株式譲渡自由の原則とは何か、その意義と課題、そして例外となる譲渡制限について詳しく解説します。M&Aや相続における留意点、非公開会社の株式価値評価方法など、実務に役立つ情報も盛り込んでいます。
目次
株式譲渡自由の原則とは、株主が自由に保有株式を譲渡できる権利を指します。この原則は、会社法第127条に明確に規定されており、株主の権利を保護する重要な概念となっています。
株式会社にとって、この原則は資金調達の円滑化や投資家の利益保護など、様々な意義を持っています。しかし、同時に企業経営における課題も生み出す可能性があります。
株式とは、株式会社が発行する証券であり、企業の資金調達手段として重要な役割を果たします。株式を保有する投資家は株主となり、会社の共同所有者としての地位を得ます。
株式の主な特徴は以下の通りです。
• 会社の所有権を表す
• 配当を受ける権利を持つ
• 株主総会での議決権を持つ
• 譲渡可能性がある
会社法第127条では、株式譲渡自由の原則について以下のように規定しています。
「株主は、その有する株式を譲渡することができる。」
この条文は、株主が自由に株式を売却したり、他者に譲渡したりする権利を保障しています。ただし、後述する例外規定も存在します。
株式譲渡自由の原則には、以下のような重要な意義があります。
1. 投下資本の回収保障: 株主が投資した資金を回収する手段として、株式譲渡は重要な役割を果たします。企業の解散や配当以外に、株主が投下資本を回収する方法は限られているため、この原則は株主の利益を保護します。
2. 投資の促進: 株式を自由に譲渡できることで、投資家は安心して企業に投資することができます。これにより、企業は必要な資金を調達しやすくなり、経済の活性化にもつながります。
3. 資本市場の流動性向上: 株式の自由な譲渡は、資本市場の流動性を高め、より効率的な資源配分を可能にします。
一方で、株式譲渡自由の原則には以下のような懸念点も存在します。
1. 経営の不安定化: 株式が自由に譲渡されることで、企業にとって望ましくない相手に株式が渡る可能性があります。これにより、経営の安定性が脅かされる恐れがあります。
2. 敵対的買収のリスク: 株式の自由な譲渡は、敵対的買収を容易にする可能性があります。これは、特に中小企業にとって大きな脅威となる場合があります。
3. 株主構成の急激な変化: 株式の自由な譲渡により、短期間で株主構成が大きく変わる可能性があります。これは、長期的な経営戦略の実行に影響を与える可能性があります。
これらのリスクを軽減するため、多くの非上場企業では株式譲渡に制限を設けています。次の項目では、このような株式譲渡制限について詳しく見ていきます。
▶目次ページ:株式譲渡(株式譲渡の流れ)
株式譲渡自由の原則には例外があり、それが株式譲渡制限です。多くの非上場企業では、経営の安定化や望ましくない株主の参入を防ぐために、この制限を設けています。
会社は定款で株式譲渡を制限することができます。これは主に以下の2つの方法で行われます。
1. 全部の株式に対する譲渡制限: 会社が発行するすべての株式に対して譲渡制限を設ける方法です。
2. 一部の株式に対する譲渡制限: 特定の種類の株式にのみ譲渡制限を設ける方法です。
譲渡制限株式の規定は、会社法第2条17号に定められています。
「譲渡制限株式 株式会社がその発行する全部又は一部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要する旨の定めを設けている場合における当該株式をいう。」
また、会社法第107条1項1号および第108条1項4号にも、譲渡制限に関する規定があります。
株式会社は、株式譲渡制限の有無によって非公開会社と公開会社に分類されます。
1. 非公開会社:
o すべての株式に譲渡制限が付されている会社
o 株主の範囲を限定し、経営の安定化を図ることができる
2. 公開会社:
o 1株でも譲渡制限のない株式を発行している会社
o 必ずしも上場企業とは限らない
公開会社の定義は会社法第2条5号に規定されています。
譲渡制限株式を売買する場合、以下の点に注意が必要です。
1. 当事者間での有効性: 譲渡制限株式の売買は、当事者間や第三者に対しては有効です。
2. 会社に対する効力: 譲受人は、株主名簿に記載されるまで会社に対して株主であることを主張できません。
3. 承認請求の必要性: 譲受人は会社に対して株式譲渡の承認請求を行う必要があります。
4. 会社の対応: 会社は承認するか否かを決定し、承認しない場合は自社で買い取るか、指定買取人を定める必要があります。
これらの規定により、会社は望ましくない株主の参入を防ぎつつ、既存株主の利益も保護することができます。
株式の承継方法によって、譲渡制限の適用が異なります。ここでは、相続、贈与、M&Aそれぞれのケースについて説明します。
o 相続は譲渡に該当しないため、譲渡制限の対象外となります。
o 相続人は会社の承認なしに株主となることができます。
o ただし、会社は新株主に対して株式の売渡請求をすることができます。
o 贈与は譲渡に該当するため、譲渡制限の対象となります。
o 贈与による株式の移転には、会社の承認が必要です。
o M&Aにおける株式譲渡も制限の対象となります。
o 買収企業が上場企業や大手企業であっても、同様に制限が適用されます。
これらの規定により、会社は株主の変更を一定程度コントロールすることができます。ただし、相続の場合は例外的に制限が及ばないため、注意が必要です。
譲渡制限株式を譲渡する際には、以下のステップを踏む必要があります。
o 株主が会社に対して譲渡承認請求書を提出します。
o 株主総会や取締役会など、定款で定められた機関が承認または不承認を決定します。
o 取締役会の場合、過半数の出席と出席者の過半数の賛成が必要です。
o 会社は請求者に決定内容を通知します。
o 承認請求から2週間以内に通知がない場合、承認とみなされます。
o 承認後、株式譲渡契約を締結します。
o 譲渡人と譲受人双方の署名が必要です。
o 契約完了後、株主名簿の書換を行います。
o これにより、譲受人は正式に株主としての権利を行使できるようになります。
このプロセスを経ることで、会社は株式譲渡を適切に管理し、望ましくない株主の参入を防ぐことができます。
非公開会社のM&Aでは、株式価値の評価が重要になります。
上場企業とは異なり、市場価格が存在しないため、以下のような方法で株価を算定します。
1. 純資産価額方式
o 会社の純資産額を基に株価を算出する方法
o 簡便だが、将来の収益性を反映しない
2. 収益還元方式
o 将来の予想利益を現在価値に割り引いて株価を算出する方法
o 成長性のある企業の評価に適している
3. 配当還元方式
o 将来の予想配当を現在価値に割り引いて株価を算出する方法
o 安定配当を行う企業の評価に適している
4. 類似業種比準方式
o 類似の上場企業の株価を参考に株価を算出する方法
o 比較対象の選定が難しい場合がある
実際の評価では、これらの方法を組み合わせて使用することが多く、状況に応じて適切な方法を選択する必要があります。また、一部の株主のみが利用できる方式もあるため、注意が必要です。
株式譲渡自由の原則以外にも、株式に関する重要な原則があります。
ここでは、その中でも特に重要な2つの原則について解説します。
1. 株主有限責任の原則
o 定義:株主の責任は出資した金額を限度とする原則
o 根拠:会社法第104条に規定
o 意義: a) 投資リスクの限定:出資額以上の責任を負わないため、投資を促進
b) 会社債権者の保護:会社の資本が債権者への弁済の原資となる
2. 株主平等の原則
o 定義:同じ種類・数の株式を持つ株主は平等に扱われるべきという原則
o 根拠:会社法第109条1項に規定
o 意義: a) 株主間の公平性確保:特定の株主を優遇することを防止
b) 少数株主の保護:大株主による支配の濫用を防止
これらの原則は、株主の権利保護と会社経営の健全性維持に重要な役割を果たしています。株主有限責任の原則により、投資家は安心して株式投資を行うことができ、株主平等の原則によって、すべての株主の権利が公平に保護されます。
これらの原則は、株式譲渡自由の原則と合わせて、株式会社制度の根幹を成す重要な概念です。企業経営者や株主は、これらの原則を十分に理解し、適切に運用することが求められます。
株式譲渡自由の原則は、株主の権利を保護し、資本市場の流動性を高める重要な概念です。一方で、企業経営の安定性を脅かす可能性もあるため、多くの非公開会社では定款による譲渡制限を設けています。株式の承継方法によって譲渡制限の適用が異なる点や、M&Aにおける株式価値評価の方法など、株式に関する知識は企業経営において不可欠です。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事