中小企業M&A成功率は何%?失敗要因と成果を高める実務
M&Aの成功率は3〜4割ともいわれますが、36%は過去調査の定義付き参考値であり、成約率とは異なります。戦略立案、デューデリジェンス、企業価値評価、契約、PMIで失敗する理由と、売り手・買い手が成果を高める実務、100日プランの進め方を解説します。
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▶目次ページ:第三者承継とは(M&Aの注意点・成功ポイント)
「M&A(合併・買収)の成功率は30〜40%」「約36%」という説明はよく見かけます。ただし、日本国内のすべてのM&Aを同じ条件で集計した、現在の公的な成功率があるわけではありません。
数字だけを見て、自社の案件も3回に1回しか成功しないと決めつけるのは早計です。
36%という数字の代表的な根拠は、2013年のデロイトトーマツコンサルティングによる調査です。この調査では、M&Aの目標達成度が80%を超えた企業を成功とした場合、成功企業が36%だったとされています。
これは、契約が成立した割合ではありません。買収後に売上、利益、シナジーなどの目標を高い水準で達成した割合です。
また、調査時期や対象企業、成功の定義を考えると、現在の中小企業M&A全体に、そのまま当てはめることはできません。「成功率は必ず36%」ではなく、一定の条件で行われた過去調査の参考値として見る必要があります。
相談や検討を始めた案件のうち、最終契約まで進んだ割合は成約率です。一方、成功率は、成約後に期待した成果を得られたかを測る数字です。
成約率は、相談件数、正式に受託した案件数、買い手候補が見つかった案件数など、何を母数にするかで大きく変わります。そのため、異なる会社や調査の数字を単純に比較することはできません。
経営者が見るべきなのは、平均値よりも自社案件の準備状況です。目的、価格、相手選び、調査、契約、M&A後の経営まで分けて考えると、改善すべき点が見えやすくなります。
M&Aが成功したかどうかは、誰の立場で、いつ評価するかにより変わります。
契約締結だけをゴールにすると、買い手は投資回収を見失い、売り手は従業員や経営者保証の問題を残すことがあります。交渉を始める前に、自社にとっての成功を決めておくことが重要です。
買い手企業では、売上拡大、新市場への進出、技術や人材の獲得、仕入先の確保など、M&Aの目的を言葉と数値に落とします。
たとえば、「対象事業の売上を3年以内に一定額まで増やす」「主要な技術者の退職を防ぐ」「共同購買によって原価率を改善する」といった形です。
目的が曖昧なままでは、どの会社を買うべきか、いくらまで支払えるか、買収後に何を優先するかを決められません。
売上高、営業利益、キャッシュフロー、投資回収期間は、数字で測る定量目標です。従業員の定着、取引先との関係維持、企業文化の融和、管理体制の整備は、数字だけでは測りにくい定性目標に当たります。
両方を設定することが大切です。
利益は増えたものの重要な人材が流出した、雇用は維持できたものの投資額を回収できない、といった結果では、成功したかどうかの判断が分かれてしまいます。
売り手にとっては、納得できる譲渡価格だけでなく、税金や支援報酬を差し引いた手取り額、従業員の雇用、取引先との関係、経営者保証の解除、譲渡後の役割も重要です。
契約が成立しても、個人保証が残ったり、想定外に長い引継ぎを求められたりすれば、良い承継だったとは感じにくいものです。
交渉前に、必ず守る条件と、相手の提案に応じて調整できる条件を分けます。
たとえば、従業員の雇用維持や経営者保証の解除は必須とし、譲渡後の役職や引継ぎ期間は調整可能とする考え方です。譲渡価格だけを強く求めると、後から変更しにくい条件が置き去りになりやすいため注意が必要です。
M&Aの失敗は、契約直前に突然起こるものではありません。初期の小さな判断ミスが、買収価格や契約条件、M&A後の混乱へつながるケースが多くあります。
どこで判断を誤りやすいかを知るだけでも、失敗の可能性は下げられます。
候補先が見つかると、「この機会を逃したくない」という心理が働きます。その結果、M&Aを行うこと自体が目的になり、対象会社が自社の経営課題に合っているか、他の投資手段より優れているかの検討が弱くなることがあります。
買収件数を増やすことや、短期間で成約することは、本来の経営目的ではありません。
売上規模や知名度だけで候補を選ぶと、顧客層、地域、技術、人材、利益構造が自社戦略と合わない場合があります。
買収後に何を変え、何を残すのか。自社と対象会社が組むことで、どのような成果を生み出せるのか。ここまで描けない案件は、価格交渉へ進む前に立ち止まる必要があります。
デューデリジェンスは、対象会社の財務、税務、法務、事業、人事・労務、ITなどを調査する工程です。買収監査と呼ばれることもあります。
時間や費用を抑え過ぎると、簿外債務、未払残業、取引先への依存、許認可の問題、情報システムの老朽化などを見落とすおそれがあります。
不自然な売上増加、粗利益率の急変、特定の取引先への過度な依存、経営者しか説明できない業務は、追加確認が必要な警告です。成約を急ぐあまり警告を軽く扱うと、買収後に想定外の支出や事業停止が生じることがあります。
PMI(M&A後の統合プロセス)は、組織、業務、会計、IT、人事制度、企業文化などを整える取組です。
契約締結後に担当者を決めるようでは遅く、初日から現場が混乱しやすくなります。成約はゴールではありません。買い手にとっては、ここからが本当のスタートです。
経営方針や評価制度が説明されないまま変更されると、従業員は将来に不安を感じます。キーパーソンの退職は、技術、顧客関係、現場ノウハウの流出につながります。
重要な人材については、買収前から役割、処遇、残留の意思を確認し、必要に応じて個別の面談や定着策を検討します。
受発注、会計、給与、顧客管理などの仕組みが別々のままだと、二重入力や集計遅れが続きます。一方で、初日から全面統合を急ぐと、かえって業務が止まることもあります。
当面残す仕組みと、早期に統合する仕組みを分け、現場の負担を見ながら段階的に進めることが重要です。
M&Aの成功率を高める特別な方法はありません。目的、調査、価格、統合を一つの流れとして管理し、条件が合わなければ撤退することが基本です。
買収した後に問題を解決するのではなく、契約前の段階でできる限り判断材料を集めます。
売上拡大、技術獲得、商圏進出、サプライチェーンの確保など、解決したい経営課題を明確にします。
そのうえで、いつまでに何を達成するか、対象会社に求める条件は何かを定めます。数字だけでなく、必要な人材、顧客、許認可、設備、地域なども具体化します。
自社採用、設備投資、業務提携、外注などでも目的を達成できることがあります。
M&Aには、必要な人材や事業基盤を短期間で得られる利点があります。その一方で、買収価格や統合負担も生じます。他の方法と比べてM&Aが本当に適しているかを確認することが大切です。
デューデリジェンスは、譲渡価格や契約条件を調整し、成立後のトラブルを防ぐための重要な工程です。PMIの準備に必要な情報を集める役割もあります。
予算に制約がある場合でも、重要度に応じて調査範囲を絞るなど、案件に合った方法を検討します。調査を省略するのではなく、どのリスクを優先して確認するかを決める考え方です。
一般に、決算書、税務申告書、月次試算表、資金繰り、売掛金の回収状況、在庫、借入金、役員や関係会社との取引などを確認します。
調査する期間は一律ではありません。数年分を目安としながら、業績の変化や事業上のリスクに応じて必要な期間を決めます。
直近だけ業績が急に良くなっている場合や、大きな設備投資、事業転換があった場合は、さらに前の資料まで確認することもあります。
契約書、許認可、訴訟、未払残業、社会保険、キーパーソン、主要顧客、仕入先、情報セキュリティ、システム更新費用なども確認します。
海外企業を買収する場合は、現地法制、言語、商習慣、為替、送金規制、企業文化の違いも加わります。国内案件以上に確認事項が増えるため、現地事情に詳しい専門家との連携が必要です。
問題を見つけるだけで終わらせない
発見したリスクは、価格調整、補償条項、クロージング前の是正、M&A後の改善計画、撤退判断のいずれかに結び付けます。
デューデリジェンスを実施すれば、成功率が自動的に何倍にもなるわけではありません。重要なのは、分かった事実を意思決定に反映することです。
重大な問題が見つかったときに撤退できることも、M&Aでは大切な判断です。
企業価値評価は、対象会社の現在の収益力や資産、将来のキャッシュフローなどを基に行います。
買い手が期待するシナジーをすべて価格へ上乗せすると、成果が遅れたときに投資回収が難しくなります。競争相手がいる案件では、価格を上げたくなる場面もありますが、あらかじめ決めた上限を守ることが重要です。
売上成長、利益率、人件費、設備投資、離職、統合費用を複数の前提で試算します。
基本シナリオだけで返済や投資回収が成り立つか、悲観シナリオでも資金繰りを維持できるかを確認し、買収価格の上限を決めます。
将来の売上シナジーは、実現までに時間がかかることも少なくありません。楽観的な計画だけで価格を決めないことが大切です。
統合責任者、意思決定の方法、従業員と取引先への説明、資金管理、IT、人事制度、初期の管理指標を契約前から整理します。
「M&Aの成否の8割はPMIが握る」と表現されることもありますが、統一された公的な割合があるわけではありません。ただし、契約締結と決済は買い手にとって出発点であり、PMIが目的実現に重要であることは明らかです。
契約後に考え始めるのではなく、デューデリジェンスで得た情報をPMI計画へ引き継ぎます。
売り手は、納得できない条件であれば契約を断ることができます。ただし、交渉が始まってから問題を整えようとすると、時間不足で不利な条件を受け入れやすくなります。
会社の状態と希望条件を早めに整理することが、成約と満足度の両方につながります。
譲渡価格が、そのまま経営者の手元に残るわけではありません。
株式譲渡か事業譲渡か、役員退職金を組み合わせるかなどにより、税金や会社に残る資金、経営者の手取り額が変わります。企業価値評価と税引後の手取り試算を並べて確認し、希望価格が市場とかけ離れていないかを見ます。
税金だけでスキームを決めるのも適切ではありません。契約の引継ぎ、従業員、許認可、買い手の希望なども含めて判断します。
簿外債務、未処理の労務問題、株主の分散、個人と会社の資産混在、許認可、重要契約の変更条項などは、後から発覚するほど信頼を損ないます。
隠すのではなく、事実、影響、改善策を整理して開示する方が、価格や補償条件を冷静に交渉できます。
問題がある会社は売れない、という意味ではありません。問題の内容と対応方法が分からない状態の方が、買い手には大きなリスクとなります。
M&A対応に時間を取られ、営業や資金管理が弱くなって業績が悪化するケースは珍しくありません。
情報を共有する社内メンバーは必要最小限にしつつ、月次業績、受注、資金繰り、主要顧客の動きを継続して管理します。交渉中の業績悪化は、価格の引下げや買い手の撤退につながることがあります。
「従業員を大切にしてほしい」だけでは、人によって解釈が分かれます。
雇用維持を求める期間、処遇変更の考え方、経営者や幹部の残留期間、取引先への説明時期などを具体化し、買い手の計画とすり合わせます。
すべての希望が契約書に入るとは限りません。それでも、交渉の早い段階で伝えておくことで、譲渡後の認識違いを減らせます。
株式を譲渡しても、金融機関が同意しなければ経営者保証が自動的に外れるとは限りません。
買い手が保証を引き継ぐのか、新たな借入れで既存借入金を返済するのか、金融機関へいつ相談するのかを確認します。最終契約では、保証解除や移行を買い手の義務として定める方法や、解除を決済の条件とする方法も検討されます。
契約書に書くだけでは不十分です。誰が、いつ、どの金融機関と手続を進めるのかまで確認しておくことが大切です。
提示価格が高くても、資金調達の裏付けが弱い、契約後の支払条件が曖昧、保証解除や必要手続への対応が不明確であれば注意が必要です。
価格だけでなく、資金源、過去の買収後の運営、従業員への方針、契約を履行する体制まで確認します。
売却を急いでいるときほど、高い価格だけで相手を選ばないことが重要です。
100日プランは、M&A後100日ですべてを統合する計画ではありません。初期の混乱を防ぎ、優先課題を動かすための実行計画です。
案件によっては、制度やシステムの統合に1年以上かかります。100日間では、今後の方向性を定め、重要な問題へ着手できる状態を目指します。
Day1とは、一般に買収後の経営が始まる初日です。
新しい経営体制、決裁権限、資金管理、従業員と取引先への説明、緊急時の連絡先を確定します。初日に情報がないと、従業員の間で憶測が広がり、取引先にも不安が伝わります。
説明する内容だけでなく、誰が説明するかも決めておきます。
デューデリジェンスで把握できなかった実際の業務、属人化、顧客との口頭の約束、在庫や資金の動きを確認します。
経営者、幹部、現場従業員との面談を行い、すぐ直す課題と、慎重に進める課題を分けます。買い手が一方的に結論を出すのではなく、対象会社の現場から情報を集めることが重要です。
会計方針、予算管理、人事評価、IT、営業連携、購買などを段階的に統合します。
すべてを買い手企業の方式へ合わせるのではなく、対象会社の強みを残しながら、重複とリスクを減らします。長年続いてきた方法には、現場なりの理由があることも少なくありません。
売上、粗利益、資金残高、離職、主要顧客、統合作業の進捗など、初期に必要な指標を絞ります。月次経営会議や週次の進捗確認で異常を早く見つけ、担当者と期限を決めて対応します。
指標を増やし過ぎると、集計だけで現場が疲れてしまいます。目的に直結する数字を優先します。
制度変更の理由が伝わらないと、合理的な施策でも反発されます。
経営者からの説明、管理職との面談、従業員から質問を受ける場を設けます。買い手側の常識を一方的に押し付けず、対象会社が大切にしてきた価値観も確認します。
企業文化を完全に同じにすることが目的ではありません。共通して守るルールと、各社に残す違いを分けることが大切です。
M&Aは、案件紹介だけでなく、企業価値評価、税務、契約、デューデリジェンス、資金調達、PMIまで論点が広がります。
1人の担当者がすべてに詳しいとは限りません。必要な専門家を組み合わせられる体制かを確認します。
候補先の探索、企業価値評価、資料作成、交渉、契約調整、決済後の支援のうち、どこまで契約に含まれるかを確認します。
業界のM&A動向や成功事例を知ることは有用です。ただし、有名な成功事例を自社にそのまま当てはめるのではなく、規模、収益構造、地域、人材への依存度の違いまで説明できる支援者を選ぶ必要があります。
担当者個人の経験だけでなく、税務、法務、労務などの専門家と連携できるかも重要です。
着手金、月額報酬、中間金、成功報酬、最低報酬、企業価値評価やデューデリジェンスの別料金を確認します。
仲介は売り手と買い手の間に入り、成約に向けた調整を行います。一方、FAは原則として売り手か買い手の一方と契約し、その依頼者を支援します。
立場によって支援内容が異なるため、誰から報酬を受け取るのか、紹介先との関係はあるのか、利益相反へどのように対応するのかについて、契約前に説明を受けることが大切です。
仲介担当者の説明だけで財務・税務・法務リスクを判断せず、必要に応じて公認会計士、税理士、弁護士、社会保険労務士、IT専門家などを起用します。
特に買い手のデューデリジェンスは、価格や契約条件を判断するための調査です。誰が、どの立場で、どの範囲を調べるのかを明確にします。
売り手側も、税引後の手取り額や契約上の責任を理解するため、税務や法務の確認が必要です。
・成功の定義をどの段階で決めるか
・希望価格と企業価値に差がある場合、どのように説明するか
・重大な問題が見つかったとき、撤退を提案できるか
・従業員、取引先、金融機関への説明を誰が支援するか
・契約前にPMI計画をどこまで作るか
・報酬と追加費用は、いつ、どの条件で発生するか
複数の支援者に相談し、回答の具体性と分かりやすさを比べると、自社に合う相手を見極めやすくなります。
M&A成功率の36%は、過去の調査で目標達成度80%超を成功とした参考値であり、成約率や売り手の満足度とは別です。成果を高めるには、目的と判定基準を定め、DD、適正価格、契約条件、100日プランを一続きで設計することが重要です。売り手も手取り額、雇用、経営者保証、引継ぎ条件を早期に整理し、専門家と確認しながら進めましょう。
著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事
編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人