株式交換比率の基本から実例まで:M&A成功の鍵を徹底解説

株式交換比率はM&Aの成否を左右する重要な指標です。その基本概念から計算方法、実務での評価手法、注意点まで詳しく解説。実際のM&A事例も交えて、株式交換比率の重要性を分かりやすく説明します。

目次:

  1. 株式交換比率の基本概念
  2. 株式交換比率の算出方法
  3. 株式交換比率設定時の留意点
  4. 実例で見る株式交換比率
  5. まとめ

株式交換比率の基本概念

株式交換比率は、企業がM&A(合併・買収)を行う際に重要な役割を果たす指標です。特に、ある会社が他の会社を完全子会社化する場合に用いられる重要な概念です。

株式交換比率とは、完全子会社となる会社の株主が保有している旧株式(1株)に対して、完全親会社となる会社の新株式を何株受け取れるかを示す比率のことを指します。この比率は、両社の株主の利益を公平に保護するために慎重に決定されます。

株式交換の定義

株式交換とは、ある会社(譲受会社)が他の会社(譲渡対象会社)の発行済株式の全てを取得する手法です。この過程で、譲受会社は「完全親会社」となり、譲渡対象会社は「完全子会社」となります。

株式交換が実行されると、以下のような変化が生じます:

1. 譲受会社(完全親会社)は対象会社(完全子会社)を100%支配することができます。

2. 対象会社の株主は、株式交換に伴って、対象会社の株式を譲受会社に譲渡します。

3. 対象会社の株主は、譲渡した株式の代わりに、譲受会社の株式等の別の資産を取得します。

2005年の会社法改正により、株式交換の対価の柔軟化が認められました。これにより、譲受会社の株式だけでなく、現金や譲受会社の親会社株式等の交付も可能になりました。

M&Aにおける株式交換比率の意味

M&Aにおける株式交換比率は、売り手のオーナー経営者等が保有している自社株(1株)に対して、買い手の株式を何株受け取れるかを示す比率です。この比率は、両社の企業価値を公平に反映するように設定されます。

株式交換比率の決定プロセスは以下の通りです:

1. 譲受会社と対象会社それぞれの1株当たりの株式価値を算定します。

2. 算出された評価額に基づいて比率を設定します。

例えば、買い手の1株当たり株式価値が100円で、売り手の1株当たり株式価値が500円と算定された場合、交換比率は1:5となります。この場合、売り手の株式1株に対して買い手の株式を5株交付することになります。

このように、株式交換比率は両社の相対的な価値を反映し、公平な取引を実現するための重要な指標となります。



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株式交換比率の算出方法

株式交換比率を決定する際には、関係する企業の株価を明確に把握することが不可欠です。算出方法は、対象企業が上場企業か非上場企業かによって異なります。

上場企業の場合:公表されている株価を参照できます。

非上場企業の場合:企業価値評価を用いて株価を算定する必要があります。

企業価値評価を理解するためには、「企業価値」と「株式価値」の違いを把握することが重要です:

企業価値:企業の将来のキャッシュフローを現在の価値に換算したもの

株式価値:企業価値から有利子負債を差し引き、現預金を加えた金額

株式交換比率を決定する際には、最終的に株式価値に変換することが重要です。

企業価値評価のアプローチ

株式価値の算定方法は大きく3つのアプローチに分類できます:

1. マーケットアプローチ 

• 定義:株式市場やM&A市場における取引価額を基準に株式価値を算定する手法 • 具体的な方法: 

 o 市場株価法:上場企業向けの手法で、公表されている株価を基に算出

 o 類似企業比較法:類似した上場企業の財務指標を基準にする手法

 o 類似取引比較法:類似した会社の実際の取引価額を基準にする手法

 • メリット:他社の事例を活用することで客観的な価値を算出できる

 • デメリット:似ている企業や取引事例を見つけるのが困難な場合がある

2. インカムアプローチ

定義:今後見込まれる収益やキャッシュフローから、リスクなどを考慮して企業価値を算出する手法 

代表的な方法:DCF法(ディスカウンテッド・キャッシュフロー法)

特徴: 

 o 将来のキャッシュフローを現在価値に換算するための割引率を設定

 o 事業計画を作成し、キャッシュフローの予測を立てる必要がある

メリット:企業が持つ将来の収益獲得能力や固有の性質を評価結果に反映できる

3. コストアプローチ

定義:会社の資産および負債を基に株式価値を算定するアプローチ方法

特徴:帳簿上の数値を基にして計算するため、客観性に優れている

代表的な手法: 

 o 簿価純資産法:帳簿上の純資産額を株式価値とみなす

 o 時価純資産法:帳簿上の資産や負債を時価で評価し直し、時価純資産額を算出

 o 時価純資産+営業権法:修正された時価純資産に営業権を加算して株式価値を算出

実務で用いられる評価手法

実務では、対象企業の状況に応じて以下のような評価方法が採用されています:

1. 上場会社株式の主な株式価値算定手法

        市場株価平均法、DCF法、類似会社比較法 等

2. 非上場会社株式の主な株式価値算定手法   

        DCF法、類似会社比較法、時価純資産+営業権法 等

これらの手法を適切に組み合わせることで、より精度の高い株式価値の算定が可能となります。

株式交換比率設定時の留意点

株式交換を行う際、特に経営者が自社の大株主である中小企業の場合、以下の点に十分注意を払う必要があります。

株価変動によるリスク

株式交換比率が公表された後、株価が変動する可能性があります。これにより、株式交換によって想定外の損失が発生するリスクがあるため、慎重な対応が求められます。

株式交換比率は通常、直近の株価を基に算定されますが、公開後に短期投資家の影響で株価が大幅に変動することがあります。例えば、2011年のアドバネクスによるストロベリーコーポレーションの完全子会社化の事例では、株式交換比率の発表後、アドバネクスの株価が急上昇しました。

このような状況が続いた場合、ストロベリーコーポレーションの株主に大きな不利益が生じる可能性があり、株式交換比率の見直しを求める声も上がりました。最終的には株価が元の水準に戻り、予定通り株式交換が実施されましたが、このケースは株価変動リスクの重要性を示す好例といえます。

単元未満株式発生の可能性

株式交換後、単元未満株式が発生する可能性にも注意が必要です。単元株式制度は、株式を100株単位や1,000株単位で取引することで、取引の効率化を図るために導入されています。

しかし、株式交換の結果として単元未満株式が発生した場合、以下のような問題が生じる可能性があります:

1. 株主総会での議決権が認められない

2. 株式として保有できないため、以下のいずれかの対応が必要となる

 • 株式交換実行時に株式の買取りを請求する

 • 単元株式になるまで株式を買い増す

これらの問題を回避するためには、株式交換比率の設定時に単元未満株式の発生可能性を考慮し、適切な対策を講じることが重要です。

実例で見る株式交換比率

実際の企業のM&A事例を通じて、株式交換比率がどのように設定されたかを見ていきましょう。以下の3つの事例を通じて、株式交換比率の実際の適用例を理解することができます。

トヨタ自動車によるダイハツ工業の完全子会社化

実施日:2016年8月1日

株式交換比率:ダイハツ工業:トヨタ自動車=1:0.26

交換方法:ダイハツ工業の株式1株に対し、トヨタ自動車の株式0.26株を交付

トヨタ自動車は、世界的な需要拡大が見込まれる小型自動車市場での競争力強化を目的に、この株式交換を実施しました。ダイハツ工業との開発・製造体制の一元化により、小型車分野での効率化と競争力向上を図ろうとしています。

パナソニックによる三洋電機の完全子会社化

実施日:2011年4月1日

株式交換比率:三洋電機:パナソニック=1:0.115

交換方法:三洋電機の株式1株に対し、パナソニックの株式0.115株を交付

パナソニックは事業再編の一環として、この株式交換を実施しました。主な目的は以下の通りです:

1. 事業部門の集約によるコスト削減

2. 増販効果による収益増加

これらの施策により、グループ全体の競争力強化と収益性向上を目指しています

三菱化学による日本化成の完全子会社化

実施日:2017年1月1日

株式交換比率:三菱ケミカルHD:日本化成=1:0.21

交換方法:三菱ケミカルHDの株式1株に対し、日本化成の株式0.21株を交付

この事例では、株式会社三菱ケミカルホールディングスの完全子会社である三菱化学株式会社が、グループ内の連結子会社である日本化成株式会社を完全子会社化しています。

三菱ケミカルホールディングスは、この株式交換を通じて以下の目的を達成しようとしています:

1. グループ企業が持つ経営資源の効果的な活用

2. グループ全体の競争力と収益力の向上

これらの事例から、株式交換比率が企業の規模や業績、将来性などを考慮して慎重に設定されていることがわかります。また、各企業が株式交換を通じて、事業の効率化や競争力強化といった明確な戦略目標を持っていることも理解できます。

まとめ

株式交換比率は、M&Aにおいて重要な役割を果たす指標です。企業の価値評価に基づいて慎重に設定され、両社の株主の利益を公平に保護する役割を果たします。その算出には様々な手法が用いられ、企業の状況に応じて適切な方法が選択されます。株価変動リスクや単元未満株式の発生など、留意すべき点もあります。実際のM&A事例を見ると、株式交換比率が戦略的な目的達成のための重要なツールとして活用されていることがわかります。

著者|土屋 賢治  マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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