会社乗っ取りの実態と対策|経営者が知るべき防衛戦略

会社乗っ取りのリスクは、上場企業から中小企業まで広く存在します。本記事では、会社乗っ取りの定義、手法、事例、そして効果的な対策について詳しく解説します。経営者の方は必見です。

目次

  1. 会社乗っ取りの定義と特徴
  2. 会社乗っ取り事例
  3. 企業乗っ取りの主な手法
  4. 会社乗っ取り後の影響と展開
  5. 会社乗っ取りの法的側面
  6. 会社乗っ取り対策の具体的方法
  7. まとめ

会社乗っ取りの定義と特徴

会社乗っ取りとは、現在の経営者が経営権を失い、他者によって会社の経営が行われる状態を指します。この状況は、上場企業や大企業だけでなく、中小企業でも起こりうるリスクです。

会社乗っ取りの方法

1. 第三者からの出資を受け入れ、発行済株式の過半数を掌握される

2. 相続により株式が移転し、新たな株主が経営権を握る

3. 現株主から株式を取得した第三者が経営権を主張する

4. 現オーナーの不在時に、適切な手続きを経ずに株式取得が進められる

会社乗っ取りは、必ずしも違法行為とは限りません。相続や株式取得による乗っ取りの場合、所定の手続きが適法に行われていれば、法的には問題ありません。しかし、会社の安定的な経営を脅かす可能性があるため、会社のオーナーは様々な状況を想定し、事前に対策を講じておく必要があります。

会社乗っ取りのリスクは予測が難しいため、オーナーや経営者は常に警戒心を持ち、自社の株式の管理や承継計画を慎重に検討することが重要です。

会社乗っ取り事例

会社乗っ取りの事例は、企業の規模や状況によって異なる特徴を持っています。ここでは、中小企業と上場企業それぞれの代表的な事例を紹介します。

中小企業で起こる相続クーデターのリスク

中小企業で発生しやすい会社乗っ取りの一つに「相続クーデター」があります。これは、創業者一族が経営する企業で、親から子へ株式を移転する事業承継の過程で起こりうるリスクです。

相続クーデターが発生するプロセスは以下のようになります:

1. 現オーナーが信頼する者に株式を分配する

2. 株主の一人が死亡し、相続が発生する

3. 相続人の人柄によっては、オーナーとの信頼関係が崩れる可能性がある

4. 信頼関係が崩れた相続人が他の少数株主と協力し、経営権奪取を企てる

多くの非上場企業では、株式の譲渡制限を設けて自社が好まない株主の経営参加を防いでいます。しかし、相続の場合はこの譲渡制限が適用されないため、注意が必要です。

対策として、特別支配株主(議決権の90%以上を保有する株主)が売渡請求権を行使することで、好ましくない株主を排除することができます。ただし、売渡請求権の行使要件は厳しいため、他の対策も併せて検討する必要があります。

効果的な対策としては、以下のようなものがあります:

1. 株主を必要以上に分散させない

2. 遺言書で相続人を明確に指定し、会社の安定的な運営を考慮した相続計画を立てる

3. 種類株式の活用(後述)

上場企業における敵対的M&Aの事例

上場企業の会社乗っ取りで最も一般的なのは、敵対的買収によるM&A(合併・買収)です。通常のM&Aが友好的かつ建設的な協議を経て進められるのに対し、敵対的買収は買収側が独自の意向で強引にM&Aを進めることを指します。

敵対的M&Aの具体的なプロセスは以下の通りです:

1. 対象会社の経営陣から正式な合意を得ずに株式を購入する

2. 株式市場での買い注文やTOB(株式公開買付け)を通じて株式を取得する

3. 取得した株式の持株比率が最大となれば、経営権を掌握できる

TOB(Take-Over Bid)は、一般株主に対して「買取り価格」「買取り株数」「買付け期間」などを公表し、証券取引所外で株式を買い付ける手法です。市場の流通株価よりも高い価格が設定されることが多く、短期間で多くの株式を取得できる特徴があります。

企業乗っ取りの主な手法

企業乗っ取りには様々な手法がありますが、主に以下の5つが挙げられます。これらの手法の多くは、法律や税務の専門家の支援を受けて進められることが多く、法的に合法である場合がほとんどです。ただし、中には違法行為に該当するものもあるため、注意が必要です。

1. 敵対的買収(M&A)

上場企業での主な乗っ取り手法

売手側の意向を考慮せず、買手側が一方的に経営権を掌握することを目的とするM&A

市場やTOBを活用して対象会社の株式を買い集める

2. 株式の相続

主に中小企業で起こりやすい手法

相続による株式の移動は譲渡制限の効力が及ばないため、好ましくない株主が経営に参画するリスクがある

3. 親族等によるクーデター

創業者が高齢になり、事業承継のために親族などに株式を分散させた場合に起こりうる

株式を承継した親族が団結して、創業者を追い出すなどの行動を取る

4. 不正な登記変更

株主総会議事録を偽造し、役員や代表者を変更するなど虚偽の内容で登記変更を行う

明確な違法行為に該当する

5. 総会屋等による違法行為

株主の権利を乱用し、企業価値を下げる行為を実施することで不当な報酬を得ることを目的とする

会社法の改正により勢力は衰えてきているが、依然として注意が必要


これらの手法のうち、1から3までは適正な手続きに基づいて実施される場合、違法性はないとされます。しかし、4と5の手法は明らかに違法行為に該当する可能性が高いです。

会社のオーナーや経営者は、これらの手法を理解し、自社の状況に応じた適切な防衛策を講じることが重要です。特に、中小企業では相続や親族によるクーデターのリスクに注意を払い、上場企業では敵対的買収への対策を十分に検討する必要があります。

会社乗っ取り後の影響と展開

会社が乗っ取られた場合、その後の展開は乗っ取り側の意向に大きく左右されます。前オーナー側と乗っ取り側で友好的な条件交渉が行われないまま買収が進むため、役員や従業員の処遇については、会社を乗っ取った側の意向に従わざるを得ない状況が生まれます。

乗っ取り後の影響・展開

1. 経営方針の変更 

乗っ取り側の経営理念や戦略に基づいて、会社の方向性が大きく変わる可能性がある

2. 組織構造の再編 

新たな経営陣の下で、組織の再構築や人事異動が行われる可能性が高い

3. 従業員の処遇変更 

給与体系や福利厚生の見直し、人員削減などが行われる可能性がある

4. 取引先との関係変化 

新経営陣の方針によっては、既存の取引先との関係が見直される可能性がある

5. 企業文化の変容 

長年培ってきた企業文化が、新たな経営方針によって大きく変わる可能性がある

6. 事業内容の変更 

収益性の低い事業の売却や、新規事業への進出など、事業ポートフォリオが変更される可能性がある

これらの変化は、必ずしもネガティブなものばかりではありません。乗っ取り側が会社の発展を真摯に考えている場合、企業価値の向上につながる可能性もあります。例えば、財務体質の改善、経営の効率化、新たな成長戦略の実行などが期待できる場合もあります。

リスク

しかし、多くの場合、乗っ取られた会社の従業員にとっては、雇用環境が不安定になることは避けられません。

突然の人事異動や配置転換

給与や福利厚生の削減

会社の方針や価値観との不一致

長年築いてきた人間関係や仕事のやり方の変更

一方で、乗っ取り側が会社を発展させる意向を持っている場合、会社にとって財産である役員や従業員に配慮した経営が行われる可能性もあります。しかし、どのような展開になるかは乗っ取られた後にしか分からないため、従業員にとっては不安定な状況が続くことになります。

会社乗っ取りの法的側面

会社乗っ取りが行われた場合、その行為に違法性があるかどうかは、乗っ取りの手法によって判断されます。

違法性の判断基準

1. 合法的な会社乗っ取り 

              敵対的買収(M&A)

              相続による株式取得

              親族によるクーデター

これらの手法は、敵対的な行為ではあるものの、株式の取得方法が合法的で、適正な手続きに基づいて実施されている場合、違法性はないと判断されます。

2. 違法性のある会社乗っ取り 

             虚偽の変更登記

             総会屋による違法行

これらの手法は、手続き自体が違法行為であるため、明らかに違法性があると判断されます。

具体的な法的側面

1. 敵対的買収(M&A) 

             証券取引法や金融商品取引法に基づいて行われる限り、合法的

             ただし、インサイダー取引や相場操縦などの違法行為が伴う場合は違法

2. 相続による株式取得 

             民法に基づく相続であれば合法

             ただし、遺言書の偽造や隠匿などが行われた場合は違法

3. 親族によるクーデター 

             会社法に基づく適正な手続きを経ている限り合法

             しかし、株主総会決議の瑕疵がある場合などは違法となる可能性がある

4. 虚偽の変更登記 

             商業登記法違反や私文書偽造罪に該当する可能性が高い

             明らかに違法行為

5. 総会屋による違法行為 

             会社法違反や恐喝罪に該当する可能性がある

             多くの場合、違法行為と判断される

重要なのは、たとえ敵対的な行為であっても、法的に認められた手続きを踏んでいる限り、違法とはならないということです。しかし、違法性がないからといって、会社や従業員にとって望ましい状況とは限りません。

そのため、会社のオーナーや経営者は、合法的な会社乗っ取りに対しても適切な防衛策を講じる必要があります。同時に、明らかに違法な手法による乗っ取りに対しては、法的な対抗措置を取る準備も整えておくべきです。

違法と判断される可能性がある行為

また、会社乗っ取りの過程で以下のような行為が行われた場合、それぞれ該当する法律に基づいて違法と判断される可能性があります:

1. 詐欺的な手段による株式取得:刑法(詐欺罪)

2. 脅迫による株式譲渡の強要:刑法(脅迫罪)

3. 会社の重要情報の不正取得:不正競争防止法違反

4. 株主総会決議の不正操作:会社法違反

法的対策

また、会社乗っ取りを防ぐための法的な対策として、以下のような方法があります:

1. 定款による株式譲渡制限

2. 種類株式の発行

3. 買収防衛策の導入(上場企業の場合)

4. 株主間契約の締結

これらの対策を講じることで、合法的な手段による会社乗っ取りのリスクを軽減することができます。ただし、これらの対策を実施する際も、会社法や金融商品取引法などの関連法規を遵守する必要があります。

会社乗っ取り対策の具体的方法

会社乗っ取りのリスクに備えるため、会社のオーナーや経営者が取り組むべき効果的な対策をいくつか紹介します。これらの対策は、主に種類株式の活用と敵対的買収への防衛策に分類されます。

種類株式の活用による防衛

種類株式とは、普通株式とは異なる権限を設定できる株式のことです。会社乗っ取りの防止策として特に有効な種類株式には、以下の2種類があります:

1. 取得条項付種類株式

2. 拒否権付種類株式(黄金株)

これらの種類株式を活用することで、会社の支配権を維持しやすくなります。

取得条項付種類株式の効果的な使用

取得条項付種類株式は、あらかじめ定めた条件が満たされた場合に、会社が強制的に株式を買い取ることができる株式です。この種類株式の主な特徴は以下の通りです:

1. 会社が決定した価格で強制的に買い取りが可能

2. 他の株主の同意なく買い取りができる

3. 好ましくない株主の経営参画リスクを排除できる

取得条項付種類株式の活用例:

相続などで会社にとって好ましくない株主が現れた場合、その株式を強制的に買い取る

M&Aの際に、一定の条件下で買収側の株式を会社が買い戻す権利を確保する

黄金株(拒否権付種類株式)の役割

拒否権付種類株式(黄金株)は、株主総会や取締役会の決議に対して拒否権を持つ株式です。その強力な権限から「黄金株」とも呼ばれます。主な特徴は以下の通りです:

1. 重要事項の決定に対する拒否権を持つ

2. 会社の支配権を維持するのに効果的

3. 創業者の意向を反映させやすい

黄金株の活用例:

株式の譲渡や新株予約権の発行に対する拒否権を持つことで、敵対的買収を防ぐ

代表取締役の変更に対する拒否権を持つことで、経営の安定性を確保する

事業承継後の後継者を監視する目的で活用する

敵対的買収に対する防衛策

敵対的買収への対策として、以下のような防衛策があります:

1. ポイズンピル 

             敵対的買収者以外の株主に新株予約権を付与し、買収者の株式保有比率を低下させる

             買収コストを増加させ、買収を断念させる効果がある

2. ホワイトナイト 

     敵対的買収者が現れた際に、友好的な別の会社に買収してもらう

             経営の安定性を保ちつつ、敵対的買収を回避できる

3. ゴールデンパラシュート 

             敵対的買収時に役員退職金を高額に設定するなど、買収コストを高騰させる仕組みを作る

             買収者の買収意欲を低下させる効果がある

4. クラウン・ジュエル 

             会社の価値を高めている事業や資産を売却し、企業価値を下げる

             買収者の買収意欲を低下させる効果がある

これらの防衛策を導入する際は、以下の点に注意が必要です:

株主の利益を不当に害することがないよう配慮する

取締役会や株主総会での適切な手続きを経る

防衛策の内容を適切に開示する

また、これらの防衛策は主に上場企業向けですが、中小企業でも応用できる考え方もあります。例えば、信頼できる取引先との関係強化(ホワイトナイトの考え方)や、経営者保証の活用(ゴールデンパラシュートの応用)などが考えられます。

まとめ

会社乗っ取りは、企業規模に関わらず起こりうるリスクです。その手法は多様で、合法的なものから違法なものまで存在します。効果的な対策としては、種類株式の活用や敵対的買収への防衛策が挙げられます。経営者は自社の状況を適切に分析し、専門家の助言を得ながら、最適な防衛策を講じることが重要です。

著者|竹川 満 マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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