創業者利益とは、自社株をIPOやM&Aで売却して得る利益です。非上場会社の経営者向けに、IPOとM&Aの違い、税金、ロックアップ、個人保証、経営権の注意点を整理し、会社売却で手取り額を高める準備と早めに確認すべき実務をわかりやすく解説します。
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創業者利益は、単に「会社を高く売る話」ではありません。長年かけて育てた会社の価値を、創業者個人の資産として回収する出口戦略の一つです。
創業者利益とは、創業者が保有する自社株を売却して得るキャピタルゲイン(株式売却益)をいいます。創業時の出資額や株式取得額に比べ、会社の価値が大きく高まっていれば、その差額が大きな利益になります。
中小企業では、創業者が株式の大半を保有し、代表者として金融機関借入の個人保証も負っているケースが珍しくありません。そのため、創業者利益は老後資金や次の挑戦の原資になるだけでなく、経営リスクから離れるための大きな転機にもなります。
上場株式や不動産の売却益も、広い意味ではキャピタルゲインです。ただし、創業者利益には、自分自身が事業を作り、顧客を増やし、人材を育て、会社価値を高めてきた成果という特徴があります。
一般の投資利益は市場環境に左右されます。一方で、創業者利益は、自社の収益力、財務内容、後継者体制、取引先との関係、買い手にとっての魅力を整えることで、ある程度高める余地があります。ここが、経営者にとって重要な違いです。
創業者利益の使い道は、経営者の年齢や家族状況、会社の成長段階によって変わります。代表的な目的は、セミリタイア後の生活資金、資産運用の原資、新規事業への投資資金、相続や資産承継への備えなどです。
もう一つ見落とせないのが、リスクからの解放です。M&A(合併・買収)で会社を譲渡する場合、買い手や金融機関との調整により、個人保証や担保の解除を目指せることがあります。必ず解除できるわけではありませんが、事業を続けながら代表者個人の負担を整理できる点は大きな意味を持ちます。
創業者利益は、贅沢のためだけの資金ではありません。次の人生設計、家族への資産承継、従業員の雇用維持、会社の成長継続を同時に考えるための資金でもあります。
創業者利益を得る代表的な方法は、IPO(新規株式公開)とM&Aによる会社売却です。どちらも自社株を売却して利益を得る点は同じですが、現金化のしやすさと経営者に残る役割は大きく異なります。
IPOは、自社株を証券取引所に上場し、一般投資家が売買できる状態にする方法です。上場により会社の信用力が高まり、採用、資金調達、知名度向上につながることがあります。
ただし、IPOをしても創業者がすぐに全株式を売却できるとは限りません。上場直後はロックアップ契約により一定期間の売却が制限されることがあり、その後もインサイダー取引規制、株価への影響、投資家からの見られ方を考える必要があります。実務上は、一括で現金化するよりも、時間をかけて段階的に売却する形になりやすいです。
会社の成長を市場から評価してもらえる点はIPOの魅力です。一方で、上場後も経営責任や情報開示、株主対応が続くため、創業者個人の出口としては自由度が低くなることもあります。
M&Aによる会社売却では、創業者が保有する株式を買い手企業に譲渡します。非上場会社でも実行でき、条件がまとまれば一括で譲渡対価を受け取れる点が特徴です。
買い手が自社の技術、顧客基盤、人材、許認可、地域シェアなどを高く評価すれば、決算書上の純資産だけでは測れない価格が付くこともあります。中小企業の創業者利益を考えるうえでは、IPOより現実的な選択肢になりやすい場面も多いです。
ただし、M&Aでは経営権を失う可能性があります。株式の過半数または全株式を譲渡すれば、重要な経営判断は買い手側に移ります。創業者が一定期間残るのか、退任するのか、会長や顧問として関与するのかは、契約前に整理しておくべき論点です。
創業者利益は売却額そのものではありません。税金、手数料、借入や保証の整理、契約条件を差し引いた後に、最終的に手元へ残る金額で判断することが大切です。
個人が株式を売却して得た譲渡益は、原則として他の所得と分けて税金を計算する申告分離課税の対象です。税率は、所得税15%、住民税5%に、復興特別所得税を加えた合計20.315%が基本となります。
譲渡益は、一般に「株式の譲渡価額-取得費-譲渡費用」で計算します。譲渡費用には、株式譲渡に直接必要な手数料などが含まれることがあります。高額な取引では、取得費の資料が残っているか、手数料をどこまで譲渡費用として扱えるかで、税額が変わることもあります。
たとえば、創業時の出資額が5,000万円、株式譲渡価額が5億円、譲渡に直接かかる手数料が2,500万円の場合、譲渡益は4億2,500万円です。この譲渡益に20.315%を掛けると、税額は約8,634万円になります。
この例では、譲渡益から税金を差し引いた金額は約3億3,866万円です。一方、実際の入金から手数料と税金を差し引いた手取り額は、約3億8,866万円となります。似た数字に見えますが、譲渡益と手取り額は別物です。ここを混同すると、売却後の資金計画がずれやすくなります。
M&Aで創業者利益を得る場合、株式を自由に売れるとは限りません。定款に株式譲渡制限がある会社では、株主総会や取締役会などの承認が必要になることがあります。
また、複数の創業株主や投資家がいる会社では、株主間契約に注意が必要です。先買権、共同売却権、ドラッグアロング条項、買取価格の算定方法などが定められていると、売却相手や売却条件に影響します。
M&A実務では、買い手が見つかった後に株主間契約の制約が分かり、交渉が止まることがあります。意外と多い落とし穴です。創業者利益を狙うなら、買い手探しより前に、株主構成と契約書を確認しておく方が安全です。
創業者利益は、売却交渉の場だけで決まるものではありません。売却を考え始める数年前から、会社の見え方を整えておくことで、買い手の評価が変わることがあります。
買い手が重視するのは、過去の売上だけではありません。利益の安定性、粗利率、役員報酬や保険料を調整した実態利益、借入金、不要資産、運転資金、顧客の継続性などを確認します。
創業者個人への依存が強すぎる会社は、利益が出ていても評価が伸びにくいことがあります。経営者が抜けた後も回る組織かどうか。ここが見られます。営業、製造、管理、財務の責任者を育て、月次決算や契約書を整理しておくことは、創業者利益を増やす準備になります。
IPOとM&Aのどちらが有利かは、会社の規模、成長性、業界環境、株主構成、創業者の希望によって異なります。高成長で市場からの資金調達を狙える会社ならIPOが候補になります。一方、後継者問題、個人保証、早期の現金化、従業員の雇用維持を重視する場合は、M&Aが合いやすいこともあります。
大切なのは、最初から一つに決め打ちしないことです。IPOを目指して管理体制を整えることは、M&Aでの評価向上にもつながります。反対に、M&Aの買い手候補と接点を持つことで、自社の市場価値を把握できることもあります。
専門家への相談は、売却を決断した後でなくても構いません。むしろ、決算書の見せ方、株主構成、税金、個人保証、退職金、役員退任時期などは、早めに論点を洗い出した方が選択肢が広がります。
M&Aの専門家、税理士、公認会計士、弁護士などの役割はそれぞれ違います。価格交渉だけでなく、税引後の手取り額、契約リスク、買い手候補の比較、従業員への説明時期まで含めて相談できる体制を作ると、創業者利益を守りやすくなります。
全株式を譲渡する場合、創業者は原則として支配権を手放します。ただし、譲渡後すぐに退任するケースもあれば、一定期間は代表者や顧問として残るケースもあります。
買い手は、顧客や従業員との関係を安定させるために、創業者の一定期間の関与を求めることがあります。創業者側も、完全リタイアしたいのか、段階的に引き継ぎたいのか、次の事業を始めたいのかを先に決めておく必要があります。
会社売却後に代表者を退任しても、個人保証が残れば安心して次の人生に進めません。金融機関借入がある会社では、買い手の信用力、借換え、保証人変更、金融機関の承諾などを確認します。
契約書では、個人保証や担保の解除に向けた手続、解除できない場合の対応、クロージング前後の役割分担を整理します。創業者利益の金額が大きくても、保証リスクが残ると実質的な安心感は下がります。
創業者利益は個人の成果ですが、会社は従業員、取引先、金融機関に支えられています。買い手候補を選ぶ際は、譲渡価格だけでなく、雇用条件、社名や拠点の維持、主要取引先への説明方針、事業の成長可能性を確認します。
高い価格を提示する買い手が、常に最良とは限りません。譲渡後に従業員が離職したり、取引先の信頼を失ったりすれば、創業者自身の納得感も損なわれます。価格と引継ぎ条件のバランスを見て判断することが重要です。
創業者利益は、IPOやM&Aで自社株を売却し、会社価値を個人資産として回収するものです。大切なのは、売却額だけでなく、税金、個人保証、経営権、従業員への影響を合わせて見ること。早めに株主構成や決算書を整え、家族や会社の将来も含めて、自社に合う出口を検討しましょう。
著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事
編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人