株式譲渡自由の原則とは何か、その意義と課題、そして例外となる譲渡制限について詳しく解説します。M&Aや相続における留意点、非公開会社の株式価値評価方法など、実務に役立つ情報も盛り込んでいます。
目次
▶目次ページ:株式譲渡(株式譲渡の流れ)
株式譲渡自由の原則とは、株主が自由に保有株式を譲渡できる権利を指します。この原則は、会社法第127条に明確に規定されており、株主の権利を保護する重要な概念となっています。
株式会社にとって、この原則は資金調達の円滑化や投資家の利益保護など、様々な意義を持っています。しかし、同時に企業経営における課題も生み出す可能性があります。
株式とは、株式会社が発行する証券であり、企業の資金調達手段として重要な役割を果たします。株式を保有する投資家は株主となり、会社の共同所有者としての地位を得ます。
株式の主な特徴は以下の通りです。
会社法第127条では、株式譲渡自由の原則について以下のように規定しています。
「株主は、その有する株式を譲渡することができる。」
この条文は、株主が自由に株式を売却したり、他者に譲渡したりする権利を保障しています。ただし、後述する例外規定も存在します。
株式譲渡自由の原則には、以下のような重要な意義があります。
一方で、株式譲渡自由の原則には以下のような懸念点も存在します。
これらのリスクを軽減するため、多くの非上場企業では株式譲渡に制限を設けています。次の項目では、このような株式譲渡制限について詳しく見ていきます。
株式譲渡自由の原則には例外があり、それが株式譲渡制限です。多くの非上場企業では、経営の安定化や望ましくない株主の参入を防ぐために、この制限を設けています。
会社は定款で株式譲渡を制限することができます。これは主に以下の2つの方法で行われます。
譲渡制限株式の規定は、会社法第2条17号に定められています。
「譲渡制限株式 株式会社がその発行する全部又は一部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要する旨の定めを設けている場合における当該株式をいう。」
また、会社法第107条1項1号および第108条1項4号にも、譲渡制限に関する規定があります。
株式会社は、株式譲渡制限の有無によって非公開会社と公開会社に分類されます。
非公開会社
譲渡制限株式を売買する場合、以下の点に注意が必要です。
当事者間での有効性
譲渡制限株式の売買は、当事者間や第三者に対しては有効です。
会社に対する効力
譲受人は、株主名簿に記載されるまで会社に対して株主であることを主張できません。
承認請求の必要性
譲受人は会社に対して株式譲渡の承認請求を行う必要があります。
会社の対応
会社は承認するか否かを決定し、承認しない場合は自社で買い取るか、指定買取人を定める必要があります。
これらの規定により、会社は望ましくない株主の参入を防ぎつつ、既存株主の利益も保護することができます。
株式の承継方法によって、譲渡制限の適用が異なります。ここでは、相続、贈与、M&Aそれぞれのケースについて説明します。
これらの規定により、会社は株主の変更を一定程度コントロールすることができます。ただし、相続の場合は例外的に制限が及ばないため、注意が必要です。
譲渡制限株式を譲渡する際には、以下のステップを踏む必要があります。
このプロセスを経ることで、会社は株式譲渡を適切に管理し、望ましくない株主の参入を防ぐことができます。
非公開会社のM&Aでは、株式価値の評価が重要になります。
上場企業とは異なり、市場価格が存在しないため、以下のような方法で株価を算定します。
純資産価額方式
収益還元方式
配当還元方式
類似業種比準方式
実際の評価では、これらの方法を組み合わせて使用することが多く、状況に応じて適切な方法を選択する必要があります。また、一部の株主のみが利用できる方式もあるため、注意が必要です。
株式譲渡自由の原則以外にも、株式に関する重要な原則があります。
ここでは、その中でも特に重要な2つの原則について解説します。
株主有限責任の原則
株主平等の原則
これらの原則は、株主の権利保護と会社経営の健全性維持に重要な役割を果たしています。株主有限責任の原則により、投資家は安心して株式投資を行うことができ、株主平等の原則によって、すべての株主の権利が公平に保護されます。
これらの原則は、株式譲渡自由の原則と合わせて、株式会社制度の根幹を成す重要な概念です。企業経営者や株主は、これらの原則を十分に理解し、適切に運用することが求められます。
株式譲渡自由の原則は、株主の権利を保護し、資本市場の流動性を高める重要な概念です。一方で、企業経営の安定性を脅かす可能性もあるため、多くの非公開会社では定款による譲渡制限を設けています。株式の承継方法によって譲渡制限の適用が異なる点や、M&Aにおける株式価値評価の方法など、株式に関する知識は企業経営において不可欠です。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事