自己株式の定義から歴史的変遷、取得のメリット、会計処理まで詳しく解説します。上場・非上場企業それぞれの活用法や注意点も紹介。企業経営に役立つ自己株式の基礎知識を学べます。
目次
自己株式とは、企業が所有する自社の株式のことを指します。一般的に「金庫株」や「自己株」とも呼ばれ、英語では「Treasury stock」や「Treasury share」と表現されます。
この自己株式の取り扱いは、日本の法制度の中で大きな変遷を遂げてきました。
かつての商法では、会社の財産的基礎を守るという観点から、自社株式の取得は原則として禁止されていました。しかし、1994年の商法改正を皮切りに、段階的に規制が緩和されていきました。
主な変更点は以下の通りです。
1. 1994年の商法改正
o 利益による株式消却のための自社株式取得手続の簡素化
o 従業員(従業員持株会を含む)への譲渡を目的とした自社株式取得の許可
2. 1997年の商法改正
o ストックオプションの権利行使に備えた自社株式の取得を許可
o 最長10年間の保有が可能に
3. 2001年の商法改正
o いわゆる「金庫株」の解禁
o 特定の目的を定めずに自由に自社株式を取得可能に
o 取得した自己株式の無期限保有が可能に
これらの改正により、企業は一定の財源規制の下で、より柔軟に自己株式を活用できるようになりました。
自己株式の取得や処分に関しては、特に上場企業に対して厳格な開示ルールが設けられています。
金融商品取引法では、自社株式の取得や処分の決定は内部者取引規制上の重要事実として扱われています。そのため、証券取引所は投資情報としての重要性を考慮し、上場会社に対して自社株式の取得や処分の決定について、適時開示を求めています。
つまり、上場企業が自己株式を取得したり、処分したりする際には、その事実を速やかに対外的に公表しなければなりません。これは、市場の公平性と透明性を確保するための重要な規則となっています。
▶目次ページ:M&Aの種類・方法(増資)
自己株式の取得は、企業経営において様々な目的で活用されています。上場企業と非上場企業では、その取得方法や効果に違いがありますので、それぞれの特徴を見ていきましょう。
1. 上場企業のメリット
• 持株比率の維持 自己株式を取得すると、市場に流通する株式数が減少します。これにより、既存株主の議決権比率
の低下を防ぐことができます。
• 株価対策 自己株式の取得は、1株当たりの利益や株式資本利益率を上昇させる効果があります。結果として、株価
の上昇につながる可能性があります。特に、自社の株価が割安と判断される場合、株価調整の手段として活用され
ることがあります。
• M&Aの対価としての利用 M&A(合併・買収)を実施する際、買収の対価として自己株式を活用することができま
す。これにより、現金での資金調達の必要性が軽減され、柔軟な買収戦略が可能となります。
2. 非上場企業のメリット
• 事業承継対策 後継者に株式を引き継ぐ際、多額の資金が必要となる場合があります。会社が株式を取得して自己株
式とすることで、後継者の資金負担を軽減しつつ、円滑な事業承継を実現できます。
• 株主への利益還元 自己株式の取得により、1株当たりの利益が上昇し、株主が保有する株式の価値が向上します。
これは株主への利益還元の一形態と言えます。
• 従業員や役員の報酬としての活用 自己株式は、従業員や役員への報酬として付与することも可能です。これによ
り、従業員や役員の企業に対するモチベーションや帰属意識の向上が期待できます。
自己株式を取得した際の会計処理は、株主資本の控除として処理します。具体的な仕訳例を見てみましょう。
例)自己株式500株を1株当たり1,000円で取得し、取得代金を現金で支払った場合
• 自己株式の計上額=500株×1,000円=500,000円(株主資本の控除)
• 取得代金=500株×1,000円=500,000円(資産の減少)
仕訳: (借) 自己株式 500,000円 / (貸) 現金 500,000円
また、自己株式の取得に際して手数料が発生した場合は、その費用を借方に仕訳し、営業外費用として計上します。
このように、自己株式の取得は単なる株式の購入ではなく、株主資本の構成に影響を与える取引として会計処理されます。
自己株式の取得は、企業の財務戦略や株主価値向上の手段として重要な役割を果たしています。法律で定められた手続を遵守しつつ、経営の安定化や事業承継、組織再編などに活用することで、大きな効果が期待できます。適切な専門家のサポートを受けながら、自社の状況に合わせて戦略的に活用することが重要です。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事