M&Aによる企業譲渡を決断する理由は様々です。後継者不在や健康問題への対応から、事業拡大や新規事業展開まで、実例を交えながら企業オーナーがM&Aを選択する背景を詳しく解説します。
目次
出展:中小企業庁2021年版「中小企業白書」第2節M&Aを通じた経営資源の有効活用より
過去20年間のM&A動向を見ると、年による変動はあるものの、着実に増加傾向を示しています。中小企業庁が発表した2021年版「中小企業白書」によると、企業の事業承継や経営戦略の選択肢として、M&Aが定着してきていることがわかります。
この傾向の背景には、以下のような社会的な要因があります。
・少子高齢化による後継者不足
・経営環境の急速な変化への対応
・事業承継の選択肢の多様化
・M&Aに対する社会的認知の向上
▶目次ページ:事業承継とは(第三者への承継)
企業のオーナー経営者がM&Aによる企業譲渡を決断する背景には、様々な要因が存在します。以下、主要な理由について説明します。
第三者承継としてM&Aを選択する最も一般的な理由が、後継者不在です。以下のような状況が多く見られます。
・親族内に適切な後継者候補がいない
・子女が他業界で活躍しており、承継の意思がない
・社内人材の中から後継者を育成できていない
・後継者育成の時間的余裕がない
経営者自身の年齢や健康状態を理由とするM&Aも増加しています。具体的には、
・体力面での不安が増してきた
・健康管理に時間を割く必要性が出てきた
・経営維持が身体的に困難になってきた
近年、介護の問題を理由とするM&Aも増えています。
・親の介護が必要になった
・家族の看病に時間を割く必要が出てきた
・介護と経営の両立が難しい
40代・50代の比較的若い経営者が以下のような理由でM&Aを選択するケースも出てきています。
・新しいライフプランの実現
・経営者としての区切りをつける決断
・海外移住などの新生活の開始
企業の更なる成長を目指すために、M&Aを選択するケースもあります。
・大手企業の資金力や経営資源の活用
・販路拡大や新規事業展開の実現
・技術力の相乗効果(シナジー)の創出
経営資源の選択と集中のため、以下のような場合にM&Aを活用します。
・不採算事業の切り離しによる経営効率化
・コア事業への経営資源の集中
・赤字部門の収益改善
実際のM&A案件から、企業譲渡を決断した具体的な事例を見ていきましょう。以下の事例は、個人情報保護の観点から一部内容を変更していますが、M&A決断の本質的な理由を理解する参考になります。
【事例1:承継計画の急な変更】
企業概要:創業50年の老舗企業、62歳の2代目経営者
状況:
• 東京の企業に勤務していた35歳の長男を後継者として迎え入れる
• 5年間かけて承継準備を進めていた
• 突然、長男が前職への復帰を希望
• 長女は育児との両立が困難で承継を辞退
結果:社内にも後継候補がおらず、M&Aを決断
【事例2:人材確保の困難】
企業概要:産業廃棄物処理業、70代の経営者
状況:
• 業界特性から人材確保が慢性的な課題
• 後継者育成が後回しになっていた
• 地域に必要な事業のため廃業は選択肢にない
結果:人員が充実した同業他社とのM&Aで解決
【事例:イベント運営会社の決断】
40代の経営者
背景:コロナ禍でイベント開催が困難になり、業界回復の見通しが不透明
結果:
• 大手企業の傘下入りを決断し、子会社として経営継続
• 親会社の資金力を活用
• 収益は従来の1.5倍に回復
【事例:自転車レンタル事業の展開】
状況:
• 観光地での事業が好調
• 不動産会社からM&Aの提案を受ける
決断の理由:
• 賃貸物件×自転車レンタルの新事業モデル
• 競合増加への対応
• 事業拡大の好機と判断
M&Aによる企業譲渡の決断理由は、後継者不在や健康上の理由から、事業拡大や新たな成長機会の獲得まで、実に多様です。多くの場合、予期せぬ出来事がきっかけとなってM&Aを検討し始めます。そのため、事業承継の選択肢として、親族内承継や社内承継と共に、M&Aも視野に入れた準備を進めることが賢明です。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画