中小企業のM&Aにおける会社名の変更について解説します。M&A後の社名変更パターンや維持する方法、そのメリット・デメリットを紹介。M&A仲介会社の活用方法も詳しく説明します
目次
▶目次ページ:M&Aの流れ(M&Aした後のこと)
M&A(合併・買収)を実施した後、会社名がどのように変更されるかは多くの経営者にとって関心事です。M&Aによる会社名の変更について、具体的な事例や変更のパターンを見ていきましょう。
M&Aを行うと、会社名が変更されるケースがあります。ただし、広く認知されているブランド名の場合、M&A後も維持される可能性が高くなります。会社名の変更に関する明確なルールは存在せず、多くの場合は買収側(買い手)の判断によって決定されます。ただし、最終的な決定はM&Aの交渉過程で両者の協議により行われます。
一般的に、M&Aの方法によって社名変更の傾向が異なります。
社名を変更しない、または軽微な変更にとどめることが多い
合併の場合
社名を変更することが多い(ただし、実務的には合併のケースは少ない)
M&Aによる会社名変更の具体例をいくつか紹介します。
銀行業界の事例
東京三菱銀行 + UFJ銀行 → 三菱東京UFJ銀行(現在の三菱UFJ銀行)
食品業界の事例
マルハ株式会社 + 株式会社ニチロ → マルハニチロ株式会社
小売業界の事例
オイシックス + 大地を守る会 → オイシックスドット大地(現在のオイシックス・ラ・大地)
エネルギー業界の事例
JXエネルギー + 東燃ゼネラル石油 → JXTGエネルギー(現在のENEOS)
これらの事例から、M&A後の社名変更には様々なパターンがあることがわかります。両社の名前を組み合わせたり、まったく新しい名前を採用したりするケースが見られます。
M&A後の社名変更は、単なる形式的な手続ではなく、企業の成長戦略の一環として重要な意味を持つことがあります。ここでは、M&Aに伴って社名が変更される主な理由や背景について説明します。
M&A後に社名を変更する最も一般的な理由の1つは、新しい会社としての出発を象徴するためです。これには以下のような狙いがあります。
組織の一体感の醸成
異なる企業文化を持つ組織が統合される際、新しい社名は従業員に新たな一体感をもたらします。
イメージの刷新
特に、合併する会社の一方にネガティブなイメージが付きまとっている場合、新しい社名によってそれを払拭し、フレッシュなスタートを切ることができます。
市場への新規参入のアピール
新しい社名は、企業が新たな市場や事業領域に進出することを効果的にアピールする手段となります。
時には、既存のブランド名やサービス名を新しい会社名に取り入れることで、ブランド力を強化する狙いがあります。
認知度の活用
既存のブランド名やサービス名の認知度が高い場合、それを会社名に取り入れることで、消費者からの認識を高めやすくなります。
ブランド価値の最大化
成功しているブランドを社名に取り入れることで、そのブランドの価値を全社的に活用できます。
事業内容の明確化
主力製品やサービスの名称を社名に含めることで、会社の事業内容を端的に表現できます。
M&A後の社名変更は、法的には以下のプロセスを経て行われます。
取締役会での決議
まず、取締役会で社名変更の提案を決議します。
株主総会での承認
次に、株主総会で定款変更の決議を行います。通常、特別決議(議決権の3分の2以上の賛成)が必要です。
登記手続
株主総会で承認された後、法務局で変更登記を行います。
周知
取引先や顧客に対して、社名変更の通知を行います。
このように、M&A後の社名変更は存続会社の判断によるところが大きいですが、最終的には株主の承認が必要となります。そのため、M&Aの交渉段階から社名変更について議論し、合意を形成しておくことが重要です。
M&A後の社名変更において、よく見られるパターンの1つが全く新しい社名を採用することです。これは、合併する両社とは異なる、新たな社名を創出する方法です。新社名の採用には、メリットとデメリットがあります。
イメージの刷新
従業員の一体感醸成
新たなスタートの象徴
将来のビジョンの表現
知名度・認知度の構築に時間と労力が必要
ブランド価値の喪失リスク
顧客や取引先の混乱
手続の煩雑さ
新社名の採用を検討する際は、これらのメリットとデメリットを十分に比較検討し、M&A後の事業戦略や市場でのポジショニングを考慮した上で判断することが重要です。また、新社名の決定プロセスには、両社の意見を十分に取り入れ、慎重に進める必要があります。
M&A後の社名変更において、もう1つよく見られるパターンが社名の結合です。これは、合併する複数の会社の社名を組み合わせて新しい社名を作る方法です。社名結合にもメリットとデメリットがあります。
既存ブランドの維持
知名度・認知度の継続
相互尊重の表現
変化の緩和
事業領域の明確化
従業員の帰属意識の分散
長い社名になりやすい
新鮮味の不足
バランスの難しさ
将来の成長への制約
社名結合を選択する際は、これらのメリットとデメリットを慎重に検討し、長期的な事業戦略との整合性を確認することが重要です。また、結合後の社名が語呂良く、覚えやすいものになるよう、クリエイティブな工夫も必要です。
M&A後に会社名を変更せずに維持したい場合、いくつかの戦略を検討することができます。以下では、社名維持のための主要な方法を説明します。
既存ブランドの価値を定量化
業界内での評判や受賞歴をアピール
長期取引先からの推薦文や事例を収集
買収側の成長戦略を把握
シナジー効果の具体化
ブランドポートフォリオ戦略の提案
早期段階での交渉
契約書への明記
段階的なブランド統合の提案
経営陣の留任と連動
これらの方法を組み合わせることで、M&A後も社名を維持できる可能性が高まります。ただし、最終的には買収側の判断に委ねられる部分も大きいため、粘り強い交渉と柔軟な対応が求められます。
M&A後に会社名を維持することには、様々なメリットとデメリットがあります。ここでは、それぞれについて詳しく見ていきましょう。
従業員と取引先の混乱を最小限に抑える
既存の信頼とブランド力の活用
手続費用の削減
マーケティング効果の維持
従業員のモチベーション維持
組織文化の統合の遅れ
新鮮味の欠如
買収側との一体感の欠如
将来的な成長の制約
社名を維持するかどうかの判断は、これらのメリットとデメリットを総合的に考慮し、M&A後の事業戦略や組織統合の方針と照らし合わせて行う必要があります。また、完全な社名維持ではなく、一定期間後に段階的に変更していくなど、柔軟なアプローチを検討することも有効です。
M&Aを検討する際、適切な専門家のサポートを受けることが成功の鍵となります。ここでは、M&Aにおける主要な相談先とその特徴について説明します。
M&A仲介会社は、M&Aの専門家として以下のようなサービスを提供します。
マッチング
プロセス
価値評価
アドバイザリーサービス
FAは主に金融面でのアドバイスを提供する専門家で、以下のような役割を担います。
財務分析
資金調達
バリュエーション
交渉戦略
ストラクチャリング
弁護士、公認会計士、税理士などの専門家も、M&Aプロセスにおいて重要な役割を果たします。
弁護士
契約書の作成と交渉
法的リスクの評価と対策立案
公認会計士
税理士
M&Aに伴う税務上の影響分析
社労士
これらの専門家は、M&Aの各段階で必要に応じて協力し、総合的なサポートを提供します。
M&Aを検討する際は、自社の状況や取引の複雑さに応じて、これらの相談先を適切に選択し、活用することが重要です。特に中小企業のM&Aでは、M&A仲介会社を中心に据え、必要に応じて各専門家のサポートを受けるというアプローチが一般的です。相談先の選択は、M&Aの成功に大きな影響を与える重要な決断の一つと言えるでしょう。
M&A仲介会社を活用することで、企業は多くのメリットを享受することができます。ここでは、主要なメリットについて詳しく説明します。
効率的なプロセス管理
専門知識の活用
交渉の円滑化
幅広いネットワークの活用
マッチング精度の向上
客観的な評価
デューデリジェンスの徹底
適切な契約書作成
コンプライアンスの確保
ポストM&Aの支援
M&A仲介会社を活用することで、企業はこれらのメリットを享受し、M&Aの成功確率を高めることができます。特に、M&Aの経験が少ない中小企業にとっては、仲介会社の支援が成功の鍵となる場合が多いといえるでしょう。
M&A仲介会社を選ぶ際は、自社のニーズに合った信頼できる会社を選択することが重要です。以下に、M&A仲介会社を選ぶ際のポイントを解説します。
実績と経験
専門性
ネットワークの広さ
手数料体系
コミュニケーション能力
守秘義務の徹底
アフターフォロー
業界団体への加盟
顧客評価
利益相反の有無
これらの点を総合的に考慮し、複数の仲介会社と面談した上で、自社に最適な会社を選択することをお勧めします。信頼できるM&A仲介会社のサポートを得ることで、M&Aプロセスをより円滑に、そして成功に導く可能性が高まります。
M&A後の会社名の取り扱いは、企業の将来に大きな影響を与える重要な決定事項です。新社名の採用、社名の結合、既存社名の維持など、それぞれにメリットとデメリットがあります。最適な選択は、M&Aの目的、関係する企業の状況、市場環境などによって異なります。社名変更や維持の決定プロセスでは、慎重な検討と関係者間の十分な協議が必要不可欠です。また、M&Aプロセス全体を成功に導くためには、信頼できるM&A仲介会社や専門家のサポートを活用することが効果的です。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事