株式譲渡や事業譲渡後の挨拶状作成のポイントを解説します。送付先や時期、必須記載事項、実用的な雛形を紹介。法的リスクにも触れ、円滑な事業承継をサポートします。
目次
▶目次ページ:M&Aの流れ(M&Aした後のこと)
事業承継とは、企業のオーナーや経営者が築き上げた会社を次世代の経営陣に引き継ぐプロセスです。この過程は、単に経営者の交代だけでなく、企業全体の活性化を図る重要な機会となります。
事業承継の目的は、以下のような多面的な意義を持っています。
特に注目すべきは、事業承継の遅れが企業業績に与える影響です。
一般的に、経営者の高齢化が進むと、以下のようなリスクが高まる傾向があります。
これらのリスクを回避し、企業の持続的な発展を実現するためには、計画的かつ戦略的な事業承継の実施が不可欠です。適切なタイミングでの事業承継は、企業に新たな視点と活力をもたらし、競争力の維持・向上につながります。
したがって、企業経営者は事業承継を単なる世代交代ではなく、企業の成長戦略の一環として捉え、積極的に取り組むことが重要です。次世代の経営者への円滑な引き継ぎを通じて、企業の長期的な繁栄と発展を実現することができるのです。
M&A(合併・買収)の実施後、関係各所への適切な通知は、取引の円滑な完了と良好な関係維持のために極めて重要です。
ここでは、挨拶状の送付先と最適なタイミングについて詳しく解説します。
送付先
挨拶状の主な送付先は「取引先」ですが、これには様々な関係者が含まれます。具体的には以下の3つのカテゴリーに分類できます。
これらの取引先に対して、売り手単独で、または買い手との連名で挨拶状を送付します。
送付のタイミング
挨拶状の送付は、できるだけ早く行うことが望ましいです。具体的には、以下のタイミングを目安にしましょう。
迅速な対応は、以下の理由から重要です。
送付方法
挨拶状の送付方法としては、以下の2つが一般的です。
取引先との普段のコミュニケーション方法に合わせて、適切な手段を選択しましょう。
重要な取引先への特別対応
取引規模が大きい先や関与度合いが高い取引先に対しては、以下のような特別な対応を検討することが重要です。
これらの対応は、重要な取引先との信頼関係を強化し、M&A後の円滑な事業継続を確保するために有効です。
挨拶状の目的
挨拶状の主な目的は以下の通りです。
適切な内容と時期での挨拶状送付は、M&A後の事業の安定化と発展に大きく貢献します。取引先との良好な関係を維持しつつ、新たな経営体制への円滑な移行を実現するために、挨拶状の送付を戦略的に活用しましょう。
株式譲渡を実施した後、関係各所への適切な通知は、取引の円滑な完了と良好な関係維持のために不可欠です。ここでは、株式譲渡後の挨拶状作成について、詳細に解説します。
効果的な株式譲渡の挨拶状を作成するには、以下の項目を必ず含める必要があります。
冒頭の挨拶
季節の挨拶や日頃の感謝の言葉を添えます。
例)「拝啓 時下ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。
平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。」
株式譲渡日
権利義務の移転日を明確に示します。
例)「この度、弊社は2024年8月1日をもちまして、株式を譲渡いたしました。」
買い手名
例)「譲渡先は、東京都千代田区に本社を置く○○株式会社(年間売上高○○億円、従業員数○○名)でございま
す。」
新しい代表取締役(変更がある場合)
経営陣の変更がある場合、新たな代表取締役等を紹介します。
例)「新たに○○○○が代表取締役に就任いたしました。」
送り主の会社名と住所
株式譲渡後も変更がない場合でも、改めて記載します。
例)「株式会社○○○○ 〒000-0000 東京都○○区○○1-2-3」
これらの項目を適切に記載することで、取引先や関係者に株式譲渡の事実と今後の方針を明確に伝えることができます。
以下に、株式譲渡の挨拶状の具体的なテンプレートを示します。この雛形を基に、自社の状況に合わせてカスタマイズしてください。
拝啓 盛夏の候、貴社ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
さて、この度弊社は2024年8月1日をもちまして○○○株式会社に株式を譲渡いたしました。
また、弊社株主総会ならびに取締役会におきまして下記のとおり役員が選任され、それぞれ就任いたしました。
つきましては、今後○○○グループの一員となり、新体制のもと一層の社業の発展に努力いたす所存でございます。
なにとぞ倍旧のご支援ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。
まずは略儀ながら書中をもちましてご挨拶申し上げます。
敬具
2025年8月吉日
株式会社○○○○
代表取締役社長 ○○ ○○
記
代表取締役会長 ○○ ○○(新任)
代表取締役社長 ○○ ○○
取締役副社長 ○○ ○○(新任)
取締役 ○○ ○○
監査役 ○○ ○○(新任)
よろしくお願い申し上げます。」
このテンプレートを基に、自社の状況や取引先との関係性を考慮しながら、適切な挨拶状を作成してください。丁寧かつ明確な挨拶状は、株式譲渡後の円滑な事業継続と良好な関係維持に大きく貢献します。
事業譲渡を実施した後、関係各所への適切な通知は、取引の円滑な完了と良好な関係維持のために不可欠です。ここでは、事業譲渡後の挨拶状作成について、詳細に解説します。
効果的な事業譲渡の挨拶状を作成するには、以下の項目を必ず含める必要があります。
文頭の挨拶
季節の挨拶や日頃の感謝の言葉を添えます。
例)「拝啓 貴社ますますご盛栄のこととお慶び申し上げます。
平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。」
事業譲渡の概要
譲渡の事実、譲渡日、譲渡先企業名を明確に記載します。
例)「この度、当社X株式会社は2024年8月1日をもちまして、当社のカフェ事業を株式会社Yに譲渡することとなり
ました。」
譲渡対象の事業に関する情報
譲渡する事業の詳細や範囲を明確にします。
例)「譲渡対象は、都心部を中心に展開しておりましたカフェ事業(ブランド名:○○)です。」
売り手と買い手の情報
両社の基本情報(所在地、連絡先など)を記載します。
例)「【事業譲受会社】株式会社Y (所在地)
〒000-0000 東京都○○区○○1-2-3 (電話番号)03-0000-0000」
事業譲渡の実施日
具体的な譲渡日を明記します。
例)「事業譲渡日:2024年8月1日」
伝えたいメッセージ
取引先への感謝や今後の方針などを記載します。
例)「長年にわたるご愛顧に心より感謝申し上げます。今後は株式会社Yが責任を持って事業を継続いたします。」
送り主の所在
売り手と買い手の両方の情報を記載します。
これらの項目を適切に記載することで、取引先や関係者に事業譲渡の事実と今後の方針を明確に伝えることができます。
以下に、事業譲渡の挨拶状の具体的なテンプレートを示します。この雛形を基に、自社の状況に合わせてカスタマイズしてください。
(テンプレート)
事業譲渡のお知らせ
拝啓 貴社ますますご盛栄のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
さて、このたび当社 X株式会社は 2024年8月1日(以降、「事業譲渡日」)をもちまして、都心部を中心に展開しておりましたカフェ事業(ブランド:○○)を、同じくカフェ事業を手掛ける株式会社Yに譲渡することになりました。
従って、事業譲渡日をもって、弊社カフェ事業は廃業いたします。ここに永年にわたりご愛顧、ご芳情を賜りましたこと、心より御礼申し上げます。
今後弊社はレストラン事業を中心とし、引き続き皆様のご要望にお応えしていく所存でございますので、ご高承の上、より一層のご指導ご鞭撻を賜りますよう宜しくお願いいたします。
まずは、略儀ながら書面をもちまして、ご挨拶申し上げます。
敬具
2025年8月吉日
X株式会社
代表取締役社長 ○○ ○○
従前のカフェ事業に関するお引き合い、ご注文は、事業譲渡日以降、Y社にて承りますので、下記までご連絡の程、宜しくお願い申し上げます。事業譲渡日以降に当該事業にて賜りましたご注文に関しましては、Y社宛のご注文として取り扱わせていただきますことを、何卒ご了承願います。
【事業譲受会社】株式会社Y
(所在地) 〒000-0000 東京都○○区○○1-2-3
(電話番号) 03-0000-0000
(FAX番号)03-0000-0001
【事業譲渡会社】
X株式会社
(所在地) 〒000-0000 東京都○○区○○4-5-6
(電話番号) 03-1111-1111
(FAX番号)03-1111-1112
本件に対するお問い合わせは、X株式会社までお願い申し上げます。
このテンプレートを使用する際の注意点
このテンプレートを基に、自社の状況や取引先との関係性を考慮しながら、適切な挨拶状を作成してください。丁寧かつ明確な挨拶状は、事業譲渡後の円滑な事業継続と良好な関係維持に大きく貢献します。
事業譲渡の挨拶状を作成・送付する際には、以下の2つの重要な法的観点に特に注意を払う必要があります。これらの点を適切に考慮しないと、事業譲渡後に予期せぬ法的リスクや財務的損失を被る可能性があります。
債務引受公告とは、事業譲渡に伴い、譲受会社が譲渡会社の債務を引き継ぐことを公に告知することを指します。この点について、以下の事項に留意が必要です。
注意すべき表現の例
「責任を持って債務を引き継ぐ」 「全ての債務を継承します」
これらの表現を使用すると、営業に関係のない保証債務なども引き継ぐ義務が生じる可能性があります。
対策
詐害行為取消権とは、債権者に損害を与えることを認識しながら行った行為(詐害行為)について、債権者がその行為を取り消すことができる権利を指します。事業譲渡との関連で以下の点に注意が必要です。
対策
これらの点に留意して挨拶状を作成・送付することで、事業譲渡後のリスクを最小限に抑え、円滑な事業運営を継続することができます。また、取引先との信頼関係を維持し、企業価値を守ることにもつながります。
事業譲渡は複雑な法的プロセスを伴うため、挨拶状の作成や送付に際しては、法務部門や外部の専門家(弁護士、税理士など)と綿密に連携することが重要です。彼らの専門知識を活用することで、法的リスクを最小限に抑えつつ、効果的なコミュニケーションを図ることができます。
事業承継や株式譲渡、事業譲渡の際の挨拶状は、取引継続と良好な関係維持に不可欠です。適切な時期に、正確な情報を含む丁寧な挨拶状を送付することが重要です。法的リスクに注意しつつ、専門家の助言を得ながら作成することで、円滑な事業承継を実現できます。
著者|竹川 満 マネージャー/M&Aアドバイザー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事