創業者利益の獲得方法とは?IPOとM&Aの比較で解説

創業者利益の獲得方法としてIPOとM&Aを比較し、それぞれの特徴や留意点を解説します。税務面の考慮事項や利益最大化の戦略も紹介し、創業者の皆様に役立つ情報をお届けします。 

目次

  1. 創業者利益の定義と特徴
  2. 創業者利益の獲得目的
  3. IPOを通じた創業者利益の獲得
  4. M&Aによる創業者利益の獲得
  5. 創業者利益に関する税務
  6. 創業者利益の最大化戦略
  7. まとめ

創業者利益の定義と特徴

創業者利益とは、企業の創業者が自社の株式を売却することで得られる利益のことを指します。この利益は、主にIPO(株式公開)やM&A(合併・買収)を通じて実現されます。

創業者利益の本質

創業者利益の本質は、創業者が長年にわたって築き上げてきた企業価値を金銭的に換算したものと言えます。具体的には、以下のような特徴があります。

1. 自社株式の売却利益:創業者が保有する自社の株式を、市場や第三者に売却することで得られる利益です。

2. 企業価値の反映:創業者の努力と企業の成長が、直接的に利益額に反映されます。

3. 一時的な大型収入:通常の事業収益とは異なり、一度に大きな金額を得ることができます。

4. 創業者個人の資産:会社の資産ではなく、創業者個人が得る利益となります。

創業者利益は、創業者が自身の経営努力の成果を享受する機会として重要な意味を持ちます。


キャピタルゲインと創業者利益の相違点

創業者利益とキャピタルゲインは、どちらも資産の売却益を指す点で類似していますが、いくつかの重要な違いがあります。

1. 対象資産: 

  • 創業者利益:自ら創業した会社の株式
  • キャピタルゲイン:株式、債券、不動産など幅広い資産

2. 価値向上への関与: 

  • 創業者利益:創業者自身が企業価値向上に直接関与
  • キャピタルゲイン:通常、投資家は価値向上に直接関与しない

3. コントロール性: 

  • 創業者利益:経営を通じて利益の最大化をコントロール可能
  • キャピタルゲイン:市場動向に依存し、個人のコントロールは限定的

4. 獲得の頻度: 

  • 創業者利益:通常、一度または少数回の機会
  • キャピタルゲイン:投資活動を通じて複数回獲得可能

5. リスクと報酬の関係: 

  • 創業者利益:長期的な事業リスクと経営努力の結果
  • キャピタルゲイン:比較的短期的な市場リスクに基づく

これらの違いから、創業者利益は単なる投資利益ではなく、創業者の長年の努力と経営能力が結実した特別な形態の利益と言えます。

創業者利益の獲得目的

創業者利益を獲得する目的は、創業者個人のニーズや企業の状況によって異なります。主な目的として以下が挙げられます。

セミリタイア資金の確保

創業者利益は、セミリタイアのための資金として活用されることがあります。長年の経営努力の後、創業者が仕事のペースを落とし、より自由な生活を送るための資金源となります。具体的には:

1. 生活資金の確保:定期的な収入が減少しても、快適な生活を維持するための資金となります。

2. 資産運用の原資:獲得した利益を投資に回すことで、安定的な収入源を確保できます。

3. 趣味や自己実現の資金:仕事以外の活動に時間とお金を費やすことが可能になります。

新規事業への投資

創業者利益は、新たな事業展開のための資金としても活用されます。この方法には以下のような利点があります。

1. リスク軽減:個人資産や銀行融資に頼らず、新事業を立ち上げることができます。

2. 迅速な事業展開:十分な資金があることで、スピーディーな事業立ち上げが可能になります。

3. 経験の活用:これまでの経営ノウハウを活かした新事業展開ができます。

4. 社会貢献:より社会的意義の高い事業に挑戦する機会を得られます。

企業の負債整理

創業者利益を活用して、企業の財務状況を改善することも可能です。特に以下のような場合に有効です。

1. 累積債務の解消:事業拡大や投資のために積み重なった負債を一括返済できます。

2. 財務体質の強化:負債を減らすことで、企業の信用力と財務健全性が向上します。

3. 事業再構築の資金:負債整理後、新たな事業展開のための資金として活用できます。

4. 個人保証の解除:創業者個人が負っていた保証を解除し、リスクを軽減できます。

IPOを通じた創業者利益の獲得

IPO(株式公開)は、創業者利益を獲得する主要な方法の一つです。ここでは、IPOによる創業者利益の獲得方法とその課題について説明します。

IPOによる創業者利益の実現方法

IPOを通じて創業者利益を獲得するプロセスは以下の通りです。

1. 株式の公開:自社の株式を証券取引所に上場し、一般投資家が取引できるようにします。

2. 株価の形成:市場での取引を通じて、企業価値を反映した株価が形成されます。

3. 保有株式の売却:創業者は保有する株式の一部または全部を市場で売却します。

4. 売却益の獲得:売却価格と取得価格(通常は額面価格)の差額が創業者利益となります。

IPOによる創業者利益獲得のメリット:

企業の社会的信用度とブランドイメージの向上

優秀な人材の獲得が容易になる

株式市場を通じた資金調達の可能性

デメリット:

株式の自由な活用が制限される(インサイダー取引規制等)

情報開示義務や株主への説明責任が増加する

短期的な業績への圧力が高まる可能性がある

IPOにおける現金化の課題

IPOを通じて創業者利益を現金化する際には、いくつかの課題があります。

1. インサイダー取引規制:創業者は重要な内部情報を持つため、株式売却のタイミングが制限されます。

2. 株価への影響:大量の株式売却は株価下落を招く可能性があり、慎重な対応が必要です。

3. 段階的な売却の必要性:一度に大量の株式を売却することは難しく、長期的な計画が求められます。

4. ロックアップ期間:IPO直後は一定期間、株式売却が制限されることがあります。

5. 市場動向の影響:全体的な市場の状況によって、望ましい価格で売却できない可能性があります。

これらの課題により、IPOによる創業者利益の獲得は、長期的かつ戦略的なアプローチが必要となります。

M&Aによる創業者利益の獲得

M&A(合併・買収)は、非公開企業の創業者が創業者利益を獲得する有効な手段です。IPOと比較して、より柔軟な対応が可能です。

M&Aを活用した創業者利益の獲得戦略

M&Aによる創業者利益獲得の基本的なプロセスは以下の通りです。

1. 買収先の探索:自社と相性の良い買収候補企業を見つけます。

2. 企業価値評価:自社の価値を適切に評価し、交渉の基礎とします。

3. 条件交渉:株式譲渡の価格や条件について交渉を行います。

4. 契約締結:合意した条件で株式譲渡契約を締結します。

5. クロージング:株式の譲渡と対価の受け取りを行います。

M&Aによる創業者利益獲得のメリット:

一括での大型資金獲得が可能

買収先を自ら選択できる

IPOと比較して規制が少ない

非公開のまま利益を獲得できる

デメリット:

適切な買収先を見つけるのが困難な場合がある

交渉次第で譲渡条件が大きく変わる可能性がある

プロセスが複雑で時間がかかることがある

M&Aを成功させるためのポイント:

1. 専門家の活用:M&A仲介会社や法務・財務アドバイザーの支援を受ける

2. 適切な企業価値評価:自社の強みや将来性を適切に評価し、交渉に臨む

3. 戦略的なタイミング選択:業績好調時など、最適なタイミングでM&Aを実施する

4. シナジー効果の追求:買収先との相乗効果を明確にし、高い評価を得る

5. 交渉力の強化:自社の価値を的確に説明し、有利な条件を引き出す能力を磨く

株主間契約における注意点

M&Aを通じて創業者利益を獲得する際、既存の株主間契約に注意を払う必要があります。

1. 株式譲渡制限:他の株主の同意なしに株式を譲渡できない条項がある場合があります。

2. 先買権条項:他の株主に優先的に株式を買い取る権利が与えられていることがあります。

3. 共同売却権:一部株主が株式を売却する際、他の株主も同じ条件で売却できる権利です。

4. ドラッグアロング条項:大株主が株式を売却する際、少数株主も同じ条件で売却を強制される条項です。

5. 買取価格の算定方法:契約で定められた方法で株価を算定する必要がある場合があります。

これらの条項の存在により、M&Aによる創業者利益の獲得が制限されたり、複雑化したりする可能性があります。事前に契約内容を精査し、必要に応じて他の株主との調整や契約の見直しを行うことが重要です。

創業者利益に関する税務

創業者利益に対する課税は、通常の所得とは異なる扱いを受けます。

主な特徴

1. 分離課税の適用: 

  • 創業者利益は他の所得と分離して課税されます。
  • 税率が一定であるため、高額な利益でも税率が上がりません。

2. 適用税率: 

  • 所得税:15%
  • 住民税:5%(地域により若干の差異あり)
  • 復興特別所得税:0.315%(所得税額の2.1%)
  • 合計税率:約20.315%

3. 税額計算方法: 創業者利益(譲渡所得)= 株式譲渡価額 - (取得額 + 譲渡費用) 税額 = 創業者利益 × 20.31        5%

4. 具体的な計算例: 

  • 創業時出資額:5,000万円
  • 売却価額:5億円
  • M&A仲介手数料:2,500万円の場合

 創業者利益 = 5億円 - (5,000万円 + 2,500万円) = 4億2,500万円 税額 = 4億2,500万円 × 20.315% ≒ 8,633万 8,750円 税引後創業者利益 = 4億2,500万円 - 8,633万8,750円 = 3億3,866万1,250円

5. 税務上の留意点: 

  • 株式の取得価額の証明が重要です。適切な記録を保管しましょう。
  • M&A仲介手数料等の譲渡費用は控除できますが、証憑の保管が必要です。
  • 特殊な条件がある場合(例:ストックオプション行使による取得など)は、税務専門家に相談することをお勧めします。

創業者利益に対する課税は比較的シンプルですが、高額な取引となるため、正確な計算と適切な申告が重要です。

創業者利益の最大化戦略

創業者利益を最大化するためには、戦略的なアプローチが不可欠です。ここでは、主要な二つの戦略について詳しく説明します。

業績好調時の売却タイミング

創業者利益を最大化するためには、企業の業績が最も好調な時期に売却することが重要です。

1. 業績のピークを見極める: 

  • 売上高や利益の推移を分析し、上昇トレンドの頂点を予測します。
  • 業界動向や市場環境も考慮し、最適なタイミングを判断します。

2. 将来の成長性をアピール: 

  • 単に現在の業績だけでなく、将来の成長ポテンシャルも評価に反映させます。
  • 具体的な成長戦略や新規事業計画を提示し、企業価値を高めます。

3. 財務諸表の最適化: 

  • 売却前に不要な資産の整理や負債の圧縮を行い、財務内容を改善します。
  • 収益性や効率性を示す各種指標を向上させ、高評価を得やすくします。

4. 市場環境の考慮: 

  • 業界全体の動向や景気循環を見極め、最適なタイミングを選びます。
  • M&Aマーケットが活況を呈している時期を狙います。

5. 複数の選択肢の準備: 

  • IPOとM&Aの両方の準備を進め、より有利な方法を選択できるようにします。
  • 複数の買収候補との交渉を並行して進め、条件の比較検討を行います。

M&A専門家の活用

M&A専門家の適切な活用は、創業者利益を最大化する上で非常に重要です。

1. M&A仲介会社の選定: 

  • 実績や専門性、ネットワークの広さを考慮して選びます。
  • 自社の業界や規模に適した仲介会社を選択します。

2. 企業価値評価の精緻化: 

  • 専門家の知見を活かし、自社の隠れた価値を適切に評価します。
  • 業界標準の評価方法だけでなく、自社の特徴を反映した評価を行います。

3. 買収候補の探索と選定: 

  • 専門家のネットワークを活用し、最適な買収候補を見つけ出します。
  • シナジー効果が高く、文化的にも適合する企業を選びます。

4. 交渉戦略の立案: 

  • 専門家の経験を基に、効果的な交渉戦略を立てます。
  • 価格だけでなく、各種条件も含めた総合的な交渉を行います。

5. デューデリジェンスの支援: 

  • 法務、財務、税務など多方面からのチェックを行います。
  • リスクの洗い出しと対策立案を支援してもらいます。

6. 契約書作成と条件交渉: 

  • 法的リスクを最小限に抑えた契約書の作成を依頼します。
  • 有利な条件を引き出すための交渉をサポートしてもらいます。

7. クロージングまでの管理: 

  • 複雑なプロセスを適切に管理し、スムーズな取引完了を目指します。
  • 想定外の事態にも迅速に対応できる体制を整えます。

M&A専門家を効果的に活用することで、創業者は自身の本業に集中しながら、最大限の創業者利益を獲得する機会を得ることができます。

まとめ

創業者利益は、長年の経営努力の結果として得られる重要な報酬です。IPOやM&Aを通じて獲得できますが、それぞれに特徴やメリット・デメリットがあります。最大化のためには、業績好調時の売却や専門家の活用が鍵となります。税務面にも注意を払い、戦略的に取り組むことが成功への道筋となります。

著者|竹川 満 マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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