M&Aの成約率は?成約しない理由と売却成功への準備
M&Aの成約率に一律の数字はありません。公的データから中小企業M&Aの成約状況と数字を見る際の注意点を整理し、価格差や財務・税務問題、社長への依存など成約しない理由、破談しやすい段階、売り手が成約可能性を高めるための準備を解説します。
目次

▶目次ページ:第三者承継とは(M&Aの注意点・成功ポイント)
M&A(合併・買収)で会社の譲渡を考えるとき、「実際にどのくらいの割合で成約するのか」は気になるところです。
結論からいうと、中小企業M&A全体について「相談した会社のうち○%が成約する」と一律に示せる公的な成約率はありません。相談件数、支援を正式に依頼した件数、買い手候補と交渉した件数など、どこを出発点にするかで割合が変わるためです。
一方、公的資料からは、中小企業のM&Aによる第三者承継が実際に行われ、その件数が増えてきたことを確認できます。
売り手にとって大切なのは、根拠のはっきりしない「成功率○%」に一喜一憂することではありません。自社が買い手からどのように評価されるのか、成約を妨げる問題がないかを早めに確認し、交渉に入る前から準備することです。
M&Aの成約率を考えるときは、まず「何件のうち何件が成約した数字なのか」を確認する必要があります。
たとえば、M&Aについて相談した会社100社のうち10社が成約した場合と、正式に売却を依頼した会社20社のうち10社が成約した場合では、同じ10件の成約でも割合は大きく異なります。
さらに、相談には「まだ売却するか決めていない」「親族内承継とM&Aのどちらにするか迷っている」といった会社も含まれることがあります。
そのため、相談件数と成約件数を単純に割った数字を、すべての会社に当てはまる「M&Aの成約率」と考えるのは適切ではありません。
M&Aについて調べると、「成功率」という言葉もよく見かけます。しかし、成功率と成約率は同じ意味とは限りません。
| 言葉 | 何を表すか | 主な確認時期 |
| 成約率 | M&Aの検討や交渉を始めた案件のうち、最終契約まで進んだ割合 | M&A成立時 |
| 成功率 | M&A成立後に、売上拡大や事業承継など当初の目的を達成できた割合 | M&A成立後 |
売り手が「自分の会社は売れるのか」を知りたい場合、まず見るべきなのは成約の可能性です。
一方、買い手が「買収によって期待した利益やシナジーを得られたか」を評価する場合は、成約後の成功が問題になります。
この2つを混同すると、「M&Aは成功率が低いから会社を売るのも難しい」といった誤解につながります。
中小企業M&Aの市場全体について、同じ条件で「相談開始から最終契約まで」を追跡した普遍的な成約率は確認できません。
ただし、公的な支援機関や登録M&A支援機関のデータから、第三者への事業承継やM&Aがどの程度行われているかを見ることはできます。
事業承継・引継ぎ支援センターは、全国47都道府県に設置された公的な事業承継・M&Aの支援機関です。親族内承継や従業員承継だけでなく、M&Aによる第三者への引継ぎについても相談できます。
2025年版中小企業白書では、事業承継・引継ぎ支援センターについて、相談社数と第三者承継に関する成約件数がともに近年増加傾向にあると説明されています。
ただし、ここで注意したいのは、「相談社数÷成約件数」をそのまま一般的なM&A成約率として使えないことです。
相談した年度と成約した年度が一致するとは限らず、相談にはM&A以外の事業承継に関するものもあります。相談時点で売却すると決めていない会社も含まれるため、同じ母集団を追跡した数字ではありません。
出典:中小企業庁「2025年版 中小企業白書 第2部第2章第3節 スケールアップに向けた投資行動と海外展開」第2-2-49図(2025年公表)
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2025/chusho/b2_2_3.html
M&A支援機関登録制度では、登録されたFAや仲介会社から報告された中小M&Aの集計結果を公開しています。
2022年4月1日から2025年3月31日までに登録M&A支援機関がFA業務または仲介業務の契約を締結し、最終契約まで至った案件について、譲渡側から報告された件数は次のとおりです。
| 年度 | 譲渡側から報告されたM&A件数 |
| 2022年度 | 4,036件 |
| 2023年度 | 4,681件 |
| 2024年度 | 4,940件 |
この数字から、登録M&A支援機関を通じて毎年多くの中小M&Aが最終契約に至っていることが分かります。
ただし、この集計は「最終契約に至った案件」を対象にしたものです。売却を検討したものの成約しなかった案件を含めた総数との比率ではないため、この4,940件から成約率を計算することはできません。
出典:M&A支援機関登録制度「登録支援機関を通じた中小M&Aの集計結果」(2026年10月5日確認)
https://ma-shienkikan.go.jp/statistics-report
会社が売れるかどうかは、平均的な成約率よりも、個別企業の状態と売却条件に大きく左右されます。
成約を妨げる問題には、交渉を始めてから対応できるものもありますが、準備に時間がかかるものもあります。売却を決める前から自社の課題を洗い出しておくことが重要です。
| 成約を妨げる主な要因 | 買い手が気にすること | 売り手が準備できること |
| 価格の開き | 買収後に投資額を回収できるか | 企業価値と希望価格を分けて考える |
| 財務・税務などの問題 | 買収後に予想外の負担が生じないか | 問題を事前に整理して説明できる状態にする |
| 社長への依存 | 社長が退任しても事業が続くか | 業務や顧客関係を引き継げる状態にする |
| 情報漏えいへの不安 | 従業員や取引先への影響を抑えられるか | 情報開示の相手と時期を管理する |
| 買い手との不一致 | 自社を引き継ぐ合理的な買い手がいるか | 価格以外の希望条件にも優先順位を付ける |
売り手にとって会社には、長年経営してきた思いや将来への期待があります。しかし、買い手は買収後にどの程度の利益やキャッシュフローを得られるか、追加投資が必要かといった観点から価格を判断します。
そのため、売り手の希望価格と買い手が支払える価格に大きな差があると、交渉が進みにくくなります。
重要なのは、最初から希望価格を下げることではありません。企業価値を客観的に確認し、なぜその価格を希望するのか説明できるようにすることです。
譲渡価格だけでなく、税金や支援報酬などを考慮した手取り額も確認しておくと、交渉時の判断がしやすくなります。
M&Aでは、買い手が対象会社についてデューデリジェンス(DD)を行うことがあります。DDとは、財務、税務、法務、労務、事業などのリスクを調べる手続です。
たとえば、簿外債務、未処理の労務問題、株主の分散、会社と個人の資産の混在、許認可や重要契約の問題などが後から判明すると、価格の引下げや契約条件の変更につながることがあります。
問題があるから必ず成約できないわけではありません。
むしろ、後から発覚して買い手の信頼を失うことの方が問題です。事実と影響、対応方法を整理しておけば、価格調整や契約条件を含めて交渉できる場合があります。
中小企業では、社長自身が主要顧客との関係、営業、仕入れ、技術、資金管理などを担っていることがあります。
買い手からすると、「社長が退任した後も同じ売上を維持できるのか」が大きな問題です。
主要な取引先との関係や重要な業務について、社長以外の従業員でも対応できるようにする、業務手順を整理する、幹部を育成するといった準備は、短期間では終わりません。
将来M&Aを選ぶ可能性がある段階から、社長がいなくても事業が回る会社に近づけておくことが大切です。
会社を売却するという情報が不用意に広がると、従業員が退職を考えたり、取引先が今後の取引を不安視したりする可能性があります。
一方で、必要な情報を買い手に開示しなければ、買い手は会社を評価できません。
誰に、いつ、どこまで情報を開示するのかを管理する必要があります。社内でM&Aについて共有するメンバーも、交渉段階に応じて慎重に決めます。
会社に利益が出ていても、希望条件に合う買い手がすぐ見つかるとは限りません。
事業内容、地域、規模、顧客、技術、人材などによって、買収を検討する企業の数は変わります。
また、売り手が価格だけでなく、従業員の雇用維持、会社名や事業の継続、経営者保証の解除など多くの条件を希望すれば、それらに対応できる買い手を探す必要があります。
条件には優先順位を付け、「必ず守りたい条件」と「相手に応じて調整できる条件」を分けておくことが大切です。
M&Aは、買い手候補が見つかれば自動的に成約するわけではありません。
候補先の探索、面談、条件交渉、DD、最終契約と進む中で、新しい情報が分かるたびに双方が「この条件で進めるか」を判断します。
したがって、破談そのものをすべて失敗と考える必要もありません。重大なリスクや条件の不一致が判明した段階で契約を見送ることは、双方にとって必要な判断になる場合があります。
トップ面談では、売り手と買い手の経営者が、事業の特徴やM&A後の方針などを確認します。
売り手が価格だけを重視している一方、買い手が従業員や取引先との関係を重視しているなど、考え方が合わなければ交渉が進まないことがあります。
売り手側も、買い手の資金力だけでなく、M&A後にどのように会社を運営するつもりなのかを確認することが重要です。
価格について合意できても、それだけでM&Aが成立するとは限りません。
従業員の雇用、経営者の引継ぎ期間、役員や従業員の処遇、経営者保証、不動産の取扱いなど、確認する条件は多岐にわたります。
売り手は「高く売る」だけでなく、譲渡後に何を実現したいのかを整理しておく必要があります。
DDで問題が見つかったとき、買い手にはいくつかの選択肢があります。
そのまま契約する、価格を調整する、契約に補償などの条件を加える、決済前に問題を解消してもらう、または買収を見送るといった判断です。
売り手にとって重要なのは、DDで問題が見つからないことだけではありません。
問題がある場合に、その内容を説明し、必要な資料を出し、解決方法について買い手と話し合える状態をつくることです。
交渉が進んでも、買い手の資金調達や経営者保証の解除などが実行できなければ、予定どおり決済できない可能性があります。
提示価格が高いという理由だけで買い手を選ぶのではなく、資金源や支払条件、必要な手続への対応も確認する必要があります。
特に経営者保証については、株式を譲渡すれば自動的に解除されるとは限りません。金融機関との調整を誰がいつ行うのか、契約と実際の手続の両面から確認します。
成約の可能性を高めるために重要なのは、買い手が現れてから会社を整えるのではなく、売却を検討した段階から準備を始めることです。
会社の状態が整理されていれば、買い手も検討しやすくなり、売り手も条件を冷静に判断できます。
まず、決算書、税務申告書、月次試算表、借入金、売掛金、在庫、固定資産などの資料を整理します。
会社と経営者個人の資産や支出が混在している場合は、その内容も説明できる状態にしておきます。
数字だけでは分からない一時的な支出や特殊事情があれば、「なぜこの数字になっているのか」を説明できるようにすることが大切です。
買い手が評価するのは、現在の利益だけではありません。
安定した顧客基盤、専門技術、資格を持つ人材、許認可、地域での営業基盤、仕入先との関係なども、買収する理由になる可能性があります。
「長年続いている会社だから価値がある」だけではなく、買い手が引き継いだ後にも残る強みは何かを具体的に整理します。
経営者への依存が大きい会社では、M&A後の事業継続について買い手が不安を感じやすくなります。
主要顧客を複数の担当者で管理する、重要業務をマニュアル化する、幹部へ権限を移すなど、属人化を少しずつ減らしていきます。
すぐに完全な仕組み化ができなくても、「何が社長に依存しているか」を明確にして、引継ぎ方法を説明できれば買い手も検討しやすくなります。
売却を検討するときは、希望価格だけを決めるのではなく、譲れない条件を整理します。
たとえば、従業員の雇用維持、経営者保証の解除、会社名や事業の継続、経営者自身の引継ぎ期間などです。
「絶対に必要な条件」「できれば実現したい条件」「相手の提案によって調整できる条件」に分けておくと、複数の買い手候補を価格だけで比較せずに済みます。
M&Aの交渉には、資料準備、面談、質問への回答など多くの時間がかかります。
その対応に経営者が集中し過ぎて、営業活動や資金管理がおろそかになれば、交渉中に業績が悪化する可能性があります。
買い手は直近の業績も確認します。交渉開始時より売上や利益が大きく落ちれば、価格の見直しや交渉中止につながる場合があります。
M&Aを進めながら、月次業績、受注状況、資金繰り、主要顧客の動きなどを継続して管理することが重要です。
売り手にとってM&Aの成約は大きな区切りですが、会社や従業員にとっては新しい経営の始まりでもあります。
そのため、成約できる相手かどうかだけでなく、成約後に約束した条件を実行できる相手かという視点も必要です。
提示価格が高くても、資金調達の裏付けが弱かったり、支払条件が不明確だったりすれば注意が必要です。
資金源、M&A後の経営方針、従業員への考え方、必要な手続を進める体制などを確認します。
売却を急いでいるときほど、提示価格だけで相手を決めないことが重要です。
「従業員を大切にしてほしい」「今の取引先を守ってほしい」といった抽象的な希望だけでは、売り手と買い手で受け止め方が違う可能性があります。
雇用について何を希望するのか、経営者や幹部はどのくらいの期間残るのか、取引先にはいつ説明するのかなど、できるだけ具体的に話し合います。
すべての希望が契約条件になるとは限りませんが、早い段階で考えを共有することで、M&A後の認識のずれを減らせます。
PMIとは、M&A成立後に組織、業務、会計、IT、人事制度などを整えていく統合プロセスです。
売り手にとっても、買い手が「買収した後に会社をどうするのか」を確認することは重要です。
初日からすべての制度を変えるのか、既存の会社の強みを残しながら段階的に統合するのかによって、従業員や取引先への影響は異なります。
買い手がM&A後の経営について具体的な計画を持っているかも、相手を判断する材料になります。
M&Aでは、候補先の探索だけでなく、企業価値評価、税務、契約、DD、金融機関との調整など、さまざまな専門知識が必要になります。
1人の担当者だけですべてを判断するのではなく、必要に応じて税理士、公認会計士、弁護士、社会保険労務士などと連携できる体制かを確認します。
候補先探し、企業価値評価、資料作成、トップ面談、条件交渉、契約調整、決済までのうち、どこまでが支援範囲なのかを確認します。
着手金、月額報酬、中間金、成功報酬、最低報酬など、どの段階で費用が発生するのかも契約前に確認することが大切です。
仲介会社の場合は売り手と買い手の間に入って成約へ向けた調整を行い、FAは原則として売り手または買い手の一方を支援します。立場の違いを理解したうえで、自社に必要な支援を考えます。
売り手にとって望ましい支援者は、必ず成約させると約束する人ではありません。
希望価格と企業価値に差がある場合に理由を説明できるか、会社に問題があれば事前に指摘できるか、条件が合わない買い手について冷静な判断材料を示せるかを確認します。
M&Aは成約件数だけでなく、どのような条件で会社を引き継ぐかが重要だからです。
「M&Aの成約率は○%」という数字を見つけた場合は、その数字だけで自社の売却可能性を判断せず、次の点を確認してください。
・分母は相談件数、受託件数、交渉開始件数のどれか
・分子は基本合意件数か、最終契約まで完了した件数か
・分母と分子は同じ対象案件を追跡した数字か
・集計した期間は同じか
・売り手だけの数字か、買い手も含む数字か
・中小企業だけを対象としているか
・「成功」が成約を意味するのか、M&A後の目標達成を意味するのか
これらが分からなければ、その数字を自社の「売れる確率」として使うことはできません。
平均的な成約率を探すより、自社の業績、財務内容、経営者への依存度、希望価格、希望条件などを確認した方が、実際の売却可能性を考えるうえで役立ちます。
中小企業M&Aについて、すべての案件に共通する一律の成約率はありません。相談件数と成約件数は母集団や期間が異なることがあるため、単純な割合を「自社が売れる確率」と考えないことが大切です。成約可能性を高めるには、希望価格と企業価値の差、財務・税務などの問題、経営者への依存、情報管理、買い手との条件の不一致を早めに確認し、会社の状態と譲れない条件を整理しておきます。M&Aを検討し始めた段階から準備を進め、価格だけでなく雇用や経営者保証、引継ぎ条件まで含めて、自社にとって納得できる承継を判断しましょう。
著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事
編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人