場廃止の見通し。

背景と目的:

1. 国内市場の課題:人口減少により売上高の成長が難しい状況。

2. コスト上昇:原材料費や人件費の上昇が経営課題に。

3. 意思決定の迅速化:非上場化により、海外進出などの戦略的意思決定を迅速に行うことが可能に。

4. 長期的成長:短期的な株価変動に左右されない、長期的な成長戦略の実行を目指す。

この事例は、成熟した国内市場において、グローバル展開や事業構造の転換を図る上場企業が、MBOとTOBを組み合わせて非上場化を選択するケースとして注目されました。長期的な視点での経営戦略の実行と、株主価値の最大化を両立させる手法として評価されています。

まとめ

TOB(株式公開買付)は、企業の経営権取得や事業再編において重要な役割を果たすM&A手法です。証券取引所を介さずに実施される特徴があり、5%ルールや1/3ルールなどの規制に従って行われます。敵対的TOBと友好的TOBの2種類があり、それぞれに特徴があります。売り手と買い手双方にメリットとデメリットがあるため、慎重な検討が必要です。TOBの実施には一連の法定手続が必要で、透明性と公平性の確保が求められます。永谷園のMBOによる上場廃止の事例は、日本企業の経営戦略の変化を示す典型例といえるでしょう。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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