株式譲渡契約書は原則として印紙不要ですが、代金受領の文言や他の契約を含めると課税文書になる場合があります。印紙税額、電子契約、貼り忘れ時の過怠税、書類整備、会社売却時に税務と手続をどう確認すべきかを平易に解説します。
目次

▶目次ページ:株式譲渡(株式譲渡契約)
株式譲渡契約書に収入印紙を貼るべきか。会社売却や親族外承継の準備をしている経営者から、よく出る疑問です。結論からいえば、通常の株式譲渡契約書や株式譲渡証書には、原則として収入印紙を貼る必要はありません。
印紙税は、印紙税法で定められた課税文書を作成したときにかかる税金です。課税文書とは、法律上、印紙税の対象として列挙されている文書をいいます。株式譲渡そのものを約束する契約書は、通常この課税文書に該当しないため、不課税文書として扱われます。
たとえば、契約書に「売り手は、買い手に対し、普通株式〇株を譲渡する」「買い手は、譲渡代金〇円を指定口座へ支払う」といった内容だけが書かれている場合、通常は印紙税の対象になりません。譲渡金額が1億円でも10億円でも、株式譲渡契約書本体だけを見れば印紙は不要です。
ここを誤解して、譲渡代金の金額に応じて自動的に印紙が必要だと思い込むケースがあります。金額の大小ではなく、文書の性質で判断することが大切です。
株式譲渡契約書は、1989年4月の税制改正以降、印紙税の課税対象から外れています。そのため、昔の実務感覚や古いひな形を見て判断すると、現在の扱いとずれることがあります。
ただし、印紙がまったく問題にならないわけではありません。株式譲渡契約書の中に、別の課税文書に当たる内容を書き込むと、例外的に印紙が必要になることがあります。意外と多い落とし穴です。
文書のタイトルが「株式譲渡契約書」であっても、中身に代金の受領事実や不動産譲渡、金銭の貸し借りなどが含まれていれば、印紙税の判断は変わります。反対に、タイトルが「確認書」や「覚書」であっても、内容が受取書の役割を果たしていれば課税文書になる可能性があります。
M&A(合併・買収)の実務では、契約書名よりも条項の中身を見ます。印紙の判断も同じです。
「株式譲渡は印紙不要」とだけ覚えると、実務では危険です。問題になりやすいのは、契約書が別の役割を兼ねてしまう場合です。特に、代金の受領、他の資産譲渡、金銭消費貸借が混ざると確認が必要になります。
株式譲渡契約書に「本契約の締結をもって、売り手は譲渡代金〇円を受領した」と書くと、その文書は単なる契約書ではなく、金銭の受取書としての性質を持つ可能性があります。受取書とは、金銭を受け取った事実を証明するための文書です。
このような文言は、クロージング当日に契約締結と資金決済を同時に行う場面で入りがちです。経営者としては「支払ったこと、受け取ったことを明確にしたい」と思うのが自然ですが、印紙税の面では慎重に扱う必要があります。
注意したいのは、すでに代金を受け取った事実を契約書本文で証明する表現です。たとえば「受領した」「受け取った」「領収した」「本契約書をもって受領を証する」といった書き方です。これらは、契約書が領収書を兼ねていると見られやすくなります。
印紙税の論点を避けたい場合は、支払予定や支払方法にとどめる書き方が考えられます。たとえば「買い手は、クロージング日に、売り手の指定する口座へ譲渡代金を振り込むものとする」といった表現です。実際の入金確認や領収書は、契約書とは別に整理します。
株式譲渡と同時に、事務所不動産の売買、役員貸付金の返済、金銭消費貸借契約、事業資産の譲渡などを同じ書面に入れることがあります。この場合、株式譲渡の部分は不課税でも、別の条項が課税文書に該当する可能性があります。
たとえば、不動産の譲渡に関する契約書や金銭の貸し借りに関する契約書は、印紙税の対象になることがあります。1つの書類にまとめると管理は楽に見えますが、税務判断は複雑になりやすいもの。M&A実務では、契約書を分けたほうが分かりやすい場面も少なくありません。
契約書本体には受領文言を入れなくても、別に作成した覚書や確認書に「代金を受領した」と書けば、その別文書が受取書として課税対象になる可能性があります。書類名を変えても、受領事実を証明する目的があれば注意が必要です。
会社売却では、契約書本体、クロージング確認書、領収書、株主名簿書換請求書、議事録など複数の書類を同日に取り交わします。どの書類に何を書くかを整理しておかないと、印紙の要否だけでなく、後日の証拠関係も分かりにくくなります。
収入印紙が必要になるかどうかは、最終的には文書の記載内容で判断します。ここでは、契約書や別文書が受取書として扱われる場合の見方を整理します。
金銭を受け取った事実を証明する文書は、印紙税法上の第17号文書に当たることがあります。領収書、受取書、預り書だけでなく、請求書や納品書に受領済みであることを記載したものも、受取事実を証明する目的なら該当する場合があります。
ただし、第17号文書に該当する場合でも、すべて同じ税額になるわけではありません。売上代金に係る受取書か、売上代金以外の受取書か、営業に関するものかによって扱いが変わります。ここは少し専門的ですが、株式譲渡ではとても重要です。
以下の表は、売上代金に係る受取書の印紙税額です。たとえば、商品販売やサービス提供の代金を受け取った領収書では、受取金額に応じて印紙税額が変わります。
一方で、株式譲渡代金だけの受取書については、通常、売上代金に係る受取書とは別に判断されます。また、個人株主が自分の株式を譲渡するような営業に関しない受取書であれば、非課税となる場合もあります。そのため、株式譲渡契約書に受領文言を入れた場合に、下表の金額が必ずそのまま当てはまるとは限りません。
|
記載された受取金額 |
必要な印紙税額 |
|
5万円未満 |
非課税 |
|
5万円以上100万円以下 |
200円 |
|
100万円を超え200万円以下 |
400円 |
|
200万円を超え300万円以下 |
600円 |
|
300万円を超え500万円以下 |
1千円 |
|
500万円を超え1千万円以下 |
2千円 |
|
1千万円を超え2千万円以下 |
4千円 |
|
2千万円を超え3千万円以下 |
6千円 |
|
3千万円を超え5千万円以下 |
1万円 |
|
5千万円を超え1億円以下 |
2万円 |
|
1億円を超え2億円以下 |
4万円 |
|
2億円を超え3億円以下 |
6万円 |
|
3億円を超え5億円以下 |
10万円 |
|
5億円を超え10億円以下 |
15万円 |
|
10億円を超えるもの |
20万円 |
|
受取金額の記載のないもの |
200円 |
株式譲渡代金の受領書は、売上代金以外の受取書として扱われる可能性があります。この場合、5万円以上であっても200円となることがあります。さらに、営業に関しない受取書であれば非課税となることもあります。
ただし、契約書の中に他の資産譲渡や役務提供の対価が混ざる、受取金額の性質が記載から明らかでない、売上代金とそれ以外の金額を区分できないといった場合は、判断が変わることがあります。細かい話に見えますが、会社売却では金額が大きくなります。文言の違いが税額や後日の説明に響くこともあるため、契約前に税理士へ確認しておくと安心です。
課税文書に該当するのに収入印紙を貼らなかった場合、本来の印紙税額に加えて、その2倍に相当する金額が過怠税として課され、合計で本来税額の3倍になることがあります。たとえば、本来2万円の印紙が必要な文書に印紙を貼っていなかった場合、合計6万円の負担になる可能性があります。
また、印紙を貼っていても、所定の方法で消印していなければ、消されていない印紙の額面に相当する過怠税が課されることがあります。貼れば終わりではありません。
調査で指摘される前に、課税文書に印紙を貼っていなかったことを所轄税務署へ申し出た場合には、過怠税が軽くなる扱いもあります。とはいえ、最初から受領文言を分け、印紙の要否を確認しておくほうが実務上は安全です。
本来は印紙が不要な株式譲渡契約書に、誤って収入印紙を貼ってしまうこともあります。その場合、一定の手続により印紙税の過誤納として還付を受けられる可能性があります。契約書の原本や貼付状況を確認する必要があるため、まずは所轄税務署または税理士に相談するのが現実的です。
同じ契約内容でも、紙で作成するか、電子契約で締結するかによって印紙税の扱いは変わります。最近は中小企業のM&Aでも、遠方の買い手企業と電子契約を使う場面が増えています。
印紙税は、課税文書の作成に対して課されます。電子契約では、紙の契約書という物理的な文書を作成しないため、通常は印紙税の対象になりません。
そのため、電子契約サービスを利用してPDF等の電磁的記録として締結する場合、紙の収入印紙を貼る対象はありません。ただし、電子契約の証拠力や本人確認、社内決裁、相手方の運用ルールは別の論点です。印紙税がかからないことだけで決めるものではありません。
紙で契約書を作る場合、正本と副本を複数作成することがあります。課税文書に該当する文書を複数作成すれば、それぞれに印紙税の確認が必要です。株式譲渡契約書本体が不課税でも、受領書を兼ねる文言が入っていれば、各通の扱いを検討します。
一方、単なるコピーや社内保管用の控えで、契約当事者の署名押印がなく、相手方に交付する証拠文書として機能しないものは、正本とは扱いが異なる場合があります。形式だけでは判断しづらいので、書類の使い方まで確認しましょう。
実務では、株式譲渡契約書には「支払予定」「支払方法」「支払期限」を書き、実際の受領事実は別の領収書や入金記録で管理する方法が分かりやすいです。印紙税だけでなく、後日の証拠整理にも向いています。
たとえば、クロージング日に買い手が指定口座へ振り込み、売り手が入金を確認する。そのうえで、必要に応じて別途領収書を発行します。契約書本体に「受領済み」と書かないため、株式譲渡契約書を不課税文書として整理しやすくなります。
契約書を作る前に、少なくとも次の点を確認しておくと判断がぶれにくくなります。
・契約書に代金を受け取った旨を書く予定があるか
・契約書は紙で締結するか、電子契約で締結するか
・株式譲渡と同時に、不動産、事業資産、貸付金、役員退職金などを同じ書面で扱うか
・領収書やクロージング確認書を別に作るか
・正本、副本、控えを何通作成するか
こうした確認は、契約書の最後に慌てて行うより、ドラフト作成の段階で済ませるほうが確実です。
印紙の要否は大切ですが、株式譲渡の実務ではそれだけでは足りません。特に中小企業では、株主名簿や譲渡承認手続が曖昧なまま長年経過していることがあります。ここで手続が止まることも珍しくありません。
中小企業の株式には、定款で譲渡制限が付いていることが多くあります。譲渡制限株式とは、株式を第三者へ譲渡する際に会社の承認が必要な株式です。
この場合、売り手は会社に対して株式譲渡承認請求書を提出し、会社は定款に定められた機関で承認を行います。取締役会設置会社なら取締役会、非設置会社なら株主総会が原則的な承認機関になります。承認決議をしたら、議事録を作成して記録を残します。
株式譲渡契約を結び、代金を支払っても、会社の株主名簿が古いままでは実務上の混乱が残ります。株主名簿は、会社が株主を管理するための帳簿です。買い手が新株主として権利を行使するには、株主名簿の書換が重要になります。
一般には、売り手と買い手が共同で株主名簿書換請求書を会社へ提出し、会社が株主名簿を更新します。必要に応じて、株主名簿記載事項証明書を発行してもらい、新株主であることを証明できるようにしておきます。
株式譲渡承認の決議をした場合、株主総会議事録や取締役会議事録は、後日の紛争予防に役立ちます。M&Aでは、買い手企業が過去の株主構成や承認手続を確認するため、デューデリジェンス、つまり買収前調査でこれらの書類を求めることがあります。
議事録には、開催日時、出席者、決議事項、承認内容を分かりやすく残します。招集通知や承認通知も合わせて保管しておくと、手続の流れを説明しやすくなります。書類が整っている会社は、買い手から見ても安心材料になります。
株主は商業登記簿の記載事項ではありません。そのため、株式譲渡そのものを理由に、通常は商業登記をする必要はありません。定款変更も原則として不要です。
ただし、会社売却に伴って代表取締役や取締役が交代する場合は、役員変更登記が必要になります。クロージング日に旧経営者が退任し、買い手側から新代表が就任するケースでは、司法書士への依頼も含めて事前に段取りを決めておきましょう。
収入印紙の判断は、株式譲渡全体の一部です。会社売却では、譲渡価格、税金、個人保証、従業員、取引先、金融機関対応が同じタイミングで動きます。印紙だけを見ていると、もっと重要な論点を見落とすことがあります。
創業者だけでなく、配偶者、子、兄弟姉妹、古い役員、従業員などに株式が分散している会社では、全員の同意と書類準備が必要になります。売り手代表者だけが進められると思っていたら、少数株主の確認で時間がかかる。こういうケースは珍しくありません。
委任状を取り付けて代表者が手続を進める方法もありますが、価格や条件に不満が出ると後で紛争になりやすくなります。また、低すぎる価格で株式を集約すると、贈与税などの税務論点が出る場合があります。印紙税より前に、株主構成の整理が必要です。
株式譲渡では、個人株主に譲渡益が生じると、所得税、復興特別所得税、住民税がかかります。非上場株式の譲渡では、譲渡価格から取得費や譲渡費用を差し引いて譲渡益を計算するのが基本です。
役員退職金を組み合わせる場合、会社側の損金算入、退職金の適正額、株価への影響、買い手との条件交渉を同時に検討します。退職金を使えば必ず有利という単純な話ではありません。手取り額を見ながら、契約書の条件と税務処理を合わせて設計する必要があります。
中小企業の会社売却では、旧経営者の個人保証が残っていることがあります。株式を譲渡して経営から離れるのに、借入金の保証だけが残るのは大きな不安です。
買い手企業、金融機関、売り手の間で、保証解除の時期と条件を整理しておきましょう。株式譲渡契約書に、保証解除をクロージングの前提条件として入れることもあります。印紙税の確認と同じタイミングで、クロージング書類の全体を見直すと漏れを防ぎやすくなります。
株式譲渡には、税務、法務、登記、M&A実務が重なります。印紙税や譲渡益の税金は税理士、契約書や表明保証は弁護士、役員変更登記は司法書士、買い手探索や条件調整はM&Aアドバイザーが関わることが一般的です。
経営者がすべてを自分で判断する必要はありません。むしろ、どの論点を誰に確認するかを早めに分けることが大切です。契約書に印紙がいるかどうかという小さな疑問から、会社売却全体のリスク整理につながることもあります。
株式譲渡契約書や株式譲渡証書は、通常は収入印紙が不要です。ただし、代金の受領事実を書く、別の課税契約を混ぜる、領収書を兼ねると判断が変わります。印紙の有無だけでなく、承認決議、名義書換、税務、個人保証まで同時に確認し、会社売却の後戻りしにくい場面で迷わない準備を進めましょう。不安な点は契約前に専門家へ確認する姿勢が大切です。
著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事
編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人