株式譲渡に伴う登記や定款変更は必要?手続きの実務を解説


Powered by みつき税理士法人


株式譲渡登記は必要か|会社売却時の変更登記と名簿書換

株式譲渡では株主変更そのものの登記は原則不要です。ただし会社売却では役員変更や本店移転に伴う変更登記、株主名簿の書換、譲渡制限の承認、税務確認が必要です。期限・費用・必要書類を実務目線で整理し、中小企業の経営者向けに譲渡後に慌てない段取りを解説します。

目次

  1. 株式譲渡で登記が不要となる理由
  2. 会社売却で登記が発生する場面
  3. 登記より先に整える社内手続
  4. 役員変更登記の期限・書類・費用
  5. 譲渡前に見落としやすい定款と株券
  6. 税金と手取りを確認して実行日を決める
  7. 目的別に相談先と段取りを変える
  8. まとめ

株式譲渡に伴う登記や定款変更は必要?手続きの実務を解説

▶目次ページ:株式譲渡(株式譲渡の流れ)

株式譲渡で登記が不要となる理由

株式譲渡を考え始めた経営者から、最初によく出る質問があります。「株主が変わるなら、法務局で登記が必要なのではないか」という疑問です。結論からいうと、株式の売買そのものについては、原則として登記申請は不要です。

株式譲渡とは、株主が保有する株式を別の人や会社へ移す手続です。中小企業のM&A(合併・買収)では、会社の法人格を残したまま経営権を移せるため、第三者承継や会社売却でよく使われます。会社そのものを作り替えるのではなく、会社の所有者である株主が入れ替わる取引です。

株主の氏名や所有株数は登記簿に載らない

商業登記簿には、会社の商号、本店所在地、目的、資本金、代表取締役などが記載されます。一方で、通常、株主の氏名、住所、所有株数は登記事項ではありません。そのため、株主がAさんからB社へ変わっても、登記簿に書き換える項目がないのです。

ここを混同すると、手続の優先順位を間違えます。法務局に行くことよりも、株式譲渡契約書、譲渡承認、株主名簿の書換を正しく進めることが大切です。

定款も株主変更だけでは通常変わらない

定款は、会社の基本ルールをまとめた文書です。株主が変わっても、商号、目的、機関設計、株式の内容などのルールが同じであれば、定款変更は不要です。

ただし、株式譲渡と同時に会社の方針を変える場合は別です。たとえば、商号を変える、本店を移転する、事業目的を追加する、譲渡制限株式の承認機関を変えるといった場合には、定款変更や変更登記が必要になることがあります。株式譲渡自体の登記は不要でも、周辺の変更があれば登記が必要になる。この切り分けが実務上の要点です。

会社売却で登記が発生する場面

「登記不要」と聞いて安心していたのに、クロージング直前になって司法書士から書類を求められる。M&A実務では、こうした場面が珍しくありません。理由は、株式譲渡そのものではなく、譲渡の前後で会社の登記事項が動くからです。

役員変更は発生しやすい

第三者への会社売却では、前オーナーが代表取締役を退任し、買い手企業側から新しい代表者や取締役が就任することが多くあります。役員の氏名や代表取締役の住所などは登記事項です。そのため、役員が変われば役員変更登記が必要です。

特に、株式譲渡の実行日と同じ日に代表者交代を行う場合は、登記期限の起算点も実行日と近くなります。決済が終わって一息ついた後に登記書類が足りないと、慌てて辞任届や就任承諾書を集めることになります。意外と多い落とし穴です。

商号・本店・目的の変更も登記対象になる

買い手企業のグループに入った後、社名を変える、本店を買い手側の拠点へ移す、事業目的を追加することがあります。これらも登記事項です。株式譲渡契約では株主だけが変わるように見えても、実際には組織体制や対外表示を同時に整えるケースがあります。

たとえば、買い手企業が許認可事業を引き継ぐために事業目的を追加したい場合、定款変更と目的変更登記が必要になることがあります。金融機関や主要取引先への説明でも、登記簿と実態が一致しているかはよく見られます。

変更登記が必要になりやすい項目

株式譲渡の前後で確認したい項目は、主に次のとおりです。


  • 役員の退任・就任
  • 代表取締役の変更
  • 商号の変更
  • 本店所在地の移転
  • 事業目的の追加・変更
  • 譲渡制限株式の承認機関の変更
  • 資本金や発行可能株式総数の変更を伴う手続


このうち、単なる株主変更は法務局への申請対象ではありません。反対に、会社の外部表示や組織の基本事項が変わる場合は、変更登記の要否を必ず確認します。

登記より先に整える社内手続

法務局への申請が不要だとしても、何もしなくてよいわけではありません。むしろ株式譲渡では、社内手続の不備が後から大きな問題になります。買い手が「株主になった」と思っていても、株主名簿が書き換わっていなければ、会社に対して株主の権利を主張できない場面が出てきます。

譲渡制限株式は会社の承認が必要

中小企業の多くは、定款で株式の譲渡に制限を設けています。これを譲渡制限株式といいます。会社にとって望ましくない第三者が株主になることを防ぐための仕組みです。

譲渡制限株式を譲渡する場合、原則として会社の承認が必要です。取締役会設置会社では取締役会、取締役会を置かない会社では株主総会が承認機関になるのが基本ですが、定款で別の定めを置いている場合もあります。譲渡前に、登記事項証明書と定款を見て、承認機関を確認しましょう。

承認請求と議事録を残す

譲渡人は、譲渡する株式の数、譲受人の氏名または名称、承認を求める内容を記載した承認請求書を会社に提出します。会社は承認機関で決議し、その結果を記録します。

親族間の承継では「家族だけだから書類は簡単でよい」と考えがちです。しかし、後から相続人同士で争いになった場合、承認請求書や議事録がないと手続の正当性を説明しにくくなります。形式を整えることは、家族関係を守ることにもつながります。

株主名簿の書換が権利行使の出発点になる

株式譲渡契約を締結し、代金の支払が終わったら、譲渡人と譲受人は会社に対して株主名簿の書換を請求します。通常は、譲渡人と譲受人が共同で請求します。

株主名簿には、株主の氏名または名称、住所、保有株式数などが記載されます。新しい株主が議決権を行使したり、配当を受けたりするには、この名簿の書換が重要です。法務局が関与しないからこそ、会社側で正確に管理する必要があります。

役員変更登記の期限・書類・費用

株式譲渡後の登記で最も多いのは、役員変更登記です。ここは期限と費用が明確に関わるため、実行日の前から準備しておくべきです。

変更から2週間以内が原則

株式会社で役員などの登記事項に変更が生じた場合、原則として変更日から2週間以内に変更登記を申請します。代表取締役の退任・就任、取締役の追加、監査役の変更などが対象です。

期限を過ぎても登記申請自体はできますが、正当な理由なく登記を怠ると、代表者に過料が科される可能性があります。M&Aのクロージング後は、従業員説明、取引先対応、金融機関対応も重なります。登記を後回しにしないため、実行前に必要書類を一覧化しておくことが大切です。

主な必要書類

役員変更登記では、一般に次のような書類を準備します。


  • 役員変更登記申請書
  • 株主総会議事録または取締役会議事録
  • 退任する役員の辞任届
  • 新任役員の就任承諾書
  • 新任役員の本人確認書類または印鑑証明書
  • 委任状
  • 変更後の株主名簿や株主リスト


実際に必要な書類は、会社の機関設計、変更内容、新任役員の立場によって変わります。司法書士に依頼する場合でも、株式譲渡契約の条件と役員交代の時点を共有しておくと、書類の抜け漏れを防ぎやすくなります。


書類名                      作成タイミング             署名・押印者                 実務上の留意点                                       

株式譲渡契約書        ステップ3             譲渡企業・譲受企業   紙面2部を作成し、各社が1部ずつ保管。電                                                                                                   約を活用する場合はタイムスタンプ要確認。

株式譲渡承認請求書 ステップ1              譲渡企業                 請求日・提出先を明確に記載し控えを残す。
                                                                                                  

株主総会招集通知   ステップ2前              代表取締役           法定の招集期間を遵守し、取締役決定書を添
                                                                                              付すると丁寧。


株主総会議事録        ステップ2後         議長・出席取締役       決議内容を具体的に記載し、譲渡承認の賛否
                                                                                              割合を明示。


株主名簿                      随時管理               会社              書換履歴を残すとドキュメンテーションが向上
                                                                                                  


株主名簿記載事項書
換請求書
                ステップ4                  譲渡企業・譲受企業     共同提出が原則。書換日と書換後の株主番
                                                                                               号を記載。


株主名簿記載事項
証明書
                ステップ5                   会社                      銀行取引や許認可の名義変更で利用される
                                                                                               ことが多い。


取締役決定書         取締役会設置会社のみ    取締役会                  承認機関が取締役会の場合に必要。


代表取締役変更登記
申請書
                代表者変更がある場合   会社                  添付書類に就任承諾書・印鑑証明書を忘れ
                                                                                               ない。


定款                         常備                           会社                      最新版をPDF化して共有フォルダに保管す
                                                                                               ると検索が容易。


※表は便宜的にまとめたもので、実際の様式は会社の規模や機関設計により異なります。

登録免許税は資本金で変わる

役員変更登記の登録免許税は、資本金の額によって変わります。資本金1億円以下の会社では1万円、1億円を超える会社では3万円が目安です。司法書士に依頼する場合は、別途報酬が数万円程度から発生することが一般的です。

費用だけを見ると大きな負担ではないかもしれません。ただし、登記が遅れると、金融機関の代表者変更、印鑑届、許認可の届出、契約書の名義確認などに影響します。M&A実務では、費用よりも「期限内に確実に終えること」が重要です。

譲渡前に見落としやすい定款と株券

登記の要否を判断するには、会社の現在の状態を見なければなりません。特に、定款と登記事項証明書は早めに確認します。古い会社では、現場の認識と書類の内容がずれていることがあります。

承認機関の記載が古いままのことがある

定款では「取締役会の承認を要する」と書かれているのに、現在は取締役会を置いていない。このような不整合が見つかることがあります。過去の機関設計変更や役員改選の際に、定款や登記の見直しが十分でなかったケースです。

この状態で株式譲渡を進めると、誰が承認すべきかで判断が止まります。譲渡承認の決議をする前に、定款、登記事項証明書、過去の株主総会議事録を確認し、必要に応じて定款変更や登記の整理を行います。

定款変更が必要になる例

定款変更が必要になりやすいのは、次のような場面です。


  • 商号を変更する場合
  • 本店所在地を移す場合
  • 事業目的を追加・変更する場合
  • 譲渡制限株式の承認機関を変える場合
  • 取締役会の有無など機関設計を変える場合


定款変更は、原則として株主総会の特別決議で行います。特別決議とは、通常の決議より重い要件が求められる決議です。少数株主がいる会社では、事前説明と議決権の確認も重要になります。

株券発行会社では株券の確認が必要

株券不発行会社であれば、株券の現物交付は不要です。一方、登記上または定款上で株券発行会社となっている場合、株式譲渡で株券の取扱いが問題になります。

古い中小企業では、定款上は株券発行会社のままなのに、実際には株券を発行していないことがあります。株券がないまま譲渡を進めると、後日、効力や対抗関係をめぐって争いになるおそれがあります。株券発行会社かどうかは、登記事項証明書で確認できます。

株券が見当たらない場合

株券が見当たらない場合は、譲渡契約の直前に慌てて対応するのではなく、株券発行の有無、株券不所持の申出、喪失時の手続、定款変更の要否を確認します。司法書士や弁護士に相談し、譲渡実行日前に処理方針を決めておくと安全です。

税金と手取りを確認して実行日を決める

株式譲渡の登記費用は、会社売却全体から見ると小さな金額です。経営者にとってより大きいのは、譲渡後にいくら手元に残るかです。登記と同時に、税金と資金繰りも確認しましょう。

個人株主の譲渡益には分離課税がかかる

個人株主が株式を譲渡して利益を得た場合、原則として株式等の譲渡所得として申告分離課税の対象になります。税率は、所得税、復興特別所得税、住民税を合わせて20.315%です。

譲渡益は、一般に「譲渡価額-取得費-譲渡費用」で計算します。取得費が分からない、過去の増資資料が残っていない、専門家報酬をどこまで譲渡費用にできるか分からない。こうした相談は少なくありません。契約締結後ではなく、価格交渉の段階で手取り額を試算することが大切です。

低額譲渡や親族間譲渡は贈与税に注意する

親族や従業員へ株式を譲渡する場合、譲渡価格が時価より著しく低いと、実質的な贈与と見られるリスクがあります。特に非上場株式は市場価格がないため、株価算定の根拠を残す必要があります。

親族内承継では「身内だから安くしてよい」と考えがちです。しかし、税務上は別の問題です。株価評価、譲渡契約書、資金移動の記録、議事録を整え、後から説明できる状態にしておきましょう。

法人株主の場合は法人税等を確認する

法人が保有する株式を譲渡する場合、譲渡益は法人税等の課税対象になります。決算期の直前に譲渡すると、その期の税額や納税資金に影響します。消費税については、株式など有価証券の譲渡は原則として非課税取引とされますが、個別事情によって会計処理の確認が必要です。

税金は、登記のように「いつまでに何を出す」という話だけでは終わりません。譲渡価格、役員退職金、配当、借入金返済、個人保証の解除まで含めて、手取りと資金移動を設計します。

目的別に相談先と段取りを変える

株式譲渡といっても、目的によって準備の重点は変わります。親族への承継、従業員への承継、第三者への会社売却では、同じ書類を使う場面があっても、注意点は同じではありません。

親族や社内への承継では税務と少数株主を確認する

親族や役員・従業員へ株式を移す場合、譲渡価格と資金調達が大きな論点になります。後継者に買い取り資金がない場合、分割払い、贈与、相続時精算課税、役員報酬との関係なども検討対象になります。

また、少数株主がいる会社では、誰の株式をどの順番で移すかが重要です。議決権が分散したままだと、次の経営者が重要事項を決められないことがあります。株式譲渡は、単なる名義変更ではなく、経営権を安定させるための資本政策でもあります。

第三者への会社売却ではクロージング後の段取りが重要

第三者へのM&Aでは、株式譲渡契約の締結、決済、株主名簿の書換、役員交代、変更登記、金融機関・取引先への通知が短期間に集中します。誰が、いつ、どの書類を出すのかを事前に決めておかないと、実行後に手続が止まります。

特に、前オーナーが退任する場合は、辞任届、印鑑証明書、退職金決議、個人保証の解除、引継ぎ期間の業務委託契約などが関係します。登記だけを見ていると、全体の段取りを見落とします。


手続全体を俯瞰したスケジュール例

時期           主なタスク                                   補足

90日前   会社・株主間で基本合意               譲渡株式数と価格帯を確認

60日前   承認機関へ譲渡承認請求               取締役会設置会社なら取締役会招集

45日前   承認決議・通知                               決議後2週間以内に通知

30日前   株式譲渡契約書ドラフト作成       表明保証条項を精査

15日前   契約締結・決済                               契約書調印と譲渡対価入金

7日前   株主名簿書換請求・書換               書換後、証明書を発行

当日    税務申告書のドラフト着手               決算期との関係を確認

専門家ごとの役割を分ける

株式譲渡では、相談先ごとに役割が異なります。司法書士は変更登記、弁護士は契約書や法務リスク、税理士は株価評価や税務申告、M&A専門家は買い手探索や条件交渉を主に支援します。

すべてを1人で判断しようとすると、どこかで抜けが出ます。会社売却や第三者承継では、早い段階で税務、法務、登記、M&A実務を横断して確認することが、結果的に手戻りを減らします。

実行前に確認したい項目

実行前には、少なくとも次の点を確認します。


  • 株式譲渡だけで終わるのか、役員変更を伴うのか
  • 商号、本店、目的、機関設計を変更する予定があるか
  • 譲渡制限株式の承認機関はどこか
  • 株券発行会社かどうか
  • 株主名簿は最新か
  • 少数株主や相続人との関係に問題がないか
  • 譲渡益課税や贈与税リスクを試算したか
  • 登記書類を誰がいつ準備するか


この確認を先に行うだけで、クロージング後の混乱はかなり減らせます。M&A実務では、ここで判断が止まる

まとめ

株式譲渡では、株主が変わるだけなら登記や定款変更は原則不要です。ただし、会社売却では役員交代、商号変更、本店移転などで変更登記が発生しやすくなります。譲渡制限の承認、株主名簿の書換、税金と手取り額も含めて事前に確認し、実行日から逆算して書類と相談先を整えることが、安全な承継につながります。

著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー 

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事

編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人


相続の教科書