遺留分特例を活用して円滑な事業承継する具体的な方法を解説


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事業承継の遺留分対策|民法特例と株式集中の実務ポイント

事業承継で遺留分が問題になる理由と、自社株式の集中を守る民法特例、遺言、生前贈与、生命保険、M&Aの検討ポイントを解説。後継者への承継で資金流出や株式分散を防ぎ、会社と家族を守る実務対策が分かります。

目次

  1. 遺留分が事業承継の障害になる理由
  2. 自社株式が遺留分問題を大きくする要因
  3. 民法特例で株式集中を守る方法
  4. 民法特例を使うための要件と手順
  5. 合意が難しい場合の遺留分対策
  6. 親族内承継とM&Aを比べて考える
  7. まとめ

遺留分特例を活用して円滑な事業承継する具体的な方法を解説

遺留分が事業承継の障害になる理由

後継者は決まっている。株式も渡す予定だ。それでも、相続をきっかけに会社の経営が不安定になることがあります。大きな理由の1つが、他の相続人に認められている遺留分です。

遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人に法律上保障される最低限の取り分です。配偶者、子、親などが対象になり、兄弟姉妹だけが相続人になる場合には遺留分はありません。相続人が配偶者や子の場合、遺産全体に対する遺留分は原則として2分の1です。親など直系尊属だけが相続人になる場合は3分の1です。

事業承継では、相続財産の中心が自社株式や事業用資産になることが少なくありません。経営者が「後継者に株式を集中させたい」と考えて遺言や生前贈与を行っても、他の相続人の遺留分を侵害していれば、後継者は遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。

遺留分侵害額請求とは、遺留分を侵害された相続人が、不足分に相当する金銭の支払いを求める制度です。現在は、原則として金銭での請求になります。そのため、後継者に十分な現預金がなければ、個人資産の売却、金融機関からの借入、会社からの役員報酬や退職金などで資金を準備しなければならない場面があります。

会社の株式は受け取ったが、手元に現金はない。この状態で多額の支払いを求められると、承継後の経営判断にも影響します。M&A(合併・買収)や親族内承継の実務では、ここで判断が止まることがあります。

自社株式が遺留分問題を大きくする要因

現金なら分けやすいのに、株式になると話が急に難しくなります。中小企業の自社株式は、相続評価上は大きな財産になる一方で、すぐに売って現金化できるとは限らないためです。

評価額は高いが現金化しにくい

自社株式の評価額は、会社の利益、純資産、不動産、含み益などにより高くなることがあります。しかし、非上場会社の株式には市場価格がなく、買い手も限られます。後継者から見ると、現金を受け取っていないのに、遺留分の支払いだけ発生するという状態になりかねません。

例えば、先代経営者の財産の大半が自社株式で、預金や不動産が少ない場合、後継者以外の相続人に渡せる財産が不足します。その結果、遺言で後継者に株式を集中させても、他の相続人から金銭請求を受け、後継者の資金繰りが厳しくなることがあります。

株式が分散すると経営判断が遅れる

遺留分の支払い資金が不足すると、後継者が自社株式の一部を他の相続人に渡す、または株式を処分する方向に進むことがあります。これが株式分散です。

株式が経営に関与しない親族へ分散すると、役員選任、重要な資産売却、金融機関対応、M&Aの検討などで意見調整が必要になります。少数株主がいるだけで必ず経営が混乱するわけではありません。ただし、親族関係が悪化している場合は、株主総会や資料開示をめぐって摩擦が生じやすくなります。意外と多い落とし穴です。

後継者の努力で株価が上がるほど負担が増える

生前贈与で後継者が株式を受け取った後、後継者の努力で業績が伸びることがあります。これは本来、よい承継です。しかし、遺留分の計算では、一定の生前贈与も対象になるため、株式価値の上昇が将来の請求額を増やす方向に働く場合があります。

後継者から見ると、自分が努力して会社を成長させた分だけ、他の相続人への支払い負担が増えるように感じます。この不公平感を放置すると、後継者が設備投資や採用に慎重になり、承継後の成長にも影響します。

民法特例で株式集中を守る方法

遺留分の問題を法律上整理する制度として、経営承継円滑化法に基づく「遺留分に関する民法の特例」があります。中小企業の親族内承継では、後継者に自社株式を集めるための重要な選択肢です。

除外合意は株式を遺留分の計算から外す方法

除外合意とは、先代経営者から後継者に贈与された自社株式などを、遺留分を計算するための基礎財産に入れないと、推定相続人全員で合意する方法です。推定相続人とは、現時点で相続が起きた場合に相続人になる人を指します。

除外合意が有効に成立すれば、対象株式の価値は遺留分の計算に反映されません。将来、会社の価値が上がっても、その株式について遺留分の問題が生じにくくなります。後継者に経営権を安定して持たせたい場合に、効果が大きい方法です。

ただし、除外合意は他の相続人にとって強い内容です。株式について遺留分を主張しにくくなるため、十分な説明や代わりの財産配分がなければ同意を得にくいことがあります。

固定合意は株式の評価額を合意時点で止める方法

固定合意とは、遺留分を計算するときの自社株式の価額を、合意した時点の評価額に固定する方法です。株式自体を遺留分の対象から外すのではなく、将来の値上がり分を遺留分の計算に反映させない考え方です。

後継者の努力で会社の利益が伸び、株価が上がっても、合意時点の評価額を基準にできます。そのため、他の相続人に一定の配慮を残しながら、後継者の経営努力を守りやすくなります。除外合意への同意が難しい家族では、固定合意の方が話し合いやすい場合があります。

2つの合意は組み合わせも検討できる

会社の承継では、除外合意と固定合意のいずれか一方だけでなく、状況に応じて組み合わせることも検討されます。例えば、議決権の中心となる株式は除外合意の対象にし、一部の株式は固定合意で評価額を決める、といった考え方です。

ただし、制度を使えば親族間の感情問題が消えるわけではありません。合意書の内容、株価評価、他の財産配分、生命保険の受取人、遺言の内容を一体で考える必要があります。

民法特例を使うための要件と手順

民法特例は便利な制度ですが、家族で合意しただけでは効力が生じません。会社、先代経営者、後継者の要件を満たし、さらに経済産業大臣の確認と家庭裁判所の許可を受ける必要があります。

主な要件を最初に確認する

会社については、原則として3年以上事業を継続している非上場の中小企業であることが前提になります。上場会社や、事業継続期間が短い会社では対象にならない可能性があります。

後継者については、贈与などにより自社株式を取得し、会社の代表者に就任していることが重要です。さらに、議決権の過半数を持つなど、経営を引き継ぐ立場にあることも確認します。先代経営者についても、会社の代表者であったことなどが要件になります。

実務上のハードルになりやすいのは、遺留分を持つ推定相続人全員の合意です。1人でも納得しない相続人がいると、特例を進められません。形式的な署名だけでなく、後から「よく分からず押した」と言われない説明が大切です。

手続は合意、確認、許可の順に進める

手続の大枠は、推定相続人全員で合意書を作成し、経済産業大臣の確認を受け、家庭裁判所の許可を得る流れです。オンライン申請ではGビズフォームを利用できます。制度の申請方法や様式は変更されることがあるため、実行時点の最新情報を確認します。

合意書では対象株式と評価額を明確にする

合意書では、どの株式を除外合意や固定合意の対象にするのかを明確にします。固定合意を使う場合は、合意時点の評価額が重要です。評価額の根拠が弱いと、後で相続人間の不信感につながります。

経済産業大臣の確認は制度要件の確認

経済産業大臣の確認では、会社や後継者が制度の要件を満たすか、合意書が整っているかなどが確認されます。登記事項証明書、株主名簿、定款、評価資料などの準備が必要になるため、申請直前に慌てると時間がかかります。

家庭裁判所の許可で効力が安定する

経済産業大臣の確認後、家庭裁判所に許可を申し立てます。家庭裁判所では、合意が当事者の真意に基づくものか、不当に相続人を害するものではないかが確認されます。ここまで完了して、民法特例の効果を期待できる状態になります。

合意が難しい場合の遺留分対策

推定相続人全員の合意は、簡単ではありません。親族間の過去の感情、介護負担、役員報酬への不満、配偶者同士の意見など、法律だけでは解けない事情があるからです。

遺言書で経営者の意思と理由を残す

民法特例を使わない場合でも、遺言書は重要です。後継者に自社株式を相続させること、他の相続人に預金や不動産などを渡すこと、財産配分の理由を明記できます。

特に、付言事項は軽く見ない方がよい部分です。付言事項とは、法的な指定そのものではなく、なぜその分け方にしたのかを家族へ伝える文章です。会社を守るために株式を後継者へ集めること、他の相続人にも別の形で配慮することが残されていると、相続開始後の受け止め方が変わることがあります。

生前贈与と代償資金を同時に考える

後継者に自社株式を生前贈与する場合は、税金と遺留分を同時に確認します。贈与税だけを見て進めると、相続時に遺留分の問題が残ることがあります。自社株式の評価額、後継者の資金力、他の相続人へ渡せる財産を並べて検討することが必要です。

代償資金とは、後継者が他の相続人へ支払うための現金です。生命保険で後継者を受取人にする、役員報酬や退職金の設計を見直す、会社と個人の資金計画を分けて考えるなど、複数の方法を組み合わせます。生命保険は有効ですが、金額が過大な場合などには相続トラブルの火種になることもあるため、全体の財産バランスを見ます。

遺留分の事前放棄は相続人本人の手続になる

相続開始前に、相続人が自分の遺留分を放棄する制度もあります。ただし、家庭裁判所の許可が必要で、放棄する本人が手続を行う必要があります。経営者や後継者が一方的に放棄させることはできません。

事前放棄は強い効果がある一方、相続人本人にとっては心理的な抵抗が大きい方法です。現金や不動産の生前贈与、生活面の配慮などを含め、本人が納得できる理由を用意しなければ進みにくいでしょう。

事業承継税制との関係も確認する

事業承継税制を使う場合、相続税や贈与税の納税猶予が検討できます。ただし、制度には会社、後継者、先代経営者などの要件があり、適用後も株式保有や報告に関する管理が続きます。遺留分対策で株式が分散すると、税制の前提を崩すおそれがあるため、民法特例、遺言、生前贈与、税制を別々に考えないことが大切です。

親族内承継とM&Aを比べて考える

遺留分対策を考えると、親族内承継を続けるべきか、第三者承継を選ぶべきかという判断に行き着くことがあります。これは、後継者への信頼だけでなく、親族関係、会社の資金力、株主構成、相続税負担を含む経営判断です。

親族内承継が向く会社

親族内に経営能力と意欲のある後継者がいて、他の相続人との対話も可能な場合は、親族内承継を軸に考えます。後継者が代表者に就任し、自社株式を取得し、他の相続人に対する説明や代償資金の準備ができるなら、民法特例や遺言を組み合わせる余地があります。

この場合の確認ポイントは、後継者が株式の過半数を安定して持てるか、金融機関が代表者交代を受け入れやすいか、個人保証の引継ぎや解除について話し合えるかです。遺留分だけでなく、資金繰りと金融機関対応まで見ておくと、承継後の混乱を抑えられます。

M&Aを検討すべき会社

後継者がいても、他の相続人との合意が難しい、株価が高く代償資金を用意できない、後継者が個人保証を引き継げない、といった場合があります。このようなときは、M&Aによる第三者承継も比較対象になります。

会社を第三者へ譲渡すると、経営権は買い手企業へ移り、経営者は譲渡対価として現金を受け取る形が一般的です。現金は株式より分けやすく、相続人間の調整もしやすくなります。もちろん、従業員、取引先、譲渡価格、税金、譲渡後の関与などを慎重に確認する必要がありますが、親族内承継だけにこだわるより、会社と家族双方にとって現実的な着地点になることがあります。

早期に株価と手取り額を把握する

遺留分対策では、自社株式の相続税評価額だけでなく、会社売却をした場合の譲渡価格と手取り額も比較します。親族内承継では税金と遺留分支払いが課題になり、M&Aでは譲渡益課税や譲渡後の生活資金が課題になります。

どちらが正しいかは一律ではありません。重要なのは、相続が近づいてからではなく、株価、親族関係、後継者の資金力、買い手候補の有無を早めに見える化することです。

まとめ

遺留分は、後継者への株式集中を妨げ、資金流出や株式分散を招くことがあります。民法特例、遺言、生前贈与、生命保険、事業承継税制を組み合わせ、親族内承継が難しい場合はM&Aも比較しましょう。株価、親族関係、後継者の資金力を早めに整理することが、会社と家族を守る第一歩です。

著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー 

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事

編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人

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